53話 セドリックのサプライズ準備
フィデラ夫人が乱入したお茶会から数日経った。
エリアナは普段と変わらない生活を過ごしているように見えるが、セドリックはエリアナが元気がない事に気が付いていた。
(もう少しで長期休暇に入るな……。)
セドリックは子爵家の私室を出て、使用人にアーネットにリビングに来てもらうように頼んだ。
少しすると、とっても嫌そうな顔のアーネットがリビングに入って来た。
アーネットは散々こき使うセドリックに対し、あけすけな態度をするようになった。
「また何かを聞きたいの?」
呆れ顔でアーネットが話しかける。
アーネットはセドリックの対面に座り、用意されていた紅茶に口を付ける。
「聞きたい訳ではない。明日の学園の帰りにリアを街に連れて行って欲しい。
私は別に用事があるのだが、リアに知られる訳には行かないからな。」
話し終えたセドリックも、紅茶に手を伸ばし口にした。
「浮気?」
アーネットの一言にセドリックは紅茶を吹き出した。
対面に座るアーネットが飛び上がり横に逃げた。
「汚いわねっ!」
怒るアーネットだが、セドリックは咳き込み話せない。
「っ……。ゴホッ…。浮気なんかするか!長期休暇にエリアナが喜ぶ事を用意する為だっ!」
むせながらも説明をする。
「ごめん。解った。でも街で何をしたら良いのか解らないわよ。私もケイシーもお店を知らないし。」
アーネットが何処に連れて行けば良いかを考えるが、お金を使えなかったアーネットとケイシーは街での買い物をした事が無かった。
「我が家の商会の小物を扱うお店はどうだろう?」
セドリックが自身のお店を勧めるが、
「私達、お金ないし……。」
俯き落ち込むアーネット……。
「好きな物を買うと良いよ。私が払うから。」
しょんぼりしていたアーネットだが、セドリックの言葉を聞き顔をあげると満面の笑みになっていた。
「ありがとうございます。」
ニコニコ笑顔のアーネットに、してやられたセドリックであった。
だが、文句を言いながらも協力してくれる姉妹には少なからず感謝していた。
「日頃の礼だ。明日は上手くエリアナを街に誘ってくれ。」
話が纏まり、二人は残りの紅茶を頂いた。
翌日の授業は騎士科になる。
魔術科同様。この週は騎士科のみの授業となる。
エリアナは自分が指導するクラスメイトのみに剣術の指導をする。
エリアナは今日一日は徹底的に基礎から教えた。
それぞれが腕に自信があるせいか、無駄な動きが多い事に気が付いた。
エリアナは厳しく基礎を叩き込んだ。
基礎だけの授業だったのに、エリアナの受け持つ生徒達はヘロヘロのボロボロだった。
「それだけボロボロって事は、基礎が出来ていない証拠よ?自信がある事は良い事だけど、基礎を無視して驕っていると死ぬからね。」
(((さらっと「死ぬからね」って……。)))
「エリアナ様は私達より動かれたのに、息が乱れてませんものね。」
タチアナがエリアナを見ながら、そう呟いた。
(((確かに……。)))
「今は余り出来ていないけど、小さい頃から毎日基礎をやり続けたわ。新しい剣術を習おうと、基礎だけは毎日やっていたかな?」
「今日は姿勢と走り込みでしたが、他には何を?」
エリアナの話を聞き、タチアナが質問をした。
「正しい姿勢。正しい剣の打ち方。足の運び方。後は、間合いの取り方をやったかしら?」
本当に基礎中の基礎だった。
「基礎が出来ているかいないかで、剣技の強さは変わるのよ。明日は全員筋肉痛だと思うわ。だって、基礎が出来ていないから。」
ニッコリ笑顔で明日の筋肉痛を告げられた……。
【エリアナ様は見た目に反してスパルタ】
皆はそう印象付けた。
授業が終わり邸へと帰るため馬車に乗り込んだ。
「今日は街に小物を見に行きたいの。長期休暇のお土産とか見たいから。エリアナも付いてきてくれる?たまには女の子で買い物しましょう?」
アーネットが昨日頼まれた街にエリアナを連れ出す作戦を開始した。
ケイシーも姉から聞いていたので、会話に参加する。
「私も見に行きたいです!王都の街でお買いをした事ないですから。」
アーネットとケイシーに誘われ、エリアナはセドリックに許可をとる。
「たまには女の子で買い物も良い事です。公爵家の商会に案内します。好きに買い物をして下さい。
エリアナはいつも頑張っている私からのご褒美ですから、断らずちゃんと買い物して下さいね。」
エリアナはお金を使いたくなかったのと、公爵家が支払う事に躊躇われた為、自分は買い物をしないつもりでいたのだ。
セドリックに先手を打たれたので、今回は甘える事にした。
買い物が終わってもセドリックが来なければ、エリアナの秘密のお店に向かう事になった。
三人並び楽しそうにはしゃぎながら、エリアナ達は商会へと入って行った。
セドリックはそれを確認すると、ギルドへと馬車を向かわせた。
久し振りに一人でギルドにやって来たセドリック。
やはり女性冒険者からの秋波の視線に晒される。
冷たい雰囲気を纏い、受け付けにいるマリーの前にきた。
「お久し振りです。セドリック様。ギルマスから聞いてますので、そのまま二階に行って下さい。」
マリーは、早く行け!と、受け付けを出ながら話をしてくれた。
マリーが付き添ってくれたおかげで、呼び止められる事なく二階にあがる。
ギルドマスターの部屋をノックし、中に入る。
エルランドはソファーに座りセドリックを待ってくれていた。
「セドリックからの楽しい提案に見合う依頼があるぞ。」
エルランドは待ちきれないと、先に話を始める。
セドリックはエルランドの対面に座ると、エルランドが数枚の書面を差し出した。
「隣国とは深層の森を隔てて隣接している。隣国の方でスタンピードの予兆があったようだ。 国に支援要請が来て、高ランク冒険者を出す予定だ。」
エルランドは書面に視線を向けるセドリックに説明する。
「勿論、俺も出張るがセドリックからの提案があっただろう?だから、エリアナとセドリックも連れて行こうと思う。」
セドリックが書面から視線をあげると、驚きの表情をしていた。
「驚いたか?学生を本来連れて行く事はないが、お前達二人は戦力になる。それにだ!このスタンピードで高ランクの魔物を数頭討伐すれば、お前もSランクになれるぞ。」
セドリックはエルランドに深く頭を下げた。
「エルランドさん。ありがとうございます。エリアナは凄く喜ぶと思います。私も嬉しいです。」
エリアナがいない場では無表情のセドリックだが、エルランドに向けた笑みは男でも見惚れる程に美しかった。
「あー。セドリック。喜んでくれるのは嬉しいが、その笑みは反則だから。エリアナ以外の前では絶対に笑うなよ!」
エルランドから厳命された。
「スタンピード発生まで10日くらいは猶予がある。今期終了する日に学園に迎えに行くから、そのまま隣国に向かう。
準備をしたまま学園に行けよ?」
エルランドから必要になる物を細かく聞き、準備を急ぐ事にした。
「帰りは二階の裏の階段から出ろ。下で女共が待ち伏せしてるだろうしな。」
エルランドの気遣いを有り難く受け入れ、セドリックはギルドを出ると母の行きつけのお店であるマリーの元に向かった。
エリアナにプレゼントする服を作って貰っていたからだ。
セドリックは旅に必要な物は、明日にでもエリアナと一緒に買いに行く事にした。
時間がかかった為、セドリックは秘密のお店に向かう事にした。
一方のエリアナ達は、三人でお揃いの物を買った。
羽ペンに便箋に扇子にリボン……。
アーネットが欲しい物を買い漁っていた。
(こき使われてるんだから、これくらい良いでしょう!)
三人でお揃いの物を買ったが、アーネットがメレニーの分も購入していた。
商会の従業員はエリアナと顔見知りの為、公爵家の支払いで買い物が出来た。
セドリックはまだ来ないだろうと、エリアナ達は喫茶店に行く事にした。
アーネットとケイシーは新しい喫茶店に行くのは初めてである。
どんなお店か楽しみにしている。
エリアナが案内したお店は、外観は少し古ぼけたお店だった。
エリアナが扉に手を掛けアーネットとケイシーを中へと促す。
アーネットとケイシーが中に入って店内を見渡す。店内はとても落ち着いた雰囲気だった。
入って直ぐに沢山のケーキや焼き菓子が入った透明な大きな箱を見付けた。
「箱の中には氷が入っているからクリームもチョコも解けないの。好きなケーキを選んでくれる?」
アーネットとケイシーは遠慮なく果物が沢山盛られたケーキを数種類選んだ。
エリアナが従業員に何やら耳打ちしている。
「二階に部屋があるから、そこに行きましょう。」
エリアナの案内で店内の中央にある螺旋階段を登っていく。
二階は何処かの貴族の邸のような雰囲気だった。
エリアナの後ろを歩いていると、後ろから声がかけられた。
「アナ!」
後ろを振り向くと、とんでもない美丈夫が満面の笑みでこちらに向かって来る。
アーネットとケイシーは、急いでエリアナの背後に隠れた。
「フェリクス。久し振りね!貴方がいるって事は、殿下達もいるの?」
エリアナは美丈夫と普通に会話をしている。
アーネットがエリアナの袖をクイクイ引っ張った。
「あ!この人はフェリクス。私の弟子よ。」
エリアナは雑に美丈夫を紹介する。
「この二人はコート伯爵家の姉妹で、姉のアーネットと妹のケイシーよ。子爵家で一緒に生活しているの。」
エリアナがフェリクスに丁寧に紹介する。
「美丈夫の扱い雑すぎ……。」
アーネットがポツリとエリアナに突っ込んだ。
フェリクスはアーネットをじっと見ると、ニコリと笑った。
美丈夫のニコリは、反則である。
綺麗な笑顔にケイシーは顔を真っ赤にするが、アーネットはげんなりな顔をした。
フェリクスはアーネットをまたじっと見つめていた。
アーネットは美丈夫の視線に気が付いていたが、気が付かないふりをした。
「アナ。そう言えば特待枠の三人もいるんだけど、紹介したいから一緒に行かないか?コート伯爵家の姉妹もさ!」
アーネットはギョッとした。
ゆっくりケーキを堪能したいのに、殿下達がいたら堪能出来ない。
でも決めるのはエリアナだから、エリアナの答えを待った。
「特待生とは話してみたいけど、今日はアーネットとケイシーと楽しみたいから。またにするわ。」
エリアナはフェリクスに手を振り、アーネットとケイシーを奥の部屋に通した。
「厄介な事になりそうだわ……。」
エリアナの囁きにアーネットが気が付いたが、何を言葉にしたかは聞き取れなかった。
「エリアナ?」
アーネットがエリアナに聞き直そうとするが、席に座るように言われ二人はテーブルに向かう。
椅子ではなく、一人掛けのゆったりしたソファーに各々別れ座る。
座り心地の良いソファーを堪能していると、扉がノックされた。
「どうぞ。」
エリアナの許可の声に扉が開いた。
そこに居たのは、フェリクスと呼ばれた美丈夫だった。
「はぁー。やっぱり来たか。」
エリアナからは呆れたような、げんなりしたような声が漏れる。
アーネットが美丈夫に視線をやると、美丈夫はじっとアーネットを見ていた。
本能が察知したのか、アーネットは鳥肌が立った。
(意味不明だけど、あの美丈夫は危険!)
アーネットが本能で察知するも、手遅れであった。
エリアナは諦めて、フェリクスを部屋に入れたのだった。




