第5話「この人が勇者なのか」
とうとう石板が赤黒く光り、文字が刻まれた。スイルの時と違って不穏な字体と光がマオの不安を煽る。
――――――――――
Lv.#N/A
名前:マオ・ノクス
種族:!@#?
HP:#N/A
MP:#N/A
筋力(STR):#N/A
耐久(VIT):#N/A
敏捷(AGI):#N/A
器用(DEX):#N/A
知力(INT):#N/A
運(LUK):#N/A
スキル:異名コレクター
異名:
使命:勇者殺し
――――――――――
「…………」
現場が凍りつくのがわかる。
——全ステータス#N/A
散々、脳内シュミレーションした状況だが身体の緊張が解けない。
だが、不幸中の幸いと言うべきか種族欄が文字化けしていた。
「お、おい、マオ……お前……」
ソイルが言葉を失うのも無理はない。
我が子がチートステータスの娘と意味不明ステータスの息子なんだ。
この状況、喜怒哀楽の操作が誤るが正解だ。
「お兄ちゃん……」
スイルの口がポカーンと開いている。
石板に刻まれるマオのステータスは、まだ世界を知らない16歳が見ても異様と感じるほどなのだろう。——変な兄ちゃんですまない妹よ。
「お前の使命……」
目は鋭く、マオをギロッと睨みつける。
勇者の話をされた時のような狂気を孕んだ目。
あまりの覇気に鳥肌が立ち、心臓がすくみ上がる。
マオは泣きそうになりながらも、「と、父ちゃん……俺もなぜだか——」と発した瞬間。
ドーーーーーン!!
突如、鼓膜を吹き飛ばすほどの爆発音と、共に爆風が頬を焼く。
今にも崩れそうだった教会は、トドメを刺されたように崩れだす。
その、瓦礫や岩がマオたちを襲うように落下を始める。
「な、なんだ⁉︎」
「爆発……⁉︎」
爆発により柱が崩れ、天井の屋根がマオに迫る。
「おい! スイル、マオ! こっちに来い!」
ソイルが人一倍パワーが強いのは知っているが、この状況を打破できるほどの能力があるとは思えない。
しかし、もはや逃げ場などなく、為す術がないマオはソイルの言葉通り、側に駆け寄ることしかできなかった。
「おい!スイルー!!スイルはどこだ!!」
「パパー!助けてぇー!!」
とスイルの悲鳴が聞こえる。
しかし、その悲鳴は襲いかかる教会の瓦礫に対してではなかった。
——スイルが司祭に捕まっていたのだ。
司祭はスイルの首に腕をかけ、首にナイフを突きつけている。
その様は、人質をとった強盗と呼ぶのが相応しかった。
「おい、司祭! お前なにしてる!!」
「す、すみません、ソイル様……私にはこうすることしか……」
司祭はスイルを強引に連れて行き、教会の裏口へ向かう。
「スイルゥゥゥゥー!!!」
「パパァァァァ!!」
それを阻止しようと走り出すが、とうとう屋根がマオたち目掛け襲いかかる。
ドゴゴォー!
大きな地鳴りと共に教会は完全に崩れ、視界が真っ暗になる。——まさか、最後が生き埋めだなんてな。
こんな状況なのに、身体が心地よい暖かい空気に包まれている感じがする。
——あぁ、これが『死』ってやつか……
その時、頭上に一筋の光が入り、その隙間から空が見える。
「おい!マオ!無事か!?」
ソイルの声が聞こえる。
その言葉と共に、視界は満点の青空へと変わった。
「と、父ちゃん!?」
「マオ、怪我はないか?」
「う、うん……なんともない……」
瓦礫の生き埋めになったのにも関わらず、マオは傷一つなかった。
身を挺して庇ってくれたのかとソイルの身体も確認するがマオと同様、傷一つ無い。
ソイルが守ってくれたのには間違いなさそうだが、その術が検討つかない。
「無事でよかった!とりあえず、外に出よう!」
ソイルは安堵の表情を浮かべマオの頭を撫でる。
瓦礫を押し除け、マオとソイルは瓦礫の外に這い出でた。
「はっはっは!! よぉーソイル、相変わらずお前は硬ぇな!」
悪意を含んだ笑い声が響き渡る。
声の方向に視線を向けるとスイルと司祭、そして、その一歩前に白髪の男が立っていた。
他人を嘲笑うためにできたような、片方だけ釣り上がった口。目は血走ったように赤く、何かに取り憑かれたようにパキッている。そして、それらに似合わないほど純白の髪。
声の正体がこの男であることは分かるのだが、ソイルを知っている口ぶりから一体誰なのか見当が付かない。
「パパァァァ!助けて!パパっ!」
「おいおい!うるっせぇーな! おい、お前こいつ黙らせろ!」
「は、はい! 勇者様っ!」
司祭から出た言葉に、衝撃が走る。
司祭は、この性根が腐っているような白髪の男を勇者と呼んだ。
何度も記憶を確認するが、確実に勇者と読んでいた。
「お、お前は……なんで……!?」
ソイルの拳は、血が滲むほど強く握られ震えていた。
ソイルの未だかつてないほどに、狂気を孕んだ眼差しと覇気。——間違いない、この男が勇者だ。
「おーい!ソイル! お前の小娘、『伝説の魔法使い』なんだって?」
「だったらなんだ?お前に関係ねぇーだろ。
良いからスイルを返せ!」
「いや、ダメだね。こいつは返さねぇよ、こいつは俺のレベリングに必要なんだよ」
「レベリング……? まだそんなものにこだわってんのか⁉︎ 魔王はもう死んだんだぞ!」
「だからだよ! 魔王を殺しちまったからだよ!」
ソイルの顔は、怒りでひしゃげている。
2人の会話は中々、マオの理解できるまで噛み砕かれず、何かを隠すかのような曖昧な言い回しであった。
一つ分かるのは、確実にソイルと勇者が知り合いであること。——いや、知り合いにしては勇者の態度が馴れ馴れしい。友という方が近いのかもしれない。
「——分かった……どうしても返さねえって言うんなら、力づくで取り返してやるよ!」
「はっはっは!やってみ——」
「一体どういうこと?」と聞こうと隣のソイルに目を向けるがそこにはもう、ソイルの姿は無くただ抉れた地面がそこにはあった。
まさかと思い、前方に目を向けると今まさに勇者を殴ろうと大きく振りかぶるソイルの姿。
「歯ぁ食いしばれよ!!
【ガーディアンスキルVow.4:
盾にして矛と成す】!!」
ソイルを覆うように発動した、シールドが瞬時に手に集中する。
脚力で生み出した慣性とスキルで強化した超硬質の拳が勇者の顔面を捉え、殴り飛ばす。
あまりの威力に、マオは唖然とする。
初めて見る、ソイルの本格的な戦闘力は、小さな村でただ農業に勤しむ農民にしては失礼なほど持て余していた。
たった1発から感じる覇気は歴戦の猛者にしか醸し出せないものであった。
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