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モブな私は自由なはず‥‥なのに私の周りはいつもずっと騒がしい  作者: おかき
第一章 転生者は隠しモブとして生きる

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86話 騒がしくなる未来

晩餐の支度の時間が近付き、エリアナはゆらゆらと体を揺すられている。


ゆらゆら……優しい揺れ。


疲労困憊な体に、この揺れは深い眠りに誘う揺れ……。


「リア?起きなければ、手を出しますよ?」


甘く危険な台詞にエリアナの寝ぼけた意識は覚醒した。


「おはよう?」


「おはようではありませんが、おはようございます。リア」


セドリックは額に口付けをすると、エリアナを抱き上げる。

抱きかかえたままお風呂場に向かい、一緒にお風呂に入る。


時折お風呂を一緒にするけれど、エリアナは恥ずかしくて居心地がとても悪い。

恥ずかしがるエリアナを見たくて、セドリックは態と罰と称してお風呂に誘うのだ。


セドリックの腹黒勝ちである。


お風呂からあがると風魔法で髪を乾かし、セドリックはエリアナの髪を結い始めた。


白銀の髪をアップにし、うなじに少しだけくるりと巻いた髪を数本残す。


(何だか色っぽい仕上がりなんですけど……)


嫌な予感は当然当たる。


セドリックが用意したドレスは、胸元がガッツリ開いたマーメイドラインのドレスだった。

しかも、また切れ込みの深いスリットが右の前足に入っている。


(戦闘服にはなるけれども……)


引きつる口元を隠そうとせず、エリアナは表情で断固拒否を訴えた。


「黒竜の契約紋を見せつけるためですから」


そう言われてしまうと、引き下がるしかない……。


セドリックはエリアナの仕上がりに満足し、自身も晩餐の正装に着替え始める。


【エリアナ、すまない。紋を刻む場所を考えていなかった……】


しょんぼり落ち込む黒竜を抱きかかえ、エリアナは優しく額を撫でた。


「ドレスは恥ずかしけれど、嫌いじゃないのよ?綺麗に着飾るのは、少しだけ気分も上がるもの。それに、黒竜を抱っこしていれば胸元は隠れるから」


黒竜をよしよし撫でていると、ラビの姿の神様が垂れ耳の頭をグイッと押しつけてきた。


グイッグイッと頭で黒竜を押しのけるラビは、エリアナから撫でられたいらしい。


『エリアナはっ、黒竜にだけっ、優しすぎるーっ!』


黒竜を頭で押しのけながら叫ぶラビの姿がおかしすぎて、エリアナは笑いが止まらない。


セドリックはそんなやり取りを眺めつつ身支度を急ぎ終えた。


ミラールが扉をノックし、晩餐の時間を告げる。

セドリックにエスコートされながら、エリアナはミラールの後を歩いていた。


黒竜とラビはミラールの肩にかかるエリアナの鞄の中で待機中。

鞄持ちにされているのに、気の所為ではなくミラールの気分は上々のようだ。


(部屋を出てかなり歩いている気がするけれど……)


晩餐の部屋にはまだ遠いようだ。


中庭を抜けると、前方に綺羅びやかな明りがエリアナの視界に入る。

広いホールからは大勢の人の気配を感じとったエリアナの足が、一瞬止まりかける。

が、セドリックに上手く誘導され歩みを止める事が出来なかった。


(晩餐ってホールでするものではないわよね?あそこに見えるホールは、私達には関係ないわよね?ね!)


必死に心の中で、無関係であれ!と、祈るも意味はなかった。


ミラールに案内されセドリックに引っ張られるようにエスコートされた先に視線を向ける。

中庭から見えた絢爛豪華なシャンデリアの眩い輝きの中央に立つ竜人王が、エリアナとセドリックを待っていた。


竜人王の目前まで道が開かれる。


左右に並び立つのは高位貴族の竜人なのは魔力の質で理解した。


一斉にエリアナとセドリックに視線が集中する。

どうにでもなれ!

自棄になったエリアナは自分の容姿を最大限に活かし、周囲の竜人達にニコリと笑みを浮かべた。

怯える事なく堂々と竜人王の目の前まで優雅に進む。


白銀の髪は艶めかしく結われ、薄い桃色の瞳と視線が合えば頬に熱が集まる。

一歩一歩と、エリアナが歩を進める度に深いスリットから美しい脚がチラリと見える。


小さく可愛らしい人族の令嬢。

竜人王に怯える事なく堂々と振る舞う肝の座った令嬢。


高位貴族の竜人達は、じっとエリアナを値踏みしていた。


「セドリック・ハーマン公爵令息にエリアナ・カーマイン子爵令嬢である。我に用向きがありスヴァルト王国より参られた。

晩餐の予定であったが、久々の人族の訪問ゆえ皆が紹介しろと煩くてな」


竜人王は苦笑いしながら会場に向けて言葉を発し、エリアナ達を紹介する。


エリアナはカーテシーをし、セドリックは胸に手をあて周囲の貴族に礼をとる。


エリアナがゆっくりと顔をあげ、姿勢を正すと会場から大きなざわめきが起きる。


今更だが、ようやくエリアナの胸の谷間に刻まれた黒い紋へと視線が集まった。


「皆も気が付いたようだが、こちらのエリアナ嬢は「正しく」黒竜様と契約をなされている。この紋は黒竜様との契約紋である」


竜人王の宣言に、会場にいる全員がエリアナに向け最上級の礼をとった。


(嘘でしょ!)


エリアナの心の中は竜人達に頭を下げられ、パニック状態。

気持ちを落ち着かせたいが、手のひらにじっとりと汗がにじむ。

エリアナは平然として見えるが、ただ驚きで固まっているだけである。


「面をあげよ。エリアナ嬢は竜を敬う我が国に黒竜様との契約を報せてくれたのだ。今宵は竜と契約をせしエリアナ嬢と、婚約者であるセドリック殿を皆に顔見せしたまで。今宵は存分に楽しむがよい」


竜人達の言葉に、参加する竜人達はそれぞれ動き始めた。


会話をしつつも、ダンスを踊り始めても視線はエリアナの胸元から外させる事はない。


「セド?貴方がこのドレスを選んだのよ?嫉妬するのはおかしくないかしら?」


竜人王はエリアナの言葉にクスリと笑った。

竜人王の前だというのに、セドリックの眉間の皺がどんどん深くなっていく。


「解っていましたが、これほどの視線を集めるとは思っていなかったのです……」


セドリックは溜め息を吐くと、マジックポーチからレースのボレロを取り出し、急いでエリアナの肩にかけた。


「結局隠すんじゃない」


エリアナは可愛らしくクスクス笑う。


「楽しまれていますか?」


エリアナの背後から声をかけられ振り向くとシーク殿下が側に来ていた。


軽く礼を取り、エリアナがシーク殿下の体調を気にかけ声をかけた。

セドリックは竜人王に呼ばれエリアナの側を少し離れる事になった。


シーク殿下は魔石からの魔力譲渡が馴染み、今も夜会に参加できるほどに体が楽になったようだった。


「良かった……」


エリアナが安堵した次の瞬間、背後で魔力が爆ぜ会場に強風が吹き抜けた。


爆ぜた魔力に覚えがあるエリアナが視線を向けると、男女が睨み合い?をしていた。


男性はセドリック。

女性は背中を向けているので顔は見えない。

青い髪は腰の下まで伸ばされ、美しい姿だろうと想像出来る。


セドリックの険しい顔を見ていると、女性が差し出す右手に覚えのある嫌な魔力を感じた。


エリアナは軽く地を蹴り、宙へと飛んだ。


ヒラリと舞い降りると、女性の腕を掴み魔力を手のひらの紋に吸い込んだ。


「私の婚約者よ。触れないで」


女性の腕を掴み、エリアナが睨みつける。


正面から女性の顔を確認すると、なんとも色っぽい顔つきの女性だった。

少しタレ気味の薄い青の瞳。

髪は青空のように済んだ青色。

口元には黒子と、色気しかない美女。


妖精姫と謎の美女の睨み合い。

会場は一瞬にして静寂となった。


「シシュリーよ、何をしておるのだ?夜会は既に始まっておるのだぞ」


竜人王の言葉にエリアナが美女を見て驚いた。

美女はエリアナの驚いた顔を見て口元を少し上げる。


「お父様、お久し振りです。お仕事で遅れたのですわ」


竜人王の冷たい声にも怯むことなく艶めかしく挨拶をする。


(シシュリー第二王女……冒険者ギルドのギルドマスター)


「噂の破廉恥女ね……」


心の声を無意識に漏らしたエリアナ。

シシュリー王女は瞬時にエリアナへと魔力でナイフ作ると投げた。


エリアナはナイフを氷漬けにしシシュリーの魔力を霧散する。


一瞬の事に誰も動きを見れていない。


「あら〜?やるわね〜」


馬鹿にしたように甘ったるい声でエリアナを挑発する。


エリアナは無視してシシュリーに背を向けた。


「セド、大丈夫?何があったの?」


エリアナがセドリックが魔力をなぜ爆ぜたのか問いかけた。


「王女が触れようとしたから拒んだだけだ。触れられてはいない」


セドリックはエリアナに心配をかけた事に申し訳なさそうにしていた。


「ふーん……」


そう口にしながら、視線だけを後ろに向けるとシシュリーを睨みつけた。


シシュリーはニヤリと笑みを浮かべるとエリアナに告げる。


「あら〜?お子様は嫉妬深いのね。そんな面倒な性分だと殿方に嫌われてしまいますわよ?」


扇子で口元を隠しコテンと首を傾げるその仕草は、明らかにエリアナを馬鹿にした口調と態度である。


「王女殿下はギルドマスターですよね?冒険者ランクは下位ですか?」


シシュリーの魔力は量はかなりある。

でも、制御が全く出来ていない。


「は?Sランクですわよ?」


睨まれたが、気にしない。


エリアナは自分の手袋を外すとシシュリーへと投げつけた。


手袋が地に落ちる瞬間、エリアナは自分とシシュリーの足元に魔術紋を展開した。

魔術紋が徐々に広がると、周囲で様子を伺っていた者達は見えない壁に押しやられるかのように後に下がっていく。


紋が光を放つと、エリアナとシシュリーをドームの形をした結界に閉じ込めた。


「私と戦うと?人族の女のくせに?いいわよ。後悔しないように、全力でかかってきなさい……っ」


シシュリーが言葉を言い終わると同時にエリアナは華麗に飛ぶと、回し蹴りでシシュリーを吹き飛ばしていた。

結界にシシュリーが激突するも、結界は強固で亀裂も入っていない。


「卑怯っ…じゃないっ」


「あら?準備が出来ないと戦えないのですか?私が攻撃する事に気が付けば、防御は出来たはずですよ?!

まさか……魔物相手にも待ってとお願いするのですか?王女殿下は魔物使いなのですね…きっと。魔物が待ってくれないと、戦えないと」


エリアナは倒れ込むシシュリーの前に立つと、シシュリーへと視線を下げた。


シシュリーはエリアナの右足を掴もうとするも、ヒョイっと足を上げたエリアナの右足に伸ばした左手が踏みつけられた。


「さあ。本気をだして下さいね」


エリアナは足を上げ後ろに飛ぶと、シシュリーから距離を取りじっと起き上がるのを待つ。

シシュリーはゆっくりと立ち上がるとエリアナの目の前まで高速で移動する。


素手の殴り合いか始まると、観戦者となった竜人達から声があがる。


竜人は血の気の多い種族。

普段穏やかな分、戦闘となると血が騒ぐようだった。


シシュリーからの攻撃をエリアナは全て受け止め交わしていく。

殴り、蹴り上げるシシュリーだが一つも当たらない。


「チッ…」


シシュリーは魔力を高め更に出力を増す。

エリアナは全力のシシュリーを軽くかわす。


「次は私ですね」


シシュリーの攻撃を受け止めながら、エリアナがシシュリーの懐に入るとドレスの胸元を掴みそのまま結界へと放り投げた。

エリアナは足に強化をかけると、グッと踏み込み放り投げられたシシュリーの腹部にめり込む程の打撃を打ち付けた。


シシュリーは結界に激突し、うつ伏せに顔から落ちていく。


打撃のみで勝負が決まってしまった。


「あら、もう終わりですか?」


シシュリー殿下はよろめきながらも立ち上がると、エリアナを睨みつける。


妖艶な姿は消え、怒りに満ちた瞳でエリアナを睨みつける。


シシュリーは魔力を右手に集め剣を作る。

青く輝く美しい長剣。


シシュリーは長剣を構え素早くエリアナに踏み込む。

エリアナは足をスッとだし、太ももに付けていたベルトから短剣を抜くと、シシュリーの長剣を受け止めた。


長剣と短剣……。


勝負はあったように見えるがエリアナが次々と剣を振りかざす。

有利なはずのシシュリーはエリアナの剣を受け止めるだけでに精一杯だった。


エリアナが下から上に短剣を振り上げると、シシュリーの長剣は結界まで飛び床に刺さる。


観戦者達の視線がエリアナとシシュリーに向けられると、短剣を喉元に突きつけられたシシュリーが両手を上げていた……。


「勝負あったな」


竜人王の言葉にエリアナは短剣を背後に隠し、礼をとった。


シシュリーは両手を下げ、父である竜人王へ軽く一礼をする。


「シシュリーは相手の力量を見れぬようだな。我とてエリアナ嬢に手を出す気にはならぬよ」


竜人王の言葉にシシュリーが目を開きエリアナへと視線を向ける。


この小娘のどこに竜人王が怯える要素があるのか、理解出来ない。


「エリアナ嬢は魔力をきちんと制御しておる。竜人と同じ、いや、それ以上の魔力量を持っておる」


それに…


「エリアナ嬢の胸元を見てみよ」


シシュリーが視線をエリアナの顔から胸元に移すと口を開けたまま固まってしまった。


美女の阿呆面は面白いが、じっと見られるのは気分が悪い。

豊満な体をしているシシュリーに、貧素な胸元を晒すのは癪に障る。


エリアナは魔術紋を展開する時にセドリックにボレロを脱いで渡していた。

綺麗なレースのボレロをエリアナは気に入っていたのだ。


「それは……」


シシュリーがようやく口を開くと、エリアナの胸元へと指をさした。


【我の契約者に手を出したのはお前か?】


地の這うような低い声に辺りを見回すと、小さな翼をパタパタさせ飛んで来る黒竜の姿を、会場にいる全ての者が視界に入れる。


黒竜の後ろからはラビを抱いたミラールがついてくる。


「嘘よ……」


「嘘ではない。シシュリーが夜会に顔を出す前に皆には紹介が済んでおる」


シシュリーは視線を彷徨わせながら、エリアナの姿を見る。


小さく可愛らし容姿。

竜人が手を出そうものなら、ポキリと折れそうな儚い容姿の少女……。


だが、竜人の王族が持つ魔眼を使いシシュリーがエリアナを再度見ると、エリアナの魔力は黒と白の濃い魔力を纏っていた。


シシュリー自身の魔力の量や質の差は明らかだった。


シシュリーはエリアナの目の前に来ると、膝を突きエリアナのドレスのスカートを摘んだ。


シシュリーはドレスを掬い上げ、口付けを落とした。


何をしているのか理解が出来ず、されるがままのエリアナに竜人王が声をかけた。


「竜人が自分が仕えたい相手に忠誠を誓う儀礼だ」


「はぁー?!」


慌ててドレスを引き寄せるエリアナだが、上目遣いでシシュリーはエリアナをうっとりとした視線で見ている。


「私は貴女様の下僕です」


うっとりとしたまま、シシュリーがエリアナに囁く。


セドリックが背後からエリアナを抱きしめ腕の中で体を反転させた。

セドリックの香りに包まれ、ようやくエリアナは呼吸が出来た。


セドリックをギュッと抱きしめ返し、ゆっくりと呼吸を整える。


パタパタと羽音を聞いたエリアナが顔を上げると、心配そうに黒竜がエリアナを覗いていた。


エリアナはセドリックの腕から離れ、黒竜へと手を伸ばす。

黒竜は嬉しそうにエリアナの胸に飛び込むが、ラビもミラールから飛んで来たため黒竜とラビをエリアナは抱える。


儚げな美少女が黒竜を抱きかかえ、嬉しそうに頭を撫でている。

黒竜もエリアナへと頭を擦り付けている。


竜人はその光景を目に焼き付けていた。


膝を突いたままのシシュリーが、エリアナへと手を伸ばすがセドリックがその手を払い除けた。


シシュリーの威圧の視線がセドリックへと向けられると、二人は戦闘態勢に入った。


シシュリーがゆっくりと立ち上がった瞬間、二人の魔力がぶつかり合う。


エリアナがバッと振り向いた時には既に遅く、セドリックとシシュリーの戦闘が始まっていた。


『エリアナの信奉者が増えたね』


エリアナの肩に座るラビは楽しそうに面倒臭い言葉を吐いた。


「いや、いらないんですけど……」


「エリアナ嬢は魅了的な女性だな。誰もが貴女を知ると惹かれるようだ」


竜人王の言葉にラビも黒竜も満足気に頷く。


エリアナは大きな溜め息を吐くと、セドリックとシシュリーの戦いを見守る。


(多分、引き分けかな?)


誰かが止めに入るまで決着はつかないだろうと、エリアナは予測した。


時間が勿体ないと、エリアナは二人を結界で囲むと黒竜とラビを抱え広間へと歩き出す。


音楽が流れると、宙を飛ぶ黒竜とラビと手を繋ぎダンスを踊る。


体を揺らすだけのダンスだが、周りからは大歓声が上がる。


この夜会の日以降、黒竜が契約する人族の少女を竜人国では「神の娘」

と呼ぶ事になる。


正しく神に気に入られし娘であるため、間違いではない。


夜会はエリアナと黒竜との可愛らしいダンスを見て満足する者と。


セドリックとシシュリーの戦闘を楽しむ者とで分かれていた。


夜会を楽しむエリアナだけれど、今日を境に自分の身が置かれる環境が変わる事になる事に覚悟はしている。


スヴァルト王国に帰れば騒がしい毎日になる未来は明らかだった。


物語の行方も解らないけれど、自分らしく生きる事を誓う。


第一章 完結しました。

お付き合い頂きありがとうございます。

一旦完結とさせて頂きます。


第二章は八月中旬頃に投稿する予定です。


お時間ありましたら覗いて下さい。

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