第三話
「トントン、カンカン!」
ゾンビたちを緊縛した後、私はさっそく賛同派の仲間二人と行動を開始しました。頼もしいベテラン店員の金物さん(五十五歳)と、気弱なフリーターの純君(二十歳)です。
私たちはまず、資材館のシャッターの隙間を、二×四材と太いネジを使って内側からガチガチに補強しました。私が電動インパクトドライバーで「ギギギギ!」と凄まじい音を立ててネジを打ち込んでいくと、外のゾンビたちが驚いてシャッターを叩きましたが、びくともしません。
「ふぅ。ひとまず、このエリアの防壁は完璧ですね」
「お嬢ちゃん、本当にいい腕してるなぁ。ビスの打ち方に迷いがない」
「ありがとうございます。……あ、そういえば」
作業が終わった瞬間、純君のお腹から盛大な音が鳴り響きました。純君は真っ赤になってお腹を押さえます。
「す、すみません……。そういえば、朝から何も食べてなくて。水瀬さん、僕たち三日連続徹夜の明けてから、時間感覚がおかしくなってますけど、もうお腹ペコペコです」
「言われてみれば、俺も腹が減ったな。水瀬さん、飯はどうする? ここ資材館には、木材とネジと工具しかねえぞ」
「ふむ。システム構築の基本は、食料資源の確保ですからね」
私は人差し指を立てて、おっとりと首を傾げました。
「お米やカップ麺、お菓子にミネラルウォーターといったものは、確かあちらのエリアですよね?」
私が指差したのは、店内の奥へと続く大きな連絡通路です。このメガモールは、私たちがいる資材館と、日用品や食品が並ぶ生活館に分かれています。そして、先ほどゾンビが侵入してきたガラス割れ事件が起きたのは、あちらの生活館です。
「あ、あっちに行くんですか!? まだゾンビが徘徊しているかもしれないんですよ!?」
「ええ、確実に数体は残っているでしょうね。まともに歩いて行けば、噛まれて一発で死亡(サービス終了)です」
「じゃ、じゃあどうするんだよ……」
絶望する純君の横で、私はニヤリと、オタク特有の不敵な笑みを浮かべました。
「心配いりません。敵の攻撃が物理近接のみである以上、こちらの防御力を無敵にすればいいだけのことです。……金物さん、あそこにある長尺物用台車を三台、こちらへ持ってきてください」
長尺物用台車――それは、重い木材や鉄パイプを運ぶための、頑丈な鉄フレームで作られた巨大な台車です。
私はその台車をロの字型に三台組み合わせ、結束バンドでガッチリと連結。さらに、棚から持ってきた厚さ十二ミリの合板を、外側から隙間なくビスで打ち付けていきました。
「ギギギギ! ギギギギ!」
わずか十分後。大人が三人すっぽり入れる、外側が木のブリックで覆われた、キャスター付きの『移動式簡易シェルター(通称・マキタ一号)』が完成したのです。
「な、なんですかこれ……」
「外からの攻撃を百パーセント遮断する、完全なローカル環境の装甲車です。さあ、中に入ってください。生活館へ、調達に出発しますよ!」
「ゴロゴロゴロ……」
私たちが作った装甲台車『マキタ一号』は、内側から大人三人が手で押すことで、静かに、しかし確実に連絡通路を越えて生活館へと侵入しました。コンパネに開けた小さな覗き穴から外を見ると、薄暗い食品売り場には、やはり数体のゾンビがうろついています。
「ウガァァァ!」
キャスターの音に気づいたゾンビたちが、一斉にこちらへ突進してきました。そして、バコン! バコン! と激しく木の壁を叩き、貪欲な爪で引っ掻き始めます。
「ひ、ひいいい! 囲まれた! もうダメだ!」
「純君、うるさいです。しっかり台車を支えてください。計算上、十二ミリの合板を人間の筋力で突き破ることは不可能です。つまり、私たちは現在、完璧な防壁に守られています」
外側では十数体のゾンビが発狂していますが、内側は至って平和です。木の壁一枚挟んだ向こう側の地獄を無視して、私は覗き穴から棚を品定めしました。
「あ、金物さん。左側の棚にカセットコンロとガスボンベがあります。台車の底の隙間から、マジックハンドで調達してください」
「おう、任せとけ!」
金物さんが手慣れた様子でマジックハンドを伸ばし、カセットコンロをカチャリと車内に引き込みます。
「純君、次は右側です。カップ麺の箱と、二リットルのミネラルウォーターのペットボトルが乗ったパレットがあります。台車をそちらへ接車させてください」
「は、はい! ……あ、なんか本当に、ドライブスルーで買い物してるみたいですね……」
最初は腰を抜かしていた純君も、ゾンビの手が絶対に届かないと分かると、だんだん楽しくなってきたようです。私たちはスナック菓子やレトルトカレー、お米の袋などを次々と車内へ回収していきました。
「よし、これだけあれば一ヶ月は余裕で持ちますね。それでは拠点へ帰還します。純君、バックオーライです」
私たちはゾンビを引きずり回しながら、ゴロゴロと軽快に資材館へと戻っていきました。頑丈な二×四材のゲートを閉め、完全に安全を確保します。
その様子を、事務室のドアを数センチだけ開けて覗いていた店長とクレーマー主婦が、信じられないものを見る目で凝視していました。彼らのお腹からも、情けない音が響いています。
「……な、何よあいつら。あんな化け物に囲まれて、ポテトチップスなんて抱えて戻ってくるなんて、頭がおかしいわ……!」
事務室の反対派がどれだけ愚痴を言おうと、私には関係ありません。
カセットコンロでお湯を沸かし、三分後。資材館のあたたかい光の中で食べるカップ麺は、デスマーチの最中に会社のデスクで啜ったどの夜食よりも、涙が出るほど美味しかったのです。
「はぁ、生き返ります……。さて、エネルギーの補給も終わりましたし、次はいよいよ拠点のインフラ整備――電気と水の確保に乗り出しましょう!」
ご意見やご感想、評価をいただけると執筆の励みになります!画面下の「☆☆☆☆☆」から、作品への応援(ポイント評価)やブックマークをぜひよろしくお願いします!
【完結まで毎日0時10分に更新します(ストック執筆済み)】




