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モブな私は自由なはず‥‥私の周りはいつもずっと騒がしい  作者: おかき


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49話 エリアナ先生の授業が始まる

布が届き、全員が自分が欲しいマジックポーチの布を切り分けて貰っている……。


殿下の側近達が率先して切り分ける。

(そんなに欲しかったのね。マジックポーチ……。)

エリアナは、嬉々として動く側近達を眺めていた。



全員が布を手にし、針と糸もマチアスが淑女科から借りてきた為に全員の手に渡った。

なんと用意周到な側近達。



エリアナが教壇から教室をぼんやり眺める。

(三学年も入ると、ぎゅうぎゅうね……。)


ヴィラ先生が布を待つ間に、三学年に声をかけに行っていたのだ。


「今からでも、午後からでも変わりはないだろう?せっかくなら、ポーチから一緒に作ろうかと思ってね。」


三学年を引き連れて帰って来たヴィラ先生に苦笑いしか出来ないが、確かに一度に教えた方が効率的である。


エリアナは黒板に書いていた必要な紋の説明をする。


「マジックポーチはマジックバッグと違い、自分の魔力で効果を出します。常に微量の魔力を消費するので容量は小さめになります。魔力量を誤ると、魔力をごっそり吸われて命の危険もある事を頭に入れて下さい。」


エリアナが話す注意事項に生徒達全員が頷く。

教師三人も。


「糸で縫いながら自分の魔力を糸に流し縫って行きます。魔力は最小限にして下さい。流した量でポーチの容量が決まります。絶対に最小限の魔力として下さい。」


エリアナの説明が終わると、全員がポーチを縫い始めた。


教室の中は静かで、全員が必死に縫っている。

ぎゅうぎゅう詰めの教室は、異様な光景でしかない。

エリアナは教壇を降り、歩きながら魔力を必要以上に流していないかを確認して回る。

魔術を扱えるだけあり、全員器用に縫い上げる。

その後は必要な紋を裏地に縫い付け、生徒全員と教師三人がポーチを完成させた。


「注意点ですが、ポーチを外す時には必ず中の物を出して下さい。魔力供給がされないので、長く時間が空けばただのポーチになります。中の物がポーチを突き破る可能性もありますので気をつけて下さいね。」


昼食休憩の時間までまだ時間がある為、エリアナがある提案をする。


「魔術の基本である外枠内枠の円を素早く正確に描く為に、円を素早く出せるかを見せて下さい。なるべく小さな円を二重に描いて下さい。いきますよ。はい!」

エリアナの声に、一斉に魔術の円を描く。


エリアナは遅かった生徒の側に行き、紙に円を沢山描いていく。


円を描くのは早かったが、綺麗な円を描けていない生徒にも同様に円を沢山描く。

大小様々な円を描き、この円からずれないように指導する。

「この円から少しもずれず、同じ大きさになるように練習して下さいね。」


円を描いてもらった一人の生徒から質問があがる。

「カーマイン嬢はこの練習をしていたのですか?これを行えば正確な紋を描けるようになれるのでしょうか。」


エリアナは質問してきた生徒に視線を向け、大きく頷いた。


「魔術紋はいかに正確な円を描けるか。魔術を行使するには1番大切だと私は考えています。歪な円の中で躍る紋は効率が良くなく効果も下がります。

私は魔力を使えるようになる6歳からずっと毎日この訓練をしています。」


エリアナはそう言うと、手元に沢山の円を出しながら教室の天井にも円を何重にも描いていく。

「私は魔力が多い為、同時に沢山の円を描けます。」

エリアナが呆けて見上げる生徒達に大切な事を伝える。


「魔力量が大切ではありません。紋を使い小さな小さな紋でも魔物を一撃で倒せる紋を描ける事が重要なのです。確かに大きな紋は美しく効果も上がります。ですが、小さな紋でも大きな紋と同じ威力を出せる時もあります。魔力量ではなく、紋を描く能力が魔術には一番大切だと私は思います。」


エリアナの話に数人の生徒が俯き泣いていた。


泣いている生徒は魔力がきっと少なく肩身の狭い思いを沢山して来たのだろうか……。

自身の魔力の少なさを卑下し魔術に取り組む事はとても辛かった筈……。


エリアナは泣いている生徒を慰めはしない。


「円を正確に描ければ、後は美しい紋を描くだけ。糸の魔力の練習は安定した紋を描く為に役に立ちます。この二点は毎日少しでも練習する事をお勧めします。」


エリアナの話が終わると、授業終了の鐘がなった。

午後からも一学年の教室での授業が始まる。

この教室では魔術紋を展開するには狭すぎる為、先生方に広い場所が使用出来ないかを訪ねた。

先生方は同意してくれて、午後から使える場所を探してくれた。


エリアナはようやく席に座る事が出来た。

机に突っ伏して、ぐったりする。

そんな疲れたエリアナの頭を優しくセドリックが撫でる。

「お疲れ様です。リア。皆喜んでましたよ。」

そうセドリックが伝える。


エリアナはゆっくりと体を起こした。

「魔術って凄いのに、魔法の下に見られるのは何となく癪に障るのよね。どちらも凄いし、どちらも大切なものなのにね。」


殿下の側近達がお弁当の用意をしてくれる。

今日から側近の方達も一緒にお弁当を食べる。

今日は側近の誰かの家が用意していた。

 

イーネがケヴィンと一緒にお弁当の準備を始めた。

ふとエリアナが気になり視線を向けると、イーネと目が合った。

イーネはエリアナの視線がキラキラと期待に満ちてきたのを感じ、ある事を伝えた。


「エリアナは知らなかったかしら?ケヴィンは双子で兄なのよ?」


エリアナはその答えに、「似てない……。」

そう言うと、双子はクスクス笑った。


「てっきりイーネの婚約者?って勘違いしてしまったわ。」

肩を落とすエリアナに、イーネが少し考えると口を開いた。


「私の婚約者はキースリー伯爵令息ですわよ。」

イーネがさらりと告げ、お弁当の準備を再開する。


エリアナは婚約者を教えて貰い頷きながら、

「そうキースリー伯爵令息様なのね。」


………。


エリアナの動きが止まり、固まっている。


(キースリー?キースリーってあのキースリー?)

「キースリーって、騎士団長子息のあの……あの人がイーネの婚約者なの?!」


エリアナは驚いてイーネを指さし絶叫する。

セドリックはクスクス笑いながら、エリアナの指を戻し頭をポンポンする。


「お互い婚約者として一切交流しないので、名ばかりの婚約者ですわね。」


お弁当の準備も終わり全員で「いただきます」をして、食べ始める。

エリアナのポッケからは、いつも存在を忘れられるラビ(神様)が顔を出しエリアナのお皿の横にチョコンと座る。


エリアナはイーネの婚約者の名前に驚き過ぎて、ラビの存在を無視していた。


アーネットとケイシーはラビにお弁当を渡して良いのか解らずに、セドリックに視線をやる。

セドリックがエリアナの肩をポンと叩き、指先をラビに向けた。


エリアナはセドリックの指さす方に視線をやると、プルプルと泣きそうなラビと目が合った。


「ごめんなさい。忘れてたわ。」


エリアナの謝罪になっていない謝罪に、ラビはガクリと頭を下げた。


笑いが漏れ楽しくお弁当を食べる。


「いずれパトリック様との婚約は白紙になると思います。元々はパトリック様が殿下の側近だった為に私が選ばれたのです。

パトリック様は伯爵家。

侯爵令嬢である私は侯爵家という立場で選ばれました。

ですが兄が殿下の側近をしています。私が婚約者である必要性は無くなりましたし。何より、婚約者を蔑ろにし他の女性に侍る男はこちらからお断りですしね。」


淡々と話すイーネには悲壮感は微塵もない。

(キャシー様にも振られ、イーネからも振られる……。)

何とも言えない空気で、お弁当を食べ終わった。



午後の授業は広大な平原での授業となった。

魔術科の扉は先生が術式を流すと、この平原に繋がるらしい。

ここは本来は魔法科が使うが、この数年使用されず放置されていた。


ヨリ先生が腹を括って学長に直談判しに向かったのだが、あっさりと平原の使用許可が降り魔法科の管轄から魔術科への管轄へと変更されたのだ。


広大な平原は国の何処かであるが、機密事項な為場所を知る者は限られている。


エリアナは最初に属性ごとに生徒を分けた。

使用する紋が違うためだ。


属性ごとにエリアナは魔術紋を展開し、同じ紋を大きさを変えて二つ作るように伝える。


属性ごとにエリアナの紋に集まり、必死に同じ紋を展開する。

紋は攻撃紋を描いたものだ。


エリアナは五つの属性ごとの紋をずっと展開している。

魔力量も魔術の技術も優れているからこそ出来るのだ。


エリアナは最初こそ優しく丁寧に指導するが、全員にそれをしていると時間がかかってしまう。

エリアナは効率を上げる為に不合格の魔術紋を直ぐ様消して回る。

無表情にどんどん消して回るエリアナに、周りの生徒は引いている。


殿下や、殿下の側近達ですら容赦なく魔術紋を消すのだ。

エリアナの本気度を感じてしまう。


生徒達はエリアナから合格を貰いたいと、必死に頑張って紋を展開するのだ。


二時限が過ぎる頃、魔術の経験の少ないケイシーがようやく合格し全員がエリアナからの合格を得た。


少し休憩をし、最後にエリアナが魔術を見せる。


人一人の大きさの魔術紋を展開する。

その隣には、手のひらより小さな紋を展開した。


「この紋は両方とも水の魔力を行使する紋です。」

エリアナは水属性持ちのマーヤを呼ぶ。

マーヤに同じ量の魔力を紋に流し込むように伝える。


何が始まるのか、生徒達と教師三人はじっと見つめる。


最初に大きな紋に魔力を流すと、勢い良く水が放たれた。

建物が吹き飛びそうな勢いを放つ。


次に小さな紋に魔力を流す。

紋から出てきたのは、先程かそれ以上の水圧の水が放たれた。


マーヤは小さな紋から出てきた水量に驚き、尻もちを突いた。


「円の大きさでも、魔力の量でもない。

紋に何を組み込むかが重要になります。

紋は数え切れない程世界に存在します。

自分に必要な紋を覚えて組み込む。それが大切になります。

この二つの魔術に何を組み込んだかは教えません。答えが出たら私に教えて下さい。」



エリアナは魔術紋を浮かべたまま、その場を離れて草の上に座る。


セドリックが直ぐに訪れ、エリアナの耳に答えを伝える。

正確とばかりにエリアナは笑顔を向ける。


生徒達に紛れて、先生達も紋を眺める。


先生達は直ぐにやってきて、答えを伝える。



(想像豊かに魔術を使えば、どれだけでも新しい術式が出来上がる。私が想像力が豊な理由は転生者だからだと思う。

それなら、この世界の魔術発展と薬の向上の為に知識を使おう。)


エリアナは必死に頑張るアーネットとケイシーを見つめる。

トリス侯爵家で虐げられても、病気で伏せる伯爵。看病や領地運営に必死な夫人を気遣い必死に絶えた姉妹。



二人が張り切る理由は、今日伯爵夫妻が我が子爵家に訪れるから。


学園が休みの日、延期されていたセリーヌ公爵夫人を交えた話合いが行われる。

その場に参加するため、夫妻は王都にやって来るのだ。


その場所や他に参加する人がいるのだが、伯爵一家には内密にしてある。

驚かすのではない。

外部にもし漏れてしまうと伯爵夫妻に咎が行く可能性があるからだ。


エリアナがアーネットとケイシーをずっと見つめる理由を、セドリックは察している。


「リア。大丈夫ですからね。」

セドリックが小さな声で耳打ちする。


何時もなら黄色い声が上がるが、生徒達は全員紋の解析に必死だ。


エリアナとセドリックは会談が上手く行くことを祈りながら、頑張るアーネットとケイシーを見守っていた。


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