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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
後日談その① エピローグ・エリモス王国

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人、獣人、どっち?

 それからもライハ師匠から日々の特訓を受け、時には三姉妹とエリモス王国の観光をしながら過ごし、あっという間に一ヶ月の時が過ぎた。



 ライハ師匠は苦心の末に新王子の名前をいくつかに絞り、セシリオ王やメリル王妃の承認を得て正式に決まった。


 国を挙げてのお披露目会は誕生の時以上の賑わいを見せ、俺たちも無償で支給された料理や酒に舌鼓を打ち、エリモス王国の人たちと一緒に新王子が生まれて一ヶ月を無事に過ごせたことを祝った。

 国民の人たちと一緒に祝った後は、いよいよエリモス王宮での新王子とのご対面だ。


 実はこの一ヶ月間、俺は密かに新王子と会うのを楽しみにしていた。


 どうしてかって?

 そんなの決まっている。

 人と獣人の間に生まれた子の耳と尻尾はどうなっているか問題だ。


 もう既に知っていると思うが、獣人の耳と人の耳は全く違う位置に付いていて、頭の上に耳はが付いているので、俺たちの耳があるところは何もなくなっている。


 だから新王子の耳はどうなっているのか?

 尻尾は付いているのか?


 この二つの問題は俺の今後にも大きく関わって来るので、後学のためにも絶対に知っておきたかった。

 将来、俺とシドとの間に子供ができた時、どっちの遺伝子が強いかを知っておけば、先んじて服とか用意する時に役に立つだろう?


 そんなことを思いながら、かつてネイさんと初めて出会った応接室で待っていると、


「皆さん、お久しぶりです」


 恐縮するような声が聞こえ、数ヶ月ぶりに会うセシリオ王が現れる。


「セシリオ、久しぶり」

「ええ、コーイチさんもお元気そうで……すみません、本当は入国しているのは知っていたのですけど……」

「ああ、大丈夫。その辺についてはシドに怒られたから」

「えっ?」


 言っていることがわからず眉をひそめるセシリオ王に、俺はシドから注意されたことを話す。


「知らなかったんだ。まさか、生まれたばかりの赤ん坊がそんなにも危うい存在だったなんて」

「そうですよね。僕もメリルに物凄く怒られました」

「ああ、そうなんだ」


 年上のメリルさんのこと、呼び捨てで呼んでいるんだな。

 そんな呼び方の変化を微笑ましく思いながら、セシリオ王にこれまでのことを聞く。


「それで、やっぱり大変だったのか?」

「ええ、それはもう……いつ泣き出すかわからないというのもありますが、ちょっとしたことで熱を出したり、眠る姿勢にも気をつけないといけなくて……」

「眠る姿勢も?」

「はい、うつ伏せになると呼吸が止まる可能性がありますので、本当に目が離せないんです」

「そ、そうなんだ……」


 なんだか想像の何倍も大変そうなんだけど、世のお母さん、お父さんは皆それをやっているのか……いや、やっているんだろう。


「子供の世話って大変なんだな」

「それはもう本当に……皆の協力がなければ、乗り越えられたかどうか」


 セシリオ王は大きく嘆息するが、その顔にそこまでの悲壮感は見られない。

 苦労は苦労として受け止め、それ以上に子供ができたことの喜びが大きいのだろう。

 その感情は、子供がいない俺には到底わからない。


 だからなのか、俺はセシリオ王にある感情が芽生えていた。


「セシリオ、大人になったな」

「えっ? 何ですか急に」

「いやさ、王様になった時も変わったなと思ったけど、父親になってまた変わったなって……一つ階段を上った感じがする」

「ハハハ、そうですか? 自分では全然わかりませんけどね」


 そう言ってセシリオ王は照れくさそうに笑うが、その様子もまた随分と大人びたような気がする。

 俺も父親になったら、少しは成長できるのだろうか?


 セシリオ王の成長を密かに羨んでいると、


「すまない、待たせた」


 凛々しい声が聞こえ、赤ん坊を抱いたメリルさんが現れる。


「ちょっと粗相をしてしまってな。おしめを取り換えていた」


 王妃になっても喋り方はそのままのメリルさんが、俺たちを見て微笑を浮かべる。


「久しぶりだな。皆、見違えるほど成長したな」

「姉さんこそ、女らしさに磨きがかかった」


 メリルさんとの再会を誰よりも楽しみにしていたシドが、真っ先に彼女に駆け寄って手の中の赤ん坊を見る。


「これが新王子か……名前は」

「エルノ、古代エリモス語で『永遠』とか『不滅』という意味で、この国の繁栄を願って付けられた名だ」

「そうか、いい名前だな」

「ああ、私もそう思う」


 シドたちはライハ師匠が付けた新王子の名前に満足そうに頷いて、メリルさんの腕の中で眠るエルノ王子の頬をぷにぷにと突く。


 その様子を微笑ましく眺めながら、俺はセシリオ王に最大の疑問をぶつけてみる。


「なあ、セシリオ……エルノ王子の耳と尻尾って」

「ああ、やっぱりコーイチさんも気になりますよね」

「ということはセシリオも?」

「はい、子供の将来に関わることですから」

「だよな」


 やはり俺とセシリオは、同じ獣人に恋する者同士、通じ合えるところが多い。

 俺たちは固い握手を交わして互いの友情を確かめ合うと、本題に移る。


「それで、肝心のエルノのですが、耳は僕と同じで、尻尾は残念ながら生えてきませんでした」

「えっ、それって……」

「はい、エルノに獣人としての特徴は見られませんでした」


 そう言ってセシリオ王は少し残念そうに微笑んだ。

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