8話 虹色の花
セドリックはアルバート殿下からの言付けを学園の馬車乗り場で伝えられた。
エリアナは馬車に先に乗り待ってもらう。
「今日は予定があるので、終わり次第リアに話してみます」
マチアスにそう伝えると、馬車に乗り子爵家へと帰って行った。
エリアナは何の用事か聞きたかったけれど、セドリックが話さないのなら聞かない方が良いかな?と、忘れる事にした。
久し振りに会うアーネットとケイシーとの時間を優先させたかったから。
エリアナが料理を作り、アーネットとケイシーをもてなした。勿論、ラビと黒竜も一緒に料理を堪能する。
学園の話は一切しない。
街で流行りの本や小物のお店の話で盛り上がる。
寮の門限もあるので、アーネット達を馬車で送り届けるように使用人にお願いした。
「セド、私に話したいことがあるのでしょう?時々私の様子を確認するように、チラチラ見てるんだもの」
セドリックは苦笑いをし、エリアナをソファーに座らせると隣に自身も腰を下ろした。
「アーノルド殿下からと、マチアス殿からある話を聞かされました。リアに伝えて、リアがどうしたいかを聞いて欲しいと」
セドリックは貴族科で起きた事を順を追って教えてくれた。
「エイミー様はヒロインに、イザベル様は悪役令嬢として位置付けられたのね……。恋ダンじゃないじゃない。ダンジョン関係ないし……」
エリアナは溜め息を吐くと、頭を抱えた。
「イザベル様はエイミー様に嵌められたわけね。でも、イザベル様は誰かの生存を聞きたいのよね?誰の事を知りたいのか、教えてもらえないの?」
「イザベル嬢は黙っていたそうです」
「私はイザベル様に辛い学園生活を過ごして欲しくはないから、アーノルド殿下が支えて欲しいかな。それにしても、エイミー様はあっちこっちと花を飛び回る蝶のようね」
エリアナはエイミーの行動が好きになれない。
(人を好きになるのは自由だけれど、あっちこっち飛び回るのは……嫌かな)
「リアの秘密の公表は、二週間後の建国祭となります」
「二週間後か……私が転生者だと公表すれば、絶対にエイミー様が絡んで来るわね。イザベル様をその日からなら庇う事は出来るけれど、今は接触すればエイミー様に逆手に取られそう。今は何をしてもエイミー様の後押しになりそうだから、静観してもらう方が良いかな」
話し合った結果、イザベルをアーノルド殿下が建国祭まで守って欲しいと伝えた。
キャシーとダリルの学園編入の日は、明後日からになる。
目覚めたキャシーは何やら一人動いていたらしいが、セドリックは教えてくれないしキャシーもあれから連絡が取れずにいる。
「キャシー様もイザベル様も心配だわ」
「来週にはキャシー嬢には会えますので、それまでの我慢ですから」
エリアナはキャシーの様子をセドリックだけ知るのが不服なようで、頬を膨らませ睨みつけた。
「可愛い顔に変わりありませんから、睨むだけ無駄ですよ」
暫く二人は甘い時間を過ごすけれど、エリアナは明日からの学園に不安を抱く。
(明日からはきっと、イザベル様の立場は辛いものになりそうね……)
翌日からの学園は、エリアナが想像していた展開になって行った。
貴族科ではイザベルへの不躾な視線と囁かれる誹謗中傷の噂で、公爵令嬢としての高貴な立場を失っていた。
シーベル殿下の隣に立つエイミーは、イザベルから隠れるように立ち静かに過ごしていた。
シーベル殿下が守る形になるように、態と一歩後ろに立つ。
アーノルド殿下はイザベルの席の隣に座り、イザベルを周りからの視線から隠している。
「申し訳ありません。殿下……」
イザベルは小さな声で謝罪を口にした。
「大丈夫だ。イザベルは悪くない事は私が知っている。ただ、相手が竜人国の王子なのが厄介だけれど、きっと建国祭の日からはこの状況が変わるから、暫くは我慢してくれ」
イザベルとアーノルド殿下がヒソヒソ話す姿を、エイミーは忌々しそうに睨んでいた。
(さっき教えて貰ったわ。明日はシーベル殿下との婚約が発表されるのよ。ダンジョン攻略は頼んだ生徒は順調のようだし。セドリックも手に入れてやるわ。
ヒロインは私。モブも悪役令嬢も、お呼びじゃないのよねー)
明日の事を考え、エイミーはご機嫌で過ごしていた。
「シーベル殿下、昼食は別にした方がよいだろう。特別室はシーベル殿下が使って下さい。私達は別にとりますので」
アーノルド殿下がイザベルの手を引き、シーベル殿下へ伝えた。
「そうですね。別の方がエイミー嬢が安心するでしょうし」
シーベル殿下はイザベルへとチラリと視線を向けるも、下を向き覇気のないイザベルに興味がないのかエイミーへと甘い視線を向けた。
その様子を見た生徒達は、エイミーを守るためにイザベルへ牽制する視線を向けたと、シーベル殿下をヒーロー扱いだ。
アーノルド殿下はイザベルを連れ、生徒会室で王宮から持参したお弁当を側近と一緒にとったのだった。
日に日に貴族科でのイザベルに対する嫌がらせが増えていく。
アーノルド殿下が離れてしまう時間は、エイミーも一緒になり嫌がらせが始まる。
シーベル殿下とエイミー嬢の婚約が発表されてからは、酷くなる一方だ。
王道過ぎて、話を聞いたエリアナは呆れ返ってしまう。
ただ、気丈にも折れる事なく学園に通い続けるイザベルの事を少しだけ見直したのだ。
魔術科のダンジョン攻略は順調で、学園で最初に踏破した生徒が現れた。
グランの組むパーティが一番乗りをした。
ダンジョン踏破の知らせは学園中を駆け巡った。
なぜなら、ダンジョン攻略の難易度が上がったはずなのに、学園創立以来の最短での踏破。
しかも、魔法科や騎士科ではなく魔術科だったのもある。
ヨリ先生からグランは熱い抱擁を受け、一学年の魔術科は大賑わいとなった。
「ヨリ先生!これ、どうしたら良いのかな?」
グランがヨリ先生に差し出したのは
「虹色の花」だった。
(そうだ!アイテムが揃って虹色の花になるけれど、虹色の花を使って願いを叶える事は神様が書き換えてくれたのよね……。虹色の花、貰えないかなー。お薬作るのにあると役立つのよねー)
と、エリアナがグランが持つ虹色の花をじーっと見つめていた。
「リアは花が必要なのですか?お薬に使いたいのでしょう?」
背後から耳元でセドリックに、囁かれた。
ビクッと体が跳ね、エリアナが驚いて振り向くとセドリックがいた。
「二学年、三学年を抑えての踏破です。様子を見に来たのですよ」
教室には、いつの間にか上級生がいた。
「お薬に使いたいけど、今は私の立ち場では欲しいって言えないでしょう?」
「エリアナの商会はハーマン公爵家の名を出していますからね」
シュンと落ち込むエリアナを見て、セドリックの腹黒が行動に出た。
「その花は薬になるらしいが、ある人物しかそれを扱えない。ハーマン公爵家の商会が買い取り薬を作れる人物に渡したいが、売って貰えるだろうか」
「え?マジ?幾ら?」
虹色の花を持ったまま、グランがセドリックに詰め寄る。
「おい!グラン!公爵令息に失礼だぞ!」
周りの生徒がグランを抑え、セドリックへの失礼な態度を指摘した。
「うぁぁー!申し訳ありません!タチアナに贈り物が買えると、興奮し過ぎてしまいましたっ!」
グランは叫びながら、ガバっと頭を下げた。
セドリックはキョトンとしたが、直ぐに笑い声をあげた。
「買い取りは商会で交渉となるが、今日は時間はあるかい?」
「はい!行かせて頂きます!」
グランは「やったぜー!」と、大はしゃぎ。
「とりあえず、特級ポーションを作る材料として値段を考えようかと。リアも一緒に考えて下さいね。いずれ商会はリアが直接運営するのですからね」
エリアナは特級ポーションの材料の値段を全く知らない。
鑑定に値段でも出れば楽なのに。と、神様が特典をつけてくれなかった事に少しだけ不満を思った。
「ダンジョン攻略して虹色の花をそのまま持って帰って来たら、エイミー様にバレないかしら?
ダンジョン攻略の報酬としてお願い事と虹色の花の交換が成立して花が消えるはずだから、エイミー様はきっと虹色の花をダンジョンの外に出したら気が付きそう……」
エリアナは神様にお願いして物語を改編していた。大丈夫なのか気になってしまう。
「ダンジョンの難易度の変化により変わったとか?エルランドさんに話をして、冒険者ギルドが正式に公表してもらおう。虹色の花も買い取る契約も公表してもらう」
「グラン!とりあえず、学園長に報告に行くぞ」
ヨリ先生がグラン達を連れて教室を出ようとすると、セドリックが追いかけヨリ先生に何やら伝えていた。
セドリックは振り返るとエリアナに手を振り、ヨリ先生達と出て行った。
「それにしても、グランは凄いわね!」
誰かが口にすると、ダンジョン攻略の最短記録を出したグランの話で盛り上がった。
「婚約者のタチアナ様を守るために強くなるって言ってたもの。タチアナ様を早くあの家から出したかったんでしょうね」
女子生徒が涙声で話をする。
「騎士科のタチアナ様よね?何かあるの?」
エリアナはグランとタチアナが婚約者なのは知っている。
でも、経緯を聞いた事はなかった。
タチアナの生家は子爵家。
ソレはエリアナも知っている。同じ子爵家でタチアナの両親も見たことがある。
タチアナには二つ上、三学年の領地経営科に姉のダリアがいる。
ダリアは赤毛に金の瞳の美しい女性で、誰もが憧れる女性だそうだ。
知る人は知っている。
ダリアの二面性を。
高位貴族の令嬢令息には淑女然りな対応をするが、それ以外はゴミを扱う対応らしい。
クラスメイト達の苦い顔を見て、後者の経験があるだろうと理解した。
「タチアナも美人なのよ?賢いし、性格良いし。姉よりよっぽど良い女性なの。なのに、タチアナの両親はダリア様ばかりを可愛がりタチアナを放置。学園だって、グランとタチアナが二人で冒険者として稼いだお金で通ってるのよ?ありえないわよ。しかも、タチアナは魔力も多いのに……」
騎士科でのタチアナを思い出しても、家族から不遇の扱いを受けている感じはしない。
きっとグランがいるから幸せで、そう見えないのだと思ってしまう。
タチアナは女性騎士としてかなりの腕を持っている。
(騎士科はダンジョン攻略しないのよね。グランは踏破したから暇になる。なら、タチアナ様と潜らせてみる?私が指導している騎士科の生徒も一緒に潜らせてみるのも面白いかも。経験にもなるし?)
エリアナは頭の中で色々考えていると、不適な笑みをしていたらしく生徒達はドン引きしていた。
(グランは記録を作ったから名が上がるわね。早く行動に移した方が良いかもしれない)
エリアナはグランが戻ってきたら話をしてみる事にした。
魔術科の生徒はBエリアを既に攻略している。もう直ぐ最下層に辿り着く。
魔術科全員を攻略させるべく、エリアナは目の前の生徒達に討伐に関わる知識を教え始めた。
貴族科にも魔術科の一学年が最短記録でダンジョン踏破した話がもたらされた。
「マジで凄いよな!」
「魔術科の最近の活躍は目立つし」
と、一部の生徒達が盛り上がり始めたのだが。
「魔術科はエイミー様を追い出したのよ?そんな魔術科を褒めるなんて、貴方はどういうつもり?」
一人の生徒が口々に魔術科を褒めた生徒を非難し始めた。
側近であるマチアスが動こうとするも、アーノルド殿下が手で制した。
マチアスは渋々従うが、納得出来ていない。
「建国祭まで我慢してくれ。今動くのは良くない。建国祭まで何も教えられない事は申し訳ないが、頼む!」
マチアスはアーノルド殿下から謝罪され、驚いていた。
「私は殿下の側近です。殿下の意に背く事は致しません。殿下が話せないのなら聞くつもりもありません。ただ殿下のなさる事を信じ間違えていると思えば、お伝えするだけです」
マチアスがアーノルド殿下に率直な気持ちを伝えた。
「マチアス、ありがとう。いつか全てを必ず話すよ」
アーノルド殿下とマチアスの会話をイザベルは隣で聞いていた。
(殿下は変わられた。統治者として立派になっている。パトリックやエアハルトとは違い、殿下を信じ守るマチアス様。
以前とは全てが違うのよね……)
イザベルはアーノルド殿下の側で過ごす事で、何かしらの変化を感じていた。
イザベルの変化が自分の運命を変える事が出来るのかは……これからのイザベル次第である。




