第七話「集合」
夜。
街の光が、やけに遠く感じられた。
犬塚信乃は、足を止めた。
ここに来る理由は、ない。
だが——来るべきだと、分かっていた。
胸の奥。
あの“脈動”が、導くように続いている。
同じだ。
あの時と。
“呼ばれている”。
スマートフォンが震える。
視線を落とす。
《対象リンク:安定》
その下に、新しい表示。
《集合座標:送信済》
……やはりか。
信乃は、静かに息を吐いた。
抗う気は、もうない。
顔を上げる。
そこに——人影があった。
一人ではない。
二人。
三人。
暗がりの中に、確かに“集まっている”。
互いに距離を取りながら、
だが、同じ場所に引き寄せられている。
言葉はない。
だが、分かる。
全員——同じだ。
手の甲に、印。
そして。
胸の奥に、あの“脈動”。
一人が、口を開いた。
「……お前も、か」
短い言葉。
だが、それで十分だった。
信乃は、ゆっくりと頷く。
別の男が、低く呟く。
「逃げた奴がいた」
空気が、わずかに変わる。
「……どうなった」
沈黙。
そして。
「消えた」
誰も、驚かなかった。
——知っている。
言葉にしなくても、分かっている。
“そうなる”ことを。
その時。
全員のスマートフォンが、同時に震えた。
異様なほど、揃ったタイミング。
全員が、画面を見る。
表示は同じだった。
《対象リンク:同期》
次の瞬間。
胸の奥の“それ”が、強く脈打つ。
ドクン。
ドクン。
ドクン——
リズムが、揃う。
呼吸が、揃う。
意識が、引き寄せられる。
個ではない。
これは——
“群れ”だ。
視界が、わずかに歪む。
その中心に。
“何か”が現れる。
空間が裂けるように、そこだけが異質になる。
黒でもない。
光でもない。
ただ、“存在している”。
誰かが、呟いた。
「……あれが」
言葉が、続かない。
名付けることができない。
だが。
全員が、同じ理解に至っていた。
——これが、“始まり”だ。
“それ”が、わずかに動く。
形が、変わる。
人のようであり、
そうではない。
そして。
声が、響いた。
頭の中に、直接。
『——確認』
その一言だけで、
空気が凍りつく。
逃げ場はない。
『八』
全員の心臓が、同時に跳ねる。
『適合』
理解が、押し寄せる。
これは——選別ではない。
“確定”だ。
“それ”が、わずかに揺れる。
『開始』
その瞬間。
世界が、音を立てて動き出した。
風が吹く。
光が戻る。
街が、再び現実に重なる。
だが。
もう、同じ世界ではない。
信乃は、ゆっくりと目を閉じた。
理解している。
これは、終わりではない。
——ここからだ。
スマートフォンの画面に、
最後の表示が残っていた。
《八対象:確定》
その下に。
新たな項目。
《任務:待機》




