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第六話

二日目の昼。

 独立型発電網スマートグリッドのおかげで快適そのものの我が資材館エリアでしたが、お昼過ぎ、突然正面ゲートの防犯カメラが激しい警告音を鳴らしました。

 モニターを確認すると、そこには信じられない光景が映し出されていました。

「中に入れてくれ! 頼む、助けてくれ!」

「食料があるんだろ! シャッターを開けろ!」

 どこから聞きつけたのか、安全と食料を求めて逃げてきた外部の生存者が、三十人近くもホームセンターの前に殺到していたのです。さらに最悪なことに、彼らの大声に引き寄せられた数百体の徘徊リスポーンゾンビたちが、すぐ後ろから津波のように押し寄せてきていました。

「み、水瀬さん! 大変だよ、すごい人数が来ちゃった! どうしよう、全員中に入れたら、昨日集めた食料なんて一瞬で消えちゃうよ!」

 純君が泡を食ってガタガタと震えています。金物さんも「いくらなんでも、この人数を養うリソースはねえな……」と顔をしかめました。

「落ち着いてください。当然、全員に立ち入り(アクセス)を与えるつもりはありません」

 私は冷徹にモニターを見つめました。サバイバルにおいて、自分のルールを理解できない無能な人間をシステム内に組み込むのは、致命的な脆弱性セキュリティホールを自ら作り出すようなものです。

 私は正面ゲートのインターホンのマイクを握り、おっとりした声のまま、最大音量で外へ向けてアナウンスしました。

『外部の生存者の皆様、こんにちは。当拠点は現在、完全会員制のクローズドな環境となっております。アクセスを希望される方は、今から行う採用試験――デバッグ適性テストに合格してください』

「はぁ!? テストだと!? 何言ってんだこの女!」

「外に化け物が来てるんだぞ! 早く開けろ!」

 パニックになった一般人たちが叫びますが、私は一切無視して、用意していたクイズを早口で読み上げました。

『第一問。二×四材の正確な厚みと幅の寸法を、ミリ単位で答えなさい。第二問。インパクトドライバーを使用する際、ネジ頭の破壊カムアウトを防ぐための適切な力加減(トルク管理)について述べなさい。制限時間は十秒、どうぞ』

「わかるかそんなもん!!」

「狂気の沙汰だ! もういい、別の場所に逃げるぞ!」

 あまりにも理不尽で難解なオタククイズに、一般の生存者たちは激怒。彼らは私たちをイカれた集団と判断し、迫り来るゾンビから逃げるために、蜘蛛の子を散らすように別の方向へと走り去っていきました。無能なユーザーのフィルタリングは見事に大成功です。

 しかし、画面の中に一人だけ、ゾンビの頭をヒールで踏みつけながら、インターホンに無理やり顔を近づけてくる金髪の女性が残っていました。派手なメイクに、ミニスカート。絵に描いたような一軍ギャルです。

『ちょっとおおお! もしかしてこの声、栞!? ウケるんだけど! 相変わらず早口で何言ってっか全然わかんないし! ねえ、マジで外ゾンビだらけでウケるから早く中入れてよー!』

「……え?」

 モニターに映るその顔を見て、私は持っていたマイクを落としそうになりました。

 涼風玲奈。学生時代、地味なオタクだった私とは真逆にいた、クラスの頂点に君臨していた元ギャルの旧友バグでした。

『ちょっと、栞聞いてる!? 早く開けてよ、マジで後ろのゾンビの顔キモくてウケるんだけど!』

 インターホンから響く玲奈のマシントークに、私は完全にフリーズしていました。

「み、水瀬さん、知り合い? どうする、後ろからゾンビがもうすぐそこまで……!」

「う、うむ。しかし、ルールはルールです。旧友だからといって不正アクセスは認めません」

 私は震える手でマイクを握り直し、早口で玲奈に告げました。

『れ、玲奈さん、例外処理は認められません! 我が要塞の仕様に従い、以下の工具クイズに正解できなければ、中に入れることはできません!』

『はぁ!? クイズ!? マジ意味不なんだけど! いいよ、早く出しなよ!』

 後ろから迫るゾンビの群れをヒラリとかわしながら、玲奈が怒鳴ります。

『問題です! 日本の工具メーカーで、特にソケットレンチやトルクレンチなどの締付工具において世界的に有名であり、その高い信頼性からプロの職人にも愛用されている会社はどこでしょう!』

 我ながら、ギャルには絶対に解けない、オタクの悪意に満ちた超高難易度クイズです。インターホンの向こうで、玲奈はゾンビをヒールで蹴り飛ばしながら、心底めんどくさそうに、考える時の口癖を漏らしました。

『あー、そんなん知らんし。えーっとね――』

『――えー、TONEトネ!?』

 私はガタッと椅子から立ち上がりました。

『せ、正解です……! まさか玲奈さんが、ソケットレンチの最高峰である『TONE』を即答するなんて……! あなた、ギャルの皮を被ったガチの工具マニアだったのですか!?』

『は? トネ? 何それ、早く開けろっての!』

「水瀬さん、正解したなら早く開けてあげて!」

「あっ、はい! ゲート、一時的テンポラリに開放します!」

 私が急いでスイッチを押すと、二×四材のバリケードが跳ね上がり、シャッターが数十センチだけ持ち上がりました。玲奈はその隙間にスライディングで滑り込み、間一髪で店内に侵入。直後に金物さんがシャッターを叩き落とし、ワイヤートラップを起動して、追ってきたゾンビたちをバタバタと転ばせて処理しました。

「ふぅー! マジ死ぬかと思ったわー!」

 床にひっくり返った玲奈は、すぐに起き上がると、涼しい顔で髪を整え始めました。そして、冷房がガンガンに効いた資材館の景色と、私の姿を見て目を輝かせます。

「っていうか栞じゃん! 何これ、ここだけエアコン効いてて超ウケるんだけど! マジ天才じゃん!」

「あ、あの、玲奈さん。先ほどのTONEのソケットレンチの耐久性についてですが――」

「あー、そういう難しい話はマジ勘弁。それより超お腹空いた! なんか食べるもんない?」

 私の早口な質問を秒でスルーし、玲奈は純君が持っていたカップ麺のストックを見つけて勝手にお湯を沸かし始めました。

 圧倒的なコミュ力と、ただの口癖で超難問を突破した謎の強運。こうして、我が難攻不落の要塞に、最大のイレギュラーである元ギャルの玲奈が身内メンバーとして加わってしまったのです。


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【完結まで毎日0時10分に更新します(ストック執筆済み)】

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