表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

第六話「共鳴」

朝の空気が、わずかに揺れていた。


 犬塚信乃は、ゆっくりと目を開けた。


 違和感がある。


 夢ではない。


 だが、現実とも言い切れない。


 胸の奥で、何かが“脈打っている”。


 鼓動とは違う。


 もっと、深い場所。


 ——呼ばれている。


 そんな感覚だった。


 視線を落とす。


 手の甲。


 あの印が、わずかに光を帯びている。


 昨日よりも、はっきりと。


 まるで、存在を主張するように。


 スマートフォンが震える。


 反射的に、手に取った。


 画面には、見覚えのない表示。


 《対象確認:信号一致》


 ——まただ。


 だが、昨日とは違う。


 恐怖は、なかった。


 代わりにあるのは、奇妙な確信。


 これは、“自分に向けられている”。


 逃げるべきものではない。


 “応えるべきもの”だと。


 指が、自然と動く。


 画面に触れる。


 その瞬間。


 世界が、反転した。


 音が消える。


 色が抜ける。


 時間が、止まる。


 ——いや。


 止まっているのは、自分以外のすべてだ。


 街の中。


 人々は、動きを止めたまま固まっている。


 風も、音も、存在しない。


 完全な静止。


 その中で。


 “自分だけ”が動いている。


 足音が響く。


 乾いた、現実から切り離されたような音。


 前方に、気配。


 振り向く。


 そこに——いた。


 人影。


 だが、はっきりとは見えない。


 輪郭が揺れている。


 第五話で見た“それ”と似ている。


 だが、決定的に違う。


 ——敵意がない。


 むしろ。


 どこか、静かに“待っている”。


 信乃は、一歩、踏み出した。


 逃げる理由が、なかった。


 近づく。


 距離が縮まる。


 その時。


 胸の奥の“何か”が、強く脈打った。


 ドクン。


 同時に。


 相手の“それ”も、応じるように揺れた。


 ——共鳴。


 言葉はなかった。


 だが、理解はあった。


 これは、“敵ではない”。


 そして。


 “同じもの”だ。


 その瞬間。


 光が走る。


 視界が白に染まる。


 音が戻る。


 時間が、再び動き出す。


 街の喧騒。


 人の声。


 風の音。


 すべてが、一気に押し寄せる。


 信乃は、その場に立ち尽くしていた。


 周囲には、誰もいない。


 だが。


 確かに、感じている。


 “どこかにいる”。


 自分と同じ印を持つ者が。


 そして——


 胸の奥の鼓動が、ささやく。


 集まれ、と。


 選ばれた者たちよ、と。


 スマートフォンが、再び震えた。


 画面には、新しい表示。


 《対象リンク:確立》


 その下に。


 これまで存在しなかった、項目が一つ。


 《他対象:検出中》


 信乃は、静かに息を吐いた。


 ——始まっている。


 もう、後戻りはできない。


 だが。


 それでもいいと、思った。


 理由は、分からない。


 ただ一つ。


 確かなことがある。


 これは、恐怖だけでは終わらない。


 何かが——


 動き出している。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ