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モブな私は自由なはず‥‥なのに私の周りはいつもずっと騒がしい  作者: おかき
第二章 花を咲かせられるモブ令嬢

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7話 イザベルの心の乱れ

イザベルは貴族科の教室の扉の前に立っていた。

以前、謹慎を受け復帰した時と同じ。



あの時はまだイザベルは全てにおいて優位な立ち位置にいると思い違いをしていた。

王宮から派遣された教師陣から教育もきちんと受け、貴族とは四大公爵とは何かを学んだ。

でもそれは、知識を得ただけで身に沁みてはいなかった。


学園に復帰した後、日を追うごとに身に沁み込んでいった。


(怖い……)


イザベルは瞼をギュッと瞑り、楽しかった日々を思い出す。

箱推しが存在する異世界に転生したと解り、どれだけ嬉しかったか。

王太子殿下に側近達。

前世の自分が大好きだった推し達と過ごす事が、一番の幸せだった。


ヒロインのエイミーが街で接触して来た時には驚いたけれど、同じ転生者で日本人。

日本の話をする事が出来た事も嬉しかった。

友達になりたいと思った頃もあったが、ヒロインと悪役令嬢が仲良くなるのはストーリーを改編すると思い、線を引いた。



(線を引いて気が付いたのは、エイミーは性格が良くなかった事ね。昨日、ようやく本当に気が付いた。学園に入る前にヒロインと出会い一緒に過ごしていた時点で、物語は改変されていたのだと……。

エリアナは関係なかった?ただ、モブに転生しただけの人だったの?

でも、エリアナがセドリックを奪った事に変わりはない……)


扉の前でずっと考えていると教室から生徒の笑い声が聞こえ、イザベルは現実に戻された。

イザベルは震える手で扉を開けた。


生徒の視線がイザベルへと集まる。強い批判の意思を視線にのせていた。

イザベルはお腹に力を入れ背筋を伸ばしすと、ゆっくりと窓側の席へと進んだ。


歩くにつれてヒソヒソと話す声が聞こえる。


「エイミー様が慕っているシーベル殿下を奪おうとしたらしいわ」


「エイミー嬢はずっと悩んでいたらしいぞ。公爵令嬢だからと良い気になっているからだろ」


「同じ転生者なのに、想い人を奪おうとするなんて。最低よね」


耳に届く言葉を今すぐに否定したい。

今までのイザベルならば、ヒステリックに公爵家の名を出し相手を見下してきただろう。


今のイザベルは反論しない。

高位貴族教育により、揉め事を起こさず声を荒げる事を避けたのだ。


反論するのでは?また威張り散らすのだと、そう思っていた生徒達はイザベルが静かに席に着いた事に驚いていた。


生徒達がイザベルの様子を伺っていると、アーノルド殿下とシーベル殿下にエイミーが教室に入ってきた。後ろには側近のマチアスもいる。


エイミーはイザベルが一人寂しく席に着いいるのを目にし、ヒロインと悪役令嬢の立場が確立したと確信した。


アーノルド殿下は教室の異様な空気に気が付き、マチアスに声をかけた。


「昨日、中庭でエイミー嬢とイザベル様が争われたらしく」


と、報告を受けた。


(だからイザベルへ厳しい視線を向ける者がいるのか……)


「シーベル殿下、私は私用が出来てしまいました。エイミー嬢が側にいますので教室で不都合がある事もないでしょう。少し離れる事をお詫びします」


アーノルド殿下はそう告げると、一人席に座るイザベルの側に近寄った。


「アーノルド殿下!イザベル様に何の用事があるのですか?イザベル様は私に酷いことをしたのですよ?」


アーノルドは振り返りエイミーへと告げる。


「ならば、私が詫びよう。イザベルがエイミー嬢にした事を申し訳なく思う。イザベルを許さないのら、私を許さなくとも良い」


「なんで……」


小さなエイミーの呟きを無視し、イザベルへと体を向けた。

アーノルドの視線の先には驚愕な表情で驚くイザベルが視界に入った。


アーノルド殿下が近付くと、イザベルの瞳から涙が落ちた。

イザベルは自身が涙を流した事に気が付いておらず、ただアーノルド殿下を見つめた。


「イザベル、少し話そう」


イザベルに手を差し出すがイザベルは首を振り、膝上に置いた手をギュッと握りしめた。


「行こう」


アーノルドはイザベルの手を強引に引き、席から立ち上がらせ教室から出て行った。


残された生徒達は、何故イザベルを連れて行くのか非難めいた会話が飛び交った。


エイミーは被害者。イザベルは加害者。

そう決めつける生徒に側近であるマチアスが口を開いた。


「殿下はイザベル様の婚約者です。婚約者から直接話を聞くのに、何か理由が必要ですか?」


マチアスが教室を見渡しこれまでの事実を口にする。


「以前、エイミー嬢がアーノルド殿下の側にいた時、イザベル様はエイミー嬢に何も非難する言葉も行動もなさりませんでした。どれだけエイミー嬢がアーノルド殿下の体に触れようと、イザベル様を置き去りにし二人きりでデートしようとです。

私達から見てみれば、エイミー嬢が今回イザベル様にされた事は自身がイザベル様になさっていた事と変わりませんよ?」


マチアスは話を終えると、アーノルド殿下を追い教室を後にした。


「でも、なあ……」


以前のエイミーの行動を思い起こすと、そうではある。

生徒達もエイミーの行動のちぐはぐさに気が付き始めた。


「イザベル様はアーノルド殿下を好きじゃなかったもの。でも私は違うっ」


(イザベルが箱推しだからなんて、説明出来ないじゃない!もう!せっかくアーノルド殿下もシーベル殿下も側に置いて楽しい毎日だったのに……イザベルのせいでっ)


イザベルを思い出し、忌々しそうな表情になるエイミーを見て、何を勘違いしたのか生徒達はエイミーは反省し今はシーベル殿下一筋なのだろう。

シーベル殿下を盗られたくない程に心を寄せ苦しんでいる。

そう言い始めた。


(あれ?勝手に勘違いしているけど、これはもしかしてヒロインの強制力なのでは?)


エイミーはヒロイン強制力を手に入れたと信じ、シーベル殿下へと声をかけた。


「以前は憧れた王子様だから一緒にいれる事が夢みたいでした。女の子が王子様に憧れるのは誰にでもあるでしょう?でも、シーベル殿下は違うと気が付いたの」


上目遣いでシーベル殿下を見上げるエイミーは、物語のヒロインとしては十分魅了的であった。


シーベル殿下は満足そうに微笑むとエイミーをエスコートし、席に座らせた。

女子生徒達は大切にされるエイミーを憧れの眼差しで見つめ、シーベル殿下へは過去に誤った行動をしてしまったエイミーを黙って許す器の大きさに、王子として尊敬の視線を向けた。


貴族科は、シーベル殿下とエイミーを応援する者の集まりとなってしまった。


(ヒロインはやはりヒロインなのよ)


エイミーは多幸感に浸りながら、そう信じた。





アーノルド殿下に手を引かれたまま、イザベルはただ歩いていた。


B棟を出て、A棟の三階にある生徒会室へと向かっていた。


生徒会室に着くとイザベルをソファーに座らせ、アーノルド殿下自らお茶を淹れた。


イザベルの前に紅茶が出され、イザベルの意識がようやく目の前のアーノルド殿下へと向いた。

目の前にアーノルド殿下が淹れた紅茶に気が付き、慌てて謝罪をした。


「いつも自分で淹れるし、生徒会の皆にも淹れるから大丈夫だ。それより紅茶を飲んでくれ」


アーノルド殿下は紅茶を口にし、「上手く淹れれたな」と、満足だったのか、イザベルにも飲むように促した。


イザベルが紅茶に口をつけると、花の香りが広がる紅茶だった。


「美味しい……」


イザベルはもう一度紅茶を口にした。

落ち着いた様子を見せたイザベルに、アーノルド殿下から声をかける。


「それでイザベル、何があったんだ?エイミー嬢と揉めたと聞いた」


イザベルは黙ったまま俯き何も話そうとしない。アーノルド殿下はイザベルから話すのを待った。


(何から説明すれば良いのか解らない。

何を伝えれば良いのか。

私は悪役令嬢でエイミーはヒロインだと、話しても信用してもらえるとは思わない……)


暫く沈黙が広がるなか、イザベルがようやく口を開いた。


「エイミー様と揉めた事は事実ですが、シーベル殿下に恋慕した訳ではありません。ある方の事を知りたくてシーベル殿下に尋ねたかったのです。ですので、エイミー様にも近くにいてもらった上で会わせてもらえないか、お願いしたのですが……」


イザベルは眉を下げ困った表情のまま話を続けた。


「二人きりで会うのは良くないと思い、中庭で人目がつく場所なら大丈夫だと思ったのですが、シーベル殿下に恋慕していると勘違いされまして……」


「そうか……。恋愛しか頭にないからなエイミー嬢は。で、尋ねたかった相手とは?」


アーノルド殿下の問に、イザベルは口籠る。


「今は言えません。ですが、疚しい気持ちがある訳ではありません。生きておられるのか。それだけ知りたかったのです」


真っ直ぐな瞳の奥には嘘は見られない。

イザベルの話は真実だと、アーノルド殿下はそう判断した。


「イザベル、この世界は物語と同じ世界かもしれない。でも、私もイザベルも悩み考え失敗を繰り返しながら生きている。物語は表面の一部しか語られない。それは、私達ではないからだ。作者の操り人形だ。名前だけの本の中の人形と、生きている私達は同じではない」


イザベルは固まったまま目を見開きアーノルド殿下を見つめていた。

アーノルド殿下はイザベルから視線を逸らさず、しっかりと目を合わせる。


「なぜそれを……」


「王族だから。としか今は言えないが、知っている。エイミー嬢がヒロインで、君が悪役令嬢の立場である事を」


イザベルはポロポロと涙を流した。

アーノルド殿下はイザベルが悪役令嬢だと知ってもなお、こうして話を聞いてくれる。エイミーを優先せず、イザベルを連れ出し一番に話を聞いてくれた……。


「イザベルは箱推し?とやらなんだろう?そう聞いた時に納得したよ。イザベルは私や側近達が離れるのをとても嫌っていたから。だから、離れたセドリックに執着した。原因となったエリアナ嬢を排除しようとしたのだろう?」


「な、なぜっ……エイミーですか?」


箱推しまで知られていたイザベルは、顔を真っ青にしていた。


「エイミー嬢から聞いたのではない。いずれイザベルにもわかる。情報源は今は言えない。それでだ、肝心な話を避けていたがこの機会にイザベルに伝えねばならない事を話す」


アーノルド殿下の表情が王族の表情へと変わった。

イザベルはこの先に告げられる言葉を理解した。


「イザベル・アーカート公爵令嬢。

貴女とは婚約解消となる。だが、学園を卒業するまでは婚約者の立場でいてもらう。

婚約を解消すれば理不尽ではあるが、女性に瑕疵がついてしまう。円満な解消としてもだ。そうなると、学園でのイザベルの立場がなくなる。それに、私との婚約が解消されれば、イザベルをエイミー嬢からも守れなくなる。それを避けたい。

イザベルが卒業までに嫁ぎたいと思える人を探して欲しい。もし、結婚をせず公爵家に残りたいのであれば私が力になる。イザベルの意見もちゃんと汲むから、気持ちを話してくれないか」


アーノルド殿下はイザベルに二人の婚約について話を告げた。

アーノルド殿下との婚約はいずれ無くなる。 貴族科にヴェラニーが担任として現れた事で予測は出来ていた。

それに、謹慎中の学びの中で自分が王太子妃、ましてや王妃は務まらないと自覚もあった。


イザベルはそのままの気持ちをアーノルド殿下に伝えた。


「前世、私は恋をした相手は本の男性ばかり。現実から逃げ想像の中で生きていました。大好きだったアーノルド殿下達の側にいて、毎日が楽しかったのです。推しが生きて目の前で声を聞ける。毎日が幸せでした」


ですが……。


「セドリック様がエリアナ様と婚約されてから、私の幸せは崩壊しました。セドリック様が離れ、夜会で恥をかき、推しに会う事が出来なかった。入学式では謹慎を言い渡され、教育の毎日に嫌気がさしたこともあります。謹慎が開け、教室に入るまで……いえ、ヴェラニー先生を見るまで全てがエリアナ様のせいだと思っていました」


イザベルはアーノルド殿下を真っ直ぐ見てはっきりと言葉を伝える。


「全ての責任は自分にあったのだと。転生者だからと好き放題をし、物語の中だから何をしても良いと思い違いをしていた自分に非があるのです」


目の前のイザベルはアーノルド殿下の知る愚かな転生者ではなかった。


アーノルド殿下の心の中は安堵する思いでいっぱいだった。

次に伝える言葉をイザベルが勘違いせずに正しく理解してくれると、信じれるから。


「イザベルの今までの行ないは、王族の婚約者としても、民達が信奉する転生者としても相応しいとは言えない。行いを改める機会は幾度もあった。皆がイザベルが改心出来るように尽力してくれた。それは理解しているかい?」


アーノルド殿下の言葉に、イザベルは頷いた。


「私もイザベルの両親である公爵も、貴女への処罰をどうするか考えていた。公爵も決して愛情がないわけではない。貴族である以上、イザベルを庇うのにも限界があったのだ」


処罰……。

その言葉にイザベルは制服のスカートをきつく握りしめた。喉が渇き口の中はカラカラのイザベルだが、自業自得だと覚悟を決めアーノルド殿下の次の言葉を待った。


「そんな中、イザベルの処罰に反対する人がいたんだ。確かにイザベルの行いは良くない。でも、イザベルを救いたいと、そう言ってくれた人がいるんだ。

私達はその人の願いを無下には出来ない。イザベルを救うべくきちんと動く。

だから、イザベル。

君は過去の過ちをきちんと受け止めて、この先はアーカート公爵令嬢として恥ずかしくない生き方をしてくれ」


「うそ……嘘よ!私が救われる道はないわ!ヒロインに断罪されて、処刑されるのよ……。嫌よ……いや 死にたくない……」


取り乱すイザベルをアーノルド殿下は抱きしめ落ち着かせる。


「処刑なんかさせない!そんな事になったら、この国が滅びる」


アーノルド殿下はイザベルの肩を掴み強い口調で伝える。


「イザベル!落ち着いてくれ。本当にイザベルは処刑されない。あの人が望まない事をすれば国が滅びる。だからこそイザベルは真っ当に生きてくれ。それだけがイザベルが処刑を回避する手段だ。私が守る。幼馴染として、イザベルを守るから」


アーノルド殿下は力強くイザベルを抱きしめた。


大声を聞いたマチアスが扉を開け飛び込んできた。


視線の先には床に座り、イザベルを抱きしめているアーノルド殿下がいた。


アーノルド殿下の腕の中のイザベルはぐったりしたまま動かない。


「イザベルは興奮し過ぎて気を失ったみたいだ……」


アーノルド殿下はイザベルを抱え直し、ソファーへと寝かせた。


「早退なさいますか?」


マチアスが訪ねると「馬車を回せ」と、指示を出した。


学園は授業中であるため、イザベルが気を失った事を知られる事なく公爵家へと送る事が出来た。

二度も気を失う失態は良くない。

公爵に学園の事を説明をし、目覚めるまで側にいたいと許可を貰った。


マチアスには生徒会室での説明をし、セドリックに伝えエリアナ嬢がどう考えるか知りたいと言付けを頼んだ。




一度だけイザベルの部屋に来た事があるアーノルド殿下は、部屋が様変わりしていた事に少しばかり驚いた。


空っぽだった本棚には本がずらりと並んでいた。

宝飾品や小物があちこち置かれていたがそれも見あたらない。


「イザベルも変わろうと努力していたのだな……」


イザベルを早々に切り捨てた自分に後悔するも、お互い婚約者としてはこの先過ごす未来はない。


アーノルド殿下は寂しそうな表情を浮かべ、眠るイザベルの顔を眺めていた。


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