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Tender ∈ Wonder  作者: VaBideBoo
21/22

第21-1話 「ちょっと?……ちょっと?……」

今回2つ新たな試み。

1. スマホでの見やすさを考えて(少し)改行多め?にしてみた。

2. 予約掲載を設定してみる。


第21-1話 「ちょっと?……ちょっと?……」


次の日の朝、3人は朝早くから起きて準備を始める。

外はまだ暗い。眠そうな顔で朝食を済ませると、沙月もようやく頭が動き出したようだ。手際よく服を着替えて、歯磨きをして一階の居間へと向かう。

グラビスのリュックにはアングラビが付与されているということで、食料はグラビスがほとんど持ってくれることになった。そして、沙月とシエラはお菓子とジュースをリュックに詰める。

予定は一泊二日、最悪で3日分なので、それほど重くはない。

いつものように、東門を抜けて外に出る頃、薄っすらと夜があけて、辺りが明るくなって来る。

「まずは、きのこ採取場を目指す感じね。崖を2回登るわ。」

グラビスが手袋をはめながら、そう言うと、沙月とシエラが答える。

「ええ、了解よ。」

「おーう。」

グラビスを先頭にマジックボードで飛ぶ。

沙月とシエラも慣れてきた……という判断か、スピードもそこそこ早い。あっという間に平地を抜けて森の中へと入っていく。

3人のトレジャーハントは順調で数時間後には2つ目の崖にまで来ている。

マジックロープを体に巻き付けながらグラビスが言う。

「ちょっと早いけど、あそこで休憩にしましょ。……後で、休めるかどうかもわからないからね。」

いつも休憩している崖の途中の大きな岩だ。沙月とシエラはコクリとうなずく。

お昼にするには隨分早い時間だ。でも、グラビスがお弁当を開けてつまみ始めるので、沙月とシエラもそれに習って食べている。お弁当はサンドイッチで、沙月も2切れほど食べる。

「さあ、この後は未知の領域になるわ。ゆっくり行きましょ。」

グラビスがそう言って出発する。

崖を登り終えると、きのこの採取場はもう数十分のところだが、グラビスはきのこの採取場へのコースではなく、北東に向かう。目的地にほぼ、直線のコースだ。

しかし、1kmも進まないうちに、ファイが言う。

「沙月様。魔物がいます。」

いつものように全員が沙月の周りに集まって、沙月はパーソナルステータス画面を表示する。

「ファイ、表示して。」

パーソナルステータス画面に地図が表示されて、赤い点、青い点が表示される。赤がモンスターの位置、青が沙月の位置だ。

赤い点は動いてはいるようだが、目的なくウロウロしている……と言う感じだ。

グラビスがノートに書き込んでから、小声で言う。

「ほとんど、向かってる方向ね……。まず、西に進んでから北に行きましょ。……ゆっくりね。」

グラビスがそう言って、進む方向を90度変えて、進んでいく。沙月、シエラが後に続く。

しかし、西への飛行も長くは続かなかった。今度はシエラだ。

「グラビス。」

全員が止まって沙月の周りに集まる。

当然……かと思うが一応説明しておく。彼女たちは飛んでいる間はほぼ無言だ。だから、"誰かが喋った……。" これは緊急を意味する。3人には自然とこの事が共有されていて自然と集まっているのだ。シエラが言う。

「この先にいるわ……しかも複数ね。」

沙月はパーソナルステータス画面を表示するが、赤い点は表示されない。

ファイの探索とシエラの探索は違うものだ。なので、こういった事も起こる。何となく、シエラは危険度が高いほど、感度が上がる……。沙月とグラビスはそんな印象を感じていた。グラビスがノートにマークして、言う。

「じゃあ、そろそろ、北に向かうわ。」

さすがに沙月も緊張している。こんなことははじめてだ。ファイとシエラが魔物を感知するのは多くて日に1度で感知しないことも多い。それが、こんなに短時間の間に2度も感知するなんて……。

(「……え?、さっきあっちにいて……、こっちにもいるの?……。」)

そんな感じだ。

しかし、沙月のこの考えも甘かった……ということがすぐに分かる。

その後、ファイが「沙月様。魔物がいます。」と言ったのは3度あった。いずれも、東側に表示されたので、その度に、西側に回り込みながら3人は進んでいる。


---


さて、少し変なタイミングで申し訳ないが、沙月たちが魔物を避けながら目的地を目指している間に、昨夜のポポについて記載しておこうと思う。

ポポはシエラに加えて沙月とグラビスにも挨拶が出来て上機嫌だ。

"気になっていた……でも、こちらから押し掛ける訳にもいかない……。" という状態だったようだ。

「どうしたんだい、ポポちゃん?……ニコニコして……何か良いことでもあったのかい?」

夕食を食べながらおばさんにそう言われたのはそのためだ。自然とニコニコしていたようだ。

食卓にはいつものように、おじさん、おばさん、おじいさん、おばあさん、それにポポの5人が座っている。

ポポは戸惑いながら、言葉を選びながら答える。

「……あ、あの……今日、グラビスさんたちに……ご挨拶が出来たので……」

すると、おばさんだ。

「グラビス?……ああ、グラビスお嬢様……。そうかい。それは良かったよ。」

すると、おじいさんだ。

「おー、確かに、同い年ぐらいじゃのー。……パーテーじゃったかのー。」

その後、食卓の話題はやはりグラビスたちのことになる。このことは珍しいことではない。

ポポが来た時にもグラビスの名前は上がったし、孤児院の話題も上がったばかりだ。

そして、最後は大抵、こんな感じで締めくくられる。

「グラビスお嬢様は優秀だからね……。ほんとに、大したものだよ。」

「まあ、グラビスお嬢様だから、間違いはないだろうね……。」

そんな感じだ。

そして、そんな会話のあった夕食後、ポポがお風呂を終えて部屋にいる。といういつものパターンだ。


八百屋の2階のポポの部屋だ。いつものように窓が開いていて、商店街が見える。外は真っ暗だ。涼しそうな風がカーテンをゆらゆらと揺らしている。

ポポは小さな丸テーブルに座ってノートに何か書いている。出納帳のようだ、瓶代、という文字の隣に数字が書かれている。その下にも原材料と数字が5つぐらい並んでいる。

「うーん。……値段はこれくらいかな……、売れるといいんだけど……。」

ポポはノートを見つめながら、熟考してつぶやくように言う。

しばらくして、突然、ドドドドドードドドドドードドドドドーという音が聞こえる。

ポポが慌てて、襖をあけて、小さな端末のようなものを取り出す。そして、テーブルの上に立て掛ける。

「は、はい。ポポです。」

「あー。ポポさん。わたしです。」

画面に映し出されたのは悪魔見習い学校のゴツゴツした先生だ。

「あ、先生……、こんばんわ。」

「はー。予算会議、無事に終わりましたよ。あなたも気になってたでしょ? いつものようにね、2日間に渡ってやりましたよ。役人のお偉いさんが来るので、校長も張り切っちゃってね、これはとっておきのワインです、なんて言いながら振る舞ってましたね。普段は何の役にも立たない人なんですけどね、こういう時は役に立ちます。ほら、お酒飲ませれば、後は寝てますからね、こちらとしても楽なんですよ。私もね、ワイン頂きましたよ。香りがね、すごく上品で美味しいワインでした。ああ、ちゃんと、ビンゴゲームもやりましたよ。ワンパターンですけどね。ほら、高級腕時計をそのままあげる訳に行かないじゃないですか。でも、ゲームの景品にしたら渡せるじゃないですか。景品はね、どれもいいものだから、どれが当たってもいい訳です。交際費、減らさなくてよかった、って思いましたよ。それでね、一番高い高級腕時計を私が当てちゃったんですよ。これはね、ちょっと困りました。でも、ほら、役人のお偉いさんは半分、酔っ払ってますからね、ヘラヘラ笑ってましたね。まあ、ほら、私の日頃の努力を考えれば、貰う権利はあるじゃないですか。いえ、むしろね、私にこそふさわしいって思いましたね。男性ものだから明日にでも換金しようかなって思ってます。そうね……ちょとした車ぐらいは買えると思うんですよ。でも、車はいらないのよね……。ほら、今乗ってるのは学校の車でしょ。私用に買った物だから、私の物みたいなものですからね……。2年前に買ったもので、まだ……そうね、1,2年は使えますし高級車ですからね、まあ、そんなに不満は」

ここで、通信が途切れる。画面がプッチと切り替わる。

「ピーピーピー……、魔力切れです。」

ポポは端末のスイッチをオフにして、押し入れにしまう。

……

一応、しばらく考えているようだ。

(「何か重要な話はあったのかな?……」)

……

やっぱり、分からないようだ。

ノートを見つめてポポがつぶやく。

「お漬物……、おいしく浸かるといいんだけど……。」


---


さて、沙月達に戻ろう。

彼女たちは魔物に進路変更を余儀なくされながらも順調に飛び続けている。

先程の崖での休憩から4時間以上飛び続けていることになる。

"魔物を探知して沙月の元に集合……"。何となく、これが一時の休憩……という位置付けになっているようだ。


かなり高度が上がったためか突然、森が終わって、目の前に平原が広がる。平原なので視界が広くなる。……でも、それは魔物にとっても同じだ。森の中は視界が効かなくて怖かったが、逆に何も隠れるもののない平原も怖かった。沙月は防御力が1か2くらい減ったような感覚を感じている。

小山を登ったところに小さな平地があって、そこでグラビスが止まって、ボードから降りる。

沙月とシエラを迎えるとグラビスが言う。

「……ほら、あれが今日の目的地よ。」

グラビスの指差す先に確かに山が見える。……でも、あとどれくらいかかるのかさえ、沙月には分からなかった。

「ちょっと、ここで、休憩にしましょ。……テント出してもいいけど……草原の上も気持ちよさそうね。……沙月とシエラは引き続き、チェックよろしくね。」

グラビスがニコリと笑いながら言う。

沙月は緊張の面持ちでコクリとうなずく。今、沙月のパーソナルステータス画面は出しっぱなしだ。いつでもチェックできるようにしている。

シエラはクンクン……クンクン……をやっている。"止まるとやる。" これもパターンになっているようだ。

一方のグラビスは、ここまで来れた……ということに満足している様子だ。ニコニコしている。グラビスが言う。

「私、ジュース飲みたいわ。」

ジュースは沙月とシエラの係だ。沙月がリュックからジュースを取り出してグラビスとシエラのコップに注いで配る。

沙月とシエラもグラビスの笑顔を見ていると、徐々に笑顔になっていく。沙月的には、

(「予想以上に時間がかかってる……。モタモタしてると日暮れまでに辿り着けないかも……。」)

という感じなのだが、グラビスは違うらしい。

(「こうなることも予想通り……いえ、むしろ、うまくいってるわ……。」)

そういう感じだ。

沙月はお昼の残りを食べ終えて、お菓子をつまみ始める。

沙月は改めてグラビスのすごさを思い知った気がした。これまで、沙月達が魔物にほとんど出会わなかったのはグラビスのデータのおかげだ……沙月はそう思った。グラビスが未知の領域……と言った途端に魔物がいる。しかも、沙月的には(「あちこちにいるんですけど……」)という印象だ。

(「……グラビス……、ちょっと、すごすぎない?……」)

そう思って沙月に笑みが漏れている訳だ。

しばらく休憩して3人は出発する。

沙月の緊張も少し解けたようだ。平原を飛ぶのはやはり気持ちが良かった。気温が下がってちょっと寒いかな……というぐらいの冷たい風が疲れた体には心地良い。それにペースも上がる。

しばらく行くと、平原が終わって、ゴツゴツした岩だらけの風景になる。

幸いファイもシエラも沈黙したままだ。沙月も少し余裕が出てくる。振り返ってシエラを見ると、シエラもニコリと笑って返す。

岩だらけの坂道を上りきってみると、突然景色が変わる。

……キラキラと光り輝く魔鉱石の平原だ。一面が魔鉱石……そんな光景だ。少し先には山の頂上も見える。頂上付近もキラキラしているので、そこまで魔鉱石で覆われているようだ。

やはり、沙月は予想が大きくはずれてビックリしているようだ。

(「とんかちでカンカン……じゃないんだ……」) と思って笑顔だ。

てっきり、とんかちでカンカンやって取り出すイメージだったようだが、これは、拾う?……という感じだ。

グラビスも飛びながら後ろを振り返って笑顔だ。沙月の反応を確認して楽しんでいるようだ。

キラキラ光って、とても綺麗だ。……まるで、宝石の上を飛んでいるよう……。

沙月はキョロキョロと辺りを見渡して、足元を見て……と忙しい。

「わあ……、すごい。」

こうつぶやくのが精一杯のようだ。

グラビスが山の中腹に平地を見つけて、ボードから降りる。そして、ニコニコしながら後続の沙月とシエラを迎える。

「おつかれ。……と・う・ちゃく・よ」

グラビスがそう言って、沙月とシエラも満面の笑みだ。すると、シエラだ。

「やったー!……ぶー・じー・だー!」

無事?……、シエラがこの言葉を使ったのは少し意外に感じた。

(「そっか……シエラもちょっと心配してたのね……。私だけじゃないんだ……。」)

沙月はそう思ってニコリと笑って返す。

無事に到着した……という喜びが落ち着いてくると、グラビスが言う。

「沙月。ここにテント出してくれる?……ちょっとだけ休憩して、明るいうちに魔鉱石の収集をしちゃいましょ。」

沙月がテントを取り出して、グラビスがスイッチを押す。ほんの数秒でテントが建つ。

テントは建ったものの、3人は外で休憩することにしたようだ。荷物を中に持ち込んで再び外に出てくる。

3人はジュース、お菓子をつまみながら、改めて魔鉱石の平原を眺めている。

様々の色の魔鉱石がある。赤、青、黄色、白、黒、オレンジ……。大きさも様々だ。小さいもの、中くらいのもの、大きいもの……。それが一面に広がってキラキラ輝いているのだ。

もちろん沙月は、こんな光景は見たことがない。思わず、顔がニヤけてくる。グラビス、シエラも同様だ。3人は横一列に並んで、そんな景色をニヤニヤしながら眺めている。

しばらくして、グラビスが言う。

「魔鉱石の集め方……なんだけど、沙月は同じ種類のものをたくさん集める……をお願いできる?……例えばこんなのね。」

グラビスが近くに転がっていた小さなボールくらいの魔鉱石を2つ手に持って言う。確かに同じ種類のように見える。沙月はお菓子を食べながら"うん"とうなずく。

「それで、私とシエラはレアそうなもの。……と言っても、1個でスロットを占領するのも何だから、2,3個くらいは見つけたいわね。」

シエラがニコリと笑いながら言う。

「おーう。任しといて、ちょっと難しそうだけどね。……まあ、やってみるわ。」

これを聞いて、沙月とグラビスの目が自然と合う。

(「え?……シエラ……、そんなことも出来るの?……」) という顔だ。

グラビスは思い直して続ける。

「ファイとシエラは引き続き、周りにも注意しててね。……いざとなったら、すぐにテントに逃げ込むわ。……沙月は全員がテントに逃げ込んだら、テントにカモフラージュお願いね。」

シエラがうんとうなずく。沙月は1度頭の中で、イメトレしてから答える。

(「みんなが入ったら、カモフラージュ……」)

「うん。わかったわ。」

休憩を終えて、魔鉱石の収集をはじめる。

はじめてすぐに分かったことだが……難しい。

沙月の担当は"同じ種類のものをたくさん集める"だが、何となく、5種類くらいはあるのかな……という感じだ。沙月はすぐに紙とペンを持ってくればよかった……と後悔する。グラビスは持ってるから、借りてもいいんだけど……。えーい、直感だ、と割り切って、魔鉱石178を集めることにする。

シエラは変わったことをしている。目を閉じて、両手を前に突き出して歩いている。目を閉じて歩いているので、時々つまづく。目を閉じて集中すると何か分かるのかもしれない。……ブツブツ言っている。

「あー……、こっちね……、こっちだわ……、あれ?……、わからなくなったわ。……あっ!……、危ない危ない……。」

つまずいて転びそうになっているシエラを見て、沙月とグラビスはククク……と笑っている。

グラビスは色と重さで判別しているようだ。辺りを歩き回って、気になる魔鉱石があったら両手で持ち上げてみる。狙いは中くらいの大きさの魔鉱石らしい。

シエラとグラビスが気になる魔鉱石を見つけると、沙月を呼ぶ。沙月が収納を選択して、魔鉱石の番号を確認する……。沙月はどこでも魔鉱石178を見つけられるので、呼ばれた場所で再び探し始める……という具合だ。

沙月のスロットはあっという間に埋まってしまう。どれを残す?……、と相談するが、全く不毛な相談だ。グラビスにも分からない。……結果、3人は何となく……という感じで収集を続ける。

沙月の魔鉱石178が99個集まった頃には日が沈みはじめて薄っすらと暗くなってきていた。後半はグラビスも手伝ってくれた。それで、半ば強制的に収集は終了になる。

シエラとグラビスが先にテントに入って沙月がテントにカモフラージュをかける。沙月がテントに入ると、予想通り二人とも、ソファーでぐったりしている。沙月もソファーに倒れるように座り込む。

(「はあー……疲れたーー……」)という感じだ。

しばらく3人は言葉もなく無言で呆然としている。

グラビスが「先にシャワーにしない?」と言うが2人の反応は薄い。

今は動きたくない……ということらしい。

「じゃあ、私、先に入るね。」と言うと、2人がコクリとうなずく。

グラビスはククク……と笑いながら、リュックからジュースとコップを取り出して、テーブルの上に置いてから、シャワーに向かう。

沙月がジュースをコップに注いでシエラの前に置く。

「ありがと。」

シエラがそう言って、2人は黙ってジュースを飲む。

(「……あれ?……、おいしい……。」)

2人とも一気に飲み干しておかわりを注いで、グビグビ飲んでいる。緊張が解けたせいかもしれない。疲れた体に甘いジュースが染みる。

一息ついて、沙月も少し元気が戻ったようだ。

グラビスがシャワーから戻って来てくる。

「はあー、すっきりした。……やっぱり、頭は洗わないとね……、あれ?……、もう全部飲んじゃったの?」

沙月が笑顔で答える。

「ごめん。……全部飲んじゃったわ。」

グラビスも笑顔になる。

「そう……、あっ!……、忘れてたわ、食料、魔冷庫に入れとかないと……。次は沙月?……、入ってらっしゃい。」

グラビスはそう言って、リュックを開けて食料を四角い魔道具(魔冷庫)の中に仕舞い始める。

沙月がシエラを見ると……お先に、どうぞ……という顔だ。それで、沙月がシャワーに向かう。

シャワーなので、残念ながらファイとの会話は出来ない。それに狭いので、体を洗うのはあきらめて、頭だけ洗うことにしたようだ。

体が冷えていたのか温かいお湯が心地いい。

沙月がシャワーから上がると、グラビスが髪を乾かしてくれる。

「シエラ、シャワー空いたわよ。」

「……」

「シエラ?」

「……」

こんなやり取りの後、シエラがシャワーに向かうと、グラビスが夕食の支度を始める。沙月もキッチンに向かう。

「手伝うわ……。」

グラビスがニコリと笑って答える。

「あ、大丈夫よ。……温めるだけだから。……あっ、じゃあ、これ3人分に分けて入れてくれる?」

フルーツのたくさん入ったフルーツポンチのような食べ物だ。沙月は3人分に分けて器に入れてテーブルに運ぶ。グラビスがスープを用意し終わっていたので、こちらもテーブルに運ぶ。

メインディッシュはお好み焼きのような食べ物で、たっぷりのお肉と野菜、きのこなどが入っている。1人2枚……十分お腹いっぱいになりそうな分量だ。シエラがシャワーから戻ってくる頃には温め終わって、テーブルに並べられる。

沙月が温かいお茶を用意し終わって、夕食が始まる。

グラビスが言う。

「じゃあ、いただきましょ。」

夕食は3品。質素だったが、沙月はむしろ歓迎だった。たまにはこういった、ジャンクフードのようなものも食べたくなるものだ。メインディッシュはグラビス曰く、チス国では一般的な食べ物で、子供に人気がある……とのことだった。エリスの提案で、コックさんが作ってくれたそうだ。さすがにグラビス家のコックだ。くせになりそうなソースも美味しかった。

沙月とシエラの元気も戻っていて、3人はいつもより時間をかけて夕食を食べている。シエラが言う。

「魔物……、いっぱいいたわね。……思ってた以上だったわ。」

沙月も同意する。

「うん。……そのうち、身動き取れなくなるんじゃないかって心配になったわ。」

グラビスはノートを見ながら言う。

「直線ルートって言いながら、隨分、遠回りしたわ。……2倍以上……って感じかしらね。……ちょっと疲れたけど、2泊にするほどでもないのよね……。」

そう言われて、沙月も考えている。

確かに、グラビスの言った通り、1泊だとギリギリ……という感じだった。でも、もう1日……となるとちょっと長すぎる。魔物次第だが、1泊というのは妥当な選択だと思った。

「うん。……1泊、……妥当だと思うわ。」

グラビスはニッコリ笑う。そう、よかった……という顔だ。

一方、シエラは

「ちょっと?……ちょっと?……ちょっとじゃないわ……。ブツブツ……」

と、ブツブツ言っている。

そんなシエラを見て、沙月とグラビスはククク……と笑っている。

グラビスが言う。

「ねえ、今、魔物って周りにいる?」

夕食はほとんど食べ終えている。隨分時間が経ったので、ちょっと気になったのだろう。

沙月がファイに聞く。

「ファイ。どう?」

「すみません。このテントの中からは分からないです。」

「そ、そうなんだ。」

沙月はすぐにファイの言うことを理解するが、グラビスとシエラは"?"という顔だ。沙月が2人に説明する。

「ほら、グラビスが言ってたでしょ……、別世界って、ファイは別世界を通り抜けられないの。……だから、探索も出来ない。……そういうことでしょ?」

最後はファイへの質問だ。

「はい。そうです。」

グラビスとシエラのなるほど……という顔を確認してから、沙月は立ち上がって、入口に向かう。入口を少しだけ開けて、ファイに聞く。

「ファイ。これでどう?……抜けられる?」

「はい。大丈夫です。少々お待ち下さい。」

ファイはそう言って隙間を通って、外に出る。すぐに戻って来て沙月に言う。

「沙月様。地図を表示してもらえますか。表示しますので。」

沙月が手早く表示すると、赤い点がある。……800mくらいだろうか。

沙月は入り口を閉じて、テーブルに向かうと、グラビスとシエラに画面を見せる。

「山の向こう側ですね。」

ファイがそう言うと、グラビスはうんうんとうなずきながらノートに書き込む。沙月とシエラは黙ったままだ。ちょっと、緊張が走る。

でも、グラビスは違うようだ。ニコッと笑って2人を見る。

「もう、どうしようもないわ。……夜だし、動かないでここにいるほうが安全よ。……ほら、魔物って夜行性のもののほうが多いと思うの。夜は色んな所をウロウロするのよ。……朝になっていなくなってくれたらそれでいいわ。」

沙月とシエラはグラビスの笑顔を見て安心したようだ。沙月は思い出している。

(「"あの崖で2日間、足止めを食らったこともある……。" そう……グラビスはこんなの何度も経験してるのね……。」)

グラビスが思い出したように言う。ファイに向かってだ。

「そうだ……コットさんが、音も漏れないだろう……って言ってたけど、ファイもそう思う?」

すると、ファイが即答する。

「はい。私もそう思いますね。」

グラビスがニッコリ笑って2人を見る。沙月とシエラも笑顔で返す。沙月は思う。自分に言い聞かせるような調子だ。

(「そう……このテントは相当安全……。それに念の為、カモフラージュもしてある……。こんなことは、グラビスにとっては想定内。……心配するようなことではない……。そういうことね……。」)

3人はここで、ゲーム……の予定だったが、どうも、そういう気分ではないようだ。相当、疲れた……ということらしい。

しばらく、お菓子とジュースをつまみながら、話をしていたが、夕食後の眠気と疲れに抗うことが出来ないようだ。

ベッドは協議の結果、下段がグラビス、上段がシエラとなっていた。2人が早々にベッドに横になる。

沙月も、横になりたかった。ソファーをベッドに変えて横になると、グラビスがベッドから出てきて、沙月のベッドの周りに、3つのポーチを置いていく。

「まあ、気休めだけど、今日、一番疲れてるのは沙月のはずだから……。」

魔畜石のことだ……と沙月は理解する。

「ありがと。」

しばらくすると、シエラの寝息が聞こえて来る。

自然と、もう寝よう……ということになって、グラビスが灯りを消す。

沙月は不思議だな……と思う。なぜか旅行に出かけると早く寝ることになる。

(「普段だったらこんな時間に寝ることはないのに。……でも、まあ、しょうがないか……、今日はずっとマジックボードに乗って移動してたって感じ……最長記録ね……。確かに……、疲れたわ……。」)

そんなことをぼんやり考えていると沙月もすぐに眠りについたようだ。


第21-1話完

挿絵(By みてみん)

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