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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
後日談その① エピローグ・エリモス王国

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悩めるお師匠様

 地下に降りた俺はここ最近、ライハ師匠の相手をするために何度か宇宙船に来ているというネイさんに案内されて、どんどん奥へと進む。


 てっきり前と同じ試練の道を進むのかと思ったが、今は飾り気のない明りの灯ったハニカム構造の廊下を進んでいた。


「こんな道があったなんて……」

「こちらは王家の方の試練に使われる裏道のようです」

「裏道?」

「はい、万が一試練が失敗した時に、誰かが救出に行かなければなりませんからね」

「……確かに」


 確かに三つの試練の内、第一、第二の試練は下手すれば命を失う可能性のある危険なものだった。

 もし、中で何かあったあれば、この裏道を使って救出してもらえたのだろうが、その場合は試練失敗という扱いになったのだろう。


 結果として裏道を使うことはなかったが、それはそれとして一つ気になることがあった。


「そういえば、ライハ師匠は地上で暮らしていないんですね?」

「えっ? あっ、はい、普段は王宮で暮らしているのですが、考えごとをする時や、静かになりたい時はお戻りなるんです」

「なるほど、それで俺たちに助けてほしいことがあるというわけですね」

「そういうことです」

「なるほど……」


 依頼内容についてはライハ師匠に聞けということなので、一体何だろうと思いながら延々と伸びる長い長い廊下を進んだ。



 そうして歩き続けること十数分、ようやく最奥のブリッジまでやって来た。


「ここに来るのも久しぶり……って、うわっ!」


 ブリッジの扉が開くなり、俺は足元に大量に何かが落ちているのに気付いて反射的に飛び退く。


「な、何だ……」


 一瞬だけ驚いたが、それがこの世界では割と貴重な真っ白な紙片だということに気付き、俺はそっと手を伸ばして拾い上げる。


「ラリル、セイハ、ライリル……ってなんだこりゃ」


 綺麗な文字で書かれた意味のわからない単語を見て、首を傾げていると、


『ああ、コーイチ。来たのですね』


 奥の方から、ライハ師匠の疲れたような声が聞こえて来る。


『こっちに来てもらえますか? 下に落ちているものは、気にしなくて構いませんから』

「わかりました」


 まずは話を聞こうと、俺は紙片を畳んでしまい、ネイさんに手を伸ばす。


「ネイさん手を、きっと床が滑るはずですから」

「はい、ありがとうございます」


 ネイさんと手を繋いだ俺は、足を滑らせないように気をつけながら奥へと進む。


 奥に進むたびに増える紙片に気をつけながら進むと、真っ暗な巨大モニターの前で山と積まれた紙に囲まれて唸るライハ師匠を見つける。


 ポニーテールに袴姿というファンタジー世界としてはかなり異質な出で立ちで、SF空間にいるのは相変わらず違和感が凄いが、話を聞くために俺は目を閉じて集中している様子のライハ師匠に声をかける。


「し、師匠?」

『散らかっていてすみません、この仕事が終わったら片付けますから』

「はぁ……それは構いませんけど」


 散らかっていると言っても、あるのは紙だけなのでそこまで気にならない。


「それで、俺に用があると伺ったのですが?」

『はい、実は我が王からとても重要な依頼を受けたのですが、その手伝いを願いたいのです』

「重要な依頼?」

『ええ、新王子の名前を私が付けるという大変名誉な仕事を承ったのです』

「えっ? じゃあ、さっきの紙は……」


 念のためにと持ってきた紙片を開いて、ライハ師匠に尋ねる。


「ここに書いてあるのって、新王子の名前の候補だったのですか?」

『ええ、そうです。とりあえず思い付いたものから書き出したものです』

「まさか、これ全部……」


 床に散らばった紙片に目を向けると、そこには文章ではない単語の羅列が見て取れる。

 だが、よく見れば単語の全てにバツ印が付けられており、ライハ師匠が新王子の名前付けに苦戦している様子が伺えた。


『最初こそ、私たちの名前を掛け合わせたものを付けたりしていたのですが、それだと安易だと思いまして……』

「ああ、それで……」


 ラリル、セイハ、ライリル、どれもライハ師匠とセシリオ王、メリルさんの名前を掛け合わせたものだ。

 新王子の名前にさらりと自分の名前を付けようと思うあたりが、とてもライハ師匠らしいと思った。


『……何ですか、その表情は?』

「い、いえ、何でもないです……それより、俺に頼みたいことは?」

『はい、名前を考える手伝いをしてもらいたいのです』


 ライハ師匠は近くの紙をクシャッ、と握り潰して大きく嘆息する。


『生憎とこれまで何かに名を付けた経験がありませんから……どうやって考えたらいいかわからないのです』


 自信の体が機械だと自覚しているからか、ライハ師匠は悲し気に顔を伏せる。


『コーイチ、人はどのように子に名を付けるのでしょうか?』

「えっと、そう……ですね」


 ライハ師匠の参考になればと、俺はかつて自分の名前の由来を聞いた時のことを思い出す。


「これは俺の親からの受け売りですが、名前には親からの願いを託すものだそうです」

『願い……』

「はい、俺の浩一という名前は、広い心を持った大きな人間になってほしいと、一つのことを最後まで成し遂げる人になってほしい思って付けたそうです」

『なるほど、コーイチはその名に恥じない生き方をしているのですね』

「そんなことないです……そうだとしたら、たまたま上手くいっているだけです」


 自分のことを話す気恥ずかしさを感じた俺は、ネイさんにも話を振ってみる。


「ちなみにネイさんの名前は、どうやって付けられたかご存知ですか?」

「私ですか?」


 急に話を振られたネイさんであったが、彼女は穏やかな笑みを絶やすことなくスラスラと答えてくれる。


「私の名前は、父が行商の旅の途中で見たネイブールというとっても大きな湖からとったそうです。ちなみに妹のレンリは、険しいですが自然豊かなガレンリー山脈から……どちらも、雄大な自然のように強く生きて欲しいと願ったそうです」

『なるほど、やはり親の願いが込められているのですね』


 俺たちから名付け方法について聞いたライハ師匠は、自分が書き溜めた名前の候補の数々を見やり、大きく嘆息する。


『どうやら私の考えは、根本的に間違っていたようですね』

「そんなことありませんよ。親同士の名前を掛け合わせるのもよくありますよ」

「そうですよ。それに、まだまだ時間はあります。じっくり考えて王子様に素敵な名前を付けてあげましょう」

『……そうですね。音を上げるには早過ぎましたね』


 ライハ師匠は自分の両頬をパン、と叩いて気合を入れ直すと、立ち上がって俺とネイさんの顔を交互に見る。


『二人とも、王子の名前の候補を私と一緒に考えてもらえますか?』

「勿論です」

「皆で素敵な名前を付けてあげましょうね」


 互いに顔を見合わせて頷き合った俺たちは、エリモス王国の新王子に相応しい願いの籠った名前を考えることにした。

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