2章6汗
「総員……よぉく引きつけろ! あの悪魔みたいな縦割れの瞳孔が見えるまで……まだだぞぉ、まだまだ〜タイミングを合わせて! はい、ダブルバイセップスッ!!」
ドームの防護壁から、一斉にイオンパルスが放たれる。至近距離で浴びせられたタコ共の先鋒が、文字通り「弾け飛んで」蒸発していく。
「いいぞぉ、汗かき共! その調子だ! 温度と圧力がヤバくなった奴らから裏手の奴らと交代して射撃を継続しろ! そこォ! まだ機関銃を使うな! 射程外だぞ、仲間を殺す気かァ!!」
無敵超人(教官)の、鼓膜を震わせるような的確(かつ暴力的な)指示によって、ドームの壁はまだギリギリのところで守られていた。
だけど、空軍の到着まで、あと1時間45分。
……長い。あまりに長すぎる。
「ラード! 2時方向から這い上がってきてる奴を焼きなさい! カスタード! 震えてないで指を動かす! 掃射よ、掃射!!」
新兵二人に指示を出しながら、私も再びダブルバイセップス。
……おかしい。やっぱり室内温度が、以前ほど上昇しない。
設定が狂ったのか、それとも私の体が「高機動歩兵」として完成されつつあるのか。いや、単に広背筋が以前より広がって、排熱効率が上がっただけだと思いたい。
「あー!! パンケーキにコーヒーが食べたい食べたい食べたい!! 私はルナシティ大学の文学部メディア創造学科卒だぞ!? なんでこんな火星の荒野でタコちゃん達と命のやり取りをしなきゃならないのよー!!」
『警告:血圧上昇。危険デス……』
「危ない危ない……クールにいかないと、果ては『山芋(溶解)』……絶対に嫌だ!」
おむつも変えた。制汗剤も2本使った。装備は万全。
私はまだ、生き残れる。いや、絶対に生き残ってやる!
「ほら、デイブさん! ちゃんと映して! この文学部卒のメディアクリエイターが、泥と汗にまみれて奮闘する姿を、銀河中に届けるのよ!!」
背後では、デイブキャスターが今にも気絶しそうな顔でレポートを続けている。
「も、もう倉庫にいたい……」と泣く彼らを無理やり最前線へ連れてきた私の執念が、いつか「除隊」という名の果実を結ぶと信じたい。
タコ共もバカではない。
正面突破が難しいと悟ったのか、奴らは距離を取りつつ、半包囲から完全包囲へと陣形を広げ始めている。
ただの熱線を吐いてくるだけなら、ドームの強化壁が少しは持ち堪えてくれるだろう。
だが、もし包囲が完成し、数に物を言わせて一斉に殺到されたら――。
カップ麺の完成を待つまでもなく、私たちは寄せ鍋の具にされる。
今できることは、呼吸と汗を極限まで制御しつつ、一発一発に「殺意」を込めて牽制すること。
「こっちは痛いぞ、怖いぞ」と、奴らに誇示し続ける
火星の赤い砂塵と、タコの緑の体液、そして私の「文学的怒り」が混ざり合い、戦場はさらにカオスな色彩を帯びていく。




