片桐小日向の意地
「はぁっ! 穿て、『流星』!!!」
「穿て、『流星』」
大きな帽子を被った灰色の髪の少女……巴が、私と同時に閃光を解き放った。やっぱりだ、理屈は分からないけど……あの子は、『流星』を持っている。
「っぅ……! やっぱり、本物には、劣るね……!」
「複製品……どうやって、そんなものを」
「私とすみちゃんは、固有の神力兵装を、持たない。その代わり、私達には、特権が、ある」
そういって、彼女は虚空から一本の槍を取り出した。蒼色の槍、あれは……! 『空空』なの!?
「今度は私の番だよ! 貴女の『空空』、叩き潰してあげる!」
「くぅううう!?!? 重、い……!」
それは単純な大剣の振り下ろしだった。たったそれだけの一撃を防ぐのに、私は足を踏ん張って『空空』を展開していた。このままでは潰される……!
私は障壁をずらして、地面へと逸らした。その衝撃で、コンクリートに亀裂が走る。
「私は神力兵装の複製を、そしてすみちゃんは、神力の最適化能力を、得た」
「なるほどね……! どうりで、身体能力が段違いな訳だ……!」
神力の最適化とは、つまり変換の効率の違いだ。私達が防御や巫術を発動する際、神力を媒介にして発動する。その時、必ず神力のロスが発生するのだ。すみれはそのロスが、極端に少ないのだろう。
だから、ガス欠の心配なく、ずっとフルスロットルで強化を行えるのだ。それを、才能の塊のようなすみれがするのだから、その脅威は計り知れない。
「唸れ! 『風神』!!!」
なら……! 機動力で攪乱する! マトモに打ち合っていたら、先に力尽きるのは私の方。なら、追いつけないスピードで動いてやる。
『風神』は風を操る神力兵装だ。その力を使えば、地上だけでなく空さえも私のフィールドとなる。そして、上空から一気に滑空すれば──!
「轟け!『雷神』!!!」
「ったぁ……!? 中々、やるじゃん……!」
その衝撃と『雷神』による電撃は、『流星』に勝るとも劣らない威力を発揮する!
「『自縛布』!!! すみ、ちゃん!」
「大丈夫だよ、っと!」
三方向から来る黒い布を捌きながら、後ろへと下がる。だが、すみれはそんな後退を許さなかった。すかさず追い打ちをかけ、何度もその大剣を叩きつけてくる。安易に繰り出されるその一撃一撃が、酷く重たい。
「もうちょっと、慎みを持って欲しいかなぁ!」
「ほらほら先輩! そんなんじゃ、私らには勝てないですよ!」
「そこ。油断、大敵」
「くぅ!?」
すみれにばかり注視していると、巴が横槍を入れてくる。だが、決して踏み込んではこない。すみれがカバーに入れる場所を維持し、サポートへ徹していた。
この子達、私の何倍も戦い慣れている……! それは、明らかに対人戦を意識したものだった。彼女たちの天性のセンスもあるのだろう。だが、そこには明確な差と作戦があった。恐らくは、このコンビネーションが彼女達の常套手。
これを崩さなければ、私に勝ちの目は絶対に出ない。
「『雷神』! 唸れ、『風神』!」
「うわ……! 巴! そっち行ったよ!」
まずは巴から潰す! 彼女の援護がある限り、私の不利は覆らない。なら、彼女を先に叩く。雷で速度をブーストしながら、風ですみれを足止めした。
「ん、やっぱり私、狙い。でも私も、しぶとい、よ?」
彼女の神力兵装は『流星』と『自縛布』と呼ばれたものを使用している。『流星』はそう何度も連発出来るものでは無いし、この距離では自爆行為だ。そして、『自縛布』は戦闘向きでは無い。
もし、未知なる神力兵装があろうと、『空空』があれば耐えられる。彼女にダメージを与え、可能なら行動不能まで持っていく……!
一気に加速しながら、私は槍を構えて突進した。さぁ、何を出してくる!?
「『自縛布』……! さぁ、鬼ごっこをしよう」
彼女は布を器用に使い、かなりの速度で後退を始めた。だが、私の方が早い!
「……なっ!?」
「撃ち方、よーい」
その行進は、彼女の持つ黒い塊によって遮られた。破裂音が何度も響き、その度に防護壁を突き破ろうとするソレは……!
「マシンガン!? 何処からそんなものを……!」
「私の力は、神力兵装以外も、適応内。こんなものも、作れる」
「っ……! 手榴弾……!」
爆風は『空空』で防げた。だけど、巴の姿を見失った。一体、何処に──!
「っぁ……! 狙撃っ……!」
咄嗟に防護壁で防ぐが、衝撃を殺しきれずに足を止めてしまった。気がつけば後ろには、純白を纏った凶刃が、そこにはあった。
「よいしょっと!」
「がはっ……!」
ヤバい……ほとんど防御も出来ず、直撃した。その衝撃は凄まじく、私は数十メートル吹っ飛ばされた。腰からお腹に掛けて切り裂かれても尚、意識を飛ばさなかったのは幸いと言う他無い。
「……勝敗は、決した。投降、して」
「ごほごほっ……はぁ……? そんなもの、する訳、無いでしょ……」
「私は別に先輩を殺したい訳じゃ無い。むしろ、貴女には協力して欲しいんだ」
「協力……?」
私は治癒の札で傷を塞ぎながら、時間を稼ぐことにした。いつでも反撃出来るよう、『空空』を構えながら、私は二人の言葉に耳を傾けた。
「先輩も知ってるでしょ? 天ねぇが、どんな無茶をしているのか」
「……知ってるよ。師匠がどれほど辛い目に遭ってるのも……その代償に、何を支払っているのかも」
……師匠は、巫女としての才能だけを見れば、平凡そのものだった。だから、師匠はずっと努力してきた。剣術を磨き、体術を磨き、あらゆる補助具を準備していた。
それでも……あの日、私達は多くを失った。仲間を、友を、そして心を。
師匠はそのために、あらゆるものを支払うことにした。たとえそれが、その身を壊す禁忌だとしても、師匠はその手段を選んだ。
「私はずっとそんな師匠に守られてきた。守られてばっかりで、何にも返せてない……! 悔しいし、不甲斐ないよ……!」
「……なら、私達の気持ち、分かる、でしょ?」
「……分かるよ」
「なら──」
「分かるけど……! だからって、こんなことをして良い理由にはならない!」
私は震える足を踏ん張って、立ち上がった。ズキズキと、痛みが私を屈服させようと蝕んでくる。けど、私はもう決めた。たとえ辛くても……たとえ苦しくても……私はもう、逃げないって!
「野乃花を殺して……他の邪魔者を殺して……それで本当に師匠が幸せだと、本気で思ってるの!? そんな世界を師匠が……! 望んでるって信じてるの!?」
「……! じゃあ、どうしろっていうの……! お姉さんを失わずにするには、どうしたら良かったの!?」
「私達がどんな気持ちで天ねぇを失ったのか、知らない癖に! 綺麗事ばかりじゃ、大切なものは守れないんだよ!!!」
師匠は、ずっと誰かの幸せを願っていた。星奈ちゃんも、この二人も、野乃花だって、幸せになってほしいからと、戦ってきた。
その結末が、守りたいものも守れず、救いたいものは死に、ただ自分だけが生き存える世界だなんて……そんなのは、絶対に認めない!
「綺麗事で十分だよ……! 私は、私の師匠は……! 後輩を見捨てて自分だけ助かろうとなんて、絶対にしない! 私が……師匠も、野乃花も……! 守ってみせる!」
まだ怪我は治りきっていないし、神力だってかなり消耗してしまった。だけど、諦めるという手は存在しない。あの子の背中は、私が死ぬ気で守り切る!
そのためにも……私は絶対に、負けない!!!




