第三話 八珠 -起動-
その通知を見た瞬間だった。
画面の奥で、何かが“呼吸”した。
気のせいではない。
スマホの表示が、一瞬だけ遅れる。
まるで、こちらを見ているように。
指が止まる。
次の瞬間、通知が追加された。
【八人、揃い始めました】
【里見の血統確認対象:8名】
「……は?」
声が漏れる。
意味が分からない。
だが、理解より先に“嫌な確信”だけが胸に落ちる。
画面の明るさが、わずかに変わる。
通知ではない。
“何か別のもの”が混ざり始めている。
視線を感じた。
ゆっくり顔を上げる。
東京の朝。
ビル群は静かに立っている。
人の気配はない。
音もない。
ただ、異様に“整いすぎている”。
現実なのに、現実じゃない。
そんな感覚だけが強くなる。
「……誰だよ」
呟いた瞬間だった。
背後の空気が、わずかに歪む。
振り返る。
誰もいない。
だが——
そこに“形になりかけた何か”がある。
犬の影のような輪郭。
見えそうで、見えない。
存在してはいけないもの。
スマホが震える。
通知が勝手に開かれる。
画面に、もう一つの文が浮かんでいた。
【確認開始】
その文字を見た瞬間。
ビル群の一部が、わずかに“ずれる”。
現実がズレている。
音ではない。
視覚でもない。
“認識”そのものが狂い始めている。
「……なんだ、これ」
呼吸が浅くなる。
指が冷たい。
逃げようとしても、足が動かない。
そのときだった。
画面の中の文字が、ゆっくりと変わる。
【適合候補:接続】
次の瞬間。
世界が一瞬だけ“静止”した。
ビルも、空気も、思考も。
すべてが止まる。
そして——
再び動き出すと同時に。
“何かが始まった”と分かる。
理由はない。
だが確実に分かる。
これは、もう偶然ではない。
スマホの画面が最後に一度だけ光る。
そこに表示されたのは、
【八珠 -起動-】
その文字を見た瞬間。
遠くのビル群の影が、わずかに“揺れた”。




