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Tender ∈ Wonder  作者: VaBideBoo
18/22

第18話 「ふぁ、ファイ!」

第18話 「ふぁ、ファイ!」


次の日、沙月たちはいつものように暗いうちに起きて出発した。沙月が

「ちょっと、練習しながら、行っていい?」

と言って、進むペースは少し遅くなる。

沙月は、曲がったり、止まったりを試しながら進む。グラビスとシエラも同じように練習し始めている。

沙月は右足が前がいいか?左足が前がいいか?と試している。曲がる時や止まる時は後ろ足が重要になる。

(「後ろ足……、と言うか腰かな、前方に回転するか後方に回転するか……。前方の回転はなんとかなる……。難しいのは後方ね……。」)などと考えている。いろいろ試して、(「右足が前か左足が前かは、どっちでも良さそう……。坂道は谷側に背中を向けたほうがいいかな……。」)という結論に至ったようだ。

完全に止まる……、というのはまだ難しかった。でも、少なくともスピードを落とすことは出来るようになった。

スピードさえ落ちてくれれば、最悪、飛び降りればいい。


沙月達のトレジャーハントは順調だった。カゴいっぱいに薬草を詰めて、いつものように崖の大きな岩でかなり早めの昼食を取っている時だった。沙月は先程、眺望を使った時に何か違和感のようなものを感じていたので、何気にパーソナルステータス画面を表示する。魔法と書かれている文字だけが明るくなっている。沙月が魔法を選択する。

「あ!」

沙月が思わず声を上げる。グラビスとシエラはビックリだ。グラビスが目を大きく見開いて言う。

「ど、どうしたの?」

沙月が答える。

「魔法!……、覚えてる!……。カモフラージュとマスカレード。」

今度はシエラだ。

「カモフラージュとマスカレード……、おーう。すごいわね、沙月!」

そう言って、笑顔になる。笑顔がグラビスにも伝搬する。

「カモフラージュとマスカレード……、すごいわ!沙月!」

2人の笑顔を見て、沙月もようやく笑顔になる。

「ふぁ、ファイ!……、魔法覚えてるわ!」

「はい。おめでとうございます。」

沙月はまだ興奮を抑えきれていない。一方、ファイはいつものように冷静だ。

沙月が落ち着こうと努力しながら聞く。まだ、頭は回っていないようだ。何となく会話を続ける。

「……カ、カモフラージュは何となく分かるんだけど……、マスカレードって何?」

グラビスとシエラはニコニコしながら沙月とファイを見ている。

「カモフラージュとマスカレードは似た魔法で、どちらも光学系魔法です。マスカレードは自身の姿を変える魔法です。変装と考えれば分かりやすいです。」

ファイがそう言って少し間を挟む。そして、沙月が答える。

「マスカレードは変装……、分かったわ。」

「カモフラージュは周りの景色に溶け込む魔法です。対象は物でも人でもなんでも構いません。自分自身を対象に含めることも出来ます。擬態と考えてもいいです。」

「擬態……、聞いたことあるわ……擬態する虫……とかね。……周りの景色に溶け込む……、分かったわ。」

沙月とファイとの会話が終わったことを悟って、シエラが沙月の隣にやってくる。沙月の体を揺すって興奮気味に言う。

「ねえ、やってみて!」

そう言って、グラビスを指差す。グラビスは、え?……、私?……、と、困惑している。

「うん。」

沙月はそう言って、立ったほうがいいのかな……、座っててもいいか……、と一瞬で判断する。座ったままやるようだ。

崖の途中の大きな岩。やはり立つと少し怖いからだ。

集中しようと大きく息を吐く。何か不思議な感覚だ。出来るということをいつの間にか知っている……、この世界の文字を読めた時のように。右手を差し出して意識を集中する。指先がほんのり温かくなるのを感じる。

「カモフラージュ」

沙月の右手がほんのり赤く光って、グラビスが赤い光で包まれる。そしてグラビスの姿が消える。崖の岩しか見えない。ほんの一瞬の出来事だ。

「おー。すごい!、消えたわ!」

シエラがニコニコしながら沙月を見る。

「き、消えたの?」

グラビスの声だけ聞こえる。

(「す、すごい!……、魔法だ!……。」)

沙月は口を閉めるのを忘れて、赤く光った自分の右手を見つめている。そして、満面の笑みでシエラの腕を掴む。

「消えたわ!」

沙月とシエラはニコニコしている。

「す、すごい!魔法だ!」

「さすが、私の沙月だわ!」

そんなことを言って、喜びを分かち合っている。

一方、グラビスは消えたままだ。しばらく放置してしまって、……さすがに……、と思って、沙月がファイに聞く。

「ファイ、……元に戻すのってどうするの?」

「はい。"クリア"、もしくは、"解除"で解除出来ます。」

「分かったわ。」

沙月はそう言って、また右手を差し出す。呼吸を整えて、

「クリア」

また、同じように一瞬、沙月の手がほんのり赤くなって、パッという感じで、グラビスが現れる。

やはり一瞬だ。解除のほうが少し早いような気がする。

グラビスが聞く。

「見える?」

「うん。」

シエラが答える。

ニコニコ笑う2人を見つめながら、沙月は心のなかで繰り返す。

(「魔法だ。魔法だ。魔法だ。魔法だ。魔法だ。魔法だ。魔法だ。魔法だー。」)


---


一方、こちらはチス国商店街のたこも焼き屋だ。

ポポはたこも焼き屋の厨房で白いねっとりした生地を木べらでかき混ぜている。コップに入った出汁を少し加えて、またかき混ぜる。生地をかき混ぜながらポポが今日の朝食のシーンを思い出している。


おじさんとおばさん、おじいさんにおばあさん、それにポポの5人で食卓を囲んでいる。

今日の献立はライス、味噌汁、焼き魚……。驚くことに日本の典型的な朝ごはんが並んでいる。

ただし、ライスはお皿に盛られていてナイフ、フォークで食べるスタイルだ。

ちなみに、この朝食を作ったのはポポだ。一度だけ、おばさんが朝食を作るのを見学させてもらっただけで、マスターしてしまった。ポポなりのアレンジもされている。焼き魚のお皿にはタルタルソースのようなものも乗っている。よかったら、どうぞ……、という感じだ。

おばさんが漬物を口に放り込んで、パリポリと噛む。

「まあ、ポポちゃん。これもおいしいわ。」

隣に座っているおじいさんが続く。

「いやー。ほんとじゃ。……ちゃんと、野菜の甘味が残っとる。酸味、甘味、塩味、バランスがなかなか……。こんなうまい漬物は食べたことがないわい。」

そう言って、ニコニコしながらポポを見つめる。

「あ……、お口にあって……、良かったです。」

褒められて、ちょっと照れたようだ。恥ずかしそうにポポが言う。

おばさんが今度は斜め前に座っているおじさんを見ながら続ける。

「ねえ、あんた。これ、店で出すってのはどうだろうねえ……、あたしゃ、売れると思うわよ。」

おじさんも漬物を口に放り込んで答える。

「うーん。確かにうまい。……どうやって売るかな……。」

おばさんが即答する。もう考えてます……、という調子だ。

「そりゃー、やっぱり、瓶詰めが便利ですよ。……入れ物を持ってきてくれる常連はそれに入れてあげてもいいしね。」

「うーん。そうだな……。ちょっと考えても良いかも知れんな。」

おばさんが今度はポポを見ながら言う。

「そーさ。考えてもいいね。……ポポちゃんもちょっと、考えといておくれ。」

「あ、はい。」


ポポが白いねっとりした生地をかき混ぜ終わって、冷蔵庫のようなところに入れる。

そして、宙を見ながらつぶやく。

「漬物を売る……か。瓶って幾らくらいするのかな……。瓶なら洗って再利用も出来るし……。私の魔法も役に立つわ……。」


---


隨分、久しぶりになってしまった。アイカとヨウコの現状を報告しておこうと思う。

アイカとヨウコも順調に準備を進めている。

先日、ヨウコは現宮廷魔道士長と連れ立って、ガートランド王国通商協会を訪れて、チス国への人、2人の移送を交渉してきた。この国で宮廷魔道士長を知らない人はいない。現宮廷魔道士長と元宮廷魔道士長が現れて、通商協会会長は恐縮しまくりだ。

一方のアイカは学校での転校の手続きを終えて、クラスでの挨拶や友達との別れも済ませて、旅立つ準備をしている。

沙月たちへのお土産を買うため、母親のエリカに頼んでお金をもらってお店に向かった。魔道具屋のようだ。アイカは巻物のようなものを物色している。

あともう一つ大きな進展があった。現宮廷魔道士のルリという若い女性がパーソナルステータス画面が使える……、という噂があって、ヨウコがルリとの通信を試したところ、通信できた……ということだ。

少しくどいがもう一度説明しておく。パーソナルステータス画面が使える……、というのは極めてレアだ。そして、それを見えるという人も極めてレアだ。はじめに、ファイが言ったことが正しい訳だ。

実際、アイカもアイカの母親のエリカもパーソナルステータス画面は使えない。でも、2人はヨウコのパーソナルステータス画面を見ることが出来る。(やはり、親子、孫だからだろう。)また、ガートランド王国の現宮廷魔道士はOB(非常勤)も含めて30人ほどだ。そのうちの一人であるルリという若い女性だけがパーソナルステータス画面が使える。そして、その画面を見えたのはエリカの他2人だけだった。そして、ヨウコはルリとは面識がなかったものの、試してみたら通信できた……、ということだ。

そして、この事はアイカ、ヨウコ、エリカの3人にとっては大きな意味を持つ。これで、アイカとヨウコがチス国に行っても、ガートランドにいるエリカと通信が出来ることになったからだ。ルリも喜んでご協力します。と承諾してくれた。

こんなふうに、準備は着々と進んでいて、2人は商隊の出発を待っている。という状況だ。


---


沙月は魔法が使える……、という興奮を抑え込んで山を下っている。行きと同様に、曲がったり、止まったりを練習しながらだ。

(「今はマジックボードに集中しなきゃ……。もっと、上手にならなきゃ……。」)

そう思って、マジックボードに集中している。

下り……、といっても、マジックボードの進むスピードは加速しない。上りでも減速しないように、一定のスピードで進む。なので、減速する必要はないのだけれど、わざと減速、停止を試している。

山を下り終わって平地になると、家に帰ってきた……、という感じがする。3人は自然と笑顔になっている。

シエラが沙月の横に並んで言う。

「ねえ、沙月、変身してみて。」

沙月はそっけない。

「今はだめよ。」

しんがりを飛んでいたグラビスがスピードを上げて、2人を追い抜く。

シエラと沙月もスピードを上げる。……何となく、今日は、誰が1番にゴールするかの競争が始まったようだ。

沙月は、スピードが上がって、"風が気持ちいい。飛ぶって気持ちいい!"ということを改めて感じている。

シエラがブロウを連発して速度をどんどん上げてグラビスを追い抜く。沙月もスピードを上げるが、これ以上は怖い……。加速するのをやめて、徐々に2人から離されていく。

(「2人ともすごい……、怖くないのかしら……。」)

沙月は仕方ないのでこのスピードで曲がれるかを試し始める。沙月もかなりマイペースな女の子だ。

スピードが上がると上下のボードの反応も早くなる。膝を曲げていつでも対応できるように備えるが、ちょっとタイミングを外すとボードから飛ばされそうになる。平地なのでそれほど大きくは上下しないが、そんな状態で曲がるのだから難易度も上がる。

暫く行くと、グラビスが待っている。シエラとの競争を止めた……、というより、こちらのほうがいつものグラビスだ。先頭を行きながら、常に後続の沙月とシエラを気にしている。2人の習熟度に合わせたペースだし、コースを取っている。

沙月と並んで、声を掛ける。

「大分、曲がれるようになったわね。」

「うん。……ちょっとコツが分かってきたわ。」

沙月は笑顔だ。少しは上達したという手応えを感じているようだ。


3人が東門を通って街に入る。今日のトレジャーハントも特に問題なかった。いつものようにカラカスのところに行って、家に帰って、お金を分配する。グラビスが一昨日に相場を確認していたので、ほぼ、予想通りの結果だった。

前回よりは少し遠い場所だったし、休憩も多めに取っていたので、家にたどり着いたのは前回より1時間30分くらいは遅い時間だ。さすがに、エリスがお昼を用意しましょうか?と聞いてくることはなかった。その代わり、お菓子とジュースをいっぱい運んできてくれた。

沙月はやはり疲れているのか甘いお菓子はありがたかった。お菓子をつまんでは、ジュースをガブガブ飲んだ。

少しお腹も膨れたので、ベッドに横になる。グラビスのアドバイスに従って、部屋でごろごろするつもりでいるようだ。

1階に行っていたグラビスが戻ってきて言う。ニコニコしている。

「ねえ、明日はコットさんのところに行きましょ。……出来たんだって、テ・ン・ト。」

昨夜、話題に登ったテントだ。沙月は、

(「ちょっと……、すごいタイミングね……。」) と思ってニヤついている。

そして、突然、思いつく。

「あっ!、……テントにカモフラージュ使えばいいわ!」

グラビスもニッコリする。

「うん。私も考えたわ。」

シエラもニッコリしている。

3人の頭の中にあるのは、魔鉱石ではなくて、ファイアーラビットだ。

テントをカモフラージュで魔物から見えなくすれば安全性は高まる。3人共、一歩前進したときの顔だ。

でも……、と沙月は思う。ファイの言葉を思い出している。"実際には存在しているので、100%安全とは言えない"。

(「あと、もう1つか2つ、組み合わせないと……。」) そんなことを考えている。

グラビスはこれ以上、テントの話をするつもりはないらしい。明日になれば分かることだ。だから沙月も特に問い詰めるつもりはなかった。それにもう既に、たくさん考えることがある。

カモフラージュとマスカレード、冬山の登山、冬山での泊まり、大きな魔鉱石も持ち帰れる……。

(「カモフラージュはいいとして……、マスカレードは何の役に立つ?……。泥棒としては役に立つけど……、魔物に対しては?……、あっ……、そうか、ファイアーラビットに天敵がいれば、その姿になればいい。逃げていくかも……、でも……、何が天敵かも分からない……。それに怖いな……、襲って来ないとも限らないし……。」)

……そんなことを考えながら沙月はウトウトし始める。


---


いつものように沙月はグラビスに起こされる。いつもと違っていたのはシエラも寝起きだったことだ。沙月とシエラが寝てしまったようだ。シエラはブロウを連発していた。シエラも疲れてたのかな……、と沙月は思う。

夕食を食べて、いつものようにお風呂に入る。湯船に浸かりながら、今日1日を振り返る。

「はあー。……やっぱり、今日の一大ニュースは魔法を覚えたことね。……ちょっと、安心したわ。」

「そうですか。それは良かったです。」

「うん。……ほんとに良かったわ。……でも、話題を変えましょ。……考えないといけないことがたくさんあるの。」

「はい。」

「大きな魔鉱石も持ち帰れるって分かった時の、グラビスの表情が気になってね……。ほら、ファイも言ってたでしょ、魔鉱石の種類はとにかく多いって、それに、魔法の可能性は思ってた以上だし。……ファイも言ってたでしょ?、飛ぶ以外のことも出来る……。超高速移動とかテレパシーとか……。」

「はい。可能ですね。……ただ、相当レアだと思います。」

「そう。……でも、もしそういうことが可能になったら、大きな突破口に成り得るわ。……グラビス……、ファイアーラビット攻略の前に、魔鉱石を取りに行くつもりなのかな……。」

「はい。やってみる価値はあるでしょうね。結果は運任せになってしまいますが。」

「うん。でも、冬って言ってた。……でも、それはグラビス一人の時だし……、今は状況が違う……。」

「はい。ちょっと分からないですね。移動だけではなくて、魔物が近くにいる中での採掘は危険なのかもしれません。」

「そうね……。うーん。……そうやって考えると、とんかちでカンカンする感じなのかな……、音が消せると便利ね……。音を消す……なんて、地味な魔法に思えるけど。」

「はい。魔法だとサイレンスとかアブゾーブがあります。技にも消音があります。」

技……、と聞いて沙月が笑い出す。

「ククク……、そ、そういえば、技って聞いてなかったわね。ククク……、技って何?」

「はい。技はテクニックのようなものです。技量が上がります。消音を会得すれば、大きな音を立てないで作業が出来ます。」

「……つまり、うまく出来るって感じ?」

「はい。そうです。音を立てないように作業することは誰でも努力することは出来ます。でも、エーテルの力を使えばもっとうまく出来ます。」

「なるほど。……それで、どうやって覚えるの?」

「はい。経験を積んで自然と覚えるというのと巻物で覚えるという方法があります。」

「巻物……、勉強して覚えるって感じ?」

「はい。そうです。でも、誰でもいいわけではありません。適正があって、覚えられる人が巻物を使う必要があります。」

「なるほど。……分かったわ。」

沙月はそう言うと、また、笑い始める。苦笑いという感じだ。

「ククク……でも、ちょっとビックリだわ。……今まで、技を放置してたなんて……。はあー……、自信なくすわ。」

「そうですか?……でも、順調だと思いますが。」

「順調……、確かにそうね……。トレジャーハントは順調だし、特に困ることもないわ。……でも、何ていうか……、ほら、これまで、重要なことがあったかもしれない……、それを処理出来ていないっていうのはショックでしょ?」

「はい。超展開ですね。」

「うん。……大分、慣れてきたつもりだけど。……まだまだね。」


---


沙月は今日もまた、長風呂しすぎた……、と思いながら、部屋に戻ると、グラビスもシエラもいてポトと遊んでいた。グラビスは2人が寝てる間にお風呂に入っていて、沙月とシエラがお風呂だった訳だが、沙月はシエラよりも長風呂……、ということのようだ。

そう言えば、ちょっとどうでもいい話?になるが、ポトは寝る時も一緒に寝る。はじめのうちはグラビスの布団で寝ていたが、今では沙月やシエラのベッドでも寝るようになっている。沙月は一緒に寝て分かったが、布団に入れてあげると沙月の体を踏みつけながらどんどん奥に進んで、足元でクルッと丸くなる。まだ小さいので、足元のほうが安全と思っているのかもしれない。沙月は体を撫でてあげられないのが、物寂しく感じたものの、ポトと一緒に寝ている……、ということを楽しんでいる。そして、ポトがいる時はなるべく寝返りをしないように注意しなければならなかった。

一方、ミーシャは気まぐれで、大抵は部屋から出て行ってしまう。部屋で寝る時も、机の下……、というのがお気に入りのようだ。


グラビスがドライで沙月の髪を乾かしてくれる。そして、いつものようにミーティングが始まる。いつものようにグラビスだ。

「明日はさっきも言ったように、コットさんのところに行きましょ。早めのお昼を食べてから……、って感じでいい?」

グラビスがそう言うと、シエラが黙って右手を上げている。沙月とグラビスがアイコンタクトする。

(「また、コントするの?」)

(「うーん。しなくていいんじゃない?」)

「……」

「……」

とうとう、グラビスが意を決したようだ。

「はい。どうしちゃったんですか、シエラちゃん。なにかありまちゅか?」

幼稚園の先生……、のようだ。シエラも理解したらしい。

「あのね、あのね、わたしね、思ったの……。えっとね……、えっとね……、マジックボードで行くの。……塀の外をね……、それでね……、塀を登るの……。こっちのほうが……、早いと思うの。」

「……」

「……」

沙月とグラビスは笑いを噛み殺しながら、考えている。

(「あれ?……、結構、いいアイデアだ……。」) と沙月は思う。

沙月がグラビスを見る。グラビスも理解したようだ。ようやく、笑いが収まってきて、沙月が言う。

「私は……、いいと思うんだけど。……どう?グラビス。」

沙月は真顔だ。コントは終わりだ。グラビスも真顔になる。

「うん。城壁沿いに飛べば、15分?かかったとしても、20分くらい?……城壁はマジックロープで登って……、あっ!」

沙月とシエラはビックリだ。固まって、横目でグラビスの続きを待っている。

「あ……、ごめん。あのね、城壁の上に歩廊があるの……、そこを飛べないかなって思って。」

「歩廊?……、兵士の道みたいな?……、そこで防御するための?……。」

「うん。今は使ってないの……。元々、城壁は対人間用に作られたものだから……。子供の時に登ったことがあるの、見学ってやつね。」

沙月が質問する。

「街からは見えない?」

「ううん。塀はそんなに高くないと思うわ。上半身は見えると思う。」

沙月がしばらく考えて思いつく。

「あっ……、人に見られないように、カモフラージュすればいいわ。」

「うん。そう。それなら、大丈夫だと思うわ。」

グラビスもカモフラージュが頭にあったようだ。沙月とグラビスは"行けそうね……"という顔だ。

一方のシエラ。シエラの思っていたのとは少し違う話になっているものの、考えている。……ん?……あれ?……、シエラが首を傾げて言う。

「あれ?……、そもそも、カモフラージュ使えば、街中も飛べるんじゃない?」

「あ……、ほんとだ。」

「そ……、そうね。」


3人はその後もいろいろと話しをして、まず、カモフラージュの効果を確認しよう……、ということになる。

まず、シエラにカモフラージュをかける。それで、シエラに色んな所に移動してもらう。……沙月とグラビスにはシエラがどこにいるのか分からない。カモフラージュは移動しても効果があるということが分かった。

次に、シエラとグラビスにカモフラージュをかける。シエラとグラビスはお互いが見える……、と言う。つまり、かけられた者同士はお互いが見える……、ということが分かる。

一応、念の為に、マジックボードで早く動いても大丈夫かどうかは、明日、確認しよう……、ということになる。


3人はいろいろと話しをして次の結論に至る。

1. カモフラージュの効果を確認すること。早く移動しても大丈夫か?

2. 通る道の第一候補は城壁上の歩廊。歩廊への行き方の第一候補は塔の扉から、第二候補はマジックロープ


道の第一候補を城壁上の歩廊としたのは、やはり、街中は人とぶつかる可能性があるからだ。城壁の外は当然、魔物に出くわす可能性があるので避けたい。

城壁の塔の扉は鍵が掛かっている。開けられるかどうかも問題のようだが、開けられない場合はマジックロープを使えばいいので、何とかなるわね……という結論だ。

最後にグラビスが言う。

「じゃあ、明日は午前中にカモフラージュの効果を確認。それから、塔の扉が開けられるかどうか確認。……ということでいい?」

沙月とシエラがうん。とうなずく。


ようやく、話がまとまって、沙月がクククと笑う。ん?……どうしたの?という顔でグラビスとシエラが見る。沙月が説明する。

「え、うん。……思ってた以上に長い話になったな……、って思って。」

グラビスも笑いながら同意する。

「そ、そうね……。シエラのアイデアを聞いた時は、すぐに、いいかも……、って思ったんだけど。……いろいろ、考えて見るものね。」

シエラも同意だ。

「そうよ。でも、あんまり長い話は作者が書くのも大変なのよ。……簡潔にしないと駄目だわ。」

沙月とグラビスはノーコメントのようだ。笑いを噛み殺している。

一方、作者は、シエラって……、ほんとにいい子だな……、と思った。


18話完

挿絵(By みてみん)

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