77話 エアハルトは現実を突きつけられる
エリアナはまだ落ち込んでいたが、ペアを作るために無理やり意識を戻した。
こっそり鑑定をかけ、相性と強さのバランスを考えて組み合わせていく。
AランクとBランクを組み合わせて平均的なペアを作った。
「今組んだペアですが、どのペアも全て相手と同じ力量です。これから対戦までの間に実力を上げてもらいます。その為に、私とアルバートと対決をし続けてもらいます」
全員がギョッとしている。
エリアナとアルバートと対戦など、無理があり過ぎる。
「時間もありませんし、実力の差もあります。ですので、1対3組の対戦とします。私とアルバートは魔法しか使いません。3組を同時に相手をするのです。手加減はしませんから、頑張って下さいね。出たかった大会に私は出れないのですよ?代わりに対戦を楽しみたいと思いますので、宜しくお願いします」
(((完全なるとばっちり!!)))
理不尽な理由と要求ではあるが、エリアナの提案は強くなれる可能性があるのは確かなのだ。
生徒達は全員がエリアナの提案に了承した。
「まず、アーノルド殿下と側近の方達と対戦します。相手は私です。アルバートは三学年の方を好きに選んで対戦して下さい」
ニッコリ笑顔で指示するエリアナだが、逆に皆の恐怖心を増させるだけであった。
生徒達はアーノルド殿下達の実力を長期休暇中ずっと見てきた。殿下を筆頭に、側近の方達も相当な実力で全員がAランクの冒険者となっていた。
「全員がAランクだよな?」
「複数のAランクとエリアナ様は戦うのかしら、しかも魔術を使わないって」
生徒達はざわざわし始める。
「始めます。殿下達も本気で来て下さい」
殿下達は力強く頷きエリアナと対戦を開始した。
アーノルド殿下[火属性]
伯爵令息マチアス[水属性]
侯爵令息エドワルド[雷属性]
伯爵令息アロンソ[氷属性]
侯爵令息サニエル[水属性]
子爵令息のグラン[火属性]
火属性や雷属性は攻撃に特化している。
氷属性と水属性は防御に特化している。
グランだけは殿下の側近では無いので、ペアを組まされて顔色が悪いが、バランスを考えるとグランは能力が高く側近達と対等に戦えるくらい実力がある。
「全力で来て下さいね!」
エリアナは自身の周りに風魔法を展開し、防御する。
殿下は紋から炎を幾つも放ちエドワルドはエリアナの上空に紋を浮かべ、雷撃を撃ち込む。次々と魔術を展開させ、エリアナへと攻撃を始める。
エリアナは風魔法を展開したまま、上空の雷撃に対して土魔法で壁を作る。
雷は壁を伝い地面に放電する寸前で、エリアナが雷に水魔法を絡ませて上空へと向きを変えてエドワルドが展開する紋へと撃ち込んだ。
アーノルド殿下の火属性は、風の刃を放ち霧散させる。
風の刃はそのままアーノルド殿下へと向かうが、マチアスが魔術紋を地面に展開し氷の壁を作り防御する。
エリアナは次々と魔法を同時に放ちながら、三組と対戦していく。
そして、エリアナはある事に気が付いた。
(側近達の戦い方は嫌いだわ……)
エリアナは四人の側近達の手に氷魔法で作った玉を勢い良く当てた。
側近達は手を庇い地に伏していた。
生徒達からは悲鳴があがり、側近達は痛みに悶絶していた。
エリアナは側近達の前に立った。
「貴方達は何をしているの?ここは殿下に媚を売る場所じゃないのよ。殿下がやりやすいように動いていたわね。
サニエル様のペアはグランよ?グランの盾にならず殿下の盾になるとは、どういう事なのかしらね」
エリアナはサニエルを睨みつけた。
「今、目の前で子供が今にも魔物に殺されそうだったとしましょう。
貴方達は殿下に手柄を立てさせるために時間を使うの?直ぐに助ける行動をしないの?」
側近達は黙ったままである。
「どういう事だ?忖度する暇があるなら、全力でエリアナ嬢を倒すように何故動かない!」
殿下が側近達に叱責する。
「エリアナ様も殿下もそれくらいにした方が良いよ?仕方ない事じゃないの?側近の方達はそうやって教育を受けてるんだし、無意識に動いちゃっただけかもしれないじゃん」
いつもおちゃらけているグランが、側近達を庇う。
「そうね……そうかもしれないわね。でも、次に同じ事をしたら叩き潰すからね!」
エリアナは怒りながら、側近達の手に回復ポーションをかけ傷を治した。
「今度は私も少し本気をだすから、殿下を気にする暇はないわよ?」
ニッコリ笑って可愛く言っても、内容が可愛くはない。
側近達の顔は引きつりながらも、次は殿下を気にせず全力で戦う事に決めた。
セドリックと対戦していた三学年の生徒は、セドリックにエリアナと殿下達の対戦を見たいと懇願し見学を始めた。
セドリックの戦いも、エリアナの戦いも全員が見たい!と懇願され、時間制限を付けて交代で戦う事に決まった。
一人の生徒が、
「魔法科に勝つためには、お二人の魔法を見る事はとても勉強なります。それに、自分達の魔術をどう使うかを研究出来るので、お二人の戦いは是非とも見学したいです」
そう言われてしまえば、納得してしまう。
その日から魔術科では、訓練場での壮絶な戦いが繰り広げられた。
生徒達はボロボロになりながらも、魔術科が魔法科に勝つために必死で訓練をし続けていた。
ちなみに、黒竜の学園への同行は許可された。
エリアナの守護竜として周知されているので、否はないそうだ。
エリアナが登校すると、黒竜はエリアナの背中に張り付いている。
前世よく目にした幼い子供が動物のリュックを背負っているみたいで、少し恥ずかしいエリアナだった。
そんな黒竜の姿がとても可愛いと、女子からの人気は高い。
たまに黒竜がパタパタと飛んでいると、黄色い声援が飛び交うくらい人気者になっていた。
大会まで後二日となったある日、エリアナは殿下の側近にC棟の出入り口で止められ側近達の背後に隠された。
「少し面倒事になりました。少し隠れていて下さい」
エドワルドの背中から前を覗き見ると、殿下の隣にはセドリックがいた。
殿下とセドリックと対面しているのは……。
「あれは、エアハルト様かしら?」
エリアナはこっそり覗くが、顔がよく見えない……。
「エアハルト様ですね。少しやつれてるみたいです」
エリアナの横から聞こえる声に顔を向けると、アーネットとケイシーにメレニーがいた。
「今から生徒会なんです。大会まで後二日でしょう?やる事が多すぎて、終わらないのよ」
溜め息を吐きながらアーネットがそう話すと、ケイシーとメレニーも溜め息を吐いた。
「忙しいのに、エアハルト様のせいで時間が無駄に過ぎるわね」
メレニーはご立腹のようだ。
「エリアナの指導のおかげで魔術は上手くなるけど、生徒会の仕事をする体力がないのよね……」
アーネットは体力お化けのエリアナに少しだけだが、ジト目を向けた。
「ごめん。生徒会の仕事まで考えてなかったわ。この後、私も手伝うわ。生徒会には名前はあるから、手伝っても大丈……夫」
エリアナ達がこそこそ話をしていると、殿下達の方から大声が聞こえた。
「エイミーが消えたんだ!男爵家に行ってもずっと帰って来ていないと。男爵も探しているが見つからないんだ!殿下の力でエイミーを探してくれっ!」
エアハルトは殿下に必死に頼み込んでいるが、殿下もセドリックも返事をする様子は見えない。
「ずっと一緒にいたじゃないか!仲間だろう?」
エアハルトは泣きそうな声で必死に頼み込んでいる。
「エアハルト、貴方は自分の今の立場を理解していますか?貴方はもう殿下の側近でもないのです。幼馴染として謹慎中に殿下は貴方達に伝えたはずです。今のままでは駄目だと。もう一度側近として、一貴族として見つめ直すように。そう言われたはずです」
セドリックは殿下の前に出ると、エアハルトに問いかける。
「謹慎中、貴方達は何をしていましたか?こそこそと抜け出して、反省するどころかあの女と遊んでいましたよね?誰にも見れていないと思っていましたか?貴方がたは試されていたのですよ?ご両親の話や再教育で再び側近に戻れるのかをね……」
エアハルトは驚いているが、エリアナ達からしてみれば「今更」でしかない。
「側近を外れて……る…?」
青褪めたまま、ポツリと言葉を漏らした。
「当たり前です。怠惰な者は殿下の側近には要らないそうですから」
心底軽蔑をするセドリックは、冷たい言葉を投げた。
「エイミーが……エイミーが言ったんだ!自分は将来この国の魔法師団長なれるから大丈夫だって。未来は確定しているからって……転生者でヒロイン?のエイミーを大事にすれば未来は……未来は約束されているって……」
そう言いながら、エアハルトは膝から崩れ落ちた。
(私が物語を改変したんじゃない。エイミー様が自ら改変して全てを壊したのよ)
エリアナはエイミーがなぜそんな言葉をエアハルトに言ったのか理解出来ている。
(物語通りに進めば、その道は確かにある。でも、本の中で決められた道しかない訳では無いのよ?沢山の人や感情が現実にはあるのに……エイミー様はそれに気が付いていない。自分が世界の中心であると勘違いしているのかもしれない……)
エアハルトはエイミーの被害者かもしれないと思ってしまう。
(もしかしたら元側近のパトリック様もカール様も同じ事を言われたのかもしれない。転生者が明るい未来を告げる事で信じてしまい努力を怠った結果がこれなのね……)
エリアナは同じ転生者として、やるせなさを感じていた。
浮かない顔でエアハルトを見つめるエリアナに、アーネット達は声をかけるのを躊躇った。
「エアハルト。家に帰り魔法師団長ときちんと話しをした方が良い。今の君を見る限り、師団長と話しをしていないのが解る。自分の為に、きちんと向き合って話をするんだ」
俯いたままのエアハルトに殿下がそう話をされた。
「行きますよ。エリアナ様はなるべく皆の真ん中にいて下さい」
エドワルドがエリアナに声をかけ、側近達に囲まれて入口から出て行く。
アーネット達も隙間を埋めるようにエリアナを隠して歩き始めた。
俯き項垂れたエアハルトの横を通り過ぎる時に、隙間からエアハルトと視線があった。
驚いた表情から一瞬で憎悪に満ちた視線をエリアナに向けた。
(無理なのかもしれない……)
エリアナはエアハルトが変わる事はないと感じた。
エアハルトから視線を外した瞬間。
「ひっ!」
怯えた奇声が聞こえた。
エリアナをはじめ全員が振り向くと、座り込むエアハルトの顔の前に黒竜がいた。
【なぜお前はエリアナに悪意を向けた?死ぬか?】
小さな翼をパタパタさせる後ろ姿は可愛いのに、ドスの効いた低い声はとんでもなく恐ろしい魔力を含んでいた。
授業が終わり出て来た魔術科の生徒達も、ガタガタと震えている。
「黒竜、大丈夫よ。殺したら駄目だから」
黒竜の背後からエリアナは抱きかかえ、顔を見合わせてそう声をかけた。
「守ってくれて、ありがとう」
頭を撫でると、黒竜はエリアナの手のひらに頭をスリスリする。
その光景を見て、周りの生徒はホッと安堵の息を吐いた。
「 エイミー様が仰っしゃられた未来は確かにあったかもしれません。ですが、何も努力せずとも手に入る未来なんてありますか?貴方様は魔法師団長となる為に何をしてきましたか?
自ら前線に立ち、国を民を守る魔法師団長の立場はとても簡単に手に入る位ではないのですよ?
貴方様のお父様である現師団長様は努力をせず今の地位に就きましたか?
貴方の行動や言動は現師団長様を貶めるものだと気が付いていますか?」
エリアナは黒竜を抱きかかえながらエアハルトに沢山問いかける。
理解して欲しい……。
きちんと考えて欲しい……。
まだやり直せるから……。
エリアナの言葉を聞き、エアハルトはまた俯いてしまった。
俯いたまま、何も答えない……。
エリアナは前にいるセドリックに視線を向け、首を振った。
何も言わずにエリアナはエドワルドの側に戻った。
エアハルトが理解してくれたら……。
立ち去る全員がそう願っていた。




