第十二話「異物」
空気が、変わっていた。
目に見えるわけではない。
だが——確実に、何かが混ざっている。
犬塚信乃は、足を止めた。
街の一角。
見慣れたはずの場所。
だが、違う。
視界の端に、違和感がある。
“古い”。
現代の景色の中に、
明らかに異質なものが紛れ込んでいる。
石。
苔。
そして——
小さな祠。
こんな場所に、あったはずがない。
近づく。
胸の奥の“脈動”が、わずかに強くなる。
祠の前で、足が止まる。
ひび割れた石。
その中央に——
埋め込まれているものがあった。
小さな、珠。
濁っている。
光はない。
だが。
“反応している”。
信乃の印と、呼応するように。
手を伸ばす。
触れた瞬間。
景色が、歪む。
音が消え、
色が抜ける。
そして——
“別の光景”が、流れ込む。
森。
霧。
遠くで響く、獣の声。
そして。
一人の“女”。
長い髪。
白い衣。
顔は見えない。
だが——
こちらを見ている。
次の瞬間。
すべてが、途切れた。
現実が戻る。
祠は、ただの古びた石に戻っている。
珠も——消えていた。
信乃は、息を整える。
今のは、何だ。
幻覚か。
それとも——
“記録”。
スマートフォンが震える。
《異常検出:記録断片》
その下に。
《解析:進行中》
信乃は、ゆっくりと画面を閉じた。
理解してしまう。
これは、今始まったものではない。
ずっと前から、ある。
そして——
今、繋がった。




