75話 祝勝会と唐揚げ
第二王子殿下一行が駐屯地から立ち去り、ようやく落ち着きを取り戻した。
「スタンピードの沈静化の歓びに浸れぬまま厄介事に対処する羽目になり悪かった!今日は祝勝会をするとしよう!」
エルランドの言葉に、スタンピードに参加した冒険者や騎士団が雄叫びをあげ一斉に解散となった。
「解散なの?って、動きが早いっ!」
エリアナは蜘蛛の子を散らすように消えた冒険者や騎士を見て、ポカーンとしていた。
「祝勝会と言えば、酒に料理だろう?あいつらは宴会に向けてその準備を始めに行ったんだ」
エルランドの足取りも心なしか軽く見える。
エルランドが立ち去る後ろ姿を眺めながら、エリアナはセドリックに質問をした。
「セド、ロックバードってこの辺りにいるかしら?」
なぜロックバードなのか不思議そうにしているが、セドリックが答える前に黒竜がそれに答えた。
【ロックバードなら森のはずれにいるぞ。我の魔力の影響は受けていない場所だ】
「セド!ちょっと今からロックバードを狩りに出かけてくるわ」
エリアナは言い終わるやいなや、魔術を展開し空にかけ上がると黒竜と消え去ってしまった。
その様子を見ていたダリル殿下とキャシーは苦笑いをしながら声をかける。
「エリアナ嬢は自由が似合いますね。とても生き生きしていて、美しいです」
ダリル殿下かエリアナが去って行った方を眩しそうに眺めている。
そんなダリル殿下をセドリックが許すはずがない。
「その言葉の意味を説明していただいても?」
鋭い視線に、冷たい冷気。
嫉妬心丸出しのセドリックを目の当たりにし、ダリル殿下は慌てて説明する。
「いや、私は自由が無い事を諦めて生きてきた。エリアナ嬢は何というのか、何かに囚われている感じを見受けるが、自由の為に戦いそして手に入れた自由を謳歌しているように思う。
だからこそ諦めて生きてきた私には眩しく映るのだろう。
私はエリアナ嬢の生き様を見ているのが楽しいのかもしれない」
ダリル殿下の言葉は神様の言葉と似ていて、セドリックはまた少し不快を感じる。
「エリアナ嬢の隣に立つセドリック殿がいるからこそ、エリアナ嬢はより輝くのだろう。お互いが大切に思い遣る姿を見るのも、また楽しいからな」
この言葉には、セドリックは満足そうに微笑んだ。
「本当、エリアナ好きにもほどがあるわよねー」
キャシーの言葉にセドリックは笑顔のままキャシーに顔をゆっくりと向ける。
「キャシー嬢?何か?」
「ピャッ!何でもありません!」
キャシーはピシッと背筋を伸ばし、ダリル殿下の背に隠れた。
ダリル殿下はクスクス笑い、キャシーとセドリックとのやり取りを楽しんでいた。
その光景を側近達は見つめながら、胸に込み上げる思いを必死に抑え込む。
ダリルも微笑む事はたしかにある。社交をする際の微笑みは王族として相応しい笑みを浮かべる。
だが、それだけだ。
心の底から笑う姿を見るのは何時振りであろうか……。
自然に笑う事が出来るダリルを、側近達は安堵しとても喜んでいた。
終わらないキャシーとセドリックの小さな戦いを見学していると、空から何かが振ってきた。
側近達は驚いて飛び上がった。
目の前に落ちてきたのは、息絶えたロックバードとエリアナだった。
「宴会用にお肉を獲ってきたわ!急いで解体して唐揚げを作るわよー」
エリアナはロックバードを引きずり、ルンルンと駐屯地から離れて行った。
セドリックが慌ててエリアナを追いかけ、二人仲良くロックバードを引きずっていく。
「唐揚げ……」
そう呟きながら、キャシーがふらふらとエリアナの後を追う。
「「「唐揚げ?」」」
唐揚げなる物を知らない面々は、顔を見合わせ確認する。
未知の食べ物に惹かれるように全員がエリアナの後を追った。
エリアナは凄かった。
巨体のロックバードを一人で解体し始めた。
セドリックも手伝い、どんどん肉の塊が積み上がる。
羽根は商業ギルドへ売却する為にサラッと浄化をかけ、ホクホク顔でマジックバッグにしまっていた。
手際が良過ぎて、手伝いすら叶わなかった。
「片栗粉がないけど、この世界で片栗粉と同じ役割の根を見つけたからそれを粉末にしてある粉を代用して……、小麦粉と混ぜれば大丈夫よね。お醤油が欲しいけど、我慢よね。今回は、塩唐揚げね」
エリアナは肉の塊を眺めながら、ブツブツ独り言を呟いている。
「かたくりこ?って何でしょうか。おしょうゆ?」
ダリル殿下の声にエリアナが(ヤバい!異世界に片栗粉の単語はなかった)
慌てるエリアナの姿を隠しながらセドリックが答えた。
「辺境の魔物討伐の時に、少数民族から教えてもらったのだが。リアはどの民族か覚えてなかったみたいだ。私も覚えてないからなー。かーたくりこ?とか言ってたような気がする」
と、とても苦し紛れに言葉を捩り、セドリックが庇ってくれた。
「私も聞いた事があるわ。かたくりっこ?かーたくりっこ?じゃなかったかしら」
(キャシー様まで、ありがとうございます。美味しい唐揚げを沢山作りますからね!)
エリアナはキャシーをうるうる瞳を潤ませ感謝していた。
「ウッ!無理っ……エリアナ様のそのお顔は反則ですっ!」
キャシーが胸を押さえ倒れかけた。
ダリルが支え、キャシーを座らせた。
「キャシー嬢?大丈夫か?」
キャシーは顔を赤らめ、コクコク頷いた。
エリアナはキョトンだが、そんなキャシーを放置して唐揚げの準備を始める。
塩で下味をつけていたお肉に粉をまぶしていく。
大きな鍋に油を入れ、どんどん揚げていくと唐揚げの香ばしさに導かれるようにエリアナの周りは人の壁が出来上がっていた。
黒竜もパタパタと羽根を動かし、唐揚げに釘付けのようだ。
「えっと……、味見します?」
「「「「する!!」」」」
「ああー!一人一個だからねー」
全員が揚げたての唐揚げを口に入れた。
エリアナは溜め息を吐いて、モクモクと唐揚げを揚げていく。
周りが静か過ぎるので視線を向けると、全員が固まっていた。
「「「「美味しい!!」」」」
声を揃えて叫ぶ姿に、エリアナは声をあげて笑った。
黒竜はエリアナの料理するデーブルに座り、エリアナから唐揚げを受け取った。
両手で唐揚げを持ち、パクリと口に放り込む。
調理されたお肉を初めて口にした黒竜は、クリクリの瞳を見開いたまま暫く動かなかった。
「黒竜?口に合わなかったかな?」
エリアナが黒竜の額をツンと押すと、そのままコテンと倒れてしまった。
「え?嘘?」
エリアナは慌てて黒竜を抱き上げると、黒竜はカッと目に魔力を込めるとエリアナに詰め寄る。
【唐揚げをくれ。もう一個食べたいのだ!】
「一人一個よ。無くなるから駄目!皆が食べれなくなるでしょう?」
エリアナが黒竜にそう説明する。
【ロックバードの肉が沢山あれば、唐揚げをもっと作れるのか?肉があれば良いのだな?】
口付けでもするかのように顔を近付け、エリアナに問いかける。
「そ、そうね……お肉が沢山あれば、唐揚げも沢山作れるし、他にも料理出来るから……」
言い終わる前に、黒竜は空に飛んで行った。
【直ぐに戻る!】
と叫んでいたが、もう黒竜の姿は無かった。
「黒竜はロックバードを狩りに行ったのでしょうか」
セドリックがエリアナに話かけると、エリアナは苦笑いをしていた。
「唐揚げが気に入ったみたい。黒竜が戻ってきたら沢山揚げる羽目になりそう……」
今のうちに全部揚げてしまおうと、鍋と魔道コンロを増やして唐揚げを揚げていく。
駐屯地には、唐揚げの良い匂いが漂い始めた。
匂いの場所を探し当てると、そこにはエリアナとセドリックがいる。それにダリル殿下にキャシーと、錚々たる顔ぶれに集まった人達は話かけれずにいた。
「いい匂いがするから来てみたら、エリアナちゃんね」
エリアナに声を掛けたのは、ヤヌスの妻のメルだった。隣にはルアンの妻のレイナもいた。
「エリアナちゃんとセドリック様。SSランクにSランクの昇格おめでとうございます」
二人にお祝いの言葉を貰った。
「お二人の伴侶のヤヌスさんにルアンさんも、Sランクの昇格おめでとうございます」
セドリックがメルとレイナにお祝いの言葉を伝えた。
「え?本当?」
エリアナは初めて聞いたため、慌ててお祝いを告げる。
「だったら唐揚げをお祝いで沢山渡すわ。お酒に合うから、沢山食べて下さいね」
と、会話をしていると。
上空から何かがまた落ちて来た。
ドス、ドンドン。
大きな何かが積み上がって行く……。
エリアナは(まさかね……)と、自分の考えを否定しながら、ゆっくりと音のした後ろを振り返った。
そこには、ロックバードが三頭?もっと?
が、積み上がっていた。
パタパタと黒竜が羽根を動かし、エリアナの目の前に飛んで来た。
【肉を用意した。唐揚げとやらを沢山作ってくれ】
キラキラした可愛い瞳をエリアナに向けてくる。
(可愛いはね……可愛いけども、あのロックバードの山は可愛くない……)
口元をひくひくしながら、苦笑いのエリアナ。
自慢気にパタパタとエリアナの周りを飛び唐揚げを楽しみにする黒竜。
「解りました……。でも、私一人ではこの山のロックバードをさばくのは無理です。唐揚げを食べたいなら、解体をお願いします。そして、そこで笑ってるキャシー様にメルさんとレイナさん!貴女達は私と料理をして下さいね」
エリアナの言葉に、唐揚げの匂いに惹かれて集まった冒険者達が一斉にロックバードの解体を始めた。
ロックバードを解体の輪の中に、ダリル殿下や側近達が血に汚れながらも解体する姿があった。
ダリル殿下は、
「アスティー領は魔物が沢山出るだろう?これくらい出来なければ、婿入りする者として恥ずかしいではないか」
そう言いながら、ロックバードの解体を頑張っていた。
エリアナはメルとレイナに唐揚げを任せる。
キャシーは手伝おうとしいるが、わたわたしている。
前世は宅配で食事を取り、引きこもりで執筆していたらしく料理など皆無だった。
今世は高位貴族で料理などする機会はない。
そうね……キャシーには料理を運んで貰おう!
エリアナは手持ちのハーブと岩塩でチキンステーキを沢山焼いては、皿に積み上げる。
前世のような調味料がない事が悔しかった。もっと美味しい料理が作れたのに……。
日本の料理を皆に食べて貰いたかった。
エリアナは少しだけしょんぼりとなりながらロックバードを焼いていると……
後ろから「カンパーイ!」
と、大きな声が響いた。
驚いて振り向くと、沢山の騎士や冒険者がエールを片手に既に酒盛りを始めていた。
何故かエリアナの周りには唐揚げを貪る人達で溢れかえっている。
エールを片手に唐揚げを食べ盛り上がり始めるその中央に、エルランドが座りチキンステーキに齧り付いていた。
「どれだけ焼けばいいのよ……」
エリアナの目の前には、まだまだお肉の塊が置かれていく。
終わりの見えない唐揚げ作りに、小さく溜め息が出てしまう。
スタンピードが発生してから長期に渡り、騎士や冒険者達は魔物と死闘を繰り広げていたのだ。
スタンピードも沈静化し、やっと緊張状態から解放されたのだから、騒ぎたくなる気持ちも解らなくもない。
皆の嬉しそうな笑顔と、唐揚げを美味しそうに食べる姿を見たエリアナは諦めた。
「まぁいっか」
エリアナも揚げたての唐揚げを口にしながら、黙々と料理を続ける。
『キュッキュッ』
黒竜も揚げたての唐揚げを頬張り、ご機嫌で声をあげる。
やっと本当に戦いが終わったのだと、実感するエリアナだった。
エリアナは、明日の右腕は唐揚げの揚げすぎで筋肉痛になるなぁー……。と、覚悟をしてお皿を片手に唐揚げを盛り付けてはキャシーに渡して、唐揚げを揚げ続けていた。
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キャナリーヌ先生に可愛い表紙を描いて頂けました。
評価していただいた読み手様のおかげです。
ありがとうございます❀
https://www.cmoa.jp/title/1101488815/vol/1/




