第四話 侵食
雨音だけが戻る。
だが、もう世界は元に戻っていなかった。
スマホの画面には、まだその文字が残っている。
【最終回収まで:6】
指で消そうとしても、反応はない。
アプリを閉じても、画面は変わらない。
ただ一つの言葉だけが、そこに固定されている。
——回収対象:義
「……なんだ、これ」
小さく呟いた瞬間だった。
画面が、勝手に切り替わる。
そこに表示されたのは、見覚えのない一覧。
【対象認定:完了】
その下に、複数の名前のようなものが並んでいる。
だが、読めない。
文字なのに、意味が抜け落ちている。
呼吸が浅くなる。
そのとき、背後で音がした。
何かが“立った”気配。
振り返る。
誰もいない。
それなのに。
「見えてるよ」
声は、スマホからだった。
ー見えている
画面の奥で、黒いノイズのようなものが揺れている。
そこに、輪郭がある。
人の形に似ているが、完全ではない。
「もう、選ばれてる」
声は淡々としている。
感情がないのに、拒絶できない重さだけがある。
画面が、ゆっくりと書き換わる。
【保持対象:適合】
「適合……?」
意味を理解しようとした瞬間、
視界の端に“何か”が映る。
無数の“珠”のようなもの。
その中に、人影。
眠っているのか、閉じ込められているのかも分からない。
ただ、同じ表情をしている。
静かに笑っている。
「八珠はね」
声が続く。
「集めるものじゃない」
「最初から、揃うようにできてる」
画面が暗転しかける。
最後に表示された文字。
【対象追加:義 確認完了】
その瞬間、指先に冷たい感覚が走る。
スマホが“重く”なる。
まるで、手の中に沈んでいくように。
離そうとしても、離れない。
画面の奥で、誰かがこちらを見ている。
そして、最後に通知が一つだけ届く。
【回収開始準備完了】
視界が揺れる。
雨音が遠ざかる。
ただ一つだけ、確かに残る感覚があった。
——もう、戻れない。
画面は完全に暗くなった。
だが、その黒の中に。
消えない既読だけが、ひとつ残っていた。




