6汗
翌朝、輸送隊は補給拠点を出発した。
守護神は、宇宙海兵隊が誇る高機動歩兵、9名の精鋭(という名の、生き残っただけの新兵)のみ!
「えっ、普通の歩兵? いないんですか?」なんて聞き返したのは私だけだ。
「あんな移動するだけの肉塊(普通の兵士)、タコちゃんの餌になるだけだろ。足手まといだ」と拠点の整備兵に鼻で笑われた。
今や、トラックに装備された自衛用機関銃座の無機質な回転音だけが、唯一の頼もしい味方だった。
事件は、あの「俳句の新兵」が爆散した、痛ましい現場を通り過ぎた直後に起きた。
『9時の方角! 敵襲!! 奴らだ、タコ共だ!!』
悲鳴に似た通信が全域に響き渡る。
即座に、10台のトラックがモーター音を唸らせ、砂塵を巻き上げて加速する。
私たちは揺れるカーゴベイの上で、必死に震える足を殴りつける。
「全機、迎撃開始! ダブルバイセップスッ!!」
私の叫びと共に、9機のスウェットが一斉に力こぶを作る。
肩部のイオンパルスキャノンがチャージされ、火星の赤い空を青白い光が切り裂いた。タコ共の先陣が肉飛沫となって砕ける。
だが、一発撃つごとに、機内温度は無慈悲に5℃上昇する。
「皆! 焦らず一発一発を正確に撃って! 無駄撃ちは命を削るサウナよ!!」
広背筋を全開にして排熱しても、ヒドラジンEXの圧力計はジリジリとレッドゾーンへ向かっていく。
通信回線からは、すでに恐怖で過呼吸になった新兵のアラート音が混じり始めていた。
ダメだ、このままじゃ戦闘が終わる前に、中身が「山芋」になる子が確実に出る……!
私は必死に、本隊の無敵超人(教官)へ緊急無線を飛ばした。
返ってきたのは、相変わらずの音割れした野太い声と、非情でありがたいお言葉だった。
『がっはっは! いい汗かいてるようだな脂モヤシィ! 援軍到着まで30分だ! 輸送トラックの進路を迂回させ、タコ共の包囲を分散させろ! 2名を護衛に残し、残りは全員トラックを降りて、ヌルヌルのタコちゃんとダンスしてこい!!』
「……あー、終わったわ」
絶望を口にするよりも早かった。
隣のカーゴにいたピーマンの脂詰めさんが、無言のまま近くの新兵3人を文字通りトラックから蹴り落とし、自分も迷いなく飛び降りたのだ。
「ピーマンさん!? ちょっと!!」
『脂モヤシちゃん、早く来なさいよ。いい汗、かき足りないんでしょ?』
彼女の通信は、もはや恐怖すら超越して、凪のような静けさだった。
私は一瞬だけ月面の冷たいアイスコーヒーを思い出し、それから覚悟を決めた。
「もう、どうにでもなれッ!!」
私は最高級オムツの感触を股間に感じながら、時速80キロで爆走するトラックから赤い大地へと身を投げ出した。
着地の衝撃で、室温がさらに3℃跳ね上がる。
さて……プロのライターとして、最後くらいは気の利いた遺言を考えなきゃね。
目の前には、地平線を埋め尽くさんばかりの、粘液まみれの触手の群れ。
私は高周波カッターを起動するため、渾身の力で胸を張った。
「サイドチェストォォ!来なさいよ、タコ野郎共!! 最高のパンプを見せてやるわ!!」




