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35.迷うことと決められないことは、同じではありません


 馬車が去ったあと。

 オルドがイデアの隣へ立った。


「本当に、よかったのか」

「金貨十枚の話?」

「あれだけあれば、食料も屋根も買えた」

「分かっております」

「王家への返済も始められた」

「ええ」


 イデアは自分の手を見る。

 あの小箱へ、触れもしなかった。

 触れていたら、もしかすると離せなくなっていたかもしれない。


「惜しいですわ」

「なら」

「ですが、月白花を売る権利と、病人へ使う権利まで一緒に渡せば、いずれ後悔します」

「村が飢えても?」


 厳しい問いだった。

 オルドは責めているのではない。村を預かってきた者として、確認しているのだ。


「飢えさせません」

「どうやって」

「月白花以外で稼ぎます」

「できるのか」

「しなくてはなりませんわ」


 水車に仮市、薬草。

 山羊。木工。黒穂麦。

 どれも、いきなり金貨十枚を生み出すものではない。

 けれど。


「続く仕組みは、一輪の花より強いですわ」


 イデアは言った。


「奇跡ひとつへ領地の命を預けたら、その奇跡がなくなった時、すべて終わってしまいますもの」


 オルドはしばらく黙っていた。


「……理屈は分かる」

「納得しておりません?」

「まだな」


 イデアが少し眉を上げる。


「では、何をすれば納得なさるの?」

「金貨十枚を断っても困らんだけ、別で稼いでからだ」

「厳しい村長ですわ」

「借金があるんだろ」

「わたくしの口癖を使わないでくださる?」


 ◇


 午後、診療所にする予定の側室を、本格的に片づけることになった。

 患者を一日診ただけで、問題はいくつも見つかった。

 寝台が足りない。

 薬草を乾燥させる場所がない。

 咳の患者と傷の患者を分けられない。

 水を置く棚も、薬を量る机も、何もかも足りない。


「まず、この棚を動かします」


 イデアは壁際に置かれた大きな木棚へ手をかけた。長年放置され、埃と蜘蛛の巣に覆われている。


「待ってください」


 アルゼルが言った。


「何ですの?」

「下が腐っています」

「ならば、慎重に持ち上げれば」

「私がやります」

「今日は朝から患者の補助をしていたでしょう。少しくらい休んでくださいませ」

「棚を動かす程度なら」

「わたくしにもできます」

「あなたがそう言うと、不安になりますね」

「失礼ですわね」


 ミラとローデンは、別の部屋から道具を取りに行っている。

 戻るまで待てばいい。

 分かっている。

 けれど、一日中人が出入りしていた部屋を見ると、一刻も早く場所を空けたくなる。


「端を少しずらすだけですわ」


 棚の側面へ肩を当てる。


「イデア」

「少しだけです」

「すでに嫌な予感がします」

「見ていなさい」

「見ていますよ」


 力を込める。

 棚は動かない。


「もう少し――」


 さらに押した。

 みしり。

 聞き覚えのある音がした。


「イデア、離れて」

「棚から?」

「壁からです」


 次の瞬間。

 棚の背後にある石壁が、内側へ崩れた。


「壁!?」


 アルゼルの腕がイデアの腰を抱き、その身体を強く引き寄せる。

 遅れて棚が前へ倒れた。

 薬草の籠、空の瓶、積んでいた布。すべてが石床へ落ちる。土埃が一気に部屋を満たした。


「怪我は?」

「ございません」

「頭は?」

「大丈夫です」

「腕は?」

「アルゼル」

「何でしょう」

「離してくださる?」


 ようやく腰を抱いていた腕が緩む。

 それでもアルゼルは、イデアの肩から腕まで一通り確認した。


「なぜ棚を動かすだけで壁まで壊すのです?」

「わたくしが壊したのではありませんわ!」

「あなたが押した直後に崩れました」

「壁の方が寿命だったのです!」

「そういうことにしておきましょう」

「納得しておりませんわね?」


 言い合っている間に、土埃が収まっていく。

 そして棚の背後。崩れた壁の向こうに、空洞が見えた。


「……また部屋ですの?」


 イデアは身構えた。

 この廃教会は、床を調べれば地下室が出る。

 壁を崩せば何かがある。

 建物というより、秘密を石で包んだ箱に近い。

 アルゼルが指先へ淡い灯りをともす。奥は、人一人が入れるほどの小部屋だった。

 石造りの棚。天井から吊るされた細い棒。壁には複数の通気口。床には丸い石臼と、小さな金属製の秤が残されている。


「薬房ですね」


 アルゼルが言った。


「薬草を乾燥させ、砕き、調合するための部屋でしょう」

「そんな部屋が、なぜ教会に?」

「古い宗教施設では、病人の世話も役目のひとつだったのでしょう」

「何てことしてるんだい」


 杖の音とともにハンナがやってきた。


「棚を動かそうとしただけですわ」

「壁ごと?」

「結果としては」

「相変わらずだね、あんたは」

「どういう意味ですの!?」


 ハンナは返事をせず、空洞の中へ入った。

 石臼へ触れ、秤を持ち上げる。

 それから、通気口へ手をかざす。


「風が通る」

「薬草を乾かせますの?」

「ああ。日に当てずに湿気を逃がせる。使えるよ」


 石棚には、陶器の壺がいくつも残っていた。

 蓋を開く。中身のほとんどは、とうに朽ちている。

 けれど、ひとつだけ。乾いた小さな実のようなものが残っていた。


「種?」


 イデアが尋ねる。

 ハンナは一粒を指先へ載せ、目を細めた。


「青鈴草だ」

「ご存じなの?」

「熱と痛みに使う。昔はこの辺りにも生えてたが、いまじゃ山の奥でしか見ない」

「まだ植えられます?」

「何百年前の種だと思ってるんだい」

「普通なら難しいでしょうね」


 アルゼルが掌の上の種へ意識を向ける。

 しばらくして、顔を上げた。


「すべてではありませんが、中にまだ力の残っているものがあります。ここに残った神性に守られていたのでしょう」

「何粒ございますの?」


 壺の中身を数えると、二十三粒あった。


「……また種が増えましたわね」

「壁が崩れた見返りです」


 アルゼルが言った。


「棚と壁の修理も増えましたわ」

「薬房が手に入りました」

「金貨十枚には届きません」

「すべてを金貨で比べるのですか?」

「今日は比べたくもなります!」


 ハンナが壺を胸へ抱える。


「金貨は病人へ飲ませられないよ」

「食料や薬へ換えられますわ」

「こいつは、育てれば薬になる」

「時間がかかります」

「だから今植えるんだ」


 ハンナは当然のように言った。

 イデアは壺の中の種を見つめる。

 月白花のような強い力はない。一粒で重い病を救えるものでもない。けれど、育て続ければ、何度も薬へ変えられる。


「……そうですわね」


 奇跡ではない。

 だからこそ、毎年使える。


 ◇


 夕方には、診療所の仮の規則ができた。

 急を要する者を先に診る。

 治療の順番を、支払える金額だけで決めない。

 薬や食料に余裕がある者からは、相応の対価を受け取る。

 支払えない者は、治ったあとに労働や品物で返すことも認める。

 返す手段のない病人や子供であっても、緊急時には拒まない。

 そして月白花については、開花してから病状を確認し、ハンナ、アルゼル、領主の三者で使用先を決める。


「最後の規則は、少々重いですね」


 アルゼルが紙を眺めた。


「わたくし一人で決めた方が?」

「いいえ。責任を分けるのはよい判断です」

「では、何が?」

「あなたは結局、結果が悪ければ自分一人で責任を負うつもりでしょう」

「領主ですもの」

「三人で決めるのです」


 アルゼルは閉じた瞳のまま、イデアへ顔を向ける。


「結果が望んだものにならなかった時も、三人分です」

「ですが」

「私も逃げません」


 穏やかな声だった。

 ハンナも横から鼻を鳴らす。


「あたしも勝手に逃がされる気はないよ」

「逃がしておりませんわ」

「なら、書きな」


 イデアは言い返せず、規則の最後へ三人の名前を書いた。

 イデア・ラズマイト。

 ハンナ・モルン。

 アルゼル。


「姓は?」


 書き終えてから、イデアが尋ねる。


「必要ありません」

「公的な書類ですわ」

「神域では、姓を使う習慣がありません」

「では、アルゼル・神の息子」

「少々直接的ですね」

「アルゼル・元遠縁の研究者」

「元をつけても嫌です」

「では、アルゼル・夜番」

「私の扱いが、どんどん実務へ寄っていますね」

「実際、働いておりますもの」


 結局、紙にはただ『アルゼル』と記された。


 ◇


 外から来た病人たちは、その日のうちに全員が帰ったわけではなかった。

 リトと母親は、数日間小ラズマイトへ滞在することになった。

 火傷の青年も、ハンナから薬の作り方と皮膚の手入れを教わるために残った。

 老人は、足を温める布と薬草を受け取り、家族とともに帰っていった。

 杖をついていた女性も、ハンナから痛みを和らげる薬草と身体の動かし方を教わり、その日のうちに帰った。

 月白花を使った者は、一人もいない。

 それでも、来た時より顔色のよくなった者がいる。

 不安が少し減った者もいる。

 治らないと思い込んでいた傷に、別の方法があると知った者もいた。

 そして。

 アルゼルへ対する反応も、朝とは少し変わっていた。

 帰り際、老人の家族がアルゼルへ頭を下げた。信仰としてではない。荷車へ老人を乗せるのを手伝ってもらった礼として。


「助かった」

「お気をつけて」


 それだけだった。

 顔を上げた男は一度だけ翼を見たが、今度は正教会の印を切らなかった。

 一方、最後まで距離を取った者もいる。

 小ラズマイトを出る直前まで何度も振り返り、何か不安そうに囁き合っていた家族もいた。

 それでいいのだろう。

 イデアは思う。

 一日で、すべてを信じる必要などない。

 自分だって、そうだったのだから。


 ◇


 静けさが戻った後、イデアは新たに見つかった薬房で、青鈴草の種を小さな布袋へ移していた。


「金貨十枚」


 思わず呟く。


「まだ惜しいのですか?」


 入口に立ったアルゼルが尋ねた。


「当然ですわ」

「断ったことを後悔している?」

「いいえ」

「では?」

「惜しみながら、正しいと思う方を選ぶこともございます」


 イデアは布袋の口を結んだ。


「迷わなかったわけではありませんわ」

「知っています」

「あなた、商談の時は何もおっしゃいませんでしたわね」

「言えば、私の意見へ従ったのですか?」

「内容によります」

「ならば、やはりあなたが決めるべきだったのでしょう」


 アルゼルは薬房へ入った。白い翼が戸口へ触れないよう、少しだけ身体を斜めにする。

 もう隠してはいない。

 けれど、翼が大きすぎて建物の方が合わせてくれるわけでもない。


「ですが、金貨だけでは選ばないだろうとは思っていました」

「なぜ?」

「最初の月白花も、そうしたでしょう」

「今回は、その場で死にかけている方がいたわけではございません」

「未来に現れるかもしれない病人を、今の金貨で選択肢から外す契約ではありました」


 イデアは黙った。

 アルゼルの声が少しだけ低くなる。


「あなたは、自分の意思を後回しにされる痛みを知っています」


 胸の奥へ、静かに指を触れられたような気がした。

 本人へ確かめられないまま決められた婚約。

 家の中で、別の誰かが優先された日々。

 自分の気持ちなど、最初から選択肢へ入っていないように扱われること。


「だから、ほかの方を最初から候補の外へ置くことができない」

「……何でもお見通しのようにおっしゃらないでくださる?」

「違いますか?」

「完全には」

「では、半分ほど?」

「半分ほどですわ」


 アルゼルが微笑んだ。


「残り半分は?」

「領地経営上の判断です」

「便利な言葉ですね」

「事実ですわ」


 イデアは薬房を見回した。

 崩れた壁。古い秤と石臼。風の通る棚。

 そして、二十三粒の青鈴草。


「一輪の奇跡より、何度も使える薬を増やします」

「ええ」

「月白花がなくても、助けられる方を増やす」

「それがよいでしょう」

「それでも、必要とする病人がいなければ、花は高く売りますわよ」

「もちろん」

「価格交渉もいたします」

「当然ですね」

「一割四分より下げます」

「エーミルが泣きますよ」

「商人でしょう。耐えていただきます」


 イデアは種の袋を棚へ置いた。


「アルゼル」

「何でしょう」

「奇跡は、どうして一度しか使えないのかしら」

「多くの場合、一度きりだから奇跡と呼ばれるのでしょう」

「不便ですわね」

「人間は、何度でも同じことを続けられる仕組みを作ります」

「奇跡より優れておりますの?」

「種類が違います」


 アルゼルは古い石臼へ手を置いた。


「奇跡は、いまの手では届かない場所へ、一度だけ手を伸ばすものです」


 次に、薬草を乾かす棚へ顔を向ける。


「仕組みは、その場所まで何度でも歩ける道を作るものです」

「では、両方必要ですわね」

「欲張りですね」

「領主ですもの」


 ◇


 その夜遅く。

 村の入口へ、一人の騎手が到着した。王領監理局の印をつけた使者だった。

 届けられた封書には、クラウスの筆跡でイデアの名が記されている。

 礼拝堂の仮机で封を切る。


「何と?」


 オルドとダリオ。それからアルゼルが周囲へ集まっている。

 内容を読み進めたイデアは、眉を上げた。


「古い市場権について、王家側の記録が見つかったそうですわ」

「有効なのか」


 オルドが尋ねる。


「完全に失効したとする記録は見つからなかった、と」

「では、市を正式に開ける?」

「条件がございます」


 書状には、古い市場権を暫定的に認めるとあった。

 ただし。

 周辺の村や領地から人と品が集まる以上、現在の法に沿った管理を整えなくてはならない。

 正規の計量器。

 取引記録。

 飲食物の衛生。

 火災対策。

 盗難や争いを防ぐ警備。

 馬車が安全に通れる道。

 そして――ひと月後に行われる、王領監理局の現地確認。


「ひと月」


 ダリオが呟く。


「その間に、すべて整えるのですか」

「ええ」

「道は、村の入口だけでも穴だらけだ」


 オルドが言う。


「市の空き地には、雨を避けるものも足りません」

「布屋根は一度落ちましたね」


 アルゼルが付け加える。


「思い出させなくて結構です!」

「警備をする人間も足りん」

「火事用の水桶も必要です」


 ダリオが淡々と記録する。


「桶はひとつ、あなたが割りましたわね」


 イデアがアルゼルを見る。


「それもまだ数えるのですか?」

「備品管理です」

「私が悪いのではなく、桶の耐久性が――」

「壊した事実は変わりません」

「随分厳しくなりましたね」


 イデアは無視して書状の最後まで読む。

 追記があった。

 現地確認の日程は、三十日後。担当官として、クラウス・ハルフェンが再び小ラズマイトを訪れる予定。

 そして、


「市場権が正式に認められれば」


 イデアは追記を読み上げた。


「小ラズマイトでは認可された定期市を開くことができ、周辺からの利用料と出店料を領地収入として計上できるそうですわ」

「王家への返済にも?」


 ダリオが確認する。


「ええ」


 礼拝堂が静かになった。

 月白花の予約を断った、その日の夜。

 別の収入へ続く道が現れた。

 まだ、道と呼ぶには頼りない。

 現実の街道と同じように、穴だらけで。

 雨が降れば泥へ沈み、荷車の車輪が外れそうになる。


「金貨十枚には、すぐ届きませんわね」


 イデアは言った。


「ですが、十枚で終わる利益でもございません」

「正式な市になれば、毎月収入が見込めます」


 ダリオが帳面を開く。


「水車の利用者も増えるだろう」


 オルドが頷く。


「商人も来ますわね」

「薬草も売れるよ」


 いつの間にか、側室の入口からハンナが顔を出していた。


「寝ていなさい!」

「話くらい聞かせな」

「患者が増える可能性もありますね」


 アルゼルが言う。


「診療所も整えなくては」


 仕事がまた増えた。しかも、ひと月以内に。

 イデアは書状を机へ置き、深く息を吸った。


「明日から、道と市の整備を始めます」

「診療所は?」

「同時に」

「畑は?」

「止められません」

「山羊小屋は?」

「冬までに必要です」

「教会の屋根は?」

「雨が降る前に!」


 全員が黙った。

 イデアも黙った。


「……人手が足りませんわね」

「ようやく気づきましたか」


 アルゼルが言う。


「あなたも働きますのよ」

「私はすでに、診療補助、夜番、食事管理を」

「明日から市場整備も追加です」

「高位天使の職務ではありません」

「市場で女性に囲まれながら信仰を集められると、以前おっしゃっていたでしょう?」

「それと杭打ちは別です」

「では、布屋根を支えてくださいませ」

「一日中?」

「落ちないように」

「私を柱として使うつもりですか?」


 イデアはアルゼルを上から下まで眺めた。

 長身。

 大きな翼。

 人間離れした力。


「美しい柱ですわね」


 アルゼルが止まった。

 イデアも、自分が何を言ったのか一拍遅れて気づく。


「……何ですの」

「いえ」


 アルゼルの口元が、わずかに上がった。


「ようやく正当な評価をいただけたと思いまして」

「労働力としてです!」

「そこは不満です」

「働きなさい!」


 アルゼルが褒め言葉として受け取るべきか、柱扱いへ抗議するべきか迷っている間に、イデアは仕事の一覧を書き始めた。

 診療所。

 薬草畑。

 市場。

 道。

 警備。

 水桶。

 正規の升。

 帳簿。

 書けば書くほど、紙が埋まっていく。


「本日の収支は?」


 アルゼルが尋ねた。


「金貨十枚を失いましたわ」

「もともと持っていませんよ」

「予約契約を断りました」

「代わりに薬房と種、それから市場権の暫定承認を得ました」

「仕事も増えましたわね」

「将来の利益も増えました」


 イデアは、文字で埋まった予定表を見る。


「……黒字ですわね」

「不満そうですね」

「利益が出る前に、過労で倒れそうですもの」

「それは私が防ぎます」

「どのように?」

「まず、眠っていただきます」

「まだ計画が――」


 アルゼルがイデアの手から羽ペンを取り上げた。


「続きは明日です」

「返しなさい」

「食事監督官兼、夜番兼、臨時診療補助兼、市場整備担当として命じます」

「勝手に役職を増やさないでくださる!?」

「増やしたのはあなたでしょう」


 反論できなかった。

 月白花は、予約することができなかった。

 命も。

 奇跡も。

 まだ見ぬ未来も。

 金貨の枚数だけで、順番を決めることはできない。

 その代わり、小ラズマイトには、何度でも人を助けるための薬房と種が残った。

 そして、毎月利益を生むかもしれない市場へ続く道まで現れた。

 もっとも。

 その道には比喩ではなく、本当に大きな穴が開いており。

 翌朝、その道を最初に通った荷車が、その穴へ見事に車輪を落とすことになるのだが。

 それは、また別の災難である。


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