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モブな私は自由なはず‥‥なのに私の周りはいつもずっと騒がしい  作者: おかき


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71話 リリアーヌ様にお願いをする

駐屯地の広場に居る者達の精神的疲労は限界に近い。



アルーン国の王太子の婿入り。

それに伴いリリアーヌからの宣戦布告。

ルドル小国との取引停止。

聖女が聖女でなかった事実。



国同士の極秘会談で行われるであろう話し合いの内容を、一介の冒険者が直接耳にしたわけであり、皆どうして良いか解らずにいた。


そんな中で黒竜が現れたのだ。


いや、黒竜が駐屯地にいたのは知っている。

エリアナに抱かれてスヤスヤ眠る黒竜を沢山の人が目にしている。

黒竜が目覚めた時にエリアナが側にいなくて、黒竜が探し回った話を聞いた時には皆の心はほっこりしたのだ。


畏敬の念を抱く上位種の竜ではあるが、エリアナのおかげで駐屯地では受け入れられていたのだ。


だが……黒竜の怒りの魔力を前にして、誰も動く事は出来ない。

魔力の圧に耐えるのが精一杯だった。


そんな張り詰めた空気の中で、エリアナが黒竜の周りに結界を張ったおかげで皆の精神的圧が解放されホッと息を吐いた。



全員の視線が広場の中央に集まる。

黒竜の怒りは相当に強い。


総責任者のエルランドが動かない以上、自分達が出来ることはない。と、ただ成り行きを見守るしかなかった。


「黒竜、お願い。落ち着いて。やり返したい気持ちは十分に理解出来るわ。でも、まだ竜人国が関わった人物の特定が出来てない以上、その二人を始末しても解決にはならないわ。だがら、もう少し我慢して」


エリアナが結界に近づいて小さな声で黒竜に声をかけた。


圧はそのままに、小さな翼をパタパタさせて飛ぶ姿は本当に可愛らしい。

可愛いは、いったん置いておこう。


【そうだな……エリアナの言う通りにしよう】


黒竜は魔力放出を止めるが、二人を解放する気はないようだ。


「ファルナ殿下とレーニア様は後から聞きたい事があります。逃げようとするなら、黒竜を私が止める事は二度はないと思って下さい」


エリアナは結界を解除し、黒竜に近付くと両手を広げ抱き寄せた。

黒竜の顔を覗き込みながら翼を避けて背中を撫でる。


「怒りを収めてくれてありがとう。悔しいかもしれないけど、今は我慢してね……」


『キュッ』


と一鳴きすると、黒竜はゆっくり目を閉じスピーと寝息を立て始めた。


(起きて魔力を使うには、まだ回復していないのね……)


黒竜をギュッと抱きしめ、ファルナとレーニアに視線を向ける。

美女の素の表情に二人は苦痛に耐えながらも、ビクッと肩を跳ねさせる。


「黒竜が放った魔力は苦しいですか?でも仕方ありませんよね?自業自得ですから。

レーニア様にはそこまでの浄化の力がありませんから、黒竜の魔力を浄化する事は出来ないでしょう。私は貴方がたの浄化はしませんので、期待しないで下さいね」


ふいっと顔をそらしエルランドに声をかける。


「これからファルナ殿下とレーニア様とを交えて話し合いを行いたいのですが、よろしいですか?」


「わかった、天幕でいいか?」


開放された場所であるが、防音結界を張ればいいか。と、エリアナは了承した。


ファルナとレーニアはのろのろと立ち上がると、エリアナの後を追い天幕へと歩いて行く。


天幕に到着し、それぞれ席に座る。


エルランド・フィーナ・エリアナ・セドリック・ファルナ・レーニアが席に着く。


「黒竜に魔道具をつけ、強制的に魔力放出をさせスタンピードを起こしたことは知っています」


エリアナの言葉に、ファルナとレーニアの顔色が真っ白くなる。言い訳しようにも、黒竜自ら二人を名指ししたのだ。言い逃れる言葉を見つけられない。


「貴方達に協力する者が他にいたはずです。その者を言いなさい」


エリアナの厳しい口調と視線に逃げられないと確信し、正直に解らないと首を振る。


「いつもフードを被っていたので顔はわからない。ただ……一人は常に腰に角笛みたいな物を下げていた」


「角笛。ですか…………」


エリアナには見当がつかないのでエルランドとフィーナに視線を向ける。

二人も該当する人物がいないようで、首を振る。


「貴方がたが計画を立てたのですか?それとも持ち掛けられたのですか?」


「持ち掛けられた……だと思う。勝手に王宮に現れ話しかけられたから」


(王宮に侵入してきた者の話に簡単に乗るなんて、本物のお馬鹿だわ)


エリアナは大きなため息をはくと、二人に視線を向ける。


「角笛の話は有力な情報の一つとして記憶に残しておきます。貴方達がこの騒動を起こした理由は話さなくて結構です」


エリアナの意外な言葉に二人は目を見開いた。


「何か期待しているようですが、違いますよ?許すとかの問題ではないのです。このスタンピードの事案はエルランドさんやフィーナさんが対処する案件です。それに、お馬鹿の話を聞く暇はないし聞きたくもないのです。お二人は王城にて監視されてください」


エリアナから感情もなく、馬鹿にされた二人だが黒竜を腕に抱くエリアナに反論出来る度胸は残念ながら持ち合わせていない。


項垂れたままの二人に小さなため息をはいたエルランドが、ダリル殿下付きの護衛騎士を呼び、ファルナとレーニアを連れて行くよう指示を出した。


「リアはなぜ竜人国の事を聞かなかったのですか?」


セドリックの突然の言葉に、エルランドが反応する。


「なぜ竜人国が出てくる?竜人国は竜を崇拝する国だぞ?」


フィーナも隣で同じ事を口にする。


「黒竜が教えてくれたの。アスティー領のダンジョンの最下層に来た冒険者に魔術をかけられ眠らされたと。目が覚めると、魔道具を嵌められ森に置かれていたと」


「その冒険者が竜人国の者だったと?」


エルランドの問いかけにエリアナは首を振る。


「竜には魔法や魔術は効かないみたい。でも、唯一竜に魔法を行使出来る者がいるみたい。それが、竜人国の者らしくて。黒竜が言うには、竜人国は関わっていないだろうって。誰かが勝手にその力を使い、この騒動を起こしたんじゃないかって」


エルランドもフィーナもお互い見合い、小さく頷く。


「エリアナ。竜人国内部に裏切り者がいると言うんだな?」


「黒竜が国は関係ないと断言したから、そうなるのかしら」


「そうか……で、黒竜はこれからどうされるか何か言っていたか?」


「ダンジョンには戻らず、人間の世界にいるって。犯人の魔力を覚えてるから、近くにいれぱ直ぐに解るって」


「ならば、尚更エリアナは黒竜と一緒にいなければならない。人間の世界に黒竜だけ放り込む訳にはいかないからな」


「リアの守護竜となるのが一番ではないでしょうか。下位の竜なら何とかなるかもしれませんが、上位種の黒竜をテイムしたと言う話は無理があります」


「魔馬にも懐かれているエリアナだが、魔馬と黒竜では違うからな……。そうだな、黒竜が納得するのならば守護竜としてエリアナと過ごしてもらうしかないな」


エリアナはどんどんすすむ話に顔色を悪くする。


(SSランクになったし、スタンピードを沈静化したわね。

魔石の浄化もしたし、聖女の魔法も暴いた……)


エリアナは考えながら、右手の指を折って数えていく……。


「はぁー……」


エリアナのため息を聞いたエルランドが苦笑いを浮かべる。

フィーナはエリアナの凄さに、またもやキラキラした眼差しで近寄って来る。


セドリックがエリアナを抱き寄せ、フィーナの魔の手から守り抜く。


エリアナはそんな攻防戦を無視して、落ち込んで行く。


「エリアナちゃんは立派な功績を挙げたのよ?嬉しくないの?」


冒険者ならばエリアナが得た功績は胸を張るものばかり。

でも、エリアナは喜ぶどころか落ち込んでしまった。


「エリアナは目立ちたくないんだ。この容姿に魔法・魔術・剣術・勉学、全てが最高値にあるから嫌でも矢面に立たされる。うんざりなんだろうな」


エリアナの性格を良く知るエルランドだからこそ、今のエリアナの気落ちは理解出来た。


「リア?黒竜を助ける為に、黒竜が受けた仕打ちをやり返す為には受け入れなければなりません。リアと黒竜、お互いを守る為にです」


セドリックはエリアナの顎を掬い上げ、視線を合わせてそう告げる。


「お互いを守る為に……。解りました。黒竜が目覚めたら話してみます」


エリアナは腹を括り、黒竜の為に頑張る決意を固めた。


「ところで、エルランドさんにお願いがあります」


「なんだ?」


「お風呂に入りたいのですが、駐屯地にはありますか?」


そう。エリアナはお風呂に……湯船に浸かりたかったのだ。

浄化魔法をかければ、確かに綺麗にはなる。

だが、前世日本人のエリアナは湯船が大好きなのだ。

野営の為にお風呂の魔道具を作るくらいなのだから。


「風呂はない。浄化魔法があるからな」


エルランドの答えに、エリアナはがっくりと肩を落とした。


「義姉が土魔法を操れるから、聞いてみたらどうだ?」


「リリアーヌ様に?」


「義姉が言うには、昔は建築関係の仕事をしていたらしい」


エリアナは黒竜を抱え直すと、


「急用が出来たので失礼します」


一礼をし急いで天幕から離れると、セドリックが後を追いかける。


「リア?どうしたのですか?」


「リリアーヌ様の昔って、前世って事じゃない?建築関係なら、お風呂を造ってくれるんじゃないかと思って」


リリアーヌのいるテントに急いで行くと、テントの外ではダリルとキャシーに側近達もいた。

緊迫した表情で駆け寄るエリアナにリリアーヌが気が付いた。


「エリアナ様!どうなされたのです?!」


「リリアーヌ様!お願いがあります。不躾なのは十分承知の上です。お風呂を、露天風呂を造って下さい!」


リリアーヌの前で止まると同時に頭を下げた。


「え?えと…お風呂?」


「前世は建築関係のお仕事だったと聞きました。私だけ入るのは申し訳ないので、駐屯地にいる皆が入れるくらいの露天風呂が欲しいのです。土魔法なら、使用後元に戻せますし。私は土魔法を余り使った事がないので、リリアーヌ様にお願いをと思って伺いました」


周りに聞こえないように、防音の魔術を瞬時に展開しリリアーヌにひそひそ話をする。


「ふふふ。解ったわ。でも、ここは辺境の地よ?お風呂に使える程の水がないわ。浄化を繰り返したとしても、それでも大きな浴槽を作るなら水が足りない」


リリアーヌはお風呂に必死なエリアナが、おかしくて仕方なかった。


「お水はあります。湖と繋いでありますので、足りなくなる事はありません!」


「解った。男女別でお風呂を作ろう」


クスクス笑いながら、引き受けてくれた。


「後、火の魔石があれば尚良しなのだが」


「それなら、私が討伐した魔物はサラマンダーでしたので使われますか?」


「それで十分だ。出来たらキャシーに呼びに行かせるよ」


エリアナは頭を下げて、セドリックと一緒にテントへと帰って行った。


帰りながらも、エリアナの口元は上がったままだ。


「そんなに楽しみですか?」


セドリックが余りにも嬉しそうにするエリアナに問いかけた。


「凄く嬉しいです。前世では毎日お風呂に入って、湯船に浸かるのが癒しだったから」


ニコニコしながら、エリアナはセドリックに答えた。


セドリックは立ち止まると、暫く考え込んでいた。


「リア、少しリリアーヌ様に話があるので待ってて下さい」


セドリックは急いで来た道を戻り、リリアーヌのテントへと走り出した。


少しするとセドリックがエリアナの元に帰って来た。


岩に座り黒竜を撫でるエリアナを眺めながら、セドリックはエリアナの側に来た。


「用事は大丈夫?」


「はい。大丈夫です。行きましょう」


エリアナを立たせ、腰に手を回す。


エリアナの隣で腹黒い顔を浮かべたセドリックに気が付く事なく、エリアナはお風呂に入る喜びで浮かれていた。


セドリックからの提案を受け、逃げ回る事になる事をエリアナが予測出来るわけなかった。


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