81話 竜人国の王子とヒロイン
エリアナはベッドの上で大きく背伸びをする。
「今日からダンジョンね」
エリアナは学園に行く支度をするとダイニングへと向かう。
そこには既にセドリックが座り黒竜とラビに朝食を取り分けていた。
「おはよう、セド。ラビに黒竜も」
挨拶を交わし席に着くと、セドリックはエリアナの朝食も取り分けてくれた。
昨日、学園から帰って来て直ぐにラビにお礼を伝えた。
「黒竜を守るためにありがとう」と。
邸にお留守番のラビは、黒竜の側にずっといてくれたようだった。
エリアナの言葉に対してラビは何も言わなかった。
代わりにラビは鼻をひくひくさせエリアナに擦り寄ると、褒美にと言わんばかりに抱っこをせがんだ。
柔らかな真っ白の毛並みをエリアナはラビが満足するまで撫で続けた。
「昨日父上に竜人国へ行けないか相談をしたところ、何とかなりそうだと言われました。父上には黒竜と竜人国との関わりを説明するしかなくスタンピードの真相を伝えたところ、エルランドさんと協議し陛下に話がいくそうです」
「スタンピードに竜人国の者が関わっている事は、スヴァルト王国では私達とエルランドさんくらいしか知らないのかしら?あと、リリアーヌ様達ね」
「陛下がアルーン国からどう説明を受けているかは不明です。
ですが、父上が言うには王城で竜人国の話題を聞いた事がないらしく、アルーン国で機密扱いならばこちらに情報は回ってこないとも言っていました。自国の王子のやらかしを他国に大っぴらに知られるわけのはいけませんし、竜人国の者が関わっているかもしれないとなるとアルーン国も動けませんしね。国力の差は明らかですから」
「竜人国からの転入生に関わり合わないようにするしかないわね………」
エリアナは溜息をつきながら朝食に手を付ける。
竜人国に行く手筈が整うまでダンジョンに専念することにした。
学園に到着すると授業が始まっている科も多いはずなのに、大勢の生徒が門の近くに人の壁を作って集まっていた。
エリアナは興味がないので通り過ぎようとしたが、人の壁の中から声をかけらた。
「セドリックにエリアナ嬢。すまないがこちらに来てくれ」
声の主はアーノルド殿下だった。無視することもできたが、エリアナとセドリックは人の壁が割れた場所からその中心に歩いた。
アーノルド殿下の横に並び立つ男性は転入生であろうと予測した。
竜人はとても美しい容姿を持つ。誰もが魅入る程の端麗な容姿は正しく竜人独特であった。
だが、その隣に立つ女性にエリアナもセドリックも驚いた。
(なぜエイミー様が転入生と一緒にいるの?)
行方知れずとなっていたエイミーが、転入生の腕に絡みついていたのだ。
「こちらは竜人国の第三王子であるシーベル殿だ。私が世話役となるため選択教科が同じになる。宜しく頼むよ」
「私はセドリック・ハーマン。アーノルド殿下と同じ二学年となります。そして、こちらが私の婚約者のエリアナ・カーマイン子爵令嬢です」
「宜しく頼むよ」
シーベル殿下は一言そう伝えると、セドリックに手を出し握手を交わした。
次にエリアナへ握手を求めてきたので、エリアナも握手を交わす。
その時、手のひらに魔力が集まるのを感じたので瞬時に防御の魔術を手の中に描き魔力の注入を防いだ。
防御の魔術には吸収の魔術も展開した為、シーベル殿下の魔力を吸収しておく。
手を離す瞬間、キュッと握られ気持ち悪さが全身に走るが気が付かれないように堪えた。
「エリアナ嬢はSSランク、セドリックはSランクの冒険者だ」
アーノルド殿下がそう紹介すると、エリアナが一瞬だけだが悔しそうな顔をした。
「殿下はシーベル殿下を案内するのですよね。私達はダンジョンの準備もありますから先に教室に向かいます」
セドリックとエリアナは一礼し、その場を早々に離れた。
エリアナは歩きながら自身の右手に残る魔術紋を眺めていた。
「リア、それは何ですか?」
「これはシーベル殿下と握手を交わした時に魔力を注入されたの。事前に防いだので問題ないし、その魔力を閉じ込めてあるから魔力を見れるアードと黒竜に見てもらおうかと思って」
セドリックは慌ててエリアナの両肩をつかみ体を向かい合わせた。
「そんな事をされて、なぜ反撃しなかったのです!」
セドリックがかなり怒っている事はエリアナも理解出来ている。
「黒竜は魔力を感知できれば相手が解ると言ったわ。それに、この魔力は少し変なのよ。だから、アードに確認してもらわないと何かあった時に対策が取れるでしょう?」
「確かにそうですが……」
頭ではセドリックもエリアナが言いたい事は解る。でも、エリアナを心配する気持ちは理解したくないと拒否をする。
苦しい表情をするセドリックに、エリアナは手を伸ばし頬に手を添える。
「セドが私を心配しているのは知っているわ。ありがとう」
頬を撫でると、手を握りエリアナは自分の気持ちを伝える。
「黒竜の事はきちんと解決しないと、また違う竜を使って何かを企むかもしれない。絶対に黒幕を潰さないと平和な未来にならないでしょう?今踏ん張らなければ、未来はないかもしれない」
セドリックは何も言わなかった。エリアナの手をしっかりと握り教室へと向かう。
一学年の教室ではダンジョンに潜るパーティーがヨリ先生と一緒にエリアナを待っていた。
今日ダンジョンに潜る生徒は一学年で二組。二学年、三学年は三組ずつで計8組の32人に同行する。
最初はダンジョンのDエリアを攻略するが、最初のエリアは肩慣らしのため全てのパーティを一緒に潜らせる。
Dエリアナに慣れたら、次からはBエリアナへと階層をあげどんどん攻略して行く。
攻略時間はダンジョンに記録される為、攻略時間を不正する事は出来ない仕組みになっている。
「最初のエリアでは全員同時に潜ります。攻略しては出てまた潜るを繰り返すので、無理はせずダンジョンに慣れる事に今日は専念して下さい」
エリアの説明に全員が頷いた。
ダンジョンへは二学年の教室の扉から向かう。
エリアナは始めて二学年の教室へと入る。
同じ教室なのに空気が何だか違う……。
ダンジョンに潜る生徒達を、二学年の教室に残る生徒が激励の言葉をかけてくる。
「頑張れよ!」
「早く馴染んで一気にダンジョン踏破して魔術科が一番になろうぜ!」
ヨリ先生とヴィラ先生の見送りで、全員がダンジョンへと向かうために教室の扉をくぐり抜けた。
目の前に現れたのは、久し振りのダンジョンの龍の支柱の側だった。
支柱を皆でくぐり抜け、ダンジョン入口の大扉の前に来た。
扉の前には受け付けの人が立っていた。
「ダンジョン攻略の生徒ですね。ダンジョンに潜れるのか確認するため、石碑に手を翳してから扉の中にお入り下さい」
先ずセドリックが先頭に立ち石碑に手をあてると青く輝いた。
「青く輝いた方は中へ」
次々と生徒達は石碑に手をあて扉へと向かう。
「申告通り全員がBランク以上と確認されました。頑張って下さいね」
受け付けの人が手を振り生徒達をダンジョンへと送り出した。
全員が前を向いてダンジョンのDエリアを目指す。
後ろでは大扉の閉まる重厚な音が聞こえる。
皆、振り向かず前を向く。
今回からダンジョンの難易度が高くなった。
エリアナを含め、二学年、三学年の生徒はダンジョン経験があるため少し興奮している。
初めてダンジョンに潜る一学年からは緊張が魔力から感じられる。
「エリアに入ったら何時でも魔術を発動出来るように構えてください。
攻撃と盾を上手く使いこなして下さい!」
後方からのエリアの指示に、手をあげ了承の合図をする。
目の前に光が見えた。
その先はダンジョン内部。
先頭を歩くセドリックから大きな声があがる。
「エリアに入ると直ぐに魔物がいる!全員戦闘態勢のまま光の中に入れ!」
ダンジョンの光の中に生徒達とセドリックとエリアナが吸い込まれて行った。
二学年の教室に入って来たアーノルド殿下が側近達にセドリック達はダンジョンに向かったのかを尋ねた。
「先程ダンジョンへと向かわれました」
「そうか。見送りたかったが無事に帰って来るのを待とう」
アーノルド殿下の後ろには、シーベル殿下と腕にしがみつくエイミーがいた。
側近達の視線に気が付き、アーノルドはシーベル殿下を紹介する。
「こちらの学園での卒業を希望されている。一緒に学ぶ事になるので、宜しく頼む」
側近達は礼をとりシーベル殿下に挨拶をする。
側近達はそのままアーノルド殿下にシーベル殿下はダンジョンをどうするのかの話を始めた。
エイミーは新たな側近達に無視されてしまった。
(アーノルド殿下の側近が変わっていたなんて……エアハルト様達はどうしているのかしら?まぁ、もう必要ないからどうでもいいけど)
「エイミー?君はこの学園の生徒だよね?彼等とは知り合いではないの?挨拶もしないなんて……礼儀がなってないよね」
「いいの。仕方ないのよ……私はエリアナ様に嫌われているから……」
シーベル殿下の腕をキュッと掴み、悲しげな瞳で見上げる。
「エリアナって、さっきの令嬢でしょう?何故彼女がエイミーを嫌うの?」
「それは……「エイミー嬢。それ以上エリアナ嬢に対しての不敬な発言は許さない。君はもう少し立場を考えた方が良い」
エイミーを厳しく叱責したのは、かつて共に過ごしたアーノルド殿下だった。
エイミーを見る視線にかつて向けられた優しい眼差しはどこにもない。
ただ、冷たい視線をエイミーに向けている。
その冷たい空気にエイミーは身を強張らせた。
シーベル殿下は少し考える仕草をすると、エイミーに声をかけた。
「アーノルド殿下の言葉とエイミーの言葉を聞く限り、エイミーとエリアナ嬢には行き違いがあるようだね。
話しをきちんとすれば、お互い蟠りも無くなるはずだよ」
腕に縋るエイミーの手をポンポンと優しく撫で慰めている。
(違う!行き違いじゃないもの。あの女はただ邪魔なモブなのよっ!)
エイミーの心の中の言葉とは裏腹に……。
「そうかもしれません……。エリアナ様といつか仲良くなれたら良いです」
小さく微笑み、シーベル殿下へと言葉を返した。
アーノルド殿下や側近達の心の中は、大きな舌打ちが鳴っていた事をエイミーが気が付くはずはない。
元側近達のその後を事を尋ねる事もなく、新たな側近に取り入ろうとしたのをアーノルド殿下は見逃さなかった。
側近達がシーベル殿下に礼を取っている最中の事。
エイミーは次に自分に来るだろう側近との挨拶をする為に笑顔を作り直し、甘い笑みの表情を浮かべていたからだ。
その賤しい行いに虫酸が走る。
(あんな女と過ごしていた自分はなんと愚か者だったのか。それに転生者の割には違和感しかない……何かが引っかかる……)
アーノルドは王家に残されている転生者についての書物を読み漁っていた。
転生者についての知識は頭に叩き込んでいる。
愚かな行為しかしない今代の転生者……。
国としてエイミーとイザベルは崇める対象では無くなり、既に監視対象に切替わっていた。
シーベル殿下に連れられ学園に戻ってきたエイミー。
彼女が何を企んでいるのか、まだ誰にも解らない。




