あの人に会いたくて
新王子に会えるのは一ヶ月後ということで、エリモス王国で皆とのんびりと観光して過ごす……ことも考えたのだが、数日過ごしたところである用事を思い出した俺は、シドたちに用事を話して一人でエリモス王宮近くまでやって来た。
「さて、ここからどうしたものか……」
王宮に取り次いでも怒られはしないだろうが、できれば俺たちがエリモス王国内にいることは、セシリオ王たちには内緒にしておきたい。
セシリオ王たちのことだから、俺たちがいることを知れば変に気を遣うかもしれない。
それより今は、生まれたばかりの赤ん坊をしっかりと見守ってほしいので、一ヶ月後に開かれる新王子のお披露目会の時に挨拶させてもらおうと思っている。
「でも、王宮の人に知られずにあそこに行くのは……」
いっそのこと、レンジャーのスキルを駆使して王宮に忍び込もうかと思ったが、
「いや、それはダメだな……」
万が一、見つかった時に色々と問題になりそうだし、自由騎士のスキルをそこまで過信するのもよくない。
「こうなったら、誰かに協力してもらうか……」
メリルさんと一緒に鍛えてもらった兵士の誰かと会えれば、どうにかなるかもしれない。
そんなことを思っていると、
「……ふぅ」
「うわっ!?」
背後からいきなり耳に息を吹きかけられ、びっくりして大きく飛び退く。
「クスクス……コーイチさん、驚き過ぎですよ」
黄色いサマードレスに身を包んだ口元に手を当てて上品に笑う女性を見て、俺は唖然としながら尋ねる。
「ネ、ネイさん……ですよね?」
「はい、お久しぶりです」
笑顔を弾けさせたネイさんは、俺の手を取って上下に激しく振る。
「ありがとうございます。あれから無事に無事に母と再会できました」
「それはよかったです。それで、エリモス王国に再びいるということは?」
「はい、家族みんなでこっちに移住することにしたんです」
グランドの街に戻って母親と再会したネイさんたちは、家族会議を開いてグランドの街に残るか、エリモス王国に移住するかを話し合いをして、砂漠の国を選んだということだ。
「こちらの方が私の仕事があるのと、国王様の計らいで店舗を借りられることになっていましたから」
「へぇ、じゃあレンリさんは?」
「母と一緒に小さな酒場をやっています。場所を教えますから、今度遊びに来てください」
「わかりました。必ず行きます」
ネイさんから酒場の場所を聞きながら、ふと気になったことを尋ねる。
「そういえば、ネイさん……」
「はい、なんですか?」
「どうして俺がここにいると分かったのですか?」
現れた時の様子を見る限り、ネイさんは俺があそこにいることを事前に知っていたように思えた。
一応、気を使ってここ数日は王宮に近付くような真似はしなかったし、顔見知りに会った時も、俺たちのことは王宮に伝えないようにお願いしてある。
とはいえ、人の口に戸は立てられないので……、
「もしかして、俺たちが入国したことをセシリオたちは知っていたり……」
「ご安心ください。王たちには子育てに専念してもらうために、外の情報はなるべく入れないようにしています」
「そうですか、安心しました」
思わず安堵のため息を漏らす俺に、ネイさんは微笑を浮かべてここに来た理由を話す。
「ここに来たのは、ある方から依頼されたからです」
「それって……」
「はい、コーイチさんがお会いしたいと思っているお方ですよ」
ニコリと笑ったネイさんは「ご案内しますね」と言って、王宮に背を向けて歩き出した。
歩き出したネイサンは、王宮からどんどん離れていく。
商店が並ぶ通りに入ってもネイさんは止まることなく、人の間を縫うように歩く。
ネイさんの広く開いたサマードレスから覗く白い背中を見ながら、俺は気になったことを話す。
「あの、ネイさん……こっちであってるんですか?」
「大丈夫ですよ。もう着きますから」
そう言ってネイさんが立ち止まったのは、エリモス王国内のあちこちで見られる三角錐の形をした巨大な謎の柱だ。
「これは……」
「実はこの柱は、建国当初からあるんですけど、職人の方が言うには、見たこともない素材で造られているそうです」
「えっ、どういうことは?」
「はい、ご想像の通りです」
そう言ってネイさんは首元にかけられた海のように蒼いペンデュラムが付いたネックレスを取り出す。
「それって、フロストマインですか?」
「はい、といっても雨を降らせる力は失っていますけど、今はこうして……」
ネイさんがフロストマインを掲げると、柱の一部が開いて二人がようやく入れるぐらいの小部屋が現れる。
「お待たせしました。ここからライハ様が待つ地下へ行けますよ」
「あ、ありがとうございます」
まさか王宮の外にも地下の宇宙船、アーク・スペランサへと行けるエレベーターがあるとは思わなかった。
「じゃあ、他の柱からも地下へ行けたりするんですかね?」
「昔はそうだったみたいですけど、今はそこまで多くないそうです」
「まあ、それもそうか……」
エレベーターって管理が大変そうだし、メンテしてくれる機械も壊れて動かなくなっているのが多いと思うから、壊れたら修理は難しいのかもしれない。
そんなことを思いながらエレベーターに乗り込むと、俺のすぐ後ろにネイさんがピタリと身を寄せて来る。
「ネ、ネイさん!?」
背中に当たる柔らかな感触にドギマギしながらネイさんに話しかけると、彼女はさらにグイグイ押し込んでくる。
「すみません、もう少し奥まで詰めてもらえますか? 扉が閉まらないので」
「は、はい、わかりました」
ここで変な気を起こしてはシドに殺されると、必死に自制しながら息がかかるくらいの距離にいるネイさんに尋ねる。
「ネイさんも一緒に行くんですね?」
「はい、ライハ様にコーイチ様を連れて来るように頼まれましたから」
「師匠に?」
「はい、何でもコーイチ様に手伝ってほしいことがあるとおっしゃっていました」
「手伝ってほしいこと?」
思いもよらない一言に、俺の方が面食らってしまう。
ライハ師匠にお願いしたいことがあるから会いたいと思っていたのに、まさか師匠の方から俺に用があるということだ。
「何だろう。俺がライハ師匠にできることなんて殆どないと思うんですけど……」
「そんなことありませんよ。私も一緒に手伝ってほしいということなので、そこまで難しいことではないと思います」
「そう……ですか」
ライハ師匠からの頼みならば、可能な限り応えていきたい。
そんなことを思いながら、俺は物凄い速度で下っていくエレベーターに身を委ねた。




