祭りに参加するのは大変なようです
ラドロさんの店に辿り着くと、入口にたくさんの女の子たちがいた。
「どうしたんだろう?」
外から中を覗き込むようにしている女の子たちを見て、俺は何だろうと首を傾げる。
「あの人たち、中に入らないのかな?」
もしかして営業時間外なのかな? と思っていると、
「いや、あいつ等は店の連中だぞ」
「本当ですね。わぁ、凄い久しぶりです」
俺が記憶を失っている間に店で働いていたシドとソラは、久方ぶりに見る仲間たちの姿に笑顔を浮かべて話しかける。
「皆さん、お久しぶりです」
「入り口で突っ立って何してんだ?」
「あっ、シド、それにソラちゃんに皆も……」
「戻って来たんだ」
「わぁ、お祝いしなくっちゃ……」
シドたちに声をかけられて喜色を浮かべる女の子たちだったが、その表情がすぐに曇る。
「本当は今すぐにでも皆でもてなししたいところなんだけど……」
「今、ちょっと問題が起きていてね」
そう言って女の子たちは、再び店の中を覗き込む。
すると、
「うわああああああああぁぁぁん! もう、やだああああああぁぁぁぁ!」
店の中から女性が泣きながら飛び出してきたかと思うと、そのまま何処かへと去っていく。
「な、なんだ……」
ヒラヒラとした服をなびかせながら去っていく背中を見ながら、俺は気になったことを口にする。
「あの人、泣いていましたけど……」
「それに凄くえっちな服着てた」
「ミーファ……」
敢えて言わなかったことを大声で言うミーファに、俺は深く嘆息しながら続きを話す。
「あの格好、踊り子の格好でしたよね? もしかしてそれってハリド・サルタートルと関係があったりします?」
「えっ、どうしてそれを……」
「もしかしてソラちゃんが来てくれたのって……」
女の子たちの視線が一斉に集まるのを見て、俺は戸惑うソラに変わり、祭りとは関係ない旨を伝えていった。
どうにか女の子たちに説明を終え、これまでの大体の概要を聞くことができた。
ルストの街で開かれる踊り手一番を決める祭典、ハリド・サルタートルは、かつては純粋に女神の踊り手を決めるものだったが、ここ数年は少し様相が変わってきたという。
それは、大きな商店が有名な踊り手を雇って広告塔にするという、踊り手の競争というより、商店の争いになってきたというものだ。
ラドロさんの店は、例年はその争いに参加しなくても裏の商売で金を得ることができたので祭りに参加してこなかったが、環境を刷新した今年からは参加することにしたという。
だが、今まで祭りに参加してこなかったラドロさんの店は、外部の踊り手の伝手がないため、今年は店で働いている女の子たちの中から代表者を選ぶことになったそうだ。
「……それで、普段夜の踊りをしている子にお願いして頑張ってもらったけど、指導が厳しくて逃げ出してしまったと」
「そうみたいだな」
シドの呆れた声を聞きながら、俺たちは祭りが終わるまでランチ営業はしていないというラドロさんの店へと入る。
ちなみに先ほどからずっとラドロさんの店と言っているのは、この世界には店に名前を付けるという習慣がないからだ。
店主の強い思い入れによって店に名前を付けることもあるそうだが、基本的には酒場、宿屋、衣料品店等々……取り扱っている店で呼ぶことになっている。
ただ、ルストの街には同じ商品を扱っている店が多数あるので、差別化するために誰々の店と店主の名前を呼ぶことになっている。
そんな豆知識を披露しながら薄暗い店内に入ると、広々としたホールの中心にいくつかの人影が見えた。
「アイシャさん!」
人影の正体が誰かを確認するより早く、俺より夜目が利くソラが嬉しそうな声を上げて人影の一つに飛び付く。
「お久しぶりです。元気にしていましたか?」
「ソ、ソラ!? 驚いた。戻って来たってことは……」
「はい、無事にやることはやってきました」
「そう、おめでとう」
そう言って二人は、再会を喜ぶように固く抱き合う。
踊りの師弟関係だけでなく、困難を乗り越えた同士、特別な想いがあるのか暫く抱き合っていたが、アイシャさんが先に顔を上げて俺たちを見る。
「シドにコーイチ、それにミーファちゃんたちも久しぶり」
アイシャさんに手招きされて、俺たちもホールの中央へと進み出てそれぞれ挨拶をする。
ちなみにオーナーであるラドロさんと、秘書を務めているネロさんは、祭りの打ち合わせに出ているので、戻るのは夕方になるそうだ。
「……さて」
ラドロさんの店の皆と一通り挨拶を終えたところで、アイシャさんが顔を上げて周りの者たちへ声をかける。
「気持ちも切れたし、ちょうどいい時間だからお昼ご飯にしようか」
「そういえば、アイシャさん……さっき出て行った人は?」
「ああ、大丈夫よ」
俺の質問に、アイシャさんは笑いながら肩をすくめてみせる。
「ああやって泣くのはいつものことだから、夜になれば戻るわよ。それより旅の話を聞かせてよ……特に、シドの指輪についてね」
「は、はい、わかりました」
そう言われては部外者である俺にはこれ以上の追及はできないし、目敏いアイシャさんの視線はシドの左手の薬指に注がれていた。




