61話 面倒事が次から次に
エリアナ達は黒竜を抱きかかえまま、森を抜けようやく駐屯地へと帰って来た。
そこでエリアナ達を出迎えてくれたのは、黒竜討伐を成功した功労者を歓迎する大歓声だった。
駐屯地に到着し、エルランドとセドリックの背後から現れたエリアナを見て大歓声が起こったのだが……。
エリアナの抱える物を見て大絶叫が響き渡った。
「落ち着け!黒竜だが、黒竜ではない!
って、あぁーもうー面倒くさいっ!エリアナっ頼むぞ。」
と、黒竜を抱きかかえたエリアナの背を押し前に出すとエルランドは後ろに下がった。
(え?ずるくない?)
エルランドを睨むも、黒竜の真実を知るのはエリアナだけ……。
「皆さん!大丈夫ですから聞いて下さい!」
エリアナが大きな声で叫ぶと、皆は静かになった。エリアナの胸元にはSランクのピンがあったからだ。
「黒竜は足に魔道具をつけられ強制的に魔力を放出させられていたのです。ですから、足枷をつけた者が悪くて黒竜は悪くありません」
エリアナは黒竜に視線を落とし話し始める。
「私が倒れたのは黒竜の悲しみにのみ込まれたからです。私は漆黒の闇の中で黒竜と会い話をしました。黒竜は自分を討伐しに来た私に安堵している様子でした。その意味が解りますか?自分が討伐されれば、魔力を放出せずに済む。そしてスタンピードがおさまると知っていたからです」
「誰がそう仕向けたのかは解りませんが、このスタンピードは自然に起こるものではなく、人為的に起こされたものです」
エリアナの話を聞き、周りがざわつき始めた。
スタンピードを人為的に起こすなど、国家反逆罪を問われるどころではない。
「黒竜はとても優しい竜です」
エリアナは腕の中で眠る黒竜の額を撫で、慈愛の表情で笑みを浮かべている。
神々しいものを見る光景と、エリアナの美しさに冒険者や騎士達は魅入られていた。
女性冒険者達ですら、頬を赤らめている。
美しいエリアナに惹かれるのは解るが、嫉妬深いセドリックがその光景を許すはずがなく。
「リア。目覚めの口付けがまだですよ?」
そう口にした瞬間、エリアナに深い口付けを落とす。
目の前でイチャつき始めた二人を、今度はエルランドが許すはずもなく、セドリックの頭を容赦なく思いっきり叩いた。
「お前ら…いい加減にしろ!
とりあえず皆は今日はゆっくり休んでくれ。今後の報酬や森の調査に協力してもらうので、まだ暫くはここに滞在する事をお願いする。
後、アードはテントに来てくれ話がある」
解散!と、エルランドが声をかけると冒険者達は自分達のテントに帰って行った。
「二人もついてきてくれ」
エリアナとセドリックも、高ランクのテントに呼ばれた。
テントには既にアルーン国のギルマスのフィーナとダリル殿下がいた。
「早速だが見てもらいたい物がある。付いてきてくれ」
テントを出るとアードと呼ばれ深くフードを被る冒険者が待っていた。
アードも一緒に駐屯地から出て森の中へと入って行く。
大きな岩の陰に入るとエルランドが立ち止まった。
「セドリック、出してくれ」
セドリックがマジックバッグから黒竜に装着されていた魔道具の枷を出した。
ドシンっと置かれた魔道具はとても大きい。
「アード、僅かに残る魔力の残滓があるか調べてくれ。一月単位でなるべく新しいものを」
アードと呼ばれた冒険者は枷に向かって手をかざすと、魔術で枷をつつみ込んだ。
青白い光が枷に向かい放たれると、所々に紫色の斑点が浮かび上がった。
紫色の斑点をアードと呼ばれた冒険者が自身の手のひらに集めると、四つの紫色の珠になった。
「綺麗な珠ですが、これは何でしょうか……」
エリアナはアードの手のひらで光輝く珠をじっと観察していた。
森の木漏れ日を集め、キラキラ輝いている。エリアナはその輝きをもっと覗こうと顔をアードの手に近付けた。
アードに近づき過ぎたからか、セドリックに腰を捕まれ後ろにグイッと引っ張られた。
セドリックに無言のまま後ろから抱きしめられてしまった。
ずっとエリアナの目覚めを待っていたセドリックは、アードに近いのも許せないが、エリアナに触れていたくて仕方がなかった。
エリアナはセドリックの腕を片手でポンポンしながら慰めている。
エルランドは二人を放置してアードに声をかけた。
「四つとなると、関係者は四人いる可能性があるのか?」
「ここ一月に限定して魔術をかけたので、可能性は高いです。そして、二つの魔力は我が国アルーン国の人物です。
フィーナさんがギルドで調べれば、誰の魔力かはっきり解りますよ。」
エルランドとアードの会話はアルーン国の者が自国にスタンピードを起こさせたと。そう言っている。
「犯人のうちの二人がアルーン国の者……。なぜそのような事をする必要があるのだ!」
ダリル殿下は憤りを隠せず、怒りで拳を握りしめている……。
「この魔力の一人を私は知っています。私の予想ですが、スタンピードを起こした理由は殿下の命を狙う事とスタンピードを自分が鎮圧し、功績を挙げようとしたのでしょうね」
アードがダリル殿下へそう告げる。
セドリックとエリアナ以外は、アードの話す内容が理解出来るのか苦い顔をしている…。
「セド。私達がいると話しにくいんじゃないかしら?それに、黒竜を抱いたままだと重くて腕が痛いのよ」
エリアナがセドリックへと振り返り耳元でそう囁くと、セドリックが黒竜にそっと手を伸ばし、エリアナの代わりに黒竜を抱っこしてくれた。
「エルランドさん。私達がいると話したい事も話せないでしょうし、エリアナを休ませたいのもありますので、テントに戻っても?」
セドリックの問いかけに、エルランドがハッとなり放置していた事を思い出した。
「エリアナは目覚めたばかりだったな。ゆっくり休んでくれ。また何かあったら声をかけるよ」
「はい。では失礼します」
「あ!足枷はしまいますか?」
「ああ。そうしてくれ」
セドリックが足枷をマジックバッグに仕舞い、エリアナと手を繋ぎテントへと向かう。
チラリと後ろを振り返ると、ダリル殿下がアードに対し何やら怒っている。
(きっと魔力の持ち主に関して何かあったのかな)
アルーン国の事情であり、自分達には関係ない。と、エリアナはテントへと帰って行った。
「エリアナ様ー!」
前方から走りながらエリアナを呼ぶキャシーが見えた。
「エリアナ様!ご無事で良かったです。」
「ふふふ。そんなに走らなくても」
令嬢が猛ダッシュする姿は少しだけ可笑しかった。
辺境伯のご令嬢が勢い良く走るなんてあり得ない事。
「私とセドリックの面倒をみてくれていたのよね。ありがとうございます。キャシー様」
エリアナはセドリックから手を離し、キャシーに礼をして感謝を伝えた。
「い、いえ!私がしたくてしただけなので、頭は下げないで下さい!」
キャシーが両手をブンブンふり恥ずかしそうにしている。
「私からもお礼を。ありがとうございます。貴女のおかげでエリアナの隣にずっといる事が出来ました」
セドリックからも感謝の言葉が伝えられた。
「私はランクも低くて討伐にすら参加を拒否されました。何も出来ない自分が恥ずかしかった……。エリアナ様とセドリック様のお世話係をしたくて自ら志願しました。役に立ちたかったし、エリアナ様が心配で側にもいたかったので……」
涙目でそう語るキャシーは、以前の高い場所からの物言いではなく、対等な関係で会話をしている。
エリアナはキャシーの変わりようにかなり驚いている。
転生者であるからか、立場を変える事に躊躇がないようだ。
「それと、エリアナ様から物語を気にするなって言われたのですが、気になる事があったので相談したいのです」
「私達のテントに行きましょうか。あ!キャシー様、リリアーヌ様は無事ですか?」
「………」
キャシーがリリアーヌの事を尋ねると、スッと視線をそらされた。
(え?嘘でしょう?)
リリアーヌ様に何かあったのか。
エリアナはキャシーの答を聞き逃さないように待っていた。
「あの脳筋の親は、討伐し足りないと喚いていますわ」
エリアナは口をポカーンと開けたまま、キャシーを見つめる。
セドリックが横から頬をツンとし、エリアナは口を閉じた。
「えと……。無事で良かったわね?」
「そうね……」
「リア。テントに行きますよ。黒竜を寝かせてあげないと」
エリアナとキャシーは気まずい空気の中、テントの中へと入った。
黒竜を寝袋に寝かせ、エリアナは黒竜の額を撫でながら隣に座る。
時折、「キュッ」と可愛らしい声を出す。
「それで?キャシー様は何が気になるのですか?」
「エリアナ様に物語の事を気にするなって言われたでしょう?続編を書いたのが自分だから、続編ばかり気にし過ぎて肝心な事を見落としていたの」
キャシーの様子から、気にし過ぎでは終わらないとエリアナもセドリックも感じた。
「見落としとは何でしょう?」
「お母様である悪役令嬢のリリアーヌが出る物語、恋ダンの初期の物語なんだけど。
ダリル殿下を最初に目にした時に、あ!この人は恋ダンの初期の登場人物だわ!
とは気が付いたのよ?でも、それがおかしい事に全く気が付かなかったのよ!
私って本当に馬鹿なのよっ!」
キャシーは話しながら一人で納得し、一人で落ち込み始めた。
「キャシー嬢。意味が伝わりません。簡潔に説明を」
セドリックが過ごし苛ついたらしく強目の口調でキャシーの一人芝居を止めた。
「あああ!!ごめんなさい!
要は、恋ダンの初期の物語と続編が同時進行しているのよ!しかも、恋ダンの黒竜の浄化を聖女ではなくエリアナ様が行った。
スヴァルト王国では続編の人物の中に聖女はいない。でも初期では聖女がいたの。でもお母様がブチ壊したから、聖女が現れなかったのよね……。
で、ルーン国は初期の物語の人物で作られている。陛下から王妃様まで名前は同じ。初期の世界なら聖女はいないのに、聖女がアルーン国にはいるのよ。」
(意味が解るようで……。解らん。)
エリアナは恋ダンの初期を読んでいない。
続編もダンジョン以外はほぼスルーしていた。
「キャシー様の話は正直に言って解るようで解らないのですが……。恋ダンの二つのお話が同時進行であり、聖女が逆に国に現れているって事で大丈夫ですか?」
キャシーは話が通じたと、コクコク頷いた。
「ダリル殿下は命を狙われます。第二王子と現王妃によって。このスタンピードの任務を命じられたのも、その一つなの。スヴァルト王国の聖女で黒竜を浄化した聖女に密かに恋をして、亡命に近い形でスヴァルト王国の学園に来るの。」
キャシーは穴が空くのでは?と思う程に強い眼差しでエリアナを見つめる。
「黒竜を浄化したエリアナ様に恋をしたのではないのでしょうか……」
「「はぁー?」」
エリアナとセドリックの驚きと疑問の声が、テントの外に響いた。
「何があったのです?」
焦りながら声をかけ、テントに入って来たのは当事者のダリル殿下と側近達だった。
(タイミング悪すぎるでしょう……)
突然の本人登場に慌てるキャシー。
エリアナを好きになったのか!と、嫉妬の眼差しを向けるセドリック。
(何か起きそうで嫌なんですけど……)
エリアナは大きなため息を吐くと、現実逃避するように黒竜の額をなでなでし始めた。
「キュキュッ」
気持ち良いのか小さく声を出す黒竜に暫し癒される事に決めた。




