80話 『エリアナを敬愛する会』なにそれ?
魔法科と対戦したあの日以降、エリアナのもとに贈り物が届くようになった。
送り主の名前は記されていない。
お菓子だったり、髪飾りだったりと高価なものではなかった。
お菓子はラビと黒竜が喜んで食べるので、お腹に入ったお菓子を返そうにも返せない。
エリアナは今日も届くお菓子の山を見て、溜め息を吐いた。
そんなある日、魔法科のグイード先生から呼び出しを受けた。
授業が終わりセドリックと帰ろうとC棟を出ると、グイード先生が待ち構えていた。
(あれ?魔法科の授業はまだ終わってないはず?)
「エリアナ君、セドリック君。少し時間をいいだろうか」
先生からそう問われたならば、「はい」の一択しかないと思う。
セドリックに視線を向けると頷いてくれたのでグイード先生についていく。
教師が持つ個の専用部屋に案内され、椅子に座る。
グイード先生はお茶を淹れるためエリアナに背中を向けている。
これ幸いにと、エリアナは教師専用の部屋を見回し観察していた。
(難しい本ばかりね……)
「どうぞ」
グイード先生に声をかけられたエリアナは、キョロキョロするのを止め慌てて前を向いた。
セドリックとグイード先生に笑われたが、エリアナは澄ました顔で紅茶を口にする。
「時間を取らせて申し訳ないが、話して置きたい事がある。
エリアナ君にお菓子や小物の贈り物が届いていないかい?」
エリアナは紅茶を置き、グイード先生に報告をする。
「対戦があった翌日から贈り物が毎日届いています。科が変わっても私宛に教室に届くのですが、お返ししたくても送り主の名前もありませんし、お菓子はラビと黒竜が直ぐにお腹に入れてしまうので……」
「そうか……」
黙り込むグイード先生の反応を見ていたセドリックが問いかける。
「魔法科の生徒ですか?」
「いや…違う。違わないのか?いや、あれはそうなのか?」
エリアナもセドリックもグイード先生が何を言いたいのか解らなかった。
「私の教職以外の役職を知っているか?」
「魔法師団第三隊長だと記憶しています」
「セドリック君の言う通り魔法師団に所属している。第三部隊は特殊な部隊で隊としてはまだ新しい部隊だ。まだ部隊の内容は公表されていない……」
グイード先生が話しにくそうにするが、エリアナとセドリックは次の言葉を待った。
「第三部隊は、女性の魔法師が所属している。そして、魔法騎士として今育成している最中なのだ……。で、先日の魔術科との大会も役に立つだろうと部隊の者達を観覧に招待したのだ……」
グイード先生がいきなり頭を下げた。
エリアナは驚いて体が跳ねたせいで椅子から落ちそうになるが、セドリックが支えてくれた。
「すまん!我が部隊には私の妹が所属しているが、妹を筆頭に『エリアナ様を敬愛する会』なるものがつくられたのだ。
魔法科の一部の女子生徒がエリアナ君に憧れていた事は知っていたが、その生徒達も会に入会している……」
「えっと……?」
セドリックはお腹を抱えて笑い始めた。
「セド?何が面白いのかしら?」
ジト目で見るが、全く効果はないようで笑い続けていた。
「エリアナ君、本当にすまない。妹は冒険者をしていたんだ。かなり前だがセドリック君と婚約した時に冒険者ギルドで難癖をつけられ、ギルドを氷漬けにした事があっただろう?その時に妹はギルドにいたらしくて、エリアナ君の魔法で氷漬けにされたと聞いた。
その強さと美しさに惚れたらしいんだ……。絵師に頼んでエリアナ君の絵を会のメンバーと共有したり、学園でのエリアナ君の話を聞くお茶会やらも開かれている」
「………」
「確かにあの時のリアは気高く美しかったので、仕方ないかもしれません」
「グイード先生、なぜそんなに必死に謝罪をされるのですか?贈り物は正直控えて欲しいのですが、会を作られても私に影響はないと思います。学生ですし、その部隊とは関わる事はないのですから」
エリアナには第三部隊と接する機会はないはずだと考えていた。
日本より身分や職種を区別される異世界。
特殊部隊と学生はそうそう出会うことはないはず。
変な会を作られて驚きはするが、それだけ。
「その、だな……。第三部隊の指南役にエリアナ君が指名されたんだ……「お断りします」
エリアナは被せ気味に秒で断りを入れた。
「私は忙しくさせられているんです。これ以上は無理です!もうすぐダンジョン攻略も始まります。私は引率と救護支援と役目が多くあります。時間がありません!」
エリアナは大きな声で訴えた。
「グイード先生。リアはSSランクの冒険者であっても、まだ学生です。それも一学年です。無理をさせすぎです」
「そうなんだが………」
「第三部隊への関与はしません。もし指南役を強制するのならば、その会とやらも認めませんし贈り物もその場で燃やしますから」
エリアナの本気の言葉に、グイード先生はコクコク頷くだけだった。
「お話が以上なら失礼します」
エリアナは立ち上がるとセドリックを置いて部屋から出て行った。
急いで追いかけたセドリックだが、数日エリアナから口をきいて貰えなかったようだ。
魔術科は大会で自分達の実力を実感したからか、エリアナ頼みにする事が減り自分達で新しい魔術を考案したり更に実力を上げていった。
騎士科は学年末の大会まで自己鍛錬となる。
騎士化はダンジョン攻略に向けての訓練はほとんどしない。己の腕に自信があるからダンジョン攻略より、学年末の大会に重きを置いている。らしい………。
エリアナの指導する生徒はエリアナが授業に参加をすると教えを乞うのは変わらなかった。
休日明けからいよいよダンジョン攻略が始まる。
エリアナは引率する生徒の名簿を貰っていた。
魔術科の一学年はエリアナとセドリックが引率する。二学年、三学年はランダムで引率となる。
エリアナかセドリックのどちらかが手を貸した時点で失格となり、最初からの攻略となる。
休日は街に行こうと予定していたが、ダンジョンに潜る準備で生徒があちこちに出没すると聞いたエリアナは、邸に籠ることを選んだ。
神様が『おにぎりが食べたいと!』と言い出し、黒竜がおにぎりに興味を持ったので黒竜のために料理を始めた。
『エリアナのおにぎりは美味しいんだー。いくらでも食べれちゃう』
ご機嫌な神様と黒竜の会話は弾んでいた。
「あ!とても大切な事を伝え忘れていたわ。食事の時に話すわね」
エリアナはすっかり忘れていたある事を思い出した。
黒竜から唐揚げの話を聞いた神様が、『唐揚げ食べたい!』とごねるので、うんざりしながら唐揚げも作っていく。
何だかんだで神様のお願いを聞くエリアナにセドリックは微笑ましくそのやり取りを見ていた。
テーブルには塩おにぎりと爆弾おにぎり。唐揚げのてんこ盛りを用意した。
飲み物は勿論、緑茶を淹れる。
『【「「いただきまーす」」】』
もりもり食べる黒竜が落ち着くまで話を切り出すのはやめておく。
片手におにぎりを、反対の手に唐揚げを持つ黒竜の可愛さにエリアナは暫し見入っていた。
『ところで、話って何だったの?』
神様の問いかけに黒竜も食べることは止めないが、顔を向けている。
「黒竜に言い忘れた事があって。黒竜を連れ出したファルナ殿下とレーニア様が言っていたのだけれど、仲間に角笛を持っていた人がいたらしいのだけど、黒竜は知ってる?」
エリアナが問いかけると、黒竜は急いで手にするご飯を食べ終えた。
【角笛ではなく、竜笛であろう。竜笛を奏でれる者はあまりおらん。竜人国の竜使いで間違いないだろう】
「その竜使いが主犯の一人って事よね………。竜使いって偉いの?」
【竜を使役できるのだ。偉いに決まっておる。だが、竜使いは竜を崇める一族。裏切るとは思えんのだが】
「そんうよね……神様は何か知ってる?ずっと呼んでたのはその事を聞きたかったの」
『んー知ってるけれど、話せないかなー。神は世界を造り与えるか、消し去るしか出来ない。助言とか導く事は出来るけど、答えは教えられない。伯爵を治癒した時も導いた先にエリアナが答えを出した。あれも神としたはギリギリだったんだよー。他の神から呼び出されて大変だったんだから』
「仕事が溜まってるっていなくなったのは、その事があったの?」
神様は何も答えないけど、ニッコリ笑った。
『行けば解るよ』
神様は唐揚げを食べながらポツリと呟いた。
「行くって……どこ?」
神様は笑顔のまま答えない。
「竜人国でしょうか……」
神様は小さく頷いた。
『凄いね!エリアナとセドリックは自分達で答えを導きだした。竜人国だとね』
神様はこっそりウィンクをして、エリアナとセドリックを褒める。
その大袈裟な行動を見る限り神様は監視されているのかもしれない。
エリアナとセドリックは気が付いたようだ。
答えは竜人国にある。
休日明けからダンジョン攻略が始まる。
竜人国へ行くには長期休暇でしか向かえない。
エリアナは悩むが、とりあえずダンジョン攻略に専念してどうにか竜人国へ行く日を見つけようと考えていた。
そして、神様に聞きたい事が出来たけれどそれは二人っきりの時に聞く事にした。
食事の片付けをしていると神様が子供の姿になりプカプカ浮いて近づいてきた。
『さっき何か言いたそうに感じたから聞きに来た』
神様にそう言われエリアナは片付ける手を止め、神様と向かい合う。
「機会があれば聞いてみようと思っていたの。神様にダンジョンのドロップ品を偽物に替えて欲しいと〈お願い〉をしたでしょう?あれは大丈夫だったの?もしかして、罰か何かあった?」
エリアナは自分が神様に無理を言ったのではないか気になっていたのだ。
『ん?あれは大丈夫だよ。偽物に替えるために以前のダンジョンを消して新しく作り替えたから大丈夫。ダンジョンが強くなっていたのは作り替える理由が必要だからね』
ダンジョン攻略の難易度が上がったのは、エリアナの願いを叶えるためだと神様は告げた。
「ありがとうございます。神様。罰にならなくて安心しました」
ホッとした表情のエリアナに神様が手を伸ばして頭を撫でた。
『やっぱりエリアナは良い子だね』
少し照れながらもエリアナは笑顔を向けると片付けの続きを始めた。
『エリアナ、暫く黒竜は邸にいたほうが良い。僕の側にいたほうが安全だ』
「解りました。神様と黒竜はお留守番をお願いします。お弁当を用意しますね」
お弁当の言葉に喜ぶ神様。
なぜ黒竜を邸に留め置くのかは解らない。でも、神様がその方が良いと言うのなら黙って従う事にした。
黒竜を邸に留める理由は次の日の学園で知る事となった。
今日は朝から領地経営科での授業から始まる。
大会の関係で久し振りに領地経営科での授業となる。
特待生三人衆と面と向かって会うのも久し振り。
「「「エリアナ様、セドリック様おはようございます」」」
三人が見事にはもり挨拶する。
「お久し振りです」
笑顔で返事をすると三人が照れている。
セドリックと別れ、教室の席に座ると大会でのエリアナの姿を誉めてくれた。
「見てくれていたのね。ありがとう」
「いえいえ、絶対に見に行きますよ。自由参加ですがほとんどの生徒が見学していましたよ」
大会の話をしているとジルが何か思い出したのか話を始めた。
「そう言えば侯爵様が話されていましたが、竜人国から留学生が来るみたいです。名は伏せられましたが、二学年に転入のようです」
竜人国と聞いてエリアナの心臓は跳ね上がった。
(神様はこの事を知っていたから黒竜を邸にお留守番させ神様の側で守れるようにしたの?)
エリアナは神様の内心に気が付くと、有難いと思うよりも先に恐怖心が先に襲ってきた。
表情に出さないようにはしていたため、誰かに気が付かれる事は無かった。
エリアナは授業を聞く事を忘れ、黒竜の事と竜人国からの転入生の事ばかりが頭を過る。
授業が終わり休憩の時間となると、セドリックが鐘の音と共にエリアナの元へと急ぎ会いに来た。
エリアナは笑って特待生達と話しているが、セドリックには解ったようでエリアナを抱きしめると抱え上げて顔を覗き見た。
「顔色が悪いですね。医務室に行きましょう」
特待生達はエリアナの不調に気が付かなかった事に慌てている。
「エリアナは不調を隠すのは上手いから、君達が気が付かなくても仕方ないんだ。気にする必要はないから」
そう告げると、エリアナを抱えて医務室へと向かう。
ベッドにエリアナを座らせるとセドリックも隣に座った。
「どうしたのですか?」
セドリックがエリアナの肩を撫でながら問いかけた。
「竜人国から転入生が来る話しを聞いたの。ジルを支援している侯爵家は外交官だから朝、話が出たの」
セドリックはアーノルド殿下から話を聞いていた。殿下が転入生の側につき学園生活を支える事になるからだった。
「昨日ね神様と話をしたの。その時に黒竜を学園には行かせず邸に置いた方が良いって言われ、黒竜を神様の側に置いてきたの。
神様はこの事を知っていたから黒竜を神様が守れるために学園へ行かせないようにしたのよ?きっと……。なら、これから先何かが起こるって事でしょう?」
エリアナは不安な表情でセドリックに問いかける。
(殿下が転入生と共に学ぶのならば、必然的に選択教科がエリアナと同じになる。神様はこの事があるから黒竜をエリアナから離したのか……。ならば、転入生は黒竜と関わりがあったと答えが出てくる)
「リアと恐らく同じ答えになると思います。転入生は黒竜の件に関わりがあるのでしょう。神様はそれを知っていた。だから黒竜を離す事でこの答えを導かせた。そうなります」
青褪めた顔のエリアナは小さく頷いた。
「ならば、竜人国へ早目に行く事にしなければなりません。父に相談をしてみましょう」
エリアナを抱き寄せ、大丈夫だと背中を擦り続けた。
エリアナの気持ちも落ち着いて来たため、途中からではあるが授業に戻った。
午後からは魔術科でダンジョン攻略についてヨリ先生からの説明がある。
(セドと婚約をした頃はダンジョンに行きたくて仕方なかったのに、憂鬱に思う日が来るなんて……)
自分の気持ちの変わりようにエリアナは気落ちした。
今の自分は何が楽しみなのかが解らなくなって来ていた。
憂鬱になる気持ちを鼓舞して今はやるべき事を考えるようにする。
ダンジョンで生徒を守る事。
黒竜を守る事。
家族やセドリックを幸せにする為に頑張る事を何度も繰り返し考え、明日からのダンジョン攻略に気持ちを引き締めた。
明日、竜人国の特待生と関わる事になる事を、エリアナはまだ知らない……。




