皆さんのお陰でした。
シドと愛の誓いを交わした翌日、エルノ王子のお披露目のために約一ヶ月滞在したエリモス王国から旅立つ日がやって来た。
『コーイチ』
途中まで一緒に行くエリモス王国軍の人たちと打ち合わせしていると、見送りに来てくれたであろうライハ師匠とお供を引き連れたセシリオ王が現れる。
『宝石の加工は、無事に間に合ったようですね』
「はい、お陰様で」
ライハ師匠に改めてお礼を言いながら、三姉妹を見る。
シドは左手の薬指に指輪を、ソラは手首にブレスレットを、ミーファはネックレスを着けている。
ちなみにソラとミーファにそれぞれの宝石をプレゼントした時は、シドとは違って素直に喜んですぐにつけてくれた。
特にミーファは飛び上がるくらい喜んでくれ、一度見に付けてからは自分の半身かと思うくらい大切に肌身離さずに首にぶら下げている。
一応、砂漠に入ったら無くされても困るので、ネックレスはしまうか一時的に預かろうと思っているが、果たして素直に言うことを聞いてくれるかどうか……、
「ライハ師匠のアドバイスのお陰で、皆心から喜んでくれるアクセサリーを渡すことができました」
『それは何よりです……それで』
ライハ師匠は俺の耳に顔を寄せると、耳がいい三姉妹に聞こえないであろう小声で囁いてくる。
『三姉妹の長女、シドと添い遂げることはできましたか?』
「えっ? ま、まあ、それはまあ……ハハハ」
顔を覗き込むように質問してくるライハ師匠に、俺は苦笑しながら頷く。
ちなみにソラとミーファには既にシドと結婚することは伝えてあるが、二人とも今さらといった感じで、むしろまだ伝えていなかったことを呆れられてしまった。
ソラたちにとってみれば、俺とシドは既に夫婦同然だったということだ。
「皆には遅過ぎだと呆れられてしまいましたが、指輪のお陰で言うことができました」
『そうですか。それは何よりです』
俺の答えを聞いたライハ師匠はにっこりと笑うと、後ろで控えているセシリオ王に笑いかける。
『我が王よ、コーイチは無事に成し遂げたようです』
「それはよかったです」
ライハ師匠の報告を聞いたセシリオ王は、俺を見て申し訳なさそうに微笑む。
「すみません、実はライハ様から全て伺っていました」
「そ、そうなんだ。まあ、別に隠すことでもでもないからいいけど……」
シドに一世一代の告白を行うことをライハ師匠に話していた以上、セシリオ王に筒抜けになっていても不思議ではないが、それでも何だか気恥ずかしい。
「とにかく、おめでとうございます」
空気を気まずくなる前に、セシリオ王がことさら大きな声を上げて俺の手を取って笑う。
「僕とメリルも、コーイチさんとシドさんが結ばれることを強く望んでいましたから。彼女に自分の分も祝福して欲しいと言われてきました」
「あ、ありがとう。メリルさんにも指輪のデザインを考えてもらった甲斐があったよ」
今回のアクセサリー制作の裏側には、セシリオ王やメリル王妃をはじめとするエリモス王国の全面協力があったりする。
武人として暮らしてきたが、実はアクセサリーにはかなり精通しているメリル王妃にデザインを考えてもらい、王族お抱えの職人に加工を依頼、さらにはアイスライトアズール以外の費用は全てエリモス王国持ちと、正に至れり尽くせりだったりする。
俺一人だったら稀少な宝石を前に途方に暮れるしかなかっただろうから、本当に関係各位には感謝しかない。
「セシリオ、本当に何から何までありがとう」
「いえいえ、それより正式に結婚式をあげる時はぜひ連絡を下さいね。国を挙げて祝福に行きますから」
「ハハハ、わかった。日付が決まったらすぐに報せるよ」
真顔で詰め寄って来るセシリオ王からの圧に、俺は思わず笑みを漏らす。
「コーイチさん?」
「わ、悪い、他にも同じことを言われてたりするからさ」
「ああ、なるほど。そういうことでしたか」
全てを言わなくてもセシリオ王は理解してくれたが、実は彼以外にもフリージア様とフィーロ様の二人にも同じことを言われていたりする。
ここ最近、カナート王国まで郵便配達が可能になったことを受けての話であったが、こうなると俺とシドが結婚する時には、砂漠の国からどれだけ王族が来るのだろうか?
結婚式を挙げるための費用がどれだけかかるのかは想像もつかないが、とにかく派手な結婚式になることだけは間違いなさそうだ。
「獣人とエルフの姫たちのことならお任せ下さい。国賓扱いで、そちらまで無事に送り届けますから」
「うん、ありがとう。任せた」
……こうなると益々半端な結婚式は挙げられないな。
なんて考えながら、俺はセシリオ王と固く握手を交わす。
「それじゃあセシリオ、ライハ師匠、そろそろ行くよ」
「ええ、皆さんの旅の無事を祈っています」
『コーイチ、今のあなたならただの砂漠越えなど何の苦もないはずです。後は鍛錬を欠かさなければ、必ずや一角の戦士として大成するはずです。これからも精進なさい』
「はい、ありがとうございます。師匠に教えてもらったことは決して忘れません」
俺が素直に頷くと、ライハ師匠は力強く頷いて応えてくれる。
実際、この一ヶ月間のしごきは、以前とは比べ物にならないほど辛く、何度心が折れそうになったかわからない。
ただ、この世界に来てからの三年で俺の精神もかなり鍛え上げられたのと、ライハ師匠から送られてくる厚い信頼に応えたいという想いがあったからだ。
事実、ここ最近は砂漠でのランニングもかなり耐えられるようになったし、暑さに対しても強くなったと思うので、徒歩での砂漠越えもある程度は余裕をもって迎えられている。
実力がついてきたからこそわかるが、俺の力はまだまだシドには遠く及ばない。
だが、それでもいつか必ずシドの隣に並ぶ存在として、彼女の代わりに戦って家庭を支えられるような存在になってみせる。
……うん、これからも鍛錬を頑張ろう。
そんなことを思いながら俺はセシリオ王たちに別れを告げ、シドたちに出発する旨を伝える。
その後、改めてそれぞれが別れの挨拶を交わし、俺たちは多くの人たちに見送られながらエリモス王国を後にした。




