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モブな私は自由なはず‥‥なのに私の周りはいつもずっと騒がしい  作者: おかき
第二章 花を咲かせられるモブ令嬢

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4話 この世界の責任に涙する者

キャシーが語る物語のお話になります。

キャシーは机に向かい、ボーッとしながらエリアナの事を思い出していた。


(同じ転生者なのにエリアナ様は人としての格が違うのよね。その差は何かは解らないけれど、努力だけでこんなに周りの人と違うものかしら……前世からの人格も影響しているのな?)


ペンを持ち、ボーッとしたまま身じろぎ一つしないキャシー。


「キャシー?筆が動いていませんが、またエリアナ嬢を思い出していましたか?」


キャシーの椅子の隣に立ち、机を覗き込みながら声をかける男性は、キャシーの婚約者でありアルーン国の元王太子のダリルだ。


「エリアナ様に物語を贈る約束をしていたでしょう?作品を早く書きたいけれど、エリアナ様を思い出すと考えてしまうのよね……」


キャシーは婚約者となったダリルには、前世の話は全て伝えてある。

エリアナも転生者である事は内緒。


「キャシーが気になるのは、物語が絡み合って理解不能な状態だからですよね。私に詳しく話してくれると呼ばれたのですが?」


(あ!忘れてたわ!)


苦笑いを浮かべるキャシーに、ダリルは少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「私の問題にキャシーを巻き込んだ事を申し訳なく思います。ですが、キャシーと婚約出来た事は嬉しくも思うのです。例えキャシーを巻き込んだとしても。初めて心惹かれた女性と出会ったのですから」


ダリルの心は婚約出来た嬉しさと、申し訳なさで落ち着かない。


アスティー辺境伯領でダリルをはじめ、側近達が温かく迎えられた事を嬉しく思うが、アルーン国のいざこざに巻き込んでしまう申し訳なさから心が大きく揺らいでしまう。


「ダリルとの婚約は、私も嬉しいのだから何も気にしなくて良いの。それに、ダリルの祖国であるアルーン国の事は、お母様が色々やると思うから気にしないで。お母様は暇つぶしが出来たくらいにしか思っていないわ。

それより、物語の話をしましょう」



 リリアーヌの物語

 『清廉なる乙女と悪役令嬢』


現陛下が王太子の物語。アルベルト殿下とリリアーヌは幼少の頃に婚約を結んだ。

リリアーヌは深くアルベルト殿下を愛し、尽くしてきた。

学園に入ると聖女が現れ、王族であるアルベルト殿下が後ろ盾として側にいた。

何かと聖女と過ごす事が増え、リリアーヌは不安を抱える。

学園の生徒達も聖女と殿下の恋物語を勝手に夢見て、リリアーヌを排除しようとする。

リリアーヌは嫉妬心と婚約者としての立場がなくなる不安から、聖女に嫌がらせを始めてしまう。

アルベルト殿下が厳しく叱責すると、リリアーヌは捨てられないためにアルーン国でおきたスタンピードに参加する。

単独で乗り込んだリリアーヌは功績を得ることなく帰らぬ人となった。


アルベルト殿下と聖女が駆けつけた時にはリリアーヌは亡くなっていた。

アルベルト殿下はリリアーヌを愛していた。暴走するリリアーヌを止められなかったと深く心に傷を残した。

聖女が黒竜を浄化しスタンピードを鎮静化させる。

その時、聖女に一目惚れをしたアルーン国のダリル王太子殿下がスヴァルト王国に留学するも、聖女がアルベルト殿下に寄り添い気持ちが通じ合い婚約が整った。 

ダリル殿下は失恋してしまう。

そうして、聖女とアルベルト殿下は国に尽くしハッピーエンドを迎えた。


「聖女と婚約するまで色々あるけれど、簡単に言うとこんな感じね」


キャシーが説明を終えると、ダリル殿下が顔面蒼白で呆然としていた。


「私の名が……」


「そうなの、世代が違うの。私の考えだけれど、お母様が物語から離脱した事で物語だけが世界に残り、何らかの影響を受けて存在していると思うの。

今の学園の物語も、学園編とダンジョン編が混ざり合ってる気がするし。それに、お母様の子供とアルベルト陛下の子供が学園で恋物語を展開するお話から始まるのに、アルベルト陛下の妻となる王妃様は聖女ではないし……私の父も違うし、色々違い過ぎて考えが纏まらないのよ」


「スタンピードの発生時期と聖女の不在。それに、私の産まれた時代も違う。でも、ヒロイン?であるエイミー嬢と悪役令嬢のイザベル嬢は存在し、ヒーローのセドリック殿もいると……」


キャシーとダリルは沈黙となった。


「物語は確かに存在するけれど、登場人物の立ち位置が変わっている。それは、私達が自分で考えて選んでいるからではないでしょうか」


ダリルの言葉はキャシーの胸にストンと落ちた。


「そうよね、私達は生きているもの。自分で考え選んでいるわ。私もパトリックとの婚約を断固拒否したもの。私も違う人生を選んでいるもの」


パトリック?婚約?


「キャシーには婚約する予定があったのですか?パトリックとは誰です?」


目を細め次々と質問攻めをしながら距離を詰めるダリルの瞳は仄暗い。

キャシーは背筋に冷や汗をかきながら、逃げようとするがダリルに捕まりパトリックの事を正直に伝えた。


「嫌いなら良いです」


パトリックの事は大嫌いだと告げると、ダリルはニッコリ微笑みそう言葉を返した。


「あ!そうです、忘れていました。リリアーヌ様からお話を伺い、学園に私も通えることになりました。キャシー嬢より歳は二歳上ですがスヴァルト王国の事を学ぶためにキャシーと同じ学年で通えます」


ダリルは嬉しそうにキャシーに伝えると、パァーっと満面の笑みでダリルの胸に飛び込み喜びを伝える。


「本当?辺境伯領と王都で離れるのは寂しかったの!一緒に通えるなんて嬉しい!」


ダリルは可愛い婚約者を抱きしめ、学園の準備を一緒にする約束を交わした。





「エリアナ様と学園で会える事をずっと楽しみにしていたの」


ここ数日、学園に通うための準備をしている。側近達は学園には通わずアスティー辺境伯領に残り内政を学ぶことになった。


キャシーはダリルと準備をし、もう直ぐそれも終わろうとしていると、扉がノックされた。


返事を返すと、執事が封書を持ち部屋に入ってきた。

走ってきたのかしら?そう思うほどに、執事は息を切らしていた。


「お、お、お嬢様に……ハっハーマン公爵家から至急のお手紙がっ」


「ハーマン公爵家って、セドリック様よね」


キャシーは封書を受け取ると急いで文字を追う。


手紙から視線を外すと、

「今すぐ王都に向かいます!用意した荷物を急いで積んでちょうだい。お母様にハーマン公爵家からのこの手紙を届けて欲しいの」


執事はリリアーヌの執務室に手紙を届けに走る。


「エリアナ様が私に会いたいと。会って話がしたいと希望されてるの。だからダリル、今すぐ王都に向かいます」


ダリルはキャシーの勢いに押され、荷物を使用人達と一緒に運んでいた。


ダリルが荷物運びをする姿に驚いた他の使用人達が次々と手伝い始め、荷造りは直ぐに終わった。

玄関で馬車へと荷物を入れ終えると、後ろから声をかけられる。


「手紙は読んだわ。気を付けていってらっしゃい」


リリアーヌが玄関へと見送りに出て来た。


「急な事となり、騒がしくなりました。エリアナ様からの要望に早く応えたいですし早く会いたいので、いってきますね」


ダリルを馬車へ押し込むと、キャシーも乗り込み窓から手を振りながら慌ただしく出発して行った。


「誰に似たのかしら?ワイルドボアみたいね」

リリアーヌの呟きを耳にした使用人一同、同じ答えを心の中で呟く。


(((リリアーヌ様です)))


「学園生活、楽しみなさいな」


リリアーヌは馬車が見えなくなるまで見送っていた。




キャシーが王都に最初に訪れたのは、冒険者ギルドだった。


受け付けで叔父であるエルランドへ面会を申請した。


ダリルと並んで受け付けで待っていると、女性の冒険者達から視線を感じた。

ダリルを見つめる視線には熱がこもり、キャシーを見る視線には不躾な色がにじんでいた。


(そりゃあダリルはイケメンだけど……不愉快っ!)


モヤモヤする気持ちが嫉妬心である事は理解している。ここでキャシーが声を上げる事は醜態でしかない。

彼女達はただダリルを見ているだけなのだから。


モヤモヤしているとキャシーの眉間に深い溝が刻まれていく。


受け付けを担当したエリーが、キャシーへ不躾な視線を投げた冒険者達の足元に小さな雷を落とした。


「こちらのご令嬢はアスティー辺境伯の後継のキャシー様と、婚約者のダリル様よ。解るかしら?ギルマスの親族の婚約者に色目を使い不躾な視線を向けた。処罰対象となる覚悟をしておきなさい」


エリーの言葉に女性冒険者達はへたり込んだ。


「あ、あの。そこまでしなくても……」


不愉快ではあったけれど、厳しい罰は可哀想だとキャシーが口にしようとするが……。


「いいのです。あいつらはエリアナちゃんにも不愉快な態度をするんだから、これを機に罰を受けたら良いのよ」


ふんっ!と、鼻息荒く話すエリーにキャシーも怒りの声を出す。


「エリアナ様にもですって!許しません!厳しい罰を受けなさーい!」


アスティー辺境伯の後継に直々に告げられた女性冒険者達は顔面蒼白で失神寸前。

キャシーの言葉を聞いたギルドの護衛が動き、女性達をギルドの奥へと連れて行った。


「エリアナ様を侮辱する人は許さない!」


キャシーが拳を握りプリプリ怒っている姿をエリーは視界に入れ、クスリと笑った。


「ギルマスは今日は予定が何も入っていないので、このまま二階に上がってください」


キャシーとダリルはエリーに頭を軽くさげ二階へと上がって行った。


ギルドマスターの部屋の扉をノックすると、エルランドが顔を出した。


「ん?キャシーじゃないか。急にどうしたんだ。それにダリル殿下まで来るとは何かあったのか?」


部屋の中に入るように促し、ソファーに座る。


「セドリック様から手紙が来て、エリアナ様が会って話がしたいって書いてあったの。それに、私とダリルも学園に通うから叔父様に挨拶だけしに来たの。叔父様に顔を見せたから、エリアナ様に会いに行くわ」


座って話をしたかと思えば、直ぐに席を立ち帰ろうとする。


「まぁ良いけどね」


エルランドは苦笑いしながら、キャシーとダリルを見送ろうとしたのだが。


部屋の扉がノックされた。


「今日は客が多いな。入って良いぞ」


エルランド許可すると、扉が開いた先にはエリアナがいた。


「エリアナ様ー!」


キャシーはダリルを押しやり、エリアナに抱きついた。


抱きついたはずだったのだが、抱きしめた腰の位地が異様に高い事に気が付いた。


(もしかしなくて……セドリック様に抱きついてたりしないわよね……)


キャシーは覚悟を決め、恐る恐る顔を上げる。


視界に入ったのは、青い髪に青い瞳。恐ろし程に整った容姿。

それに、口元の色気ある黒子。


キャシーがじっと抱きついた相手を見上げると、何かを呟いた。


「なんでシシュリーがいるのよ」


キャシーの脳裏にパラパラと本が捲られていく。


「嘘よね……」


キャシーはそう言うと意識を手放した。


エリアナが床に倒れる前に体を支え、キャシーの名前を何度も呼ぶけれど意識は戻りそうにない。


(乙女ゲームの世界になぜ「黒追」が……)


キャシーが前世を思い出してから、ずっと思い出せずモヤモヤと気になっていた物語。

その物語がこの世界に存在していたと、キャシーによって知らされる事になる。



ギルマスの部屋はキャシーが倒れた事により、大騒ぎとなった。

抱きつかれ気を失われたシシュリーは、呆然としていた。

エリアナに抱きつくのを阻止しただけなのに、自分を見て気を失われては気分は良くはない。


「シシュリー殿下は邪魔だから、座っててくれる?」


エリアナがテキパキと人を移動させ、キャシーを長椅子に寝かせた。


「なぜ……乙女ゲーム…じゃない」


苦しそうに呟くキャシーの手をダリルが握りしめ名前を何度も呼んだ。

 

半刻が過ぎる頃、キャシーの瞼が揺れる。


「キャシー!」


ダリルとエリアナが名を呼ぶと、キャシーの瞼がゆっくりと開いた。


「記憶が……思い出せなかった物語を思い出したの……」


キャシーは掠れた声で必死に伝える。

ある物語の話を。


 〈 黒霧に眠る黒竜の追憶 〉


優しき魔女に拾われ育てられた黒竜。

幾月日を過ぎる頃、魔女の代替わりの掟により魔女は永遠の眠りに就いた。


優しき魔女は黒竜を狙う次代の魔女に気が付き、黒霧の中に黒竜を閉じ込め暫く眠りにつかせた。


優しき魔女は魂が輪廻の輪に乗り生まれ変わる事を知っていた。

その時まで黒竜を黒霧で守り眠りに就かせ守ろうと魔女は魂に記憶を刻んだ。


幾年月過ぎただろう。何度も輪廻を繰り返し次代の魔女も代替わりをむかえた。


だが、次代の魔女は黒竜を諦められなかった。何度も輪廻を繰り返すうちに、竜人国の王女シシュリーに転生した。

竜人は竜の生息を感じ取る事が出来た。


シシュリーは弟のシーベルを従え黒竜を見つけた。


黒竜はシーベルが優しき魔女の生まれ変わりだと気が付いた。だが、シーベルの魂は覚醒していない。


シシュリーはシーベルが先代魔女だと気が付いていた。覚醒していない事も。


黒竜とシーベルを利用し、竜人国を乗っ取ろうと画策する。


シーベルは仲間が死に行くなか、錯乱状態になり命を落としてしまう。

黒竜は目の前で優しき魔女が死んだ事に闇落ちする。


シシュリーは黒竜の手にかかり亡くなるも、闇落ちした黒竜は瘴気を撒く悪しき竜となってしまう……



黒追の作者は 志鶴 涼

キャシーの前世の人物であった。


「この作品は未完で公表されていないの。ただ、知り合いの作家がこの物語を読んで気に入ってくれたの。物語の続きとして書いた作品が、清廉なる乙女と悪役令嬢。

そこから全ての作品が広がっていくの……私が書いた黒竜の作品が、この世界を歪めてしまったのよ!あんな作品、書くんじゃなかった……」


キャシーは虚ろな眼差しで静かに涙を流し続けた。


静寂がただ部屋を包みこんでいた。


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