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モブな私は自由なはず‥‥なのに私の周りはいつもずっと騒がしい  作者: おかき


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72話 セドリックの暴走

スヴァルト王国の王都では、ヒロインであるエイミーとエアハルトが仲良く街に繰り出していた。


パトリックとカールも誘ってみたが、家の用事で長期休暇は遊べないと断られていた。

エアハルトはエイミーを独り占め出来る事に喜んでいたので、二人に断られた事を内心喜んでいた。


エイミーは一緒に連れ歩く攻略対象が減った事に不満はあったが、魔法師団長子息で侯爵子息であるエアハルトが付き合ってくれるので我慢をした。


因みにイザベルは誘っていない。

エイミーが「私が誘ってみるから」と、エアハルトに言ったがイザベルには何も伝えなかった。


(だって、イザベルは殿下の婚約者なんだから良いじゃない。私は婚約者がいないし、エアハルトは絶対に手放せないわ。

本命はセドリックだけど、どうしても近付けないのよね……)


セドリックと接触したいのに、ほんの少しの接点すら作れない。

とりあえず、エアハルトをキープして置かなければならない。


街を二人で散策していると、前方に金髪のいかにも高位貴族らしい青年が喫茶店を覗いていた。


(かなりイケメンね!)


エアハルトの腕を引き甘えてみる。


「ねぇー、喉が渇かない?」


「そろそろ休憩しましょうか。この先の喫茶店でどうでしょう」


自然な形で喫茶店にやってきたエイミーは、チラチラ覗く男性に声をかけた。


「中に入らないのですか?」


男性は突然の声かけに驚き、後ろに数歩飛び退いた。


「ああ!すいません。邪魔でしたか?」


入口を塞いでいた事を謝罪した。


「一人で入りにくいならば、一緒に入りますか?」


エイミーの誘いの言葉にエアハルトは内心面白くない。黙って様子を見ると、青年は丁寧に断り去って行った。


「エイミーが優しいのは解るが、男性を気軽に誘ったら駄目だよ」


なるべく嫌味にならないように伝えると、

「嫉妬してるの?親切で声をかけただけだから。それに前も言ったじゃない、前世はこんなの普通だったって」


エイミーはエアハルトの内心面白くない感情など気に留めない。

転生者の言葉をチラつかされたら、それ以上は強く言えない。

嫉妬ではないが、自分が同伴しているのに気軽に異性に声をかけるのは……。

と、もやもやを抱えてしまう。


「早く入りましょう」


エイミーはエアハルトの腕を強引に掴むと喫茶店へと入って行った。


その様子を建物の影から覗いていた先程の青年が、「チッ、邪魔な女」

そう言葉を漏らした。


「シリル坊ちゃま。そろそろ辺境領に戻らなければ、邸を留守にした事がリリアーヌ様に伝わってしまいます。あの男達は私達が見張っておりますので、領地に戻り執務を処理して下さいね」


影にそう言われてしまうと、頷く以外なかった。


「せっかくあいつらを見付けたのに。馬鹿女に邪魔されるなんてな」


シリルと呼ばれた青年は、不貞腐れてしまった。


シリルはキャシーの双子の弟である。


シリルはエイミーが姉と母が教えてくれた「ヒロイン」と知っていた。

ヒロイン・悪役令嬢・攻略対象の姿絵を頭に叩き込まれていたからだ。

そして、「モブ」の美しいエリアナの事も。


シリルは虫取りで森に入っていた時に怪しすぎる冒険者を見て、影をつけて追わせていた。そしてリリアーヌ達がスタンピードで留守にする隙をついて王都まで来ていたのだった。


「少しは情報を得たから、母様に報告しとくね」


喫茶店を見張る影に告げると、その場をようやく離れた。







一方、駐屯地ではセドリックから逃げるエリアナが目撃されていた。


黒竜を抱え走るエリアナだが、セドリックに直ぐに追いつかれお姫様抱っこで連行されていた。


エリアナを抱きかかえるセドリックの顔は誰が見ても嬉しさを隠していない。

喜びと、ほんの少しの腹黒さが見えている。

エリアナは、セドリックの腕にがっちり押さえられ顔面蒼白である。


エリアナを助けた方が良いかもしれないが、セドリックもSランクの冒険者となっていた。

サラマンダーの討伐を耳にしたエルランドが、セドリックの胸にSランクのピンを留めに来たからだ。


SランクとSSランクのいざこざ……。

見ていた冒険者達はそっと視線を外し、気が付かない振りをした。


エリアナは顔色悪いまま黒竜を抱きかかえ、セドリックに強制的に小さな小屋に連れて行かれた。



エリアナが逃走を図る少し前。

お風呂を作り終えたと、キャシーが伝えに来てくれた。

前世同じ日本人のエリアナとキャシーは、湯船に浸かれる嬉しさに花を咲かせながらリリアーヌの待つ場所に急いで向かう。


後ろではセドリックの腹黒い笑みに気が付く事は無かった。


リリアーヌのテントの近くに、大きな土の建物が二棟と小さな小屋が幾つか建っていた。


「とりあえず、作り終えた。水を引き込み魔石で温めれば各建物に送られる」


リリアーヌがついてこいと、エリアナ達を別の建物に案内した。


中に入ると、水を入れると思われる空の水槽と、中にサラマンダーの魔石を入れてある空の水槽があった。


「こっちに水を入れると浄化された後、この魔石が入った水槽に送られる。そして、このパイプから各お風呂にお湯が送られる。パイプは頑丈に出来た土だ」


淡々と説明するリリアーヌだが、エリアナはその綿密な作りに感動していた。

土魔法をこれだけ操れるリリアーヌを尊敬してしまう。


リリアーヌ本人を苦手とする感情はどうしても心に残っている。

でも、魔法や領主としてのリリアーヌはとても素晴らし人物ではあった。


「では、水の魔石を入れますね」


エリアナが水槽に魔石を入れ、魔力を流し込む。

どんどん水が溢れ、水槽がいっぱいになると火の魔石の水槽に流れて行く。


水槽からは湯気が立ちのぼりエリアナ達は声をあげて喜んでいた。


各お風呂にお湯が送られる様子をお湯を追いかけながら見ている。

大浴場にお湯が流れ、溜まっていく様子をエリアナとキャシーがニコニコと眺めていた。


「リリアーヌ様?小屋はもう使えますか?」


「ああ。小屋にもお湯は流れているはずだ。行ってみるといい」


リリアーヌとセドリックの意味不明な会話をキョトンと聞いていたエリアナを、セドリックが手を引いて歩かせた。

黒竜を片手に抱きかかえながらセドリックについて行く。


さっき見た小屋の一つに連れて行かれた。

中を覗くと湯船があった。


「貸切風呂ね!」


エリアナはセドリックが気を使って、一人で入れるように準備してくれたと思っていた。


「貸切風呂と言うのですか?一緒に入るお風呂をそう呼ぶのですね」


(ん?一緒?)


不思議そうにセドリックを見ると、怪しい笑みが見えた。


(これは……)


エリアナの背中に嫌な汗が流れる。


「もしかして、もしかしなくてだけど……私とセドが一緒にお風呂に入る?……とか?」


「そうですよ?」


(いーやー!!)


エリアナは素早く身を翻し小屋から飛び出した。


(確かにいちゃいちゃする事はあったけれど。でも、お風呂は違うっ!!)


エリアナは顔を真っ赤にしながら黒竜を抱え逃走を始めた。


【なぜ逃げるのだ?】


「黙ってて!今は話してる余裕がないの!」


黒竜は、そうかと黙りになり静かにエリアナの腕に抱かれていた。


エリアナから貰う魔力によって黒竜は目覚め魔力も少しずつ回復していた。

眠り続ける黒竜に、セドリックがエリアナが魔力譲渡をしてみては?と、試しに魔力を流して見ると黒竜が目を覚ました。


エリアナの魔力譲渡は黒竜からもお願いされ、それからずっと黒竜を抱えて魔力回復の手伝いをしている。


そうして逃走を始めたエリアナだが、セドリックによって確保されたのだ。


小屋に連れ戻されたエリアナに、セドリックが最もな意見を口にする。


「魔力譲渡をしている黒竜をテントに一人置いてエリアナは自分だけお風呂に入るのですか?黒竜が可哀想ですよ?

かと言って黒竜を連れて大浴場に行けば、皆がゆっくり出来ません」


「うっ……」

(ごもっともです)


「そうして、一人で入る私も可哀想です」


(ん?それは知らんがな……)


エリアナは最後の言葉は聞こえない振りをした。


【我も風呂という物に入ってみたい。温かい水なのだろう?初めて風呂なるものに入る。楽しみだ】


エリアナの腕からすり抜け、エリアナの正面で小さな羽根をパタパタさせ興味津々でエリアナに話しかける。


(可愛い!黒竜とお風呂に入りたい。でも、セドも一緒……断れば黒竜はお風呂に入れない……うう……)


エリアナは肩をがっくり落とし、

「皆でお風呂に入ります……」


可愛い黒竜のために、白旗をあげるしかなかった。


セドリックと黒竜は嬉しそうにお風呂の支度を始めた。

黒竜の始めてのお風呂を見れる事に気持ちを切り替え、セドリックと一緒のお風呂の恥ずかしさを空の彼方に捨てる事にした。


まぁ、無理ではあった事はお風呂から出て来たセドリックの笑顔で証明された。



大浴場は大好評となっていた。

高ランクの冒険者が順番表を作り張り出していた。

一組20人の1時間。

リリアーヌの指示で混み合わないよう指示が出された。


貸切風呂は夫婦やカップルが優先された。諸事情(体に見られたくない傷がある)も考慮された。


ここは命を懸けた戦いがあった場所なのだろうか……。

そう思うほどに、お風呂から出て来た人達の顔は晴れやかだった。


「リリアーヌ様。ありがとうございます」


エリアナは素直に感謝を述べた。


「いや、私も土魔法で大浴場を作ろうなど考え無かったからな。この世界の者は他者と風呂を入る事を嫌うだろうと、勝手に判断していた。

私の周りは高位貴族ばかりの令嬢だから、そもそもこんな話はあがらないからな」


リリアーヌも皆の顔を見て、過去の戦場の後このように疲れた騎士達を労えた事を少し後悔していた。


「エリアナ様。今話すことではないかもしれぬが、言わせて欲しい」


リリアーヌが神妙な表情でエリアナに向き合う。


「母上の事は本当に申し訳無かった。ただ議会に侯爵家に罰が行かないように、書面に記す事をきちんとすべきだった。ただ、口頭での懇願など意味がない事は解っていたはずだったのに」


エリアナは母を思うと胸が苦しくなってしまう。

父に支えられ、社交界から非難を浴びながらも懸命に生きた母。


「私への謝罪は不要ですし、母もきっとリリアーヌ様からの謝罪は必要としないでしょう。過去は、あくまで過去でしかない。

謝罪されても、母が受けた仕打ちは消えません。悲しみも苦しみもです。

それに、せっかく幸せになれた母はリリアーヌ様から謝罪されては、また苦しんでしまいます。私はその事だけは避けたいのです」


エリアナはリリアーヌに先に牽制をした。母と会う事があっても、謝罪をするな。と……。


「そうだな……」

(謝罪は自己満足でしかないのだから)


「でも、リリアーヌ様個人としては尊敬する部分もあります。土魔法の綿密な扱い方や、領主としての豪胆さ。それは尊敬しますわ」


リリアーヌは正面切ってエリアナから褒め言葉を貰い、少し動揺していた。


「そ、そうか……ありがとう。ところで、黒竜の事を話したいのだが良いか?」


エリアナは抱きかかえる黒竜を見ると、黒竜が小さく頷いた。


「では、私のテントに行きましょう。防音結界が張ってありますから、そこで話をしましょう」


セドリックをチラリと見ると、小さく手を振られた。


「私はエルランドさんに用事があるので、リアはリリアーヌ様とゆっくり話すといいよ」


セドリックは高ランクのテントへ向かった。




「どうぞ」


エリアナがリリアーヌをテントの中へと入るように促した。


保温のポットから紅茶をマグカップへと入れ、リリアーヌの前に出した。


「懐かしいな。マグカップか」


マグカップを片手に、四方から眺め始めた。


流石、親子。

眺める仕草がキャシーとそっくりだ。


「キャシー様と同じ事をしていますよ?」


エリアナがクスクス笑うと、リリアーヌは肩をすくめながらマグカップの紅茶を口に付けた。


「土魔法を使えばマグカップなど簡単に作れたのに、私は建築やインフラや戦の為にと、大きな事にしか魔法を使っていなかった。前世、土で出来た物など沢山あったのにな」


リリアーヌは過去の自分を悔やむような口調に、エリアナの調子が崩される。


(もっと嫌味な方だったはずなのに……)


エリアナが黙りになったため、リリアーヌが気を使わせている事に気が付いた。


「すまない。黒竜の話をしようか」


リリアーヌが黒竜に視線を向けた。


「黒竜よ、本当は貴方は最初から私より強かった。態と捕まったのではないのか?」


リリアーヌの率直な質問に、黒竜が視線をずらした。


「やはり……。その理由を聞きたい。まぁー、私は黒竜と戦うのは楽しかったし、大きな魔石も国に献上出来ましたから結果的に良かったのだが」


【……】


「黒竜?話してくれない?別に責めてる訳では無いのよ?」


エリアナが頭を撫でながら、魔力譲渡も行う。


【…しか…たからだ】


「「ん?」」


【ずっと一人で寂しかったからだ!】


小さな羽根をパタパタさせエリアナの腕から飛んで逃げた。

恥ずかしいのか、寝袋に潜り込み出てこない。


エリアナはこんもりする小さな塊を、寝袋の上から優しく撫でる。


「寂しいのは辛いわよね。黒竜は誰かといたかったのよね?」


ポンポンしながら、黒竜が出てきて話をしてくれるのを待つ事にした。



暫くすると、黒竜はもそもそ動き出し頭だけを出した。


【リリアーヌに会って、面白い人間だと思った……】


黒竜がゆっくりと話を始めた。


黒竜の過去の話を泣きながら聞く事になり、エリアナは黒竜の寂しさを埋める助けをしたいと、この後自ら申し出る事になる。


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