第19話 「100回くらい書き直しなさいよ!」
第19話 「100回くらい書き直しなさいよ!」
次の日、早めの昼食……、ではなく、遅めの朝食を済ませて、3人は家を出る。
まずは1つ目の宿題、
"マジックボードで早く移動してもカモフラージュはちゃんと機能するのか?"
から片付けることにしたようだ。
辺りをキョロキョロと見渡して、人がいない事を確認して、沙月がマジックボードを取り出してシエラに手渡す。そして、沙月がカモフラージュを発動する。沙月の右手がほんのり赤く光って、シエラが赤い光で包まれる。一瞬でシエラの姿が消える。その後、沙月とグラビスはキョロキョロしている。何かチラッとでもシエラが見えないかどうか……、でも、全く分からないようだ。
…
沙月が、
(「ちょっと長いな……。シエラどこ行っちゃたんだろ……。」)
と思い始めた頃に、耳元で、"沙月"と声をかけられて、ビックリしている。……まあ、これはお約束かも知れない。
シエラに掛かったカモフラージュをクリアで解除する。
「どうだった?」
「うん。全然、分からなかったわ。……どこ飛んでたの?」
「え?、カド曲がって向こうまで行ったら、見えるわけ無いでしょ!」
そんな話をしている。
以上、3人の予想通りだったがマジックボードのスピードで動いてもカモフラージュは有効……、ということが分かった。
次は2つ目、3つ目の宿題だ。3人は東門に向かう。東門の数十メートル先に塔が見える。
"城壁の塔の扉の鍵は開けられるか?"
そして、仮にここから上がれたとして、
"城壁の歩廊は本当に使えるのか?"
「……多分、大丈夫だと思う。」これはあくまで、グラビスの子供の頃の記憶を元にした推測に過ぎない。これも確認する必要がある。
この辺りは裏通りで人気は全く無い。辺りをキョロキョロと見渡して、沙月が全員にカモフラージュをかけ、3人の姿が見えなくなる。姿が見えなくなったので、実際には何をやっているのかはわからないが、そうもいかないので、説明を続ける。
沙月が針金のようなものを取り出して、鍵穴をカチャカチャやり出すと、すぐにカチャっという音がする。グラビスとシエラは、"おーー"という顔をするが、無言だ。そして、ニヤニヤした3人が忍び足で塔の中に入っていく。開けられるかどうか心配していたのが馬鹿らしくなるほどあっさり開けてしまったという印象だ。
塔の中は明り取り用の窓が数箇所あるので真っ暗ではなく薄暗いという感じだ。急な螺旋階段を3人は登る。最上階に金属製の扉が両側に2つあってそのうちの1つをグラビスが開ける。鍵は内側から掛けるので、ここは沙月の出番では無い訳だ。
城壁の上の歩廊は思ってた以上に状態は良かった。さすがに、所々、凹みはあるが、問題なさそうだ。
グラビスの記憶通り、街の外側の塀は防御のため高いが、内側の塀の高さは普通で高くはない。つまり、カモフラージュがなければ、街の人にも見えてしまう。それに、マジックボードに乗ると腰よりも低いくらいになる。これはつまり、操作を誤って塀にぶつかると簡単に下に落ちてしまいそうな高さだ。無いよりはマシだが、マジックボードに乗る沙月たちにとっては何とも頼りない塀ということになる。
とは言え、グラビスはニコリと笑って、沙月とシエラを見る。二人も笑顔だ。"行けそうね……うん。"という会話が交わされたようだ。
さて、以上で昨夜の宿題は終わった。読者の中には"地味……"と思う人もいるかと思うが、彼女たちは至って真面目だ。
"道具屋のコットのところに行く。"
今までなら、歩いて向かうことになって2時間くらいかかる。でも、状況が変わった。
マジックボードを入手して、練習もした。沙月とシエラもそこそこ扱えるようになった。グラビスも"まあ、大丈夫かな……"と思っているようだ。
それに、沙月が魔法を覚えた。カモフラージュとマスカレードだ。。
(「カモフラージュは姿が消せる魔法……様々な使い途がありそう……」)
これは、直感的にもちょっと考えるだけでも、沙月たちがそう思うのは当然だ。
そして、マジックボード、沙月の魔法、これらを使わない手はない……。3人はそう思った訳だ。
そして、昨夜、喧々諤々と議論をして、いつもとは違う方法で行くことを決めた訳だ。そして、今、彼女たちにとって、不確定だった要因が取り除かれて、
(「行けそうね……。」)
と思って、ニヤニヤしている訳だ。
彼女たちは、「誰もやったことがないこと……」、しかも、「何が正解かも分からない……。」そういうことをやろうとしている。
そして、そういうことをやるというのは、ドラマや映画のように劇的な展開ではなくて、こういった地味な作業の積み重ね……、ということなのかも知れない。
「沙月。マジックボードお願い。」
グラビスが小声でそう言って、沙月は、(「あっ……、そうね……。」)と我に返って動き始める。
全員の準備が出来て、
「じゃあ、ゆっくり行くわよ。」
とグラビスが小声で言って出発だ。グラビス、シエラ、沙月の順に飛び始める。
先程も言ったように塀が低いので落ちないとも限らない。それに、歩廊は緩やかに曲がっている事もあって、3人は注意しながらゆっくりと飛んでいく。
沙月には景色を楽しむという余裕はない。シエラの背中、地面、自分のマジックボード。これが沙月の視界のすべてだ。習得したばかりの曲がるというマジックボードの操作に集中している。一方のシエラも沙月と同じように"いい練習の機会"と思っているようだ。微妙に曲がってみたり、スピードを落としてみたり、マジックボードの操作に集中している。
そして、そんな二人の様子を確認しながらグラビスは付かず離れずの距離を保って、ゆっくりとしたスピードで飛んで行く。
途中、2箇所、同じ作りの塔があって、沙月が鍵を開けなくてはいけなかった。
2つ目を塔を抜ける時に、グラビスが、
「あと、もうちょっとね。」
と言ったように、しばらく飛んで、グラビスが右手を上げて合図をして止まる。目的地付近に到達したようだ。
「この辺り、塔はないから、マジックロープで降りましょ。」
グラビスが小声でそう言って、沙月とシエラがコクリとうなずく。沙月、シエラは塔に登ってから、終始無言だ。
沙月がマジックボードを収納して、マジックロープを取り出してグラビスとシエラに手渡す。
3人がマジックロープで下まで降りる。これはもう、沙月もシエラも手慣れたものだ。
そして最後に、沙月がマジックロープを収納して、クリアでカモフラージュを解除する。
グラビスが時間を確認してニコニコしている。まだ、十分にお昼前だ。さすがに15分は無理だったが30分もかからずに来れたことになる。
沙月、シエラもつられて笑顔だ。(「うまくいったね……。」)という満足そうな表情だ。
歩き始めて、ようやく緊張も解けたようだ。シエラが言う。
「うーん。予定通りね……。これなら、いつでもコットさんの所に来れるわ。」
沙月もグラビスも同意見でニッコリ笑う。今日ははじめてだったのでかなりゆっくりだったが、もっと、スピードも上げられそうだ、
「うん。15分も可能かも……」
グラビスがそう言って、ニコニコしている。
沙月とシエラがコットの道具屋に来るのは2度目だ。この辺りはかなり入り組んでいて、しかも、前回とは全く違うコースを歩いているので、どこを歩いているのか沙月にはさっぱり分からなかった。前回、沙月は気が付かなかったが、この辺りは不揃いに長屋が並んでいることに気がつく。グラビス曰く、家を増築する時に横に伸ばしたんじゃないかな……、とのことだった。長屋でしかも不規則なので、角を曲がっても前方に別の長屋が現れる。前回、コットの作業場の奥を通って正面の店に出たのはそのためだ。家の裏側から正面側に行く時にぐるっと回らなくてはならない。
いわゆる、下町的で"ちょっと広い道路"を「いい道……」と思う沙月には厳しいようだ。"いい道"が全く見当たらない。
グラビスに導かれて、見覚えのあるただのさびれた扉に辿り着く。やはり、グラビスはノックもせずに開ける。
「コットさん。こんにちわ。」
中はコットの作業場だ。こじんまりとしたものだが、前回同様に綺麗に整理整頓されている。
ストールに腰掛けて作業をしていたコットが顔を上げる。ルーペのようなものを頭から被っていてコットの顔が歪んで見える。ルーペを脱ぎながらコットが言う。
「おお、来たの……。今日はずいぶん早いの、昼過ぎぐらいだろうと思っとったわい……。」
「こんにちわ。コットさん。」
「こんにちわ。」
沙月とシエラも挨拶する。
「おー。よう来たの……、まあ、立っとらんで、そこにすわりんしゃい。」
コットは近くのストールを指差しながらそう言って、小さな台所へと向かう。
グラビスが2人に目配せして、3人はストールに腰掛ける。今日は、アルクくんはいないようだ。学校かな……、と沙月は思う。
コットはすぐに、お茶を入れ終わって、沙月とシエラにお茶を手渡す。
「あんまり、うまくはないがの。」
「ありがとうございます。」
沙月がそう言って、お茶をすする。前回のこともあるので、一応、グラビスに警戒しながら……だ。
コットがグラビスにお茶を渡して、自分のストールに座って茶をすすり始めると、グラビスが話し始める。
「マジックボード、ありがと。調子いいわ。……ね?」
そう言って、沙月とシエラを見る。沙月はお茶をすすろうとしているタイミングだった。でも、シエラがすぐに答えてくれる。
「ええ。バッチリだわ。」
沙月はうんうんとうなずく。
「ほう。それはよかったわい……。まあ、わしゃ大したことはしとらんがの……。」
コットはそう言ってお茶をすする。
「今日はね、マジックボードで来たの。……城壁の上をね。上手くいったわ。」
グラビスがニコニコしながらこう報告して、沙月は少しビックリだ。でも、何となく前回も思っていたが、グラビスはコットを本当のおじいさんのように思っているようだ。
(「コットさんには隠し事は必要ないわ……。」)
グラビスはそう言っているようだ。
それに、今日はアルクくんがいないのも影響してるのかな……、と沙月は思っている。おじいさんと孫……そんなふうに見えたからだ。
これを聞いてコットが急に笑顔になる。
「ほー。……それは、それは……、ハハハ……、あんまり、目立たんようにな……、ハハハ。」
グラビスが笑顔で答える。
「うん。大丈夫よ……、抜かりはないわ。」
しばらくして、話が本題に入る。コットが部屋の片隅を見ながら言う。
「ほれ、あれじゃ……、出来とるぞ。送ってやろうと思っとったのに……。」
コットの視線の先は細長い台車のようなもので、上に、細長い白いカバーに包まれたもの……、つまりテントが置かれている。
台車はただの台車ではないようだ、台の部分と手で押すハンドル部分に魔鉱石が埋め込まれているのが見える。
コットが続ける。
「相当、重いわい。……これ以上は無理じゃの。」
グラビスは即答だ。
「うん。分かってるわ。」
コットが続ける。
「その台車なら持ち帰れるじゃろ……。」
それを聞いて、グラビスが笑顔で振り返る。
「ねえ、沙月。収納出来るか試してみて。」
コットが、ん?……、という顔になる。
沙月が立ち上がって、パーソナルステータス画面を出す。左手でテントに触れながら、ツール-収納を選択する。
「あっ、出たわ……、"広々テント"」
そう言って、広々テントを選択するとテントが一瞬で消える。
コットはビックリしている。
「ほー。……そうか、そうか……、そういうことか……、ほー……、ハハハ。」
そう言って、沙月をマジマジと見ている。沙月はマジマジと見られて少し恥ずかしそうだ。
グラビスも笑顔で沙月を見ている。
「はあ、良かった。収納出来るとは思ってたけど……、ちょっと心配してたの。……収納出来なかったら、今日は手ぶらで帰る事になってたわ。」
グラビスのこの言葉を聞いてコットが少し驚いたようにグラビスを見つめる。なに?……、まだ、わしに仕事させるつもりじゃったのか?……、という顔だ。
沙月は立ってていいのか、座ったほうがいいのか、テントを取り出すのか……、と戸惑い始めると、グラビスがすぐに気がついて言う。
「ねえ、今日はどうする?……お店見て行く?」
沙月は少し考える。……とは言っても、特に欲しいものは無い。すぐに結論は出たようだ。
「私は……、特に無いけど……。」
「私も、特に無いわ。」
沙月とシエラの答えを聞いて、グラビスが言う。
「じゃあ、今日はこのまま帰りましょ。すぐに来れるって事も分かったし。」
3人はコットにお別れを告げて、そのまま裏口から外に出る。
沙月は少し拍子抜けな気がした。1度目の道具屋訪問を思い出して、何事もないように……、と少し緊張していたし、テントのこともある程度は説明があるのかな……、と思っていたからだ。それに、沙月には不思議だった。沙月はそれほど、キャンプ道具に詳しいわけではなかったが、見た所、小さなテントのように思えた。
(「3人ぎりぎりで寝る感じなのかな?」)
それに、コットの言葉も不思議だ。
"相当、重いわい。……これ以上は無理じゃの。"
なんだか、グラビスが重くして……、と頼んだかのようだ。
そんな沙月を察知してかグラビスが言う。
「ごめんね。詳しい話は家に帰ってからにしましょ。……あそこは少し狭いからね。」
どうも、グラビスはテントを組み立てるつもりらしい。そうなると、コットさんの作業場は確かに狭いわね……、と沙月も納得したようだ。
3人が城壁までやってきて、キョロキョロ辺りを見渡す。……そして、3人の姿が消える。
3人のマジックボードでの帰宅も順調だった。家に帰ると丁度、お昼頃だったので、3人はお昼を食べることにする。
昼食後、3人が部屋に戻ると、グラビスがポーチを手に持って言う。
「この部屋もちょっと狭いから、別の部屋でやりましょ。」
グラビスはそう言うと2人を隣の隣の部屋に誘う。沙月もシエラも入ったことのない部屋だ。
部屋の大きさは沙月達の部屋と同じぐらいだったが、ベッドは1つも置かれていない。その代わりに壁に本棚があって、分厚い高そうな本が綺麗に並んでいる。グラビスが明かりを付けて、沙月に言う。
「沙月、テント取り出してもらえる?」
沙月がうんとうなずいて、テントを取り出す。沙月の目の前の床にテントが現れる。
「まずは……、そうね……、沙月、そのテント持ち上げられるか試してみて。」
持ち上げられるか試す?……、沙月は意味がわからないまま、持ち上げようとする……。……あれ?、びくともしない。
「え!?」
沙月が思わず声を上げる。足の位置を調整して、もう一度試す。今度は少し浮く。……かなり重いようだ。
沙月が無言でグラビスを見る。グラビスは笑顔だ。
次はシエラが試すようだ。
「どれどれ……、うーーーん……、おもーーーーい。」
シエラもほんの少し持ち上げる。
見た目では想像できないほどに重いようだ。
次に、グラビスはニコニコ笑いながら、白いカバーを開ける。中には濃い緑色の布のようなテントが入っている。
その緑色の布の端を持ってペラっと絨毯の上に広げる。それからポーチから折りたたみナイフを取り出す。
(「な……、ナイフ?」) 沙月は少し緊張だ。
「見てて。」
グラビスがそう言って、ナイフを持った右手を大きく振りかぶる。そして、思い切り、ナイフを緑色の布めがけて振り下ろす。
…
……あれ?……、妙だ……、グサッともドンともガンとも何も音がしない……。
沙月の目が大きく見開いている。……よく見ると、ナイフの先端が布の手前で止まっている。刺さってもいない……。
グラビスは沙月とシエラの反応を見てニコリと笑う。それから、ナイフをしまって、緑色の布を元に戻す。絨毯も、何事もなかったように見える。
(「まるで、マジックショーを見てるみたいね……。」) と沙月は思う。
沙月とシエラがお互いを見て、笑う。……不思議ね……、という顔だ。
グラビスが説明を始める。
「まず、今のから説明するわ。……って言っても私も良く分からないんだけどね。この布に相転移層というのを付けてもらったの。すごく薄い層が表面にある……、って感じね。それで、相転移層って言うのはコットさん曰く、"別世界みたいなもの……"らしいわ。別世界だから、ナイフはその世界には絶対に入っていけないの。今見てもらったみたいに、直前で止まるのね。」
「……」
沙月は言葉もない。でも、何とか頭を動かして、戸惑いながらも言う。
「すごく薄い、別世界の層があるから、ナイフは突き抜けられなかった……。」
「そう。イメージ的にはね。……ほら、"コットさんにバージョンアップしてもらってる"って言ったでしょ。これがそのうちの1つなの。……まあ、偶然の産物って感じね。」
(「す……、すごい。……さすが魔法ね……。」) と沙月は思う。
「う、うん。分かったわ……。じゃあ……、魔物に攻撃されても安全……、ってことでいい?」
グラビスがニッコリ笑う。
「そうなの。多分だけど……。絶対に突き抜けられないだろうってコットさんも言ってたわ。」
沙月とシエラもニッコリ笑う。
(「グラビス……、すごいわ……、確かに、私がカモフラージュを使えるようになったのはただの偶然みたいなもの。グラビスはちゃんと、それ以上の対策を考えていた……。すごいわ……、すごい。……さすが、グラビスね。」)
沙月は素直にそう思っている。いや、ちょっと凄すぎて、呆れているくらいだ。
2人がここまでは理解してくれた……、ということを確認して、グラビスは次に移る。
「ちなみに、このテント、今は緑色だけど、色も変えられるの。」
そう言って、3つくらい並んだ小さなボタンの1つを押す。すると、緑色が一瞬で白に変わる。
「ほら、冬山だと、緑は目立つでしょ。だから、白にするの。……でももう、沙月がいるから、意味ないんだけどね……。」
意味がない……、と言われても、沙月にはすぐには分からなかった。でも、グラビスがそう言うんだから、そうなんだろう……、と思って黙って聞くことにする。
「ねえ。テント建ててみるから、二人とも私の後ろに来てくれる。」
グラビスにそう言われて、沙月とシエラがグラビスの後ろに回る。グラビスが、小さなボタンの中で、一番大きいボタンを押す。すると、カチャカチャカチャカチャという感じで、段階的に自動でテントが組み上がっていく。数秒くらいで目の前に真っ白なテントが出現する。
出来上がったテントは小さなものだった。3人がぎりぎり、寝れるかな……、という位の大きさだ。
グラビスが振り返っていう。
「入ってみましょ。」
そう言って、グラビスが中に入る。沙月は、え?と思いながらも続く。
「え?」
沙月が思わず声に出してしまう。テントの中に小さな部屋がある。左奥に2段ベッド、その手前にソファーとテーブル。右手には小さな流しもある。その奥はトイレかな?、一番奥にも通路がある。
グラビスがベッドの隣に立ってニコニコしている。沙月の後から入ってきたシエラが沙月を後ろから抱いて言う。
「おーう。部屋があるわ……。」
沙月は思い出した。
(「これ、見たことある……、確か、○リー○ッター。あれは、もっと大きかったけど……。」)
グラビスが説明する。
「通称、広々テント。空間伸長テントとも言うわ。……かなり、希少品だと思うわ。昔から、家にあったものなの。……多分、おじいちゃんね。……子供の頃、よくこの中で遊んだのよ。」
沙月とシエラも、もう今は満面の笑みだ。"すごーい。"を連発しながら、部屋の中を見て回る。沙月は小さなキッチンを見る。いくつか魔道具が並んでいる。
(「これは、湯沸かし器……、これは小さな冷蔵庫かな……、これは、ホットプレート?……。」)
横の通路に入って、扉を開けると、予想通りトイレだった。それから、一番奥の通路の扉を開く。
(「あっ!シャワー室だ!」)
小さなシャワー室だ。完全に一人用。シャワーは壁に固定されていて、上に小さな白いタンクが見える。このタンクでお湯を作ってシャワーが出るんだろうな……、と沙月は想像している。
沙月は部屋を反対側から眺めてみる。本当に小さい部屋だ。でも素敵……、と沙月は思う。思わずニタニタしてしまう。
沙月は小さい頃、部屋に自分の基地を作って遊んだことを思い出した。基地……、と言っても、ただ、布で覆って、外から見えなくするだけのものだったが……。その中で、懐中電灯をつけて、おもちゃを持ち込んで遊ぶ……、それが不思議と楽しかった。
(「もし、子供の頃にこの広々テントがあったら……、それは、きっと楽しいに違いない。……間違いないわね。」) と沙月は確信している。
グラビスはソファーに座っている。シエラも一通り、見学し終わったようだ。沙月とシエラがグラビスの反対側に座るとグラビスが立ち上がって言う。
「このソファー、ベッドになるの。」
そう言って、ソファーの側面をのぞき込んで、指で押す。多分、そこにも小さなボタンがあるのだろう。今度はカチャカチャ……、ぐらいでソファーがベッドに変わる。ちゃんと、落下防止用の柵も付いている。
「そっちも、ベッドになるから4人までは寝れるわ。……5人になったら、この床かな……、まあ、その時はその時で考えるしか無いわね。」
「4人……、アイカちゃんが来ても大丈夫ってことね……。」と沙月が言う。
「そう。4人分、用意しててよかったわ……。」
グラビスはそう言いながらソファーを元に戻して、座る。
「ねえ。私が冬山にテント担いで登る……、って言ったの覚えてる?」
沙月が即答する。
「うん。覚えてるわ。」
すると、シエラだ。
「グラビスって力持ちなのね。」
それを聞いて、グラビスがクククと笑う。
「そうじゃないの。……ククク……、もっと軽かったのよ。ククク……。」
沙月とシエラもつられて笑う。
「ククク、ククク……」
という感じだ。
しばらくして、笑いが収まって、グラビスが言う。
「元々、この部屋にはほとんど何もなかったの。……トイレくらいね、あったのは。他のは追加してもらったの。……バージョンアップ、その2ね。」
「追加したから、重くなった……。コットさん、これ以上は無理って言ってたわ。」
沙月がそう言うと、グラビスがニコリと笑ってうなずく。
「この中にあるのはすべて魔道具なの。すべてにアングラビの効果が付与されてて、軽くはなっているんだけど、追加すると重くなっていくのは変わらないわ。それに、耐久性みたいなものもあって、これ以上は追加できないっていう意味ね。」
「なるほど……、分かったわ。」
そう沙月が答えて、グラビスが続ける。
「すべて魔道具っていうのも意味があるの……、ほら、折り畳んだ時に、ベッドもソファーも消えるでしょ。沙月の収納みたいなものだと思うわ。魔道具以外は消えないで、テントの隣にそのまま残るの。」
「魔道具以外は持ち込めない……、分かったわ。」
そう、沙月が言うと、グラビスが訂正する。
「持ち込めない訳じゃないの。持ち込めるけど、折り畳んだ時に消えないの……。ほら、例えば食料。食料は別に運ぶ必要があるわ。でも、テントの中で食べることは出来る。金100kunも同じね。この中に持ち込むことは出来るわ。でも、折り畳んだ時に消えない……。運ぶ時は別に運ぶ必要があるの」
「うん。……魔道具以外は折り畳んだ時に消えない。うん。分かったわ。」
そう言いながら、沙月が何度かうなずく。シエラもうんうんとうなずいている。
「ちょっと、不便そう……、なんだけど、いいこともあるの。……つまり、掃除は不要なの。ほら、ゴミは魔道具じゃないからね。」
そう言ってグラビスがニコリと笑う。確かにそうだ……、そう思って沙月とシエラも笑う。
「子供のときにね、中でジュースをこぼしたことがあったの……。絨毯に染みが出来たんだけど、テントから出て、折り畳んだら、部屋の絨毯に染みが出来てたの……、こぼしたジュースは収納出来なかったのね、……お母さんに怒られたわ。」
懐かしそうにグラビスが言う。お母さんに怒られるグラビス……、ちょっと意外で滑稽だ。沙月とシエラも想像して笑う。
「沙月が収納を使えてよかったわ……。背負って運ぶ、となると、追加できたのはベッドくらいね……。それ以上は、か弱い女の子の私には運べないのよ。」
グラビスがそう言ってシエラを見つめる。ニコニコしている。
すると、シエラだ。澄ました顔で言う。
「グラビスも……こうは見えてもか弱い女の子……、分かったわ。」
「……」
どうも、沙月のまねをしているらしい。
グラビスは笑いを噛み殺しながらシエラをにらんでいる。沙月も横目でシエラをにらむ。
(「それって、私のまね?……似てるの?似てないの?……、私にはわからないでしょ!」)
沙月は反撃することにしたようだ。
「重くなっても、大丈夫だと思うわ……。だって、シエラは優しいもの……。きっとシエラが持ってくれるわ。」
沙月が冷淡な様子でそう言うと、グラビスも乗ることにする。
「おーう。そうね。シエラは優しいわ……。そうよ、とっても優しいのよ。だから持ってくれるに違いないわ。食料だって全部運んでくれるわ。」
どうも、シエラのまねをしているらしい。
シエラが2人に責められて笑い始める。どうも、まねをされたことが結構、効いたらしい。クククと笑っている。沙月とグラビスもつられて、クククと笑い始める。
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3人は夕食前にお風呂に入ることにする。いつものように沙月は湯船に浸かりながら、今日1日を振り返る。
「はあー。……やっぱり、お風呂は最高ね……。今日のマジックボードも気持ちよかったし。」
「はい。予定通りでしたね。」
「うん。ねえ、そう言えば、聞いてなかったんだけど……。ほら、部屋の照明なんだけど……、点けたり消したりするでしょ……、あれって、魔力を節約するため、ってことでいいの?」
「はい。そうです。魔鉱石は使わない間に自然に魔力を吸収します。ずっと、使い続けるということは出来ません。」
「そうなんだ……。自然に魔力を吸収するんだ……。」
「はい。エーテルの濃度が濃い場所ほど効率よく魔力を吸収できます。この辺りの濃度は普通……、と言うところですね。」
「ん?、ファイは濃度がわかるの?」
「はい。分かります。」
「ふーん。濃度か……。濃度を濃くする方法ってあるの?」
「はい。あります。魔法や技にもありますが、魔畜石を使うのが一般的ですね。」
「魔畜石?」
「はい。魔力をたくさん貯めることが出来る魔鉱石のことを特別にそう言います。使い方は簡単で、魔鉱石の近くに置くだけです。効果は2つあります。魔畜石から魔鉱石に魔力が流れていくのと魔畜石周辺のエーテル濃度が濃くなることです。これによって、より早く魔力を吸収することが出来ます。」
「ふーん。分かったわ。魔畜石、覚えておくわ……。ありがと。」
「はい。」
「あと、あのテント……、ファイはどう思った?」
「はい。正直言って、すごくビックリしました。相当レアです。……というか、多分、世界に1つでしょうね。」
「世界に1つ……、クク……、そ、そうなんだ。」
沙月は少しクスッと笑ってしまう。
「はい。あの空間伸長テント自体が相当レアです。でもそれ以上にレアなのが相転移層というものです。グラビスさんは相転移層と言っていましたが、すみません、私にはこの言葉が正しいのかどうかはわからないです。でも、別世界という言葉は正しいと思います。」
「別世界……、なんだ。」
「はい。先程、エーテル濃度が濃い場所と薄い場所がある。といいましたが、このエーテル濃度には必ず連続性があるんです。でも、あのテントの表面は非連続でした。」
「……連続性?……。」
「はい。連続性というのは、徐々に濃くなるとか徐々に薄くなるという意味です。通常、急に濃くなっているように見えても細かく見てみると徐々に濃くなっています。突然、急に濃度が変わることはありません。でも、あのテントの表面は、エーテルが全くありませんでした。つまり、突然0になっていました。私が観測できなかっただけかもしれませんが……。これは別世界と言っていいと思います。」
「別世界なんだ……。それで……、安全ってことでいい?」
「はい。普通に考えると安全です。私も通り抜けられません。魔物も通り抜けられないでしょう。……ただ、別世界を作り出すことが出来た訳ですから、その逆も可能なのかもしれません。すみません、これは私には分からないです。」
「そう……、別世界……。普通は、通り抜けるのは不可能なのね。」
「はい。そうなります。」
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今日のお風呂はシエラの次に沙月という順番だったので2人ともいるかな……、と思ったものの、部屋にはシエラしかいなかった。グラビスは先に1階に行ったそうだ。
沙月がつぶやくように言う。
「ほんとに、よく働く子だわ……。」
シエラがニコッと笑って、沙月の髪を乾かしてくれる。
「ほんとね。力持ちなのも、納得だわ。」
沙月が笑う。どうも、グラビスに力持ち属性を付けるつもりらしい。
沙月が宙を見て考えながら言う。
「美人でスタイルが良くって、優しくって……、魔法が使えて……、頭が良くて、働き者で……、」
シエラが続ける。
「……お金持ちで、力持ち。……完璧だわ。」
そう言って、沙月とシエラはクスクスと笑う。
やっぱり、どうしても力持ち属性を付けたいらしい。
夕食を終えて、いつものようにポトとミーシャと遊ぶ。
腹ごなしが済んだ頃、いつものようにミーティングが始まる。いつもと違っていたのはグラビスが地図を持ってきたことだった。グラビスが始める。
「テントも帰ってきたし、魔鉱石を取りに行くのも有りかな……、って思うんだけど、私も、やったことがないから自信がなくてね。」
そう言いながら、2人の前に地図を広げる。
「ここがチス国……。それで、この辺りがきのこ採取場ね。それで、魔鉱石の採取場はこの辺り……。直線距離だときのこ採取場の2倍くらいの距離になるわ。でも、私はグルっと回るの。季節は冬ね。まず、平地を西に行ってから山を登る……。早めに雪山に入りたいからね。それで、尾根伝いに進むの。このルートだと、きのこ採取場の……1、2、3……3倍から4倍くらいの距離になるわ。」
グラビスが地図上を指差しながら2人に説明する。魔鉱石……、グラビスはこれまでやったことがないことをやろうとしている……。沙月はすぐに理解する。
「でも……、今は状況が違う?」
「うん。ファイとシエラの魔物探知……、沙月の収納、カモフラージュ、それに、新しいテント……。これを使えば今の時期に、直線ルートも可能かもしれないわ……。」
沙月がシエラを見る。シエラは考えているふりをしている。沙月の視線に気がついて、腕を組んでうーんと唸りはじめる。沙月はちょっと吹き出しそうになるが、何とか抑えて言う。
「大丈夫かどうか……、は私には分からないわ。……でも、危なくなったら、テントの中に入れば、かなり安全だと思うわ。」
グラビスがニコリと笑う。優秀な生徒を見る先生のような眼差しだ。
「そうね……。危なくなったらっていう状況は避けたいところだけど……。いざとなったら、逃げ込むのも有りだと思うわ。……基本的に魔物に出会わないようにするっていう方針は今まで通りね。」
沙月が言う。
「私とシエラはテントで寝るのははじめてだし、練習しておくべきだと思うわ。……練習……、はちょっと変かな……。体験……ぐらいかな。だから、グルっと回るルートでも直線のルートでもどちらでもいいわ。……最悪、魔鉱石の採取場に辿り着けなくてもいい……、くらいの気持ちね。……とにかく、私はグラビスの決定に従うわ。」
次はシエラの番だ。沙月とグラビスがシエラを見つめる。シエラはうんうんとうなずいている。……あれ?……、うんうんだけじゃダメ?……。
シエラは発言するつもりはなかったらしく戸惑いながら言う。
「わ、私も沙月と同じよ。……そ、それでいい?」
沙月とグラビスはシエラを見つめ続けている。2人の表情が徐々に笑顔になっていく。3人とも無言だ。
「……」
そして、3人が一斉に笑い始める。
笑いが一段落した時だった。突然、ファイが言う。
「沙月様、通信が入っています。」
やはり、沙月は少しビックリしたものの、この部屋で通信が入ることは事前に考えていた。すぐに立ち上がって、パーソナルステータス画面を出しながら、グラビスのベッドに腰掛ける。そして、グラビスとシエラに目配せする。隣に座って……、という意味だ。グラビスとシエラも立ち上がって、沙月の隣に座る。
沙月が通信を繋ぐ。
「ファイ、お願い。」
ファイがいつものように画面を正面に移動する。
画面にアイカとヨウコが映し出される。
「こんばんわ、沙月さん、聞こえますか?」
アイカの声だ。
「聞こえるわ。アイカちゃん、ヨウコさん、こんばんわ。」
「こんばんわ。」
グラビスとシエラの声がシンクロする。
「沙月さん、グラビスさん、シエラさん。こんばんわ。ごめんなさいね、こんな時間に、夕食は終わったかしら?」
ヨウコの声だ。沙月が答える。
「はい。終わりました。……今、部屋でくつろいでいたところです。」
「そう。それはよかったわ。今日も、進捗を報告しておこうと思ってね。……ちょっと、いろいろあってね、結論を言うと、明日、出発することになったの。アイカによると、1週間で無事に着く見込みよ」
明日出発……、急な話……、とは思ったものの、ある程度は予想していた。
「明日出発……。分かりました。アイカちゃん気をつけて来てね。」
「あ、はい。ありがとうございます。……多分、大丈夫だと思います。」
アイカは前回の通信より元気そうだ。旅の準備をしているうちに、期待が不満を凌駕したようだ。ヨウコが続ける。
「それでね……、グラビスさん……。そちらに着いたら、しばらくの間、お世話になってもいいかしら……、家が決まるまでの間ね。」
グラビスが即答する。
「はい。もちろんです。お二人にお会いできるのを楽しみにしています。……あっ、父は無理かもしれませんが、母には連絡しておきます。」
「いえいえ、気を使わないで下さいね。もう、ただのおばあさんですから……。アイカ、言っておくことはあるの?」
アイカはいつものように、ノートを手にしている。でも、見ること無く話し始める。
「沙月さん……。テントは森の中より草原とか開けた所のほうがいいと思います。あっ、でも水場の近くはダメです。」
「……」
「……」
「……」
3人は言葉も出ない。……何で知ってるの?……、アイカちゃん……、という顔だ。
ヨウコがフォローする。
「全く、この子は突然なんだから……。沙月さん……、そうね……。注意喚起みたいなものだと思ってくださいね。テントを張るなら開けたところのほうがいいそうです。あと、水場の近くはダメだそうです。参考にしてくださいね。」
「あっ……、はい。分かりました。」
「じゃあ、また連絡しますね。……時間はもう少し遅くても大丈夫かしら?」
「あっ、はい。大丈夫です。……連絡ありがとうございます。」
「おやすみなさい。」
最後はアイカの声だ。そして、通信が切れる。
「沙月様、通信が切れました。」
ファイが言う。パーソナルステータス画面も消える。
3人はしばらく黙ったままだ。アイカとの通信はいつもこんな感じになる。
沙月はアイカの能力について話をしたい……、と一瞬思ったが、やめた。もう、大体の予想は付くし来てからのお楽しみにするのも悪くない……、と思ったからだ。
沈黙を破ったのはシエラだった。
「おーう。1週間後にアイカちゃんに会えるのね。……楽しみだわ。」
「うん。ほんとね。」
グラビスも笑顔で応じる。
沙月も笑顔になりながら、急に思いつく。
「あっ……、歓迎会しないとね。」
「歓迎会!そうね、セバスチャンとエリスに言っておかなきゃ……。あっ!、私、手紙書いてくるわ。」
そう言って、グラビスが立ち上がって、部屋を出ていく。手紙……、両親への手紙のことだ。
沙月は、
(「いよいよグラビスのお母さんに会うのかな?……」)
と思って、少し緊張を感じる。でも、シエラの声で現実に戻される。
「おーう。パーティーね。……あっ!、でも、私達、パーティードレス持ってないわ、沙月。」
沙月は子どもたちとの会話を思い出す。
(「確かに、パーティーはちょっと、きついわね……。」)と思う。
「シエラはそのままでも十分大丈夫だわ。うーん。……パーティーって考えるのがダメなのね、歓迎会よ、歓迎会だから普段着で大丈夫。……それに、アイカちゃんもヨウコさんもパーティードレスを持ってくるとは考えにくいわ。」
「うーん。確かにそうね……。でも、ちょっと残念だわ。……沙月のひらひらドレス姿はおあずけね。」
シエラはそう言って笑う。
沙月は自分のドレス姿を想像する。
(「いや……、無理。似合わないだろうな……。」)と思う。
沙月が思いついて言う。
「ほら……、設定よ……。設定が大変だわ。」
するとシエラだ。
「そーね。……確かに、設定が大変だわ……。でも、そうじゃないの。"かわいいは正義"って言うでしょ。かわいいは許されるの。……それに、あんまりアニメーターを甘やかすのも良くないのよ……。図に乗るからね。」
シエラがそう言って、沙月が吹き出す。沙月も乗ることにする。
「そーね。……図に乗る……、それは困るわ……。私達のことはかわいく書いてもらわないと……。」
「そうよ。100回くらい書き直しなさいよ!って感じだわ。……私達の魅力を分かってないのよ。」
「……」
沙月はクスクス笑っている。……一体、何の話?……という感じだ。
沙月はポトの頭を撫でている。シエラは猫じゃらしを手にミーシャを誘惑しているが、ミーシャの反応は薄い。かなり苦戦しているようだ。
沙月は改めて考えている。設定……自分たちで決めても意味がない。なにせ、グラビスは元貴族、それにヨウコは元宮廷魔道士長だ。何が普通なのかも分からない。
(「後で、それとなく、グラビスに確認したほうがよさそうね……」)と思う。
しばらくして、グラビスが戻ってくる。
「魔鉱石の件だけど、出発は明後日にしましょ。今の所……ルートは直線ルート。予定ではテントで1泊ね……。何があるか分からないから、食料は3日分、それにお菓子とジュースね……。水は大丈夫……、魔鉱石で生成できるし、私もウォーターが使えるから……。」
後半は自分に言い聞かせているような調子だ。シエラが続ける。
「あと、ゲーム!、テントの中でやりましょ。」
沙月もニコリとする。秘密基地でゲーム……、楽しそうだ。
グラビスもニコリとしながら言う。
「そうね……。荷物は少ないほうがいいから、カードゲームかな……、いくつか持っていきましょ。」
明日は休み、ということになって3人はゲームをすることにする。
ボードゲームで、自分の駒以外にイベント駒というのがある。バッドイベントが発生する確率は1/7。自分の駒を進めながら、このバッドイベントを避けなければならない。自分の駒は進めるほど高得点が見込める。バッドイベントを恐れて早めに降りるか強気に攻めるか……、バッドイベントを避ける事が出来るとっておきのアイテムをいつ使うのか?……。戦略も必要なチキンレースといったゲームだ。
そして、このゲーム、意外にグラビスが弱い。シエラがリードして沙月が追う……、という展開になる。
シエラが言う。
「フッフッフ……。沙月、まだ降りないの?、……もう、そろそろだと思うわよ。」
沙月も応戦する。
「シエラこそ。……あら?、もうアイテムは使っちゃったのね。……私は……、あれ?……、2個も残ってるわ。」
そんな2人をグラビスはクスクス笑いながら見ている。
19話完




