第4話「使命の儀に行こう」
———転生から16年後
「パパ起きて! は・や・く!!」
スイルの声が家中に響き渡り、マオの鼓膜へと突撃する。
「な、なんだよスイル……こんな朝っぱらから……」
ソイルが目を擦りながら上体を起こす。
「今日!『使命の儀』、今日だよ!!」
「な、そうだ!やべぇ!」
「もぅー、パパったらぁ!」
今日は『使命の儀』。パラメータやスキルが今日公開なのだが、マオは『狭間』でパラメータを知っているため、スイルのようなワクワク感は持てなかった。
しかし、一つだけ気になるのは『使命』だ。『使命の儀』というくらいだから、その信憑性は確かだろう。
それだけのモチベーションでマオは数分で身支度を済ませる。
『使命の儀』は教会で行われるらしいので、スイルと父ちゃんと共に村唯一の教会へと向かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
———徒歩約20分。
無事に教会に到着したマオたち。目の前に立つ教会は、神聖さのカケラもないオンボロな容姿であった。
中に入ると当然司祭がいるのだが、どうも胡散臭い笑みを浮かべマオ一行へすり寄ってくる。
「ソ、ソイル様!お待ちしておりましたぞ!」
「いつも言ってるが、ソイル様はやめてくれ‼︎堅っ苦しい……」
「いやいや、それはできません!なんて言ったってソイル様は……」
「まぁまぁ……その話は……」
「勇者様とご一緒に……」
「やめろって!子供達がいるんだ、その話はしなくていい……」
ソイルは司祭を怒鳴り睨みつける。
そう、この目だ。狂気を孕んだ猛獣のような目。そして、心臓がすくむほどの覇気を纏っている。
——一体、勇者は何者なんだ?そして父ちゃんは勇者とどう関係しているんだ?
「す、すみません‼︎ ソイルさん、えへへへ……」
司祭はソイルの覇気に怯えつつも、平然を保つかのように笑いを浮かべているようであった。
——なんか、気まずい……。
ソイルの怖い目とこの空気感を変えるべく、マオは話を進める。
「と、とりあえず『使命の儀』をしよう……?」
「あ、あぁ、そうだな!空気を悪くしてすまなかった。なぁ、司祭、スイルとマオの『使命の儀』を始めてくれ!」
「わ、分かりました!それでは1人ずつ行います。どちらが先に行いますかな?」
「はいはいはーい!スイルから行くー!」
「かしこまりました。スイルちゃん!
それではこちらに……」
そして、スイルの『使命の儀』が始まった。
転生の中間地点『狭間』で見た大きな石板が現れ、スイルの前で浮いている。
スイルがその石板に触れると、石板に文字が光り刻まれる。
スイルは、おそらく魔法使い系のスキルだろう。まぁ、初級回復魔法のヒールですら失敗するのだ。
そこまで才能があるわけではないだろう。
RPGをやりこんだマオには分かる。ファンタジー世界では、身分によってステータスの強さがかなり左右される傾向にある。
稀に、平凡な村にチート級のステータスが生まれるが大抵は血縁に、ものすごい人物が絡むわけで両親が農民のスイルには無縁だろう。
スイルには悪いが、これが世界の理というやつなのだ。
ピカァンッ‼︎
石板が白く光り輝きステータスを表示した。
――――――――――
Lv.1
名前:スイル・エルド
種族:人族
HP:G
MP:S
筋力(STR):G
耐久(VIT):G
敏捷(AGI):F
器用(DEX):D
知力(INT):S
運(LUK):G
魔法:全属性魔法
異名:
使命: 伝説の魔法使い
――――――――――
「うわぁー!なにこれ!すごーい!」
「ま、まじかよ……」
石板に、スイルのステータスが表示される。
マオが予想していた能力値より、大幅に違っていた。
『デーモンズクエスト』では、能力値がG〜Sのアルファベットでランク分けされる。
レベルを上げていくことで、コツコツとGからF、FからDと能力値が上がっていく。
レベル1なら基本的に能力値はGかF、良くてDだったはず。
しかし、スイルはレベル1から最高ランクのSを持っている。——しかも、『MP』と『知力』の2つもだ。
そして、魔法が『全属性魔法』ときたら、もはやチートだ。
使命である『伝説の魔法使い』は、もはや達成しているだろう。
「お、おい、スイル! お前……」
「ふふん、どう? お兄ちゃん!」
「スイルやったなぁ!! 父ちゃん嬉しいぞぉ!!」
「パパ! スイル強いの?すごい魔法使いになれる?」
「あぁ!!必ずなる! なんて言ったって『伝説の魔法使い』になる使命があるからな!」
ソイルはスイルを持ち上げ、自慢の娘と言わんばかりに目を輝かす。
自慢の娘を超えて世界が誇る魔法使いとなるだろう。
こんな貧乏な村の農民の家系からこんなチートが生まれるなんて、この世界に神がいるのならそいつは頭のネジが外れているに違いない。
ソイルがスイルを愛で倒し、輝かした目のままマオに視線を移す。
「ひょっとしたらお前もすごいんだろ?」と言わんばかりに、視線から期待感が漏れ出ている。
早くここから逃げ出したい気分になる。
大人気なくスイルより先に、『使命の儀』を終わらせるんだったと後悔が脳を埋め尽くす。
なんて言っても、マオの全ステータスは#N/A。
スイルとは別ベクトルでソイルを驚かせることはできるが、完全に出オチで終わる。
強いかも弱いかも分からない気まずい空気を考えるといっそ普通のステータスの方が良かったとさえ思う。
「では、次はマオくん!こちらまで……」
「は、はい!」
「お兄ちゃん!頑張って!」
スイルと入れ替わりマオは石板の前に立つ。
スイルの応援は、むしろマオのプレッシャーを加速させる。
心臓の鼓動で視界がグワングワンと揺れる。変な緊張が身体にまとわりつく。——気分が悪くなってきた。
この緊張感は、全ステータス#N/Aによる微妙な空気への恐怖の他に一つの懸念点から沸き起こっている。
それは、マオの種族についてだ。
『狭間』でステータスを確認した際に、種族が『魔人族』と表示されていた。
幸い人型に生まれ、ここまで自分は『人族』だと錯覚するほど何不自由無く育ってきたが、もし『魔人族』だとバレればソイルやアクア、スイルはどう思うだろうか。
いつも通り、家族として接してくれるだろうか。
やっとできた家族なんだ、そんな家族を失うことがマオにとって1番の恐怖であった。
逃げ出したい足をなんとか堪えて、石板にステータスが刻まれるのをじっと待機する。
ピカァン……
とうとう石板が赤黒く光り、文字が刻まれた。
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