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少女の心に深めの傷を残して死にそうな低身長童顔ロリお姉さん  作者: 椿


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不滅の変異種


 ばしゃばしゃと、絵具を撒き散らすような音がした。粘性の高い液体が滴り落ちるような、そんな音。私は痛む頭を抱えながら、眼を開いた。


 「────」


 そこには、舞を踊る奏が居た。白と赤の巫女服を身に纏い、プラチナのような明るい銀髪をたなびかせるその姿に……私は、思わず見惚れてしまった。


 手にしたのは大太刀。奏の背丈以上の大きさのそれを、彼女は易々と操る。その一刀が振るわれる度、変異種が切り刻まれる。


 「かな、で……?」


 「天……! 眼を覚ましたか!」


 奏は私が目覚めたことに気がつくと、すかさず私を抱きしめた。久方振りに嗅ぐ、甘い香り。私は状況も忘れ、その温もりに安心していた。


 「あぁ……! 儂の天よ、もう心配は要らないぞ。お主を脅かすものは、もはや何も無いからな」


 「……? 何を、言ってるの?」


 「お主は儂が必ず救うぞ。もう巫女の役目なぞ、背負わせないからな」


 ──狐面の奥、その瞳が爛々と輝いていた。私はようやく、奏の様子が普通でないことに気がついた。


 よく見渡せば、この空間も変だ。真っ白で、辺りには変異種の死体が散らばっている。私はさっきまで、病院で拘束されていたはずだ。なのに、何故こんな場所に居る? いや、そんなことよりも、これは一体どういうことだ?


 「どうして、奏が変異種を……?」


 天川神社の神主、天川奏。彼女は数多の巫術を知り、あらゆる戦闘技術を有している。しかし、彼女はいつも決まって中立を謳っていた。


 変異種の対処は巫女の仕事であり、巫女ではない自分が関わるべきでは無い。それが、奏のスタンスだったはずだ。彼女は巫女の死を誰よりも恐れ、悲しんでいたが、私情で手を貸すことはしなかった。


 なのに、今の奏は変異種を斬っていた。それは、彼女の中立を乱す行為だ。今の奏は、何かがおかしい。


 「……儂はこれまで幾度となく巫女を見送ってきた。その度、心はひび割れていったのじゃ。もう、儂はこれ以上耐えることは出来ん」


 奏は私の頬に手を当てると、愛おしそうにその顔を緩めた。


 「前に言うたじゃろ? お主を失えば儂は……もう、この世に絶望してしまう。それは儂にとって、死よりも恐ろしいことじゃ」


 「……私は死なないわ」


 「人間はいつか必ず死ぬ。儂の力を受領したお主といえど、それは変わらぬ」


 頬を伝った手が、私の髪を梳く。黒髪に混じった白髪は、私の中に混じった奏の残滓だ。私は悟る。星奈が奏に何を囁いたのかを。


 奏は不滅の変異種だ。もう何千年と生き、そしてこれからも生き続ける。だが、彼女の精神はとっくの昔に擦り切れていた。


 想像を絶する苦しみだったろう。彼女は何度、親しい人を見送ってきたのだろうか。こうして中立な存在として、人類の味方をしてくれていたのが奇跡だったのだ。


 「儂と生きてくれ、天。星奈も、すみれも、巴も、小日向も……皆で永劫を生きようぞ」


 それが、私の妹達が描いた絵図。皆で仲良く、不滅の変異種へと至ることか。奏なら、それが出来る。現に、私の身体は半分変異種と化している。


 その結末は緩やかな絶望だろう。終わることのないまま、世界の敵として生き続ける。苦しいことはもう二度と起こらない。それが、あの子達の選んだ結末か。


 「どうして、野乃花はそこに居ないの?」


 「あの子の力は変異種の力とは合わん。それに、野乃花の気分次第で永遠が終わるかもしれない。それは駄目じゃ。万が一にも、天が死ぬ可能性を残すわけにはいかない」


 「そう……貴女の気持ちは、分かったわ」


 きっと、あの子達も悩んだのだろう。奏も苦しんだのだろう。そしてこの道を選んだ。だから、私も選ばなければならない。


 「奏。貴女の提案を飲むことは出来ないわ。私達が生きるために、世界を脅かす訳にはいかない」


 「……世界など、どうでも良いではないか」


 「それを否定してしまったら、今までの犠牲は一体何だったの!?」


 一条先輩、桜と霞、そして……アカネ。これまで変異種と戦い続けてきた、数多の巫女達の努力を、功績を、その全てを否定するなんて、私には出来ない。変異種になるということは、世界を蝕む病理に成り果てることと同じだ。


 理性を保っていられる保証は無い。時が経ち、変異種が全て消え失せたとしても、私達は死ぬことも出来ない。いつまでも、罪無き人々を脅かし続ける。


 そんな結末を、私は認められない。何より、こんな私を救おうとしてくれたあの子を見捨てるなんて、私には出来ない。出来る訳が無い。


 「では、どうすれば良かった? 天が死んだ後に、またお主の代わりを見つけるか? 見つけて、また失って、次も見つけて、何度も失い続けるのか!?」


 私の言葉を聞いて、奏は泣き叫ぶように声を荒げた。


 「儂の天を傷付ける世界など、壊れてしまえばいい。儂の天を殺そうとする無辜の者どもなど、全て滅べばいい」


 彼女にもはや、理性は存在していなかった。


 「天……儂の天。お主が拒もうとも、儂はお前を死なせはしない」


 その姿はまさしく……世界の敵たる、変異種だった。


 「貴女に刃を向けたくは無かったわ」


 刀を抜き、そして構える。視界はぼやけて、ぽたぽたと水滴が零れ落ちていた。


 「貴女は……私が倒す。それが、巫女の使命だから……!」


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