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第八話

四日目の夕方(納期)。

 下請け業者(外部スタッフ)となった店長たちの涙ぐましいデバッグ作業により、立体駐車場のスロープを使った発電システムは終日フル稼働していました。潤沢な電力が、プロ仕様の蓄電池にみるみるとストレージ保存(蓄積)されていきます。

「うう……もう一歩も動けん……。冷房はありがたいが、四日も風呂に入ってないから体がドロドロだ……」

 汗とゾンビの返り血で汚れた店長たちが、床に倒れ込んで愚痴をこぼしました。

「ねえ栞、お風呂作ってよ! マジギャル的に限界なんだけど! 皮脂のバグでメイク乗らないし!」

 特設リビングで涼んでいた玲奈が、わがままを言ってきます。しかし、今の私には余剰電力があります。

「分かりました。電力が余っていますから、熱源ヒーターを稼働させましょう。……ちょうどいい『最高級の浴槽』も、お店の中にありますしね」

 私はニヤリとおっとり微笑み、資材館の隣にあるリフォーム展示場へと向かいました。そこには、普段なら何十万円もする最新のシステムバスが、ピカピカの状態で何台も並んでいます。

 私はその中から、最も豪華な『肩湯・ジャグジー機能付きハイグレードユニットバス』をチョイス。金物さんと純君の手を借りて、展示物の裏側へと回り込みました。

 通常なら水道管に繋ぐ給水ジョイントに、受水槽から引いてきた園芸用ホースを直結。さらに、売り場にあった電気式瞬間湯沸かし器を間に噛ませ、発電システムの電力と接続アクセスします。

「よし、これで即席の最高級風呂が完成です。……ですが玲奈さん、これだけでは面白くありませんね。サウナの醍醐味といえば、蒸気浴ロウリュです」

 私はかつて店長たちが引きこもっていたあの【事務室】に目をつけました。

 気密性の高い事務室の壁に断熱用のアルミ遮熱シートをタッカーで打ち付け、熱が逃げないように補強。そこに、売り場の家庭用遠赤外線ヒーターを四台持ち込んで同時稼働させ、室温をガツンと七十度まで上昇させました。

 仕上げに、園芸売り場から持ってきた『超大型・超音波工業用加湿器』の噴霧スイッチを小型マイコンを介してリモコンスイッチへハッキングし、アロマオイルの代わりに園芸用の本物のヒノキオイルを数滴混ぜておきました。私がボタンをカチリと押すと、事務室の中に「シュウゥゥゥーッ!」という激しい音と共に、濃密な擬似蒸気が充満しました。

「うわあぁぁ! 熱い! でもめちゃくちゃ気持ちいいい!」

 テストを兼ねて初アクセス(一番風呂)に入った純君が、あまりの心地よさに声を上げました。ヒノキの香りが、ゾンビ世界のストレスを完全に消し去ってくれます。

「本日のノルマを達成したスタッフには、このサウナへのアクセス権(立ち入り許可)を許可します!」

 私が通告すると、店長や主婦たちは目の色を変えました。かつて自分たちが絶望と暑さで干からびかけていたサウナ(事務室)が、今は最高の極楽サウナにアップデートされているのです。店長たちは手のひらを返して大喜びし、サウナとお風呂に飛び込んで「整ったぁ……!」と涙を流していました。要塞の中に、完璧な娯楽インフラが完成した瞬間でした。

 しかし、天国のような時間が訪れたその日の夜。

 屋上でソーラーパネルの夜間点検をしていた金物さんが、夜の街の異変に気づき、青ざめた顔で駆け込んできました。

「み、水瀬さん、ヤバいことになった……! ちょっと屋上へ来てくれ!」

 防犯カメラの画面モニターを切り替えると、そこには言葉を失う光景が映っていました。はるか遠く、街の向こうから、今までとは比較にならない地響きを立てて、数万規模の『ゾンビの超大群(巨大なバグの波)』が、このホームセンターへ向かって大移動してきていたのです――。


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【完結まで毎日0時10分に更新します(ストック執筆済み)】

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