2章5汗
集結地点である開拓予定地のドームへと、誇り高き汗かきたち――もとい、ボロボロの敗残兵の群れが集まってくる。
降下した700名のうち、生き残っているのはわずか200名足らず。私の脳内計算とは大きくズレていないけれど、最近は筋トレのしすぎで「1セット、2セット……」以外の四則演算がおぼつかなくなっているのが不安材料だ。
「カメラを向けるなッ! 殺すぞ!!」
とキレ散らかす血気盛んな同僚たちから、私は必死にデイブを守る。
(やめて! 私の「除隊への片道切符(報道)」を壊さないで!)
申し訳程度の防護壁に、申し訳程度の物資と弾薬。
私たちはたった半径50メートルの開拓予定地ドームの縁に、アリの這い出る隙間もないほど密集して展開していく。
そこへ、無敵超人(教官)からの、耳を疑うような絶望的な檄が飛んできた。
「お前ら! よく聞けェッ!! 司令部からの連絡では、2時間後に空軍様が颯爽と駆けつけてくれるそうだ! なんてカッコイイことだろうかァ!? それまでは存分に汗をかいてやろうぜ! ガッハッハッハ!!」
現場はお通夜状態である。
2時間? 2時間なんて、機体を極限まで低燃費モードで動かして、ようやく「ギリギリ戦闘が続けられるかどうか」の限界時間だ。
詰んだ。これは本気で、詰んだかもしれない。
「とにかく、気絶者とヒドラジン圧力が限界突破してる機体の冷却が優先! エビ、ラード! ピーマンさんとカスタードを診てやってて!」
私は応急的に与圧された倉庫内で、テキパキと指示を飛ばす。
「ピーマンさんは暴れないように縛り付けて、腕から栄養剤を点滴! 口からもドロドロのプロテインを無理やり流し込んでおいて! あの人は後で絶対必要になるから。……あと、そこのキラキラSNS女子を水でもぶっかけて叩き起こして速攻で前線に復帰させて! 私たちの持ち場は11時方向のブロックだから、速攻で戻らせて! いい!?」
「「い、イエス・マム!!」」
できることはすべてやらなきゃ。
私も一瞬だけコックピットのハッチを解放し、火星の冷たい大気で空冷を試みる。
タオルで全身の汗を拭き取り、電解水と塩タブレットをガリガリと齧る。この一粒一粒が、次の10分を生き延びる燃料になるんだから。
「ふぅ……」
ヒドラジンEXの補充を終え、私は再び「蒸し風呂」へと潜り込み、11時方向の持ち場へ機体を走らせた。
視線の先、地平線を覆い尽くすタコの群れが、蠢きながら近づいてくる。
射程距離まで、あと10分といったところ。
「宇宙のマッチョ達」の真価が問われる、最も熱く、最も不快な2時間が始まろうとしていた。




