2話 なんでもかんでも話す神様に説教します(神様、王妃様と私の立場は同じなのよ?)
王城での話し合いはエリアナを抜きにしたまま、陛下とセドリックに神様の三人で計画を練る事になった。
(宰相と聖教様も巻き込まむのなら、大事になっちゃうわよねー)
エリアナは溜め息を吐きながら、子爵家の邸で料理を作っている。
【まだ出来ぬのか?】
黒竜が出来上がった料理を眺めながらパタパタと飛んできた。
「もう少しで終わるわ」
マジックバッグにしまったままだったロックバードを使い、チキンステーキを焼き上げた。
邸には薬草としてハーブが沢山常備してあるので、今日はハーブを練り込み下味をつけて焼き上げた。
『うわー!美味しそうな匂い』
「つまみ食いはしないでね」
『っ!しないよ!』
と、エリアナに指摘され明後日の方を見ながら答える神様。
「さて、運びましょう」
料理を運んだ先には、アーノルド殿下と側近達が待っていた。
セドリックが運んできた料理を配膳する手伝いをしてくれる。
ハーブのドレッシングをかけたサラダにチキンステーキ。
神様からはおにぎりをリクエストされたけれど、却下。
料理が並び全員でいつもの
「いただきます」をする。
「久々のエリアナ嬢の料理だ」
アーノルド殿下はチキンを口にすると、料理を堪能していた。
「我々は交代でお弁当を頂けますが、殿下はね……」
「特別室の料理であっても、あの昼食会はどうも……」
側近達がシーベル殿下との昼食を思い出し、苦い顔をする。
「料理が不味くなりますよ?その話は後にして、リアの料理をきちんと堪能して下さい。例えリアがアーノルド殿下に食事を出したいとお願いされたとて、私との大切な時間を削ったのですからね」
セドリックはチキンステーキを切りながら、ジト目で淡々と嫌味を言う。
「そうだね。久々のエリアナ嬢の料理を堪能しないとね」
セドリックの嫌味は置いておくとして。
エリアナは皆が喜んでくれた事を嬉しそうにしながら、黒竜と神様の給仕をしている。
黒竜にフォークの使い方を教えると、切り分けたチキンにブスッと突き刺しながらモグモグ食べる。
その可愛らしい光景を眺めながら、殿下や側近達は料理を堪能していた。
片付けを終えリビングに戻ると、セドリックがお茶を淹れている最中だった。
エリアナは木の実タップリのバタークッキーとソルトクッキーを用意した。
「見た事ないクッキーだね」
アーノルド殿下がソルトクッキーを手に取り眺めながら尋ねた。
「お塩を使ったクッキーです。甘い物が苦手な方も、これならお茶会でも口に出来るかな?って考えたんです」
アーノルド殿下も側近の方も甘い物が苦手ではない。
むしろ大好物なのを知っている。
エリアナが経営する秘密の喫茶店ルーエでは、沢山のケーキを食べる事も知っている。
ルーエは休息の意味がある。好きなデザートを食べて癒されてもらいたい。
「っ!!」
ソルトクッキーを口にしたアーノルド殿下の目がまん丸になり、次には目を閉じ余韻を堪能し始めた。
側近達もじっくり味わっているようだ。
「このクッキーは販売されているのですか?」
「まだ販売されていません。もう少ししたら商会から販売されます」
エドワルドの問いかけにエリアナが答えると、アーノルド殿下がエリアナに相談したい事があると何かを思い出したようだ。
「商会からの販売する日は、エリアナ嬢の事を公表する時に合わせるのだろう?
それで思い出したんだが、シーベル殿下がエリアナ嬢と接触したがっていると側近達が報告してきた」
「昼食会が終わると、時々エリアナ嬢の予定を聞かれましたし、皆さんとの昼食を一緒にしたいと言われるのです。交流をしたい事は理解出来なくもありませんが。
この前は「エリアナ嬢は私に会いたがっているはずではないか?」等、エリアナ嬢がシーベル殿下に好意があるような言い方をされますので、気になったのです」
「最初に昼食をして以来、接触はしていませんし……なぜでしょうか?」
エリアナは首を傾げ、なぜシーベル殿下がそう言うのか解らない。
「竜人王に渡した珠の魔力に関係あるのでしょうか」
セドリックの言葉に、そうなのかもしれないと感じた。
「精神と魅了の魔力よね……」
「昨日、セドリックからシーベル殿下に精神と魅了の魔力を注がれたと説明を聞いた。シーベル殿下はエリアナ嬢を懐柔しようとしているのではないだろうか。
もし、エリアナ嬢の事が公表されたら、必ず何か仕掛けてくるかもしれない。シーベル殿下の監視を強めるために、セドリックから教えられたんだ」
「あの魔力をリアが排除した事にシーベル殿下は気が付いていないのでしょうか。魅了の魔法は人族では禁呪です。簡単に人前で行使する事はありません。シーベル殿下の意図が読めませんね……」
セドリックもシーベル殿下の考えが解らない様子。
エリアナも全く理解出来ない。
「それでエリアナ嬢に相談なんだが、公表される日程はまだ決まっていないそうだ。公表されてからでは遅いと思い、考えたのだが……。側近達に前もってエリアナ嬢の事を話して良いだろうか。シーベル殿下とエイミーから守る為にも事情を知って貰った方が良いと思う。シーベル殿下の魔力についても、他の事にしても」
(そうよね。黒竜と緑竜の事は知って貰った方が良いかもしれない。シーベル殿下が誰かと会ったりしたら気にかけてくれる方が良いし……)
「解りました。側近の方へのお話は殿下の判断でして頂いて構いません。いずれ公表されますから」
エリアナは許可を出すと、アーノルド殿下はホッと息を吐いた。
「シーベル殿下を見張る理由を説明出来ずにいたから良かった。ありがとう、エリアナ嬢」
「いえ。シーベル殿下を警戒する理由がエイミー様だけでは側近の方達も腑に落ちないでしょうし」
エリアナがエイミーの名前を口にすると、アーノルド殿下が気になる話を聞かせてくれた。
「関係あるかはまだ解らないけれど、エイミーが貴族科の一学年の生徒数人に頻繁に接触している。下位貴族なのだが、接触する際には紙に書いて伝え合うとその場で燃やすので影も内容を確認出来ずにいる。
最近のエイミーは影で何か動いているようだから、エリアナ嬢も周りを気にしてくれると助かる」
不審な行動だと思うけれど、証拠がない以上何をしているかは解らない。
「わかりました。今以上に気を付けます」
その後は、商会から出す予定のお菓子について聞かれ、ルーエで販売しているケーキも市場に出す事も伝えた。
「イザベルが喫茶店をしていたが、同じ喫茶店でもこうも違うとはね。同じ転生者でも差があるようだな……」
アーノルド殿下の言葉に返事を返す人はいない。
殿下の婚約者であるイザベルは婚約者から降ろされると気が付いているからだ。
(殿下も情がないわけではないのよね。長く婚約者として側にいたんだもの)
エリアナはイザベルの事を思うと胸がチクリと痛む。けれど、イザベルの自業自得でしかないと痛みを飲み込むしかなかった。
お土産に殿下と側近の方達にソルトクッキーを渡し、食事会は終了となった。
「お疲れ様でした。リリ」
セドリックが労ってくれるが、エリアナはこれからが労力を使うのだと身を引き締める。
「神様と話ををするから、待っててくれる?」
セドリックは理由は聞かなかった。
後からきっとエリアナから話してくれると信じているから。
クッキーをまだ食べ続ける神様と黒竜の側にエリアナがやって来た。
『エリアナ!このクッキーは止まらないね!』
上機嫌な神様は無邪気に笑っている。
(一晩持ち帰って考えたわ。感情的になりそうで、じっくり考えたかった。不愉快だと神様は怒るかもしれない。でも……)
「神様、話をしたいの。二人で」
エリアナの神妙な雰囲気に何かを察したのか、神様はクッキーを食べるのをやめた。
『いいよ!』
エリアナはキョトンとする黒竜を一撫ですると「待っててね」と告げる。
黒竜はクッキーを両手で持ちながら、コクリと頷いた。
エリアナが私室へと向かうその後を、神様はプカプカ浮きながらついていく。
部屋に入ると防音の魔術をかけた。
エリアナは振り向き浮かぶ神様へと視線を合わせた。
「神様は昨日、陛下の妻は聖女だったと。子供をあてはめた。そう言いましたよね?」
『言ったよ?物語ではそうだったからね』
悪びれる様子はない。
さらりと告げる言葉に悪意などない。
悪意がないからこそ厄介だし、事実を語られると深く傷ついてしまう。
「それを聞いて、ヴィオラ王妃が傷つかないと思った?自分は本来王妃になるはずじゃなかった。アーノルド殿下は聖女が産むはずだった子供と聞かされて、何も思わないと思ったの?」
『エリアナ、怒ってるの?物語がそうなんだから、仕方ない事じゃない?』
何を言ってるの?
キョトンと不思議そうにする神様に、やはり怒りが湧いてくる。同じ様に、悲しみも……。
「物語は物語でしょう?神様もそう言ったじゃない。この世界は現実で皆それぞれ必死に生きていているわ。神様が創った世界かもしれない。だけど、私達は考え成功したり失敗したり、悩み選んで生きているの!物語を持ち出して、誰かを傷つけて良い話ではないわっ」
『僕はエリアナには何も言ってないでしょう?どうして王妃の事でエリアナが怒るんだよ!意味がわかんないよ』
神様は不機嫌になり、神力がじわじわ漏れ始めた。
エリアナは部屋にセドリックが来るのを遮るため、結界を二重にかけた。
「王妃様だから?違うわ!王妃様と私は同じなのよ?恋ダンのお話にヴィオラ王妃は存在しない。私と同じモブなのよ?」
エリアナの説明を聞いても、やっぱり解らない神様は神力をさらに漏らす。
『意味不明……』
苛ついた神様がポツリと呟いた。
「陛下の本来のお相手が聖女だった。なら、物語のセドの相手は誰だった?私じゃないわよね。
「セドの本来の相手はエイミーなんだよ」
神様が私にそう言っているのも同じだって理解してる?セドが本来結ばれる相手であるエイミー様と一緒に過ごしていた過去を、私が気にしていないとでも思ってた?
例えセドがエイミー様を嫌っていたとしても、長く一緒にいた事に私は嫉妬するわ。
もし何かがあってエイミー様とセドが結ばれたら、「物語ではそうだから、仕方ない事だよ」神様はそう私に言うのっ?!」
ポロポロ泣きながら、怒りで捲したてるエリアナを神様は呆然と眺めていた。
『ごめん……なさい』
「なんでもかんでも話せば良いわけじゃないのよ?神様は尊い存在であって神様が言葉にする内容は私達にとってとても重いものなのよ。だからこそ、傷は深いの。
ヴィオラ王妃は傷を笑顔で隠された。だから、私は知らない振りをした。
それに、私がモブなのは事実だから。
だから、一晩考えたの。考えたからこそ、神様に伝えようと思ったの」
『………』
「ヴィオラ王妃が可哀想だから言ってるわけじゃないのよ。ヴィオラ王妃を可哀想だと思ったら、同じモブの私も可哀想になるから」
『ごめん……』
神様の神力が消えると、俯いたままの神様はエリアナの足元に降りた。
エリアナのドレスにギュッと抱きつき、離れない。
『無神経過ぎたんだね。僕は』
「神様に言って良いのかわかりませんが、そうですね。無神経過ぎますね」
返事の代わりに、さらに強くドレスを握られる。
「ヴィオラ王妃には私からお伝えします。同じモブですから、私が説明します」
エリアナの言葉に抱きついたまま神様が頷いた。
結界の外で心配する黒竜が結界を破壊しようとしていた。
セドリックはエリアナが自分や黒竜を入らせないように結界を張った意図にが付いていた。
破壊しようとする黒竜を抱きしめ、セドリックは必死に抑え込んでいる。
エリアナが結界を解除すると、セドリックの腕から離れ黒竜が真っ直ぐ飛んできた。
【エリアナ?大事ないか?】
足元には神様が。
胸元には黒竜が抱きついている。
「大丈夫よ。心配してくれて、ありがとう」
【神よ。エリアナを悲しませるでない!神だとて、エリアナを悲しませるのは許さぬからな】
神様はエリアナだけでなく黒竜からも怒られた事に、がっくりしていた。
「もう少しだけ、周りを気にかけて下さいね」
言いたい事を言えたエリアナは神様の頭を撫で、笑顔を見せた。
「エイミー様が怪しい動きをしていますし、警戒する必要がありますが、とりあえず会いたくはありませんがシシュリー殿下と会ってシーベル殿下の事を聞き出しましょうか」
エリアナ大好きのシシュリーに会うのは憂鬱にはなるけれど、明日喫茶店ルーエに招待する事にした。




