2章7汗
タコ共の攻撃が、少しだけ緩んだ……気がする。
今のうちに交代で「空冷」と「補給」を済ませる。私は一瞬だけ機体を脱ぎ捨て、汗まみれの体を火星の冷気に晒した。
「エビ君! ピーマンさんは!?」
「モヤシ班長……この通りです」
エビ君が指差した先。
予備倉庫の片隅で、ピーマンさんは口と腕に管を通され、ドロドロの栄養剤を流し込まれながら、静かに身悶え
……美しい人だ。だが、その虚空を見つめる瞳の深淵は、もはや光の届かない海溝のように暗く、深い。
「……体重が戻ったら点滴を止めて。それから、人間の言葉で話しかけ続けてあげて。特にこの人の好物は『他人の失敗談』だから。哀れな話とかを、たくさん聞かせてあげて?」
「失敗談……ですか?」
「そう。そのうちに人間らしい素振りを見せるようになるから。そしたらスウェットに押し込んで、戦う場所だけ伝えてあげて。……それで充分だから。本当はこんなキャラじゃなかったはずなんだけどね。あの輸送作戦のせいで、ちょっと頭に来ちゃってるのよ、この人」
私はそう言って、ピーマンさんの汗ばんだ頭を優しく一撫でし、再び自分の「サウナ」へと戻った。
持ち場に戻り、交代で待機していたラードとカスタードに「空冷してこい!」と指示を飛ばす。
もう弾薬もヒドラジンEXも、残弾計が悲鳴を上げるほど底をつきかけている。
最後は、高周波カッターと筋肉による「肉体言語」の戦いになる。今のうちに、少しでも内臓を冷やしておかなければならない。
その時、地平線のタコ共に異変が起きた。
数千単位の群れが、互いに触手を絡ませ、巨大な「肉の団子」をいくつも形成し始めたのだ。
「なに……あれ? タコ焼きパーティーでも始める気?」
嫌な予感しかしない。
「ほら、デイブさん! ああいうの撮って! 決定的瞬間よ! ……って、いねぇし!!」
いつの間にか、カメラマンとデイブの姿が消えていた。
あいつら、隙を見て倉庫に逃げ込みやがったな!
直後、タコ団子の中心が目も眩むような光を放った。
数千匹分の生体エネルギーを一点に凝縮した「収束熱線」が、轟音と共に放たれる。
それは、絶対に破られないはずだったドームの強化壁を、バターを焼いたコテで撫でるように、いとも容易く溶解させた。
「……そんな技、聞いてないよッ!?」
防護壁が崩落し、火星の赤い砂塵がドーム内になだれ込んでくる。
その向こうには、牙を剥いたタコ共の包囲網。
空軍到着まで、あと50分。
私たちは今、文字通り……えーっと、あーっと地球の諺で〜えっとそう!あれ!まな板の上の〜宇宙マグロだったかな?




