第15話 「えい!」
第15話 「えい!」
次の日、沙月が起きたのはやはり昼近かった。シエラ、グラビスのベッドは空だった。
また、最後か……、そう思いながら朝の支度を終えると、1階の居間に向かう。
居間にはシエラがいて、窓の外を眺めている。小ぶりながらも雨はまだ降っているようだ。
「おはよう、シエラ。」
「あっ、おはよう。」
シエラがなにか物思いに耽っていた?と沙月は感じる。
「まだ、降ってる?」
「え?……、ええ、まだ降ってるわ。でも、すぐに上がるわ。」
「そう。」
(「あれ?……、どうも、シエラの様子がおかしい?……。」)
沙月はソファーに座って、"はじめての魔法"をペラペラとめくって読み始める。
(「……私が知りたいのは、多分、こういうことじゃないのよね……、」) などと思いながらだ。
本を読む理由……、これは人によって様々だ。沙月の場合、ぼんやりとした目的があって、その解を求めて読んでいる。そして、その解が書かれている本に出会うことは滅多に無い……。これが現実かも知れない。
しばらくして、シエラもソファーに座る。沙月の反対側だ。沙月は、チラチラとシエラを観察する。
(「やっぱり、何か考えてる……、分かりやすいわ……。」) そう思って笑いを噛み殺している。
お昼になって、グラビスが誘いに来て3人で食堂に向かう。
昼食を食べながらグラビスが話し始める。
「そういえば、今日の予定って決めてなかったけど……、2人は何か予定ある?」
すぐに、シエラが首を横にふる。
沙月は少し、考える。それで、すこしためらいながら話し始める。
「特にないわ。……でも、ファイアーラビット攻略の件……、あの後、話してないでしょ……、ほら、問題は山積みでしょ……、どうやって行くか?……、どうやって野営するか?……、どうやって監視するか?とか。……ちょっとずつでも、話をはじめてもいいかな……、って思うの。」
グラビスがニッコリ笑いながら言う。
「さすが、沙月ね……。ナイスタイミングだわ。今朝ね、アルクが届けてくれたの。ほら、私、アルクに仕事を頼んでる……、って言ったでしょ。学校に行く前に届けてくれたのね。」
沙月は前から思っていた疑問をぶつける。
「アルクくんもシェリー王立学園に通ってるの?……2時間以上はかかるわ。」
「う、うん。……でも、大丈夫よ、……その理由も後で分かるわ。」
そう言って、グラビスがニコリと笑う。
「じゃあ、お昼を食べたら、庭で練習ね。」
(「庭で練習?……、何を?」)
沙月はそう思ったが、質問するのはやめた。すぐにわかることだ。
沙月がシエラを見る。シエラも、何かしらね?……、という顔だ。
庭はこの家の庭にしては小さいものだった。奥行きは10mもないだろう。芝生で、2mくらいの生け垣に囲まれていて、丸く刈られた低木が一列に並んでいる、といった、シンプルなものだった。
ただ、芝は沙月が山の中で寝ていた時に見た苔のような植物で、裸足で歩くと、まるで絨毯の上を歩いているような感じがするものだった。
雨はすっかり上がっていた。灰色の雲は残っているが、日も差していて明るい。
沙月とシエラが庭に出て靴を履く。グラビスにそう言われていたからだ。
しばらくして、グラビスが3つの板のようなものを抱えて現れる。スケートボードのような板だ。
2つを壁に立て掛けて、1つを持ってグラビスが始める。ボードはかなり使い込んでいるようだ。
「見てて。」
そう言って、グラビスがボードから手を離す。当然の結果としてボードは地面に向かって落ちる……、でも妙だ、落ちたときの音が全くしなかった。いや、落ちていない……、空中に浮いている。
「……」
沙月とシエラは無言だ。
グラビスがボードに片足を乗せて、もう一方の足で地面を蹴る。……すると、すーーっと滑らかに滑るように前進する。まるで、飛んでいるよう……、いや、ほんとに飛んでいるのだ。
グラビスがすーーっと飛ぶように2人の前にまで戻って来る。沙月とシエラはようやく笑顔だ。お互いに顔を見合って、ニコニコしている。グラビスが説明をはじめる。
「マジックボードって言うの。……実は私にもよく分からないんだけど、……コットさん曰く、反物質に似た性質……、とからしいわ。……ほら、磁石ってあるでしょ、あれに似た感じなの……、で、これはほとんどすべての物との間に反発力があるの。地面との間にも反発力があるから浮くのね。アングラビも付与されてて、少しだけど重さも軽くなるわ。……まずは、使ってみて。」
そう言って、沙月とシエラに1つずつ渡す。こちらは明らかに新品だ。沙月のが赤、シエラのが青の幾何学模様が描かれている。
やってみて分かったが、案外、簡単だった。ボードの裏全面に車輪が付いているようで、バランスを崩すことはほとんどない。ただ、前後の重心の位置は重要に思えた。沙月は幾何学模様と左足、右足との位置関係を確認しながら、何度も行ったり来たりした。
30分もやっていると大分慣れてきて、お互いにすれ違う時にちょっかいを出し合う位になる。
「えい!」
「フフフ、沙月、そんなのなんてことないわ。」
そんな感じだ。グラビスはそんな様子をニコニコしながら見ている。
2人がすーーっとグラビスの前にやってくる。
「2人とも、大丈夫みたいね。」
「うん。」
「大丈夫よ。」
沙月とシエラが答える。
「あっ!、……ちょっと、見てて!」
突然、シエラが何か思いついたように言って、2人から距離を取る。沙月とグラビスが注目する。
マジックボードの上に乗って、
「ブロウ」
シエラの左手が青く輝いて、風が巻き起こる。すると、シエラが反対側にすーーっと移動する。
「ブロウ」
今度は、右手が青く輝いて、シエラが沙月とグラビスの前まですーーっと戻ってくる。
「これで、足で地面を蹴る必要もないわ。」
「す、すごいわ。シエラ!」
沙月は素直に感心する。グラビスは冷静だ。予想していたのかもしれない。ニコニコしている。
シエラと沙月が落ち着いて来たところでグラビスが説明を始める。
「ちょっと、補足しておくと、マジックボードは魔法力を注入し続ける必要があるの。魔法を使えない人は10mくらいしか乗れないわ。……コットさん曰く、……不安定だから、状態を維持するのに大きな魔法力を必要とする……、らしいわ。……目的地には早く行くことが出来る……、でも、結構、体力を使うの。……立ってるだけに見えるけど、疲れる。ってことね。」
グラビスはほとんど沙月に視線を固定して話している。シエラは言わなくても分かっているだろう……、ということみたいだ。
「分かったわ。」
沙月が答える。シエラがうんうんとうなずく。
グラビスが続ける。
「それで、さっきの、沙月の質問。"アルクくんは2時間以上歩いて学校に通っているのか?"……なんだけど、アルクもマジックボードを持ってるの……、って言うか……、マジックボードを始めに作ったのはアルクなのよ。……コットさんに色々修正されたみたいだけどね……。」
(「え!、……すごい!」) 沙月はそう思ったが、黙って聞くことにする。
グラビスが続ける。
「学校に通うのもマジックボードで通ってるわ。……でも、街中で空中に浮く訳にはいかないから、車輪を見えるように付けてるわ。ちゃんと、地面スレスレになるように調整して回転もするの。……ちょっと、おかしいんだけど、音も付けてるわ。……だから、周りの人は、ちょっと変わった、乗り物って思ってるわ。」
(「魔法が使えることを……、隠しているのね……。」) と沙月は思う。
「大通りはほとんど一直線だから……、うまくやれば、1回、地面を蹴るだけで学校近くまで来れるんじゃないかしら……、まあ、数回って感じでしょうね。」
「え?、……そうなの?」
ここはさすがに沙月も声に出してしまう。
グラビスの家の庭はやはり短距離なので、実感がわかなかったようだ。
「うん。真っ直ぐに進むだけなら、ボードに乗ってればいいわ。……でも、立ってるだけに見えるけど、疲れる。……わけね。」
「なるほど……、分かったわ。」
グラビスがここで、一旦、間を取る。次の話は別件のようだ。
「それで……、これが重要なんだけど……、ねえ、沙月、収納出来るか試してみてくれる?」
「え?、……ああ、そうね。」
沙月がそう言って、パーソナルステータス画面を出して、ツール、収納とすると、マジックボードが表示される。沙月が選択すると、沙月のマジックボードが消える。するとグラビスはニコリと笑って言う。安心した……という表情だ。
「ああ、よかった。収納出来るのね……。あまり、一般的じゃないから、どうかなって思ってたの。……これ、あると確かに便利なんだけど、使わない時は邪魔なの……、結構、重いしね……、これを背負って、崖を登らないといけないでしょ。」
すると、沙月だ。
「……これで、トレジャーハントに行くのね。」
「うん。もう使わない手はないわ。使わない時は沙月に収納してもらえばいいんだし……、すごく早く行けるわ。それに練習も兼ねてね……。……ピトー市にも、1日もかからないくらいで行けると思うわ。」
ピトー市、例のファイアーラビットに襲われた場所だ。1日もかからない……、沙月は一気に、攻略が前進したように思えた。
「練習が必要……、分かったわ。」
沙月がグラビス、シエラを順に見る。真剣な表情、でも笑顔だ。一歩前進。3人がそのことを共有している。沙月はそう感じた。
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一方、こちらはチス国の商店街だ。赤いのぼり、看板に"たこも焼き"と書かれている。そして、ポポが店先でたこも焼きを焼いている。白地にピンクの花柄模様のエプロンを着て、ピンクの三角巾を被っている。
中年の夫婦が立ち止まって、男性が声を掛ける。
「めずらしいね。新人さんかい?」
「あ、はい。今日からなんです。」
「ほー。随分可愛い子がみつかってよかったね。ばあさん。」
ストールに腰掛けているおばあさんに向けてだ。
「いやー。ほんとに助かるよ……、1回教えただけで、すぐに出来るんだから……、大した子だよ。」
おばあさんが笑顔で答える。
男性が続ける。
「そうかい……、それは良かったよ、週に1回はここのたこも焼きを食べないとね……、そろそろ、店じまいも考えてるって言ってたから、心配してたんだよ。」
「ほんとだよ、この子のおかげで、まだしばらくは続けられそうだね。」
「そうかい……、いやー、安心したよ。こんなにかわいい子なら商売繁盛も間違いないさ……、それで……、えっと……、お嬢さん……、」
男性は今度はポポを見ている。
「あ、私、ポポって言います。よろしくおねがいします。」
「ほー。ポポちゃんか……、もう、覚えたよ。ポポちゃん。2舟お願いできるかな。」
「あー、はい。ありがとうございます。」
ポポが手早く2舟を用意して、中年の夫婦が帰っていく。
すぐに、作業服を着た2人組の男性客がやってくる。
「いやー、ばあさん。隨分、かわいい子がいるじゃないか……、どうしちゃったんだい。」
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シエラが散歩してくるわ……、と言って出かけて、グラビスもセバスチャンに呼ばれて行ってしまった。沙月は一旦、部屋に戻って"はじめての魔法"をペラペラとめくって読み始めたが、どうも集中できない。思い直して、出かけることにする。
シェリー王立学園。グラビスに大体の場所は聞いていたので、行ってみよう……、と思ったようだ。
グラビスの家と公園との中間くらいにあるはずだ。それほど時間はかからないだろう。
(「この辺りで、右に行ったほうがいいかな……。」)
そんなことを考えながら、通り慣れた道から外れると、いきなりデッドエンドだ。集合住宅のパティオ(中庭)のようなところに出てしまう。この先には行けそうにないな……、と思って来た道を戻る。
戻る途中の小さな小道で、右折さらに右折してみる。小道……、なので不安だったが方向はこっちのはずだ……。
中くらいの幅の道に出て、少しホッとする。沙月は立ち止まって、どっちに行くか考える。左折して右折か右折して左折か……、どちらも道はありそうだ。もう、直感だ。沙月は右折することにする。遠くにお城が時々見えるので大体の位置は分かる。さすがに、家に帰れなくなる……、なんてことにはならないだろう……、そんなことを考えている。
左折してみるとなかなかいい道だ……、と思う。中くらいの幅の道……。ただそれだけの理由なんだが……。
沙月はキョロキョロと辺りを見渡しながら歩く。この辺りでは珍しいレンガ作り……、見ればすぐに分かるはずだ……。
道を突き当たって、立ち止まる。左を見ると……、あった。赤いレンガを想像していたが、赤みがかっただいだい色のような色だ。それでも、白の建物が多いので、目立つ。
2階建てのどっしりとした建物だ。左右に小さな扉があるが、どちらも閉まっている。
(「こっちは、裏側かな……。」)
そう思って、建物の周りをぐるっと回る。グラビス家の庭のように、2mくらいの生け垣で囲まれていて中は見えない。……しばらく歩くと、立派な石で出来たアーチを見つける。
アーチには"シェリー王立学園 創立752年"と書かれている。中に入れるようだ……。
(「入っていいのかな?……でも、せっかくだし……、入ってみよう……。」)
沙月が覚悟を決めて入ってみる。学校……、ということで、運動場……、を想像していたが、庭園だった。石畳の小道を進む。手入れの行き届いた芝生に、丸く刈り込まれた低木、縦長の三角形の形に刈り取られた樹木、横に広がった背の低い樹木、赤、青、黄の花が咲いている花壇、小さな池、、などが次々に沙月の目に飛び込んでくる。
(「わあ……、きれいね……、イングリッシュガーデンって言うのかな……、よく知らないけど……。」)
沙月はキョロキョロしながら、ゆっくりと曲がりくねった小道を歩く。
しばらく歩くと、広場のようなところに出る。正面に学校の建物があって、その前に大きな木が2本、左右対称に植わっている。左側の大きな木の下に木製のテーブルや椅子が見える。その上に大きなシェードが架かっている。
(「あそこで、ご飯とか食べるのね……、気持ちいいだろーな……。」) と沙月は思う。
沙月が建物の正面に立って見上げる。シンメトリーな建物で、大きな窓ガラスが特徴的だ。
グラビスが言ったように、玄関の上は少し凹んでいて、女神だろうか、石像が配置されている。そして、数カ所に石の?白いレリーフが埋め込まれている。
(「わあ……、ほんとね……、確かに小さいけど、りっぱな建物だわ……。」)
沙月が振り返って庭園側を見る。
(「あ……、庭園もシンメトリーなんだ……。」)
沙月が歩いてきた小道が途中で左右に別れている。さすがに、大きな木などは左右対称ではなかったが、外縁の四角く刈られた低木が左右対称に配置されていた。
(「日本式の庭もいいけど……、こういうのも素敵ね……。」) と沙月は思った。
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一方、シエラは商店街に来ていた。薄暗い路地からじーっとポポを見ている。
ポポは今は肉屋の前で、焼き鳥を焼いている。
道行く作業服を着たおじさんがシエラに気がつく。
「おー、シエラちゃんじゃねーか、こんなところで何やってるの……、かくれんぼか何かか?」
大きな声で、シエラは慌てる。
「こ……、こんにちわ。」
おじさんは気にせず続ける。
「はー、また、飲もうな!……いやー、あれは楽しかった!……また、歌、聞かせてくれよな、……はっはっは!」
大声で、言いたいことだけ言って、おじさんが歩き去っていく。
ポポがシエラに気がついて店の奥に向かって何か喋って、ペコペコと頭を下げて、シエラのところにやってくる。
「は、はじめまして……、シエラさんですよね……、私、ポポって言います。」
「あなた、悪魔ね……。悪魔なのにポポ……。悪魔なのにポポ……。悪魔なのにポポ……。」
シエラは名前が納得出来ないようだ。ポポが気にせず続ける。
「本当に、ごめんなさい。……本当なら、私から挨拶に行かなきゃいけないのに……、わざわざ、来ていただいて……。」
「……悪魔なのにポポ……。悪魔なのにポポ……。」
「……」
しばらく、間が空いて、シエラの表情が厳しく変わる。
「それで、あなた、何しに来たの?」
「えっと、良く分からないんです……。すみません。」
「分からないって、どういうこと?」
「あの……、私、悪魔見習い学校に通ってたんですけど……、レベルが高くて……」
「……落ちこぼれ、ってこと?」
「は、はい。そうなんです。」
「落ちこぼれ……、分かるわ……、その気持……。自慢じゃないけど、私も落ちこぼれなのよ。」
「あ、じゃあ、落ちこぼれ同士ってことですね。」
「そうね。……ハッハッハッハッハ?、……笑うタイミングでいいのかしら?」
「ハッハッハッハッハ、……いいんじゃないですかね……。」
「ハッハッハッハッハ」
「ハッハッハッハッハ」
…
……
シエラはちょっと分からない?……、という顔になって、考え始める。しばらく考えて、
「それで、あなた……、生活は……、大丈夫そうなの?」
「あ、はい。八百屋のおかみさんが、2階の空き部屋を使っていいっておっしゃってくれて、あと、お仕事も紹介していただけたんです。……たこも焼き屋と焼き鳥屋さんです。」
「そ、そう。……たこも焼き屋と焼き鳥屋さん、……み、魅力的だわ。」
「あ、はい。ぜひ、いらしてください。サービスします。」
「ほんと?、……そ、そう?、……じゃあ、寄らせてもらうわ。」
「はい。是非!、……あっ!、……お客さんだ、……すみません。また今度、ゆっくりと……。」
「え、ええ。」
そう言って、ポポが店に小走りで戻っていく。
シエラがつぶやく。
「……たこも焼きに……、焼き鳥かあ……。」
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沙月が家に戻るとグラビスは居間にいたが、シエラの姿は見えなかった。
「おかえり。沙月。」
「ただいま。」
「先に、お風呂に入ったら?、……実は私、先に入っちゃったの。」
時計を見ると、夕食までには1時間30分位ある。
「そう。じゃあ、私も入ってくるわ。」
沙月は2階に上がり、お風呂に入る。いつものように湯船に浸かりながらのファイとの会話だ。
「ファイの言った通りだったわ。」
「……何がですか?」
「"多分、グラビスさんはアイデアを持っている"よ。」
「ああ、はい。そうですね。」
「アルクくんか……、確かに、アルクくんが思いつきそうなことね……、小学生……、小さい子たちの間で流行ってたのよ、スケートボード。……ほら、マジックボードってスケートボードにそっくりなの。」
「移動するのに使ってたんですか?」
「え?……、ううん。遊び道具ね。……平らなところで遊ぶの。」
「なるほど。」
(「……そういえば……、自転車……、見たことないけど……、あの、石畳じゃちょっと危ないかな……、それに、自転車という言葉もファイは知らないだろうな……。」) 沙月はそんなことを思って言い留まる。
「どうやって移動するか、は、何とかなりそうね……、次は、どうやって安全に泊まるか……、うーん。見事に何も思いつかないけどね……。」
「はい。あまりにもパターンが多すぎて、私もアドバイスできません。」
「パターン?」
「はい。例えば、何もない草原、という場合……、最も簡単なのは魔物から見えなくすること、なんですが、見えないだけで、実際には存在しているので、100%安全……、ということにはなりません。」
「何もない草原か……、空高くに浮かぶ……、とか?」
「はい。それも可能です。でも、難易度はかなり上がります。魔物の攻撃が届かない位に高く上がる必要があります。それに、浮かび続けることを考えると、3人の魔法力だけでは無理なので、相当大きな魔鉱石が8つは必要でしょうね。」
「8つ?」
「はい。8つを立方体の頂点に配置します。すると、その空間を変えることが出来ます。」
「うーん?、……下の4つはいいとして……、上の4つはどうするの?……。」
「はい。それも問題です。……やぐらを組むのが一番簡単なんですが、やぐらを壊されたら、意味がないですし。」
「ふーん、……じゃあ、地面に潜るは?」
「はい。それも可能です。……ただ、魔物によっては、地面を掘ることは出来ます。……100%安全とはならないですね。」
「うーん。……難しいのね……、何もない草原……、が無理なのかな……、崖で、見えなくするを組み合わせる……、とか?」
「はい。組み合わせると安全性は高まるでしょうね。……ただ、崖に魔物が来ない……、という前提も必要になりますが。」
「そうね……、"この辺りの魔物は大型が多い。"グラビスがそう言ってたわ。……あっ!、……そうか、周りに地面を掘ることが出来る魔物がいなければ、地面の下が安全になるわ。」
「はい。」
「なるほど……、つまり……、臨機応変ってことね。確かにパターンね……。いろんなパターンを想定して、準備しておく……。でも……、これも難しいわね……。調べながら、泊まらなきゃならないわ……。つまり、同時進行になる。」
「そうですね。」
「うーん。難しいわね……、……でも、引き出しは多いほどいい……。」
「はい。そう思います。」
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沙月は、少し長風呂しすぎた……、と反省しながら、部屋に戻るが誰もいなかった。1階の居間に行くとグラビスがいてドライで髪を乾かしてくれた。
「シエラも帰ってきたの。……今、お風呂にはいってるわ。」
「ふーん。酔ってなかった?」
「う、うん。……酔ってなかったわ。」
「そう、それは良かったわ。」
そう言って、2人でクスクス笑う。
シエラがお風呂から上がってきて、3人で夕食に向かう。
沙月がシェリー王立学園を見に行ったことを話す。とても素敵だったわ……、とか、入ってよかったのかしら……、とか、あの女神像は誰なのかしら……、とかだ。ちなみに、女神像はグラビス曰く、
「多分、美の女神、アフロディーテだと思うわ。……ほら、創立したのがシェリー王妃だから、女神にしたんだと思うわ。」
とのことだった。
夕食を終えて、部屋に戻って、いつものようにポトとミーシャと遊ぶ。
腹ごなしが出来た頃、いつものようにミーティングが始まる。口火を切ったのはやはり、グラビスだ。
「明日はトレジャーハントに行く……、でいい?」
「うん。」
2人が同時に答える。
「マジックボードでの移動になるから、かなり時間短縮できるわ……。でも、はじめてだから、ゆっくり行きましょ……、出発は遅くも出来るけど……。いつも通り……、でいい?」
「うん。」
2人が同時に答える。
「それで、マジックボードでの移動を少し説明しておくわ。……ちょっと、イメージして欲しいんだけど、例えば、山道から草原に入る場合、マジックボードは草の上に浮くことになるの……。草との間にも反発力が働くからね……。つまり、低い位置から、高い位置に上がる感じね。」
グラビスは身振り手振りで説明する。低い位置から高い位置へ……。
沙月とシエラは黙って聞いている。
「逆に、草原から山道に入る場合は、高い位置から低い位置に落ちることになるわ……。」
グラビスは身振り手振りで説明する。高い位置から低い位置へ……。
「この、高い位置から低い位置、低い位置から高い位置への移動はあらゆるところで起こるの。川を渡る時は、少し落ちて川を渡ってから上がるって感じね。」
うんうん、2人は想像できるわ……、という感じにうなずく。
「それで、ちょっとコツがあるの。……イメージ的には、高い位置に上がる時はボードの上で軽くジャンプする感じね。」
2人がイメージする……。高い位置に上がる時は、軽くジャンプする……。何となくイメージ出来る。
「逆に、低い位置に落ちる時は、膝を曲げて衝撃を吸収する感じね。……でも、衝撃ってほどではないの、地面にぶつかるわけじゃないからね、かなり、フワッて落ちてくれるから、特に何もしなくても問題はないんだけど……、あくまでイメージ的にね……。イメージ的には膝を曲げて衝撃を吸収する感じ……。」
2人がイメージする……。低い位置に落ちる時は、膝を曲げて衝撃を吸収する感じ……。これも、イメージできる。
グラビスがここで一旦、話を止める。どう?……という表情だ。沙月が答える。
「うん。……何となくイメージは出来るわ。」
「そう。……よかった。」
グラビスがそう言って、ジュースをコップに注いで、テーブルの上に置く。2人がありがと、と言って口を付ける。
グラビスは立ったままだ。
「それで、あと一つ、イメージして欲しいのは森の中ね。森の中は、木があちこちに生えてるでしょ……、真っ直ぐには進めない。だから、ちょこちょこ、進む方向を修正しないといけないわ。」
沙月とシエラが森の中を想像する。……確かに、難しそうね……、と沙月は思う。
「進む方向の修正は、木を使うの。……木を手で押したり、足で蹴ったり……、枝を避けるためにしゃがんだりね……。枝を掴んで止まったりもするわ。」
グラビスが立ったまま、ジェスチャーする。手で押す、足で蹴る、しゃがむ、掴む……。目に見えない木がそこにあるように想像できる。
「うん。……難しそう。……でも、想像はできるわ。」
沙月が答える。
「よかった。……コツは、ちょっと先を見ることね……。数秒先を予想して、押したり、蹴ったりしないといけないわ。……方向を変えたいから、次の木の近くを目指す……、そんな感じになるわ。……ほら、木から遠いと足も届かないからね。」
沙月がつぶやくように答える。
「ちょっと先を見ること……。次の木の近くを目指す……。うん。分かったわ。」
シエラがうんうんとうなずく。
グラビスが良かった……、という顔をする。
「明日はゆっくり行きましょ。……慣れると結構スピードも出せるの……。なかなか、面白いのよ。」
明日のミーティングが終わった。まだ、寝るには早い……、ということになって、1ゲームだけすることになる。
スフィアメイズ。沙月のリクエストで、スフィアメイズをやることにする。沙月が言う。
「リベンジよ!」
シエラが言う。
「受けて立つわ!」
グラビスはニコニコ笑っている。
15話完




