表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女の心に深めの傷を残して死にそうな低身長童顔ロリお姉さん  作者: 椿
閑話 いつかの記憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/38

平和の代償

 「どうですか? この景色! 素晴らしいとは思いませんか!?」


 「落ち着け。お主がそう騒がしいと、折角の景色が台無しじゃろうて」


 場所は変わって、儂と七子はとある寺へ赴いていた。そこは儂が封印される前から存在した場所で、狐を祀る神社の次に行きたかった場所だった。


 その寺から眺める京の街は、一段と美しく見えた。ワラワラと人が多いことに目を向けなければ、ここは中々良い場所だ。懐かしくも、しかし変わらぬ景色というものは、こんなにも染み渡るものなのか。


 「雪が降っても、紅葉満ちても、今のように若葉が萌えても、いつだって此処は綺麗ですね……」


 「ほう……? お主にそのような風情を感じられる感性があるとはな」


 「むぅ……! 失礼ですね! 私、こう見えても才女なんですよ!? よく貸本屋さんで、本も沢山読んでるのです!」


 ……これは、どちらなのだろうか。単純に歴史が進んだ影響で、識字率が上がったのか、この少女の出自が高貴な出であるため、そのような教養を身に付けているのか。


 どちらにせよ、少女が残念な子であるというのはよく分かった。前者なら胸を張るようなことでは無いし、後者なら隠し方がお粗末だ。


 儂は得意げな顔をする七子の頭を撫でた。よしよし、お前を良い子じゃな。


 「な、なんでそんな顔するんです……?」


 「いやいや、お主は賢いなぁ。とても偉いぞ」


 「や、辞めてください……! そんな目で私を見ないでぇ……!」


 その綺麗な髪を撫で回す。七子は不満そうにしながらも、儂の手を振り払うことはなく、ただ騒がしく文句を言うだけだった。


 「あ、おいっ! あんた辞めろっ!!!」


 「きゃー!!! また飛び降りよ!」


 そんな儂達の元へ、いくつかの悲鳴が飛び込んできた。一体何事かとみれば、一人の男が押さえつけられており、今もなおその身を投げ出そうと藻掻いていた。


 「なんじゃアレは」


 「あぁ……この場所から飛び降りると極楽浄土に行けるとか、恋が成就するとか、そういう噂があるんですよ」


 「ほう……いつの時代も、奇特なことをする奴は居るものだなぁ」


 儂からすれば、そんなものはただの現実逃避にしか見えなかった。全く、これだから人間は愚かなのだ。


 「世が乱れているからです。元和偃武と言えば聞こえは良いですが、今の世は地獄のようですから」


 「ふぅん……? お主にしては、真っ当な意見じゃな」


 「奏さんも見たでしょう? 農村では飢餓が蔓延し、穢れがそこら中に満ちています。これが泰平の世とは、とても思えません」


 悲しげなその瞳が、あまりに痛ましかった。少女は世の苛烈さを知りながら、努めて明るく振る舞っていると、分かってしまったから。


 やはり、この世はクソッタレだ。時代が進もうと、いつだって悲劇ばかりが襲い来る。


 「けれど、私は諦めません! いつの日かきっと、今よりもっと良い時代が来ます! 私はそのために、出来ることをするだけです!」


 七子はそう言って、大輪のような笑顔を咲かせた。


 反省しなければならない。儂はこの少女の純真を、物を知らぬからこそ輝くものだと思っていた。だが。それは全くの間違いだった。


 彼女は正しくこの世を理解し、思い知り、痛感し、それでも足掻いている。その高潔さは、こんな地獄においても眩しく光っていた。


 「そうか。そうなったら、良いな」


 「はいっ! ……って、あぁ~!!! 奏さん! ようやく笑ってくれましたね!」


 「やかましいな……そんなわけなかろうて」


 「絶対笑ってましたよ! あ、ほら! 今顔隠した!」


 「ええい鬱陶しいぞ! このっ──!」


 願わくば……この少女の輝きが、曇ることがなければ良いと、心の底から思った。


           1


 「奏さんっ! 今日は楽しかったです! また今度、一緒に街を歩きましょうね!」


 「ふんっ、儂はうるさくてかなわなかったぞ」


 「そんなこと言ってぇー! 奏さんってば、凄く楽しそうでしたよ!」


 「う、うるさいわ……!」


 正直に言えば、それは事実だ。醜悪なこの世を儚むだけかと思ったが、儂はその中にも高潔な精神を持つ者も居ると、知ることが出来たのだから。


 たったそれだけのことで、この世界が美しく思えた。ただの暇つぶしが、かけがえのない時間となった。絶対にそんなことは言わぬが、七子との時間はそれだけの価値があったのだ。


 「名残惜しいですけど、そろそろお別れですね……」


 「……そうじゃな」


 「でも、またすぐに──っ!」


 夕暮れ時。人気の少ない裏路地を歩んでいると、七子がびくりと、その身体を震わせた。剣呑な雰囲気を纏わせた七子は、貼り付けたような笑みで儂に笑いかけた。


 「私、用事を思い出しちゃいました! すみませんが、これで失礼しますね!」


 「……? あ、あぁ……」


 「では! また会う日を楽しみにしてます!」


 そう言って、七子は足早に駆けていった。その先は、この場所よりも更に荒れた場所だ。決して、こんな時間に女子が向かうような場所では無い。


 「……様子を見るだけ、じゃ」


 ただの言い訳だった。だが、本心からの心配でもあった。もし、あの少女が悪意に晒され、その精神を穢されようものなら、それはあまりに悲しい。あまりにも認めがたい。


 何もなければそれで良い。少し、ほんの少しだけ、様子を見るだけだ。そう言い聞かせて、儂は七子の後を追った。


 辿り着いたのは、粗末な墓地だった。ここまで来れば儂にも分かった。この場所には、あの異形が居ると。


 「なんで特殊型が……っぅ! こんな近場に……!?」


 見つけた。そこに居たのは、右腕から血を流した七子と……腹がでっぷりと出た、醜悪な子鬼の集団だった。七子は短刀を振るい、必死に子鬼を追い払おうとしていた。


 だが、多勢に無勢だ。彼女の後ろから、子鬼の手が伸ばされて──


 「お前ら如きが触れて良い娘では無いぞ、下劣め」


 蒼い炎を逆巻きながら、断末魔も響かせずに朽ちていった。


 「奏さんっ!? どうして此処に!?」


 「お主は嘘が下手じゃな、七子。まぁ、それも美徳の一つか」


 パチンと、指を鳴らす。それだけで、周囲の子鬼が一気に炎上した。


 「す、凄い……こんなの、どうやって……」


 「さて、と……七子よ。お主、この異形共が見えておるようじゃな」


 夜空に咲く花火よりも美しく、しかし何処までも生を否定するその焔は、瞬く間に異形を塵へと帰した。後に残ったのは、呆然と奏を見つめる七子だけだった。


 「お主、一体何者じゃ? どうして此処へやってきた?」


 「あ、わた、私は……」


 七子は少し口ごもり、しかし意を決してその口を開いた。


 「──私は、鷹司家巫女代表、鷹司七子。京を守護する巫女の一人です」


 儂が巫女という存在を知ったのは、これが初めてのことだった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ