2章8汗
幸いだったのは、あの「合体タコビーム」を放った群れは、エネルギーを使い果たすのか、一様に萎びて行動不能になることだった。
だが、そんな希望を打ち消すように、四方八方から収束熱線がドームの防護壁を襲う。
ドームの風通しは最高。状況は最悪。
さすがの無敵超人(教官)も、普段の脂ぎった顔を消し、宇宙服の中で冷や汗を光らせていた。
8つの群れが脱け殻のようになっているが、残る4つの群れが着実に包囲を狭め、殺到してくる。
比較的元気な部隊から順に、壁の大きな穴へ「肉壁」として詰め込まれていく。もはや戦術なんて高尚なものは消え、穴を筋肉で塞ぐだけの物理作業と化していた。
空軍到着まで、あと40分。
……今度は、本当にちゃんと来るらしい。
「モヤシ班! 貴様らは肉壁の後ろで縮こまっているタマか!? 壁の外へ出て、敵の勢いを削げッ!!」
断れるわけもなかった。私は絶望的な顔でガタガタ震えるラードとカスタードを引きずり、崩落した壁の隙間からドームの外へ踏み出す。
「泣くなッ! 泣いてミイラになるか、触手プレイの餌食か、ヒドラジンEXに溶かされるか……三者択一なら、全部否定してやりなさい!!」
(あぁ、文系一筋22年の私が、なんて脳筋なことを言っているのか。でも仕方ない、肉弾は一人でも多いほうが私の生存率が上がるんだもん!)
迫り来るタコの先鋒が、肉眼で個体の凹凸が判る距離まで肉薄してくる。
数は数百。……イケる!
「総員、サイドチェストォッ!!」
銀河の汗っかきの意地を見せる時が来た。
高周波カッターが空気を震わせ、不快な緑の体液と触手が戦場に弾け飛ぶ。
作業用のレーザートーチでタコの脳髄を焼き切り、カッターが折れれば鉄の腕でその身を引きちぎる。
どれだけ駆除しただろうか。
酸欠と熱気で頭がボヤけてきた。……まずいね、これは。けど、第1波の殲滅には成功した。
「ハァ……ハァ……。全員、無事ね……? あ、カスタードちゃん」
返事がない。慌てて機内を覗き込むと……彼女は白目を剥いたまま、硬直していた。
「何も良くはないけど……よし!第二波が来るわよ! エビ君、ラード君、まだまだ気合い入れなさい!!」
「「イ、イエス・マム……ッ!」」
「大丈夫、味方と連携してれば、今くらいの数なら……ね?」
私は姿勢を低くし、美しいバックランジの体勢から、予備兵装のマグナムリボルバー2丁を抜き放った。それに呼応するように、ラード君も震える膝を抑えながら、教科書通りの美しいバックランジを見せる。
空軍到着まで、あと30分。
火星の赤い砂に、タコの体液と、私たちの熱い汗が染み込んでいく。




