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少女の心に深めの傷を残して死にそうな低身長童顔ロリお姉さん  作者: 椿


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29/32

決着


 脳裏を巡るのは、かつての世界の記憶。もう終わった、いつかの私達でした。


 「はい、今日も私の勝ち。夕飯はオムライスでよろしくね」


 「またですか……好物なのは分かりますが、週にそう何度も食べては飽きませんか?」


 「全然。だって野乃花のオムライス、美味しいし」


 そういって、彼女は笑いました。本当に、横顔はあの人そっくり。


 私は羨ましかったのです。その才能も、実力も、星奈には遠く及ばなかったから。


 妬ましかったのです。産まれた時から天さんの傍で、天さんから無条件に愛されているから。


 でも……嫌いでは、ありませんでした。むしろ、関われば関わるほど……あぁ、この人はやっぱり、天さんの妹だなって、理解してしまいます。嫌いになんて、なれなかった。


 私にとって星奈は羨ましくて妬ましくて……それでいて、大切な友達です。


 「野乃花。帰ろっか」


 「えぇ。今日は手伝ってくれますか?」


 「え~? 野乃花、横から口挟むから嫌だよ」


 「当たり前です。料理とは分量が大切なのです。星奈は大雑把で量らないのが駄目なんですよ。あ、コラッ! 聞いてますか!」


 不思議ですね。貴女のことを思い出すと、何故か楽しかった記憶ばかりが溢れてくるのです。


 「これが……! 私の、覚悟だっ!!!」


 記憶は巡る。その光景は、私に刀を振り下ろす、星奈の姿。


 あぁ、分かっています……私があの時手を下せなかったのは、逃げてしまったから。


 天さんを殺し、奏さんを殺し、何もかも失ったというのに、星奈を……天さんが最も大切にしていた人を殺すことを、許容出来なかったからです。


 中途半端で無責任な私は、その責任を全てを星奈へ押し付けました。あの子が何を望むかなんて、検討が付いたはずなのに。


 眼前の星奈を見据えます。あの時、私はこの子を斬るべきでした。たとえ行き着く先がハッピーエンドじゃなくても、歩みを止めるべきではなかったのです。だから、もう私は迷わない。


 「──刺し穿て」


 「──貫け」


 終わりにしましょう。天さん。約束、果たしにいきますね。


 「『羿射九重』!!!」


 「『天星』!!!」


 二つの煌めきが、弾けた。


 「くぅううぅううう……!!!」


 片方は真紅の光が一点に集中し、激しい衝撃波と灼熱を爆発させていた。全てを刺し穿つ一本の矢。その全てを真っ向から受け止め、拮抗するもう一つの閃光。


 「負け、ない……!!! 私は……! 私が! お姉ちゃんを守るんだ!!!」


 切っ先に全ての神力を集中させ、紅い神力を貫く一振り。己の神力全てを注ぎこみ、自らの身体が紅い神力で焼かれようとも、構わず進む。その姿は、まさに鬼だった。


 「がぁああぁあぁぁああ!!!!!」


 痛い。痛い。痛い。肌が焼け、手が溶け、身体全てが燃えているような感覚だった。それでも、前に進み続ける。


 私が守る。私が救う。私が、私が、私が私が私が──! 今度こそ、私が!!!


 もう、彼女に意識は無かった。それでも、その足が止まることは無い。太陽が如き神力の渦が刀を飲み込もうと、ただ前だけを見ていた。


 そして──少女は紅き流星を、貫いた。彼女を支えるのは、恐ろしいほどの執念。


 折れた刀を突き出し、意地だけで踏み込んだ。その先は、友の首筋。


 「────!!!」


 そこには、確かな手応えがあった。確実に、突き刺した。星奈の刀は確かに、野乃花へと届いていた。


 「ありがとう、天さん」


 だが……目の前の少女もまた、その手に短刀を握りしめていた。その刃は星奈の胸を貫き、そして彼女の刀の軌道を変えていた。


 「私の勝ち……ですね」


 星奈の身体が崩れ落ちる。彼女にとって、初めての黒星だった。


           1


 「はぁ……! はぁ……!」


 肩から刀を引き抜き、治癒の護符を使おうとして……その最後の護符を、星奈さんに使いました。


 きっと、天さんに怒られてしまいますね。あの人の大切な妹を、私は傷付けてしまいました。早く、謝らないと。


 私はふらふらと、先へ進みました。嫌な気配の発生源から、黒いナニカが渦巻いていました。空間が歪み、拡張されている。この先に、天さんは居るはずです。


 渦に触れると、そこにはただ真っ白な世界がありました。周囲に散らばるのは、変異種の亡骸ばかりです。天さんがやったのでしょうか? だとしたら、早く加勢に行かないと。


 「約束を……果たすんだ」


 いつだって、天さんは私を守ってくれた。約束を守ってくれた。


 初めて出会った時も、私が修行している間も、星奈達に襲われた時も――天さんは私を助けてくれた。だから、私はまだ生きています。


 「やく、そく、を……」


 今度は、私の番。私が、天さんを助けます。


 天さん。私、貴女に追い付きましたよ? この力があれば、私は変異種になんて負けません。


 天さん……きっと、もう貴女を追い越してしまいました。だから、今度は私をもっと頼ってください。恩返しがしたいのです。


 「そら、さん……」


 助けてと言われれば、私が絶対救います。もう巫女の宿命になんて、囚われないでください。私が、貴女の守りたいものを守ってみせます。


 貴女の隣には、私が居ます。貴女の手は、私が取ります。貴女を引っ張って、一緒に走ってあげます。


 「もう、一人には……させません」


 肩で息をしながら、私はそこに辿り着きました。ひしめく変異種の骸の中心に、一人の女性の姿があります。私は思わず顔を綻ばせ、そしてすぐにその表情を強張らせました。


 黒と赤の巫女服を着た、私の大切な人。けれどその髪は、粉雪のように真っ白になっていました。


 ゆっくりと、その姿をこちらへ向けました。見覚えのある狐面を身に付けた、天さん。髪色も相まって、奏さんそっくりでした。


 「良かった。最初に辿り着いたのが、貴女で」


 「天さん……その、姿は」


 違和感。天さんからは、全く神力が感じられなかったのです。それは、本来であればありえないことです。全速力で走っても倒れないように、人にはリミッターがあるからです。


 どんなに力を振り絞ろうと、巫女は生きている限り神力がゼロになることはないのです。なのに……天さんからは、何も感じません。


 「野乃花。お願い、助けて」


 「っ! は、はい! 早く、ここから出ましょ――」


 天さんは、優しく微笑みました。優しく暖かい、私の光。私は嬉しくて、小走りで天さんに駆け寄りました。その手を握ると、天さんはそのまま私の手を自分の首へと持っていき……


 「私を殺して。貴女になら、それが出来る」


 「──え?」


 天使のような顔で、私を地獄へと突き落とすのでした。


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