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モブな私は自由なはず‥‥なのに私の周りはいつもずっと騒がしい  作者: おかき
第二章 花を咲かせられるモブ令嬢

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11話 エリアナの負傷とセドリックの怒り

色々あったなぁー。と、エリアナは昨日の事を思い出していた。


「リア?遅れますよ?」


朝食をぼーっとしながら食べているエリアナにセドリックが遅刻すると伝えた。


エリアナは急いで朝食を終えると、馬車に乗り込み学園へと向かう。

今日は魔術科にタチアナを含めた女性八人と、男性四人が騎士科からダンジョンに潜るためにやってくる。

騎士科でエリアナが指導している生徒達。


ヨリ先生にお願いをして、騎士科の先生に話をしてもらい魔術科の生徒とダンジョンに潜る許可を貰った。


エリアナは馬車から降りると、急いでC棟に向かう。

楽しみで仕方ない様子を隠すことのないエリアナを、セドリックは眺めながらエリアナの後を追う。


C棟に近付くと、女性達の甲高い声が聞こえる。

エリアナとセドリックが何事?と顔を出すと、そこにはタチアナを前にして騎士科の生徒達がいる。

タチアナが対峙する数人の令嬢達に見覚えはなかった。


「タチアナ?どうしたの?」


エリアナがタチアナに声をかけると、騎士科の生徒達も振り向いた。


「何でもないの。行きましょう」


タチアナは目の前の女性を無視してエリアナの手を掴むと、C棟に急いで向かおうとする。が、背後から女性に呼び止められた。


「タチアナ!待ちなさい。エリアナを連れて来いと言っているのよっ!」


タチアナはビクッと肩を跳ねさせ、エリアナはピタリと足を止めた。


タチアナはエリアナの袖を掴み、

「ごめんなさい!あの人は私の姉なのっ」


(例の姉ね……)


「私に用事があるのよね?タチアナのお姉様は」


タチアナは顔色を悪くしながらも、必死に首を振る。


「大丈夫よ。ちょっと相手をしてくるわ」


エリアナが振り向き叫んだ令嬢の目の前に立った。


「私がエリアナだけれど?」


冷たい視線を向けながらエリアナが名を告げる。

一瞬怯んだ女性はエリアナの容姿を値踏みするように眺めた。


「そ、そんなに容姿が良いわけじゃ……ないじゃないっ」


エリアナは朝からセドリックに髪を丁寧に結われ薄く化粧もしている。

建国祭に向け、身なりを整えることに慣れたほうがよいだろうと、セドリックが嬉々としてエリアナの身支度を整えたのだ。


とても可愛く、そして儚げな「妖精姫」を仕上げていた。

まるでエリアナの容姿を態と強調させるかのように。



そんなエリアナは目の前の女性を値踏みし返した。そして、タチアナの容姿を確認する。

そして態と小さく息を吐き、女性に丁寧に告げた。


「貴女の美の基準を責めるつもりはありませんが、私は貴女から下に見られる容姿だとは思いません。タチアナもです。貴女より綺麗だもの」


「なっ!」


「そうです。リアは学園一可愛く美しいのですから」


セドリックがエリアナの隣に立つと腰に手を回し、グッと引き寄せた。


「ダリア嬢。くだらない正義観とタチアナ嬢への嫌がらせをしに来られたようですが、今なら見なかった事にします」


セドリックがダリアにそう伝えるも、ダリアは引くつもりがなくセドリックに対して意を呈した。


「くだらないとは、どういう意味ですの?殿下の側近であるマチアス様とフェリクス様を誑かすような女性に忠告をして何が悪いのです!」


ダリアがエリアナを鋭く睨みつける。


ダリアの後ろには数人の令嬢がいて、うち二人な顔を俯かせ震えて泣いていた。


(もしかして、マチアスとフェリクスの元婚約者かしら?)


エリアナがセドリックを見上げると、大丈夫だと優しく微笑み頬を撫でた。



「リアが殿下や側近を誑かした……ですか。私という婚約者がいるのに、その様な事をする令嬢だと言いたいのですか?

そんな女性を婚約者に選んだと、公爵家の婚約に意を呈すと言うのですね。

そして、殿下も側近も一人の令嬢に謙遜し、他者を貶める愚か者だと。そう言うのですね。この事は公爵家にも王家にも、そのままダリア嬢や後ろの令嬢達の意見として進言しておきます」


「ちがっ!」


ダリアや後に立つ令嬢達は顔を青褪めさせ否定しようとする。


「そうそう。残る側近二人の婚約者は騒動の中、こう伝えたそうですよ」


「アーノルド殿下の側近として励み信頼する婚約者を支えたいと。殿下と婚約者が信頼するエリアナに会って自分の目で確かめたい。信頼出来る相手ならば婚約者と共に支えると。

貴方がたはリアの何を知っていますか?噂でしか人を知らずに決めつけ、判断する事が恐ろしい事だと、なぜ気が付かない。

その愚かな考えが自分達の家門の存続すら危うくしていると、なぜ気がつけない」


(セドの言葉は正論だけれど、彼女達の心に響くかは分からない……)


「建国祭の日に、エリアナは王家から呼び出しを受けている。その日に全てが明らかになる」


セドリックはもう用はないと、エリアナや騎士科の生徒を連れて棟の中に入って行った。


「王家に呼び出しを受けているって言葉は、態と使ったわね」


エリアナが小声でセドリックに確認すると、しれっとした顔で肯定された。


「きちんと私の話を理解出来ていれば、何も起こらないはずです。貴族として、責任ある者としての行いが出来るのか、出来ないのか。ただ、それだけです」


(あの人達にセドリックは忠告していた。今のままでは家族にまで迷惑がかかると。ダリア様が気が付いてくれたら良いけど……)


セドリックと教室の前で別れ、エリアナは一学年の教室にタチアナ達を連れて入る。魔術科の生徒は騎士科の生徒達を歓迎してくれた。

エリアナとの繋がりで、敵対し合うばかりの他の科と交流を行う事が出来る。

それはとても珍しい光景であった。


「エリアナ君が他の科を繋いでいるね」


ヨリ先生は生徒達を見て満足そうに笑顔を見せた。


グランのパーティはダンジョン踏破しているので、補助として一人ずつ騎士科のパーティについて行く。

明日から潜る事になり、騎士科の生徒にダンジョンに潜るのに必要な物を教えたり、魔術科の生徒が騎士科の生徒に色々と教えていた。


「騎士科は権力闘争は大丈夫なの?」


ケイシーがタチアナに問いかけた。


「騎士科は全く関係ないわよ。剣にしか興味がないから」


タチアナはあっけらかんとした声で答えた。


「結局は自分の実力でしか騎士は立場を作れないでしょう?権力も多少は大事だけれど、剣の腕がなければ騎士は生き残れないから」


騎士科の女性の言葉に、魔術科の生徒も同じだと伝える。

魔術か剣かの違いだけで、考える事は同じ。


騎士科の十二名と魔術科の生徒達は仲良くなり、切磋琢磨する事になる。




建国祭まで後三日となったある日の学園。


いつものようにC棟に入る為にエリアナが石板に魔力を流そうとした時に、何となく違和感を感じた。

エリアナが違和感に気が付いた時には既に遅く魔力を流していた。


バチバチ!!


と、エリアナの体に雷が落ちてきた。

セドリックが急いで倒れるエリアナを抱きとめた。


「リアっ!リアーっ!」


セドリックの悲痛な叫びが学園に響き渡る。魔術科の生徒が急いで教師を呼びに向かい学園は騒然となった。

C棟からは一階の魔法科の生徒達も出てきた。


エリアナはあちこちに火傷を負っていて、意識がない様子。

セドリックは人目を気にする事なく、治癒魔法をかけた。

セドリックの体が金色に輝き、魔力を開放する。

抱きしめるエリアナを金色の魔力が包み込むと、エリアナの体の傷が癒された。


集まった生徒も、教師達もセドリックの魔力に呆然となる。


魔法科のグィード先生が呆然としながらポツリと呟いた。


「聖人…様……」


グィード先生の言葉を耳にした先生や生徒達は大騒ぎになる。

聖人様が学園にいた。しかも、四大公爵家であるハーマン公爵子息のセドリック。


騒ぐ周囲を無視して、セドリックはエリアナを抱き上げその場を離れようと歩き始めた。

アーネットとケイシーとメレニーは走ってセドリックの後について行く。


「セドリック君!待つんだ!」


グィード先生がセドリックを呼び止めると、セドリックは歩みを止めゆっくりと振り返った。


「誰かが石板に魔法を仕込んだ。魔術ではない。魔法だ。グィード先生?貴方は魔法科の教師ですよね?きちんと調べ上げてハーマン公爵家に報告してもらいます」 


セドリックは周囲に宣言した。


「私の婚約者であるエリアナを狙い傷付けた。絶対に許しはしない。

私は大会でハーマン公爵家の名に誓ってエリアナの悪い噂は事実無根だと宣言したはずです。

エリアナが反論しない事を都合良く使い、散々な悪評を流したな。

エリアナは四大公爵家の夫人と王妃様のお気に入りだ。エリアナに害をなした者がいかなる処罰になるのか、楽しみだよ」


冷たい視線で周囲にそう言い放った。


セドリックが去った後も誰も動けずにいる。


「俺達ってどうなる?エリアナ嬢の事を色々言ってたよな……」


一人の生徒の言葉に、顔色を悪くする者は大勢いた。

四大公爵家と王妃様の名がセドリックから出た。簡単に口にして良い方達ではない……。

不安になる生徒達も震える体ではこの場を離れる事すら出来ない。


グィードは学園長に報告するために生徒達を教室に戻そうと視線を向けた。


人集りの中に顔色を酷く悪くし、誰よりも震える生徒を見付けた。


(以前からエリアナ嬢を敵視していたな)


魔法科の女子生徒は大会の時にエリアナに絡んだ生徒だった。


女子生徒はグィードと視線が合うと、その場から逃走しようと走り出した。


グィードが逃がすはずもなく、逃げ出した女子生徒四人を魔法で引き摺り戻した。


「なぜ逃げるのです?疚しい事でもありましたか?ああ、君はエリアナ君に大会で黒竜に威嚇され謹慎を受けていたな……」


グィードの言葉に四人の女子生徒はビクッと体を跳ね上げガタガタ震え始めた。


「学園長の前で話してもらおうか」


女子生徒を魔法で縛りあげ、グィードは石板の前に立った。

魔法で魔力を感知すると、やはりあの生徒達の魔力の残滓があった。


「C棟は封鎖する。魔術科の生徒はこの場に待機を。棟の中にいる外国科の教室にはヨリ先生から連絡を。C棟の出入り口は封鎖するため、魔術科のダンジョンの街から出てもらいます。魔法師団を迎えに行かせるまでダンジョンの街にて待機を伝えてください」


グィードがその場にいたヨリ先生に指示を出した。


「魔法科の生徒は全員講堂に移動してもらう」


野次馬で出てきた魔法科の生徒を講堂に移動させ、集まった他の科の生徒も戻るように促す。


「やばいよなー。絶対にやばい気がする」


グィードはエリアナの秘密を知らない。

隊長としての勘なのか、とんでもない事になる気がしてならなかった。


グィードは足取り重く、学園長の部屋へと向かった。




セドリックはエリアナを抱きかかえたまま、学園の馬車を使いハーマン公爵家へと急がせた。

馬車にはアーネットとケイシーにメレニーも同乗していた。


治癒魔法を使い傷は治癒したのに、エリアナは目覚めない。

セドリックは泣きそうな表情を浮かべ、ずっとエリアナの髪や頬を撫でている。


アーネット達はそんなセドリックを見ていると、悔しくて泣きそうになる。


「なんで……なんでエリアナがこんな目に合うのよ。理不尽過ぎる……」


メレニーは我慢出来ずにポロポロと涙を流す。


アーネットとケイシーは口を開くと泣いてしまうと、唇を噛み締め泣くのを堪らえてる。



ハーマン公爵家では突然の学園の馬車が来た事に、使用人達が慌てて迎えに出た。


セドリックがエリアナを抱えて降りたのだが、魔力が荒れているのか声をかける事も出来ず目の前を通り過ぎるセドリックを見ている事しか出来なかった。


アーネット達は邸の玄関まで付いてきたが、奥に入る事はなかった。

使用人達は気を取り戻し、アーネット達を応接室に案内した。



セリーヌ夫人の部屋に執事が急ぎ知らせにきた。


「奥様!坊ちゃんとエリアナ様が来られましたが、エリアナ様は気を失われているようです。エリアナ様のお部屋に坊っ……奥様っ!」


執事の説明の途中であったが、セリーヌは立ち上がると公爵家に用意してあるエリアナの部屋に急いだ

後ろからは執事と侍女も急いでセリーヌを追いかける。


エリアナの部屋を開けると、セドリックがベッドの側に膝を突き眠るエリアナの髪を撫でていた。


「何があったのです」


セドリックが声をかけたが、セドリックは急いで立ち上がりテラスの窓を全開にした。


「母上、扉の前まで下ってください。早くっ」


セリーヌはセドリックに言われるまま扉の前まで下った。


すると、遠くに真っ黒い塊が近付いてくるのが見えた。


その塊は真黒い靄に覆われたまま、テラスの窓から飛び込んできた。


部屋に入って来た塊は、エリアナのベッドへと飛んでいった。


エリアナの胸の上でふわふわと浮かんでいる。


「傷は癒やしましたが、目覚めません」


セドリックが塊に声をかけると、靄が霧散した。


現れたのは、ラビを抱えた黒竜だった。

エリアナが攻撃を受けた事を察知し、怒りで魔力を纏っていたのだ。

ラビは邸から出さず、ずっと押さえ込んでいたがエリアナが公爵家に到着したのをラビが感知し黒竜を開放したのだ。


【誰がエリアナをこんな目に合わせたか我にはわかる。エリアナから別の魔力を感じる】


黒竜はエリアナと繋がっているからか、魔法を仕掛けた者の魔力をも感じていた。


「学園で調べてもらい、公爵家に報告に来るように伝えてあります。黒竜の報復したい気持ちは理解出来ます。私も今すぐ痛めつけたい気持ちですから」


エリアナを守れなかった悔しさが魔力から滲み出ていた。


「エリアナが目覚めないのは、なぜでしょうか」


セドリックはラビに問いかけた。

ラビはエリアナの側に寄ると神力でエリアナを包んだ。


『疲労もあるね。でも、精神的な傷が大きいのかもしれない。ちゃんと目覚めるから安心して』


ラビの言葉にセドリックは安堵の息を吐いた。



セリーヌは黒竜と神様との会話で、学園でエリアナが何かしらの被害を受けたと察した。


「セドリック、説明を」


セリーヌの怒りの冷めた表情に、ラビと黒竜もビクッとなった。


「説明はしますが、学園から報告があるまで動かないと約束して下さい」


セドリックはセリーヌが公爵家の力を使い、相手に報復するであろう事を予測していた。


「それと父上に急ぎ邸に戻るように伝えてください。エリアナの傷を癒すために治癒魔法を学園で使いましたから」


セドリックの報告にセリーヌの顔色がサッと悪くなる。


執事に指示を出し、王家に書面を送る準備をさせる。


怒涛の報復劇と神殿を巻き込んだ権力闘争が、エリアナが眠り知らないうちに始まってしまった。


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