幕汗
火星ドーム内の各所に設置された大型モニター。
そこでは、24時間休むことなく、この惑星で最も「輝かしい」職業のPR映像が流されている。
軽快なマーチに乗せて、画面いっぱいに映し出されるのは、白く輝く歯と、黄金色に日焼けした完璧な大胸筋を持つモデル――もとい、宇宙海兵隊の「広報用」兵士たちだ。
「君のエネルギーを、銀河の推進力に変えてみないか?」
画面の中の青年が、汗ひとつかいていない爽やかな笑顔で、最新鋭のパワードスーツ(撮影用の空っぽな模型)のハッチを叩く。
「火星の未来を作るのは、政治家でも学者でもない。君のその、熱い肉体だ!宇宙海兵隊高機動歩兵部隊。そこは、自分史上最高の自分に出会える場所。さあ、君も今日から――」
カットが切り替わり、今度はタイトな軍服を完璧に着こなした美女が、誇らしげに胸を張る。その背景には、青い空(※合成)と、清潔なキャンプが映し出されていた。
「私も義務を果たしています(I'm doing my part)!
私たちが流す汗は、開拓地を守る盾となり、明日を照らす光になる。
君も一緒に、銀河一のマッチョを目指そう!」
画面の下には、力強いフォントでタイトルが躍る。
【宇宙のマッチョ達 Sweat Troopers: We're Doing Our Part (By Sweating)】
『※現在、新規入隊者に「特製プロテインシェイカー」と「限定デザインのスウェット(着るサウナ)」を絶賛配布中! 君の汗を、待っている!』
「……けっ、反吐が出るぜ」
軍病院のロビー。
その輝かしい映像を見上げていた一人の負傷兵が、傍らに置かれた点滴棒に八つ当たりするように唾を吐いた。
彼の視線の先、映像の中では「銀河の誇り」たちが美しく微笑んでいる。
だが、その画面が設置された壁のすぐ裏側では、今日もまた、ヒドラジンの暴走で「山芋」になった若者たちの残骸が、産業廃棄物として処理されていた。
パチリ。
誰かが、テレビの電源を切った。
重苦しい沈黙が、無機質な病廊に満ちていく。
ここにはもう、プロパガンダに騙されるような「脂身」は一人もいない。
残っているのは、出し殻になった「モヤシ」と、中身が空っぽになった「ピーマン」だけだ。
束の間の静寂。
暗転した画面には、疲れ果てた自分の顔が、ひどく醜く映り込んでいた。




