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第1話「異世界転生ってこんな感じだっけ?」

——ど、どうなってんだ⁉︎


 何も見えない暗黒が真央(まお)の視界を埋め尽くす。もはや立っているのかすら分からない。


 生きているのか死んでいるのか、自身の生死すら把握できない状況に必死に思考を回す。


 ——そもそも、死ぬ要素なんてあったか?


 ただ、いつも通り自室でRPGをプレイしていただけで死ぬ要素は一つも見つからない。

 しかし、生きている実感もない男の脳はパニックに陥る。


 ——眩しっ


 突如として差し込む光。

 目に刺さる光に男は「生きている。」とそう確信した。——だとしたら、ここはどこなんだ。

 視界に広がるのは、ただただ広大な空と雲のようにふわふわな地面。

 想像していた『天国』に近いその景色は、真央が確信した『生』に疑いが生まれる。


「——マオ……」


 突如後方から聞こえる、声。

 振り返るとそこには杖を持った少女の姿。

 とんがり帽子から流れ出る紫色の髪に肌は白く、耳は鋭く尖っている。年齢は10代後半ほどの女性。

 人間の成りではあるが、その雰囲気は真央が今まで出会ったことのない異様なものであった。


 その女性はマオの目をじっと見つめている。そして、その瞳からは流星の如く、キラキラと一筋の涙が流れていた。

 ふと我に帰ったように涙を拭く女性。


 全く知らない場所で初めて出会った人間。

 とりあえず、自分が今どうなっているかの情報が欲しい。

 そんな、真央はまず手始めに簡単な質問を投げかけた。


「あ、あの……ここはどこですか?」


「こ、ここは転生の中間地点。『狭間』……です……」


「えっと、つまり俺は転生したってこと?」


「いえ、厳密にはまだ転生はしていません。

ここは中間地点。

転生のためのステータス設定をする場所……」

 

 真央自身がたった今転生しているということは、ひとまず飲み込むことにした。

 異世界転生モノの小説やアニメなどは見ていたから、なんら抵抗はない。寧ろしてみたかったぐらいだ。——だとしたらだ、転生ってもっと「おめでとうございます!」とか「ようこそ異世界へ!」みたいに歓迎されるものじゃないのか?


 「まぁ、でも転生は転生だ。地獄のような現実とおさらばできるのならそれでいい。」と割り切ることにした真央は、小説や漫画で培った知識から次の展開に期待する。

 次のステップそれは、


「と、とりあえずステータス設定ですよね」


 そう、ステータス設定だ。

 異世界転生モノの定番と言ってもいいチートステータスだ。

 数ある超絶強いスキル中から一つ選んだり、はたまた一個のステータスに全振りしたりと真央はあらゆるパターンを予想し備えた。


「ステータス設定なら私の方でしておきました」


「……は?」


 少女の口から飛び出たあり得ない発言に思わず無礼が出てしまった。

 しかし、まだチートステータスの道は残されている。それは、紫髪の少女が設定したステータスが当たりの可能性。これは大いにある。


 自分で決められないのは不本意だが、あらかじめステータスを決められる作品なんぞいくらでもある。

 その中に最強の主人公だって……

 

「こちらが、『マオ・ノクス』のステータスです」


 少女の言葉と共に、目の前のやたらでかい石盤に、文字が光り刻まれる。


――――――――――

Lv.#N/A


名前:マオ・ノクス

種族:魔人族


HP:#N/A

MP:#N/A


筋力(STR):#N/A

耐久(VIT):#N/A

敏捷(AGI):#N/A

器用(DEX):#N/A

知力(INT):#N/A

運(LUK):#N/A


スキル:異名コレクター

異名:

――――――――――


 目の前の石板に刻まれたステータスは、予測していたチートステータスとは別物というべきか、はたまた近いのか分からない距離感のものであった。


 ——ツッコミどころが多いがとりあえず一つづつ、ステータスを確認しよう。


 まず、名前は『マオ・ノクス』。

 元の名前が野久須 真央(やくす まお)だが、苗字をよくノクスと間違えられていたからなんら問題はない。

 おそらく、この女も同じように間違えたのだろう。

 

 そして、ツッコミ要素その1。

 種族が魔人族であること。

 異世界転生モノの主人公が魔人族でいいはずがない。

 しかも、勇者として散々倒してきたモンスターと同種は流石に気が引ける。


 そして、ツッコミ要素その2。

 スキルが『異名コレクター』であること。

 この、異名という言葉で真央はここが『デーモンズクエスト』ということを理解した。

 それぐらいに『デーモンズクエスト』たらしめる特殊な要素だからだ。


 おさらいをすると『異名』とはある条件を満たすと覚醒する第2のスキルのようなモノ。

 『異名コレクター』というぐらいだから、集めることができるのだろうが、そもそも異名持ち自体が稀であるため、スキルの汎用性は皆無。

 つまり、ハズレスキル。


 そして、最後のツッコミ要素。

 全ステータスが#N/A(エラー)であること。これがなんとも意味不明。

 カンストしてしまって表示ができないのか、マイナスだから表示ができないのかと言った具合で強いのか弱いのかすら分からない。

 もし、後者であれば確実にマオの異世界転生ライフは転生前と変わらない地獄と化す。——いや、転生前以上の地獄になるだろう。


 種族が魔族であること、スキルが『異名コレクター』と言う汎用性皆無のハズレスキルであること、全ステータスが意味不明の#N/Aであることからマオから吐き出た発言はこうであった。


「おい、どうなってんだよ! このステータス、無茶苦茶じゃねーか——」


ウゥゥゥゥーーン!

『侵入者、侵入者。警備の方はすぐに対処してください』


 突如、鳴り響くサイレン音。

 大きな声を出したからか、そもそも転生自体がまずかったのか分からない。


「し、侵入者!? どうなってんだ?」


「そ、そうだった! と、とりあえず時間がありません。早くあそこの魔法陣に乗って!」


「魔法陣……⁉︎」


 女性が指差す先には魔法陣。

 マオは女性の決死の表情からただ事ではないことを察し、指示通り約10m先の魔法陣まで走る。


 魔法陣に到着と同時に、少女の後方から数十ほどの影が見える。


「【理を越え、次元を越え、彼方の世界へ道を開け。空間よ裂け、道となれ——】」


 少女も迫り来る影を確認したのか焦った表情で魔法陣に向かい詠唱を始めた。

 後方に見えた影は、徐々に姿を確認できる距離まで迫っていた。


 金色に輝く羽根、大きさはマオの身長よりある。

 天国のような『狭間』に羽ばたく彼らを天使と名付けるのが的確だ。甲冑を身に纏い、その手は槍を握りしめている。その様から、侵入者を捕らえるべく来た戦闘系の天使であることはすぐ分かった。


 そして、マオは理解する。

 侵入者の正体が目の前にいる紫髪の女性であることを。


「【——マオ・ノクス、『ワールドシフト』】‼︎‼︎」


 少女が詠唱し終えると魔法陣は光り輝く。

 そして、次第につま先からの感覚がなくなっていった。

 少女の詠唱からたった今、魔法を体験していることを実感する。

 現実では味わえない自分の身体が消えていく感覚。


 そんな、新たな現実にマオの心臓はバクバクと鼓動を鳴らす。

 それが示すものは、恐怖ではなくワクワクであった。

 

 腰の感覚が無くなる頃にとうとう、天使たちが地面に着地する。


「おい、お前たち。何をしている。ここは『狭間』、神聖なる場所ぞ!」


 そう言い、一際分厚い金の甲冑を見に纏う団長と思われる天使の合図で部下たちは少女を取り囲むや否や少女の腕を掴み拘束する。


「おいやめろ!触んなっ!」


 少女はもがき抵抗する。

 しかし、首から下の感覚が無くなったマオはただ見ていることしかできなかった。


 抵抗虚しくとうとう、天使たちにより、地面に押さえつけられ身動きが取れなくなった少女。


 ——しかし、その目だけはまだ死んで無かった。


 まっすぐに狂気を孕んだ目。

 その目線はマオに向かっている。


「マオ! 今度こそ、勇者を……勇者を殺してくれ‼︎‼︎」


 確実にマオに投げつけた言葉だった。

 この一言でマオに起きた出来事が繋がる。

 『デーモンズクエスト』のエンドロールで流れてきた言葉。


——勇者を殺してくれますか?


 この言葉の正体は、目の前にいる女性だろう。

 なぜ、勇者をそこまで殺したいのか不明だがここまで危険を犯した大義が必ずあるはず。


 ——一体、勇者はこの女性に何をしたんだ?


 その問いが呪いのようにマオにこびりついたまま、とうとう身体の全ての感覚が無くなった。

 そうして、マオは呪いを孕んだまま、新たな世界へと旅立った。

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます。


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