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少女の心に深めの傷を残して死にそうな低身長童顔ロリお姉さん  作者: 椿
一部

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31/36

もう終わりにしたい


 神力を爆発させ、一気に距離を詰める。狙いは、その首。


 「──見事な太刀筋じゃ。だが、その程度で儂は殺せんぞ?」


 「なっ……!?」


 確かに、私の刀は奏の首を切り裂いた。それは、首と胴体を切り離すには十分過ぎる威力を持っていたはずだ。奏は防御もせず、ただその一刀を受けた。


 だが、確かに切り裂いたはずの首は、全くの無傷だった。血も流れていない。まるで、傷を受けたという事象そのものが消失しているようだった。


 「儂は不滅人型変異種『狐』じゃ。化かすのは儂の領分であろう?」


 「くっ……! はぁっ……!!!」


 私に残っているのは、『星天』と携帯型の槍が数本。後はいくつか護符がある程度で、決定打となる攻撃を持ち合わせていなかった。


 それに、奏はまだ一度も防御をしていない。私の攻撃を全て受け、そして次の瞬間には元通りになっている。避けるまでもない、ということだろう。


 「さて……そろそろ、組み手と行こうか」


 奏は変異種から大太刀を引き抜き、私へ振り下ろした。


 一撃、ニ撃、三撃……刀で受け、逸らし、また受ける。その攻勢に隙はなく、ただ防御に回るしかなかった。


 「懐かしいのぉ。まだ天が新米の時、こうして刀の振るい方を教えてやったな」


 「っぁ……! はぁっ……! はぁっ……!」


 「お主は筋が良かったな。少ない神力でも効果的な技を覚えて、変異種を屠るお主は……あの子そっくりじゃった」


 「あの、子……?」


 懐かしむように、奏は語った。それは、もう何百年も前の話。かつて生きていた、一人の巫女のことだった。奏が巫女に肩入れするようになった、ある一人の少女。


 「皮肉なことよな。鷹司の出自の巫女に、儂は二度も狂わされた。お主もあの子も、自分が傷付くことを恐れぬ子だった」


 知っている。奏が私の面影に、過去の誰かを重ねていたことは。


 「だから早世した。一緒に街へ行こうと、湯治でもしに行こうと言っておったのに……別離があんなにも辛いものだとは思わなかった」


 奏は私を愛してくれた。まるで本当の娘のように。たとえ、それが名前も知らないご先祖様の面影を感じてだとしても……その愛は本物だった。


 「あの子と同じ結末は迎えさせぬ。儂が、お主を救う」


 「ぐぅぁ……! ごほごほっぅ……!」


 お腹に奏の拳がめり込む。空気が強制的に吐き出され、防御もままならない。


 そんな私に奏は大太刀を突き付けた。私の首付近で動きを止めたその刃は、少し引けば私の命を容易に奪い去るだろう。


 完敗だった。私の攻撃は通じず、たった数度の打ち合いだけで技術の差も見せつけられた。私には野乃花のような神力も、小日向のような応用力も、アカネのような爆発力も持っていない。私は……無力だ。


 脱力感が私を支配する。私では、彼女に勝てない。神力も、技術も、実力も……何もかもが、私には足りていない。


 「あの力を使え。でないと、本当に死んでしまうぞ?」


 「奏に……私が、殺せるの……?」


 「殺せぬ。だが、殺さずともお主を手に入れる方法はいくらでもある。少し乱暴な手段にはなるがな」


 ゆっくりと、その切っ先が私の首を切り裂いていく。奏は本気で私を手に入れるつもりだ。その過程で、一体どれほどの犠牲が出るのだろうか。


 野乃花や小日向、私の妹達は一体どうなる? 私を手に入れるために必要なら、あの子達を奏は殺してしまうだろう。そんなの、絶対に駄目だ。


 ──戻ってこられる保証は無い。そもそも、使ったところで勝算がある訳でも無い。


 けれど、このまま何もしなければ、きっと最悪な結末を迎える。私に残された選択肢は、もうこれしかないのだ。


 「『解放』」


 私は添えられた大太刀を掴み、そのまま首へ押し当てた。勢いよく、血が吹き出る。


 「そうじゃ……それで良い。儂の力、存分に味わうのじゃ」


 ドクンと、心臓が鳴った。身体の奥底から、私ではないものが滲み始める。


 「ぅあああぁあああぁああ!!!!!」


 塗り潰されていく。私という存在が、真っ白になっていく。身体が作り替えられていく。


 熱い。身体の中に火が灯ったように、ひたすら熱かった。私は必死にその熱を吐き出そうと藻掻く。


 「がぁああああぁああ!?!?」


 体中からその灯火が吹き出す。それは、神力だった。私の身体は神力に対して、強い拒絶反応を引き起こしていた。


 「あぁ……! お主を感じるぞ、天ぁ! もっと、もっとじゃ!」


 作り変わっていく。身体の仕組みが。成分が。要素が。私を構成する全てが、全くの別物へと置き換わっていった。


 「──────!!!!」


 これが……変異種の力。私の顔がにまりと歪んだ。これがあれば、何だって出来る……! あの子達を、守ってあげられる!


 「ふふ、ふふっ……! アハハッ!!!」


 「それで良い……! 心ゆくまで堪能しろ、天!!!」


 うるさい。少し、黙れ。


 「がぁっ──!?」


 そうだ。この女は不滅の存在だったな。なら、念入りに処理しないと。


 「ぐふっ──! くふ、くふふっ……!」


 顔、首、腕、胸、腹、腰、足、その他主要な臓器。斬る、突く、壊す。今までの私が瞬間的に出していたスピードで、いつまでも斬り続ける。


 「────」


 女を斬り伏せる間、不快な声がずっと聞こえていた。壊れたように同じことを喚き、騒ぎ立てる。あぁ……本当にうるさい。


 「アハハ! アハハハハ!!!」


 うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。


 「──」


 ……いつしか、声が聞こえなくなっていた。目の前には、夥しい量の血に塗れた、狐面が微かに息をしているだけだった。


 その心臓に、刀を突き立てる。そのまま力を込めれば良いのに、何故か私の手は震えて止まってしまった。


 「……お主は本当に優しい子じゃな」


 どうして、こんなにも柔らかい顔をするのだろう。分からない。分からないけれど、このまま彼女を殺したら、一生後悔するような気がする。


 「もういい。もう終わりたいのじゃ……今のお主なら擬似的な死を儂に与えられる。儂はお前の中で生き続けられるなら、それで良い」


 狐面の女はその刃を掴むと、そのまま自身の心臓に突き刺した。赤黒い血が、周囲を真っ赤に染めていく。


 「全部くれてやる。儂の命も、力も、全てを……どう使っても構わん。儂からの餞別じゃ」


 「かな、で……」


 彼女の手が、私の頬を撫でる。私の大切な、大事な家族。


 「──愛しているぞ、天。儂の……私の、愛しき娘よ」


 光が溢れる。その全てが私に吸い込まれていく。


 「待って、待ってよ……! お願いだから、いかないで!!!」


 もう止まらなかった。光は全て私に吸収され、後には彼女の欠けた狐面だけが残されていた。


 「うあぁあああぁああ…………!!!」


 また、失った。仲間も、家族も、誇りすら……もう私に無い。私は世界の敵たる変異種なのだから。


 「ぐすっ……! 私が、やらなくちゃ……」


 だから……私に出来ることは、一つしか無い。全ての悲劇の源を、私が絶つ。


 顔を拭って、私は立ち上がった。彼女の狐面を身に付け、そして後ろを振り返る。


 そこには野乃花が居た。私は嬉しさと同時に、最期までこの子を苦しめてしまうことが心残りだった。


 「良かった。最初に辿り着いたのが、貴女で」


 「天さん……その、姿は」


 私は奏の全てを受け継いだ。不滅の変異種の特性も、彼女の神力兵装……『森羅万象』も。いつか聞いたことがある。何故、奏はその力を使わないのかと。


 その時はこの力の弊害を説明してくれたが、そもそも根本的な問題があったのだ。この力は神力兵装。つまりは、神力が必要となる。


 だが、変異種にとって神力は毒でしかない。使わないのではなく、使えなかったのだ。


 「野乃花。お願い、助けて」


 「っ! は、はい! 早く、ここから出ましょ──」


 使うのならもう一人、巫女が必要になる。それもとびっきり多量の、底の見えないほど神力を持った、そんな巫女が。


 ──そう。不滅へと至った変異種すら滅するほど、強力な神力を持った巫女が。


 「私を殺して。貴女になら、それが出来る」


 「──え?」


 野乃花の顔が、絶望へと染まっていった。  

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