第九話
「す、数万……!? おい、何万体いるんだよこれ!」
防犯カメラの画面を指差しながら、店長が完全にパニックを起こして叫びました。サウナとお風呂で整ったばかりの下請け業者(外部スタッフ)たちでしたが、一瞬で顔面が蒼白に逆戻りしています。
深夜の街を埋め尽くす、ゾンビの超大群。はるか遠くの地平線まで、濁流のような黒い人影がうごめき、地響きを立ててこのホームセンターへと向かってきていました。
「無理だ、こんなの防げるわけがない! ここは一瞬で踏みつぶされるぞ! 今のうちに車で逃げよう!」
生存者たちが口々に叫び、システム障害が発生しかけます。しかし、私は手元にある冷たいカフェオレをゆっくりと飲み干すと、おっとりと微笑みました。
「皆さん、落ち着いてください。数万件の同時アクセスですか。要塞の強度試験(サーバーの耐久テスト)としては、ちょうどいい負荷ですね」
「水瀬さん、何言ってるんだよ! 数万だぞ!?」
純君が涙目で突っ込みますが、私はそっとメガネを押し上げました。ここから私の口調は、怒涛のギガスピード(超早口)へと切り替わります。
「いいですか? 私たちは今、地域最大級の資材館に立てこもっているんですよ? 敷地内には数百本の鉄パイプに大量の足場丸太、コンクリートブロックが山積みにされており、さらにプロ仕様の電動工具やフォークリフトといった重機(開発環境)まで全て揃っているんです! 数万のゾンビが来ようが、彼らはただ直線的に突進してくるだけの単純な行動アルゴリズム(プログラム)に過ぎません。ならば、それを物理的に遮断する圧倒的なセキュリティ(防壁)を、彼らが到着する前にビルド(構築)してしまえばいいだけのことです! 私はIT業界で、数々の炎上案件を急な仕様変更(徹夜の突貫工事)でねじ伏せてきた、限界システムエンジニアですよ。デバッグ速度(徹夜の作業効率)において、私の右に出る者はいません!」
「あはは! 出た、栞の社畜モード! マジ受けるんだけど! よーし、ウチもサウナ奪われたくないし、徹夜で手伝っちゃうわ!」
「おう、俺も職人の意地を見せてやるぜ!」
金物さんが親指を立て、純君もゴクリと唾を飲み込んで頷きました。さらに私は、ガタガタ震えている店長たちの前に立ち、冷徹にタスク割り当て(作業命令)を言い渡しました。
「店長さん、下請けの皆さんも全員強制参加です。今から明日の朝まで、一睡も挟まない急な仕様変更(徹夜の突貫工事)を開始します。納期までに防壁が完成しなければ、全員まとめてサービス終了(死亡)です。いいですね?」
「ひ、ひえぇぇ……! や、やります、やらせてください!」
こうして、ゾンビの世界での、悪魔のような急な仕様変更(徹夜の突貫工事)が幕を開けました。
私は金物さんと一緒に、売り場にある『二トントラック用フォークリフト』の鍵を全台ぶんかき集め、店長たちに配備。フォークリフトで、外周の資材置き場から巨大なコンクリート製のH鋼ブロックや鉄製の単管パイプを正面ゲートの前へと次々に搬送させます。
「ギギギギ! ガガガガ!」
私が電動インパクトドライバーで鋼鉄のジョイントを締め上げ、金物さんがプロの技術で足場を組んでいきます。純君と玲奈がネジや補強材を必死に運び、店長たちは泣きながらフォークリフトを運転して土嚢を積み上げました。
普段の会社でのデスマーチは精神が削られるだけでしたが、自分の城を強化するための徹夜作業は、脳内麻薬がドバドバと分泌されるほどの最高のエクスタシー(快感)です。
「あははは! ネジ締めが止まりません! 隙間は一切認めませんよ!」
目が完全に血走った状態で笑いながら、もの凄い速度で木材と鉄板を打ち付けていく私の姿に、店長たちはガタガタ震えながら、必死で手を動かしていました。
そして、夜が明けた、午前六時。はるか遠くから、ついに数万のゾンビの先頭集団が、ホームセンターの駐車場へと雪崩れ込んできました。
しかし、彼らの前に立ちはだかったのは……昨晩まではただのガラス扉だった場所にそびえ立つ、大量のH鋼ブロックと単管パイプ、配置を最適化したスロープコンベア、そして厚さ三十ミリのコンパネで完全に埋め尽くされた、高さ五メートルの『難攻不落の巨大城門(超強固なファイアウォール)』だったのです。
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