第十四話「名」
夜。
静寂。
犬塚信乃は、一人で座っていた。
目の前には、スマートフォン。
画面は開かれたまま。
《解析:完了》
その表示が、動かない。
息を吸う。
嫌な予感がする。
だが。
目を逸らすことはできない。
指が、動く。
画面に触れる。
情報が、流れ込む。
断片。
映像。
音。
すべてが混ざり合い、
一つの“像”を結び始める。
森。
祠。
珠。
そして——
あの“女”。
今度は、はっきりと見える。
顔。
目。
静かにこちらを見つめている。
恐怖はない。
だが——
逃げられない。
声が、響く。
どこからでもなく。
内側から。
『——名を』
言葉ではない。
だが、意味は伝わる。
“呼べ”。
信乃の喉が、わずかに震える。
知らないはずだ。
だが——
知っている。
なぜか。
最初から。
その名だけは。
口が、勝手に動いた。
「——伏姫」
その瞬間。
世界が、静止した。
時間が止まり、
音が消え、
すべてが凍りつく。
“あちら側”が、反応する。
上空の層が、歪む。
観測者たちの“視線”が、
一斉にこちらへ向く。
異常。
想定外。
そんな気配が、伝わってくる。
スマートフォンの画面が、激しく点滅する。
《警告:干渉発生》
《原因:未定義》
《名称:——伏姫》
名前が、表示される。
初めて。
“システムの側に”。
その瞬間。
彼女が、微かに笑った。
救いのようで。
終わりのような。
次の瞬間——
すべてが、切断された。




