追い詰める仲間たち
伝説の秘宝【吸魔の宝玉】を強引に押し付けられた俺は、三度、魔王城へとやってきていた。
あの後、王妃から宝玉についての詳しい説明があった。
どうやらこいつを装備した状態で目標に攻撃を与えると、相手の有するあらゆる力を宝玉が強制的に吸収し、封じ込めることができるらしい。
魔力そのものの塊である魔王は、これを使えば二度と復活できなくなるとのことだ。
(……復活するかは知らんが、魔力を吸収するなら倒せるんじゃないか?)
という、淡いポジティブな気持ちが湧き上がってきたのだ。
不気味にそびえ立つ魔王城を前に心臓が高鳴る。
これは恐怖ではない。
魔王に勝利する――その未来を見据えて、武者震いしているのだ。
「よし……勝てる、勝てるぞ俺……!」
意気揚々と玉座の間に踏み込んだ俺は、剣を抜いて叫んだ。
「魔王!前回のようにはいかんぞ!」
「勇者……もう見慣れてきたぞ…」
魔王が、いつものようにゆるやかに手のひらを向けてくる。
「かかるかよ!」
俺は魔王が手のひらを完全に向けきる前に、一足跳びで距離を詰め、渾身の一撃を叩き込んだ!
ガキィィィィンッ!!!
「くっ……!」
(防がれたか……!)
魔王の手元から瞬間的に発生した、禍々しい暗黒の剣山。
それに俺の極大の一撃を受け止められてしまう。
「なっ……それは、ドルパの【吸魔の宝玉】……!?」
わずかに動揺した表情を見せる魔王。
(一か八かだったが、この宝玉のチカラは本物のようだな……!)
これはいける!俺は一気に勝機を見出し、剣を構え直した。
「魔王!今日こそお前を打ち倒す!!刮目せよ、これが人類最強の力だ!!」
◇
無理だった。
「やっぱダメだこれ。そもそも攻撃が1発も当たんないし。っていうか、宝玉奪われちゃったし」
どうにかボロボロになりながら魔王城を脱出し、近くの森へと姿を消した俺は、美しい満月を見上げながら「とりあえず実家に帰ろう」と心に決めた。
◇
アルフィーデ城、謁見の間。
たどり着いた俺の心は冷静そのものであったが、内心では「もう今回は逆ギレしてやろうかな」と考えていた。
訓練兵時代、幼馴染のシサロットが、訓練地で支給された『退魔の鉱石』付きの割と高価な首飾りを失くしたことがあった。
あの時、なぜかアイツは自分を棚に上げて教官に猛烈に逆ギレし、お咎めなしで乗り切っていたのだ。
当時は「なんでコイツ逆ギレしてんだろ……」と不思議に思っていたが、20歳になってようやくアイツのあの時の気持ちが分かるとは思わなかったな。
人間、極限状態になると、他人のせいにしたくなる生き物なんだ。
俺はあからさまに「俺、めちゃくちゃ不機嫌ですよ」という態度を全身から醸し出し、国王の眼前に立った。
国王が何を言ってきても、全力で不貞腐れてやる準備は万端だった。
だが、俺のそんな意気込みとは180度正反対に――国王は神妙な顔つきで、猛烈な平謝りをしてきたのだ。
「勇者殿……!この度の我が国の失態……!深く……深く詫びよう……!」
(……失態?何のことだ?)
「お主の怒りももっともだ。王妃セレスが、吸魔の宝玉の発動条件について誤った情報を伝えてしまった……。それで魔王の封印が失敗に終わったのだろう……?」
「……あ、ええ。まぁ、そうですね」
こっちはキレる気満々で肩を怒らせてたんだから、そういう風にストレートに謝るのやめてくれ。
感情のブレーキが壊れてどうすればいいか分からん。
「セレス!お主の解析ミスが原因なのだから、お主からも勇者殿に謝罪せい!」
ちなみに、国王の名前はバルバトス、王妃の名前はセレスという。
王妃セレスは普段の凛とした姿からは想像もできないほど、本当に申し訳なさそうな表情で美しく俯いていた。
そんな彼女の姿を見て、俺は作戦を思いついた。
「国王様!謝罪など不要でございます!私はこうして五体満足でここにいる。……それで良いではないですか」
(うわ、俺かっこよすぎ。まるで本物の勇者みたいだぁ……)
「勇者よ。その慈悲深きお言葉……救われます」
「この世界の命運を分ける戦いだというのに、不確かな情報を伝えてしまったこと、誠に恥じるべき大罪です……」
「それはいち早く平和な世界を、と願う王妃様の強い想いそのもの。私はむしろ、その気高さに敬意を感じております」
(いいぞ、これぞ勇者の器よ)
俺がここまで心に余裕を見せて寛大なフリをしているのには、もちろん下心がある。
「私からも一つ悲しい報告がございまして……。予想を遥かに超えていた魔王の圧倒的な力の前に、一瞬の油断から吸魔の宝玉を奪われてしまったのです」
「私を以てしても、復活した魔王との連戦はあまりにも厳しく……。あの秘宝は、今頃魔王の手によって粉々に破壊されていることでしょう……」
完璧だ。
自分の"魔王と連戦した"という株を爆上げしつつ、"魔王を倒すための唯一のアイテムが消滅した"という嘘をいい具合に説明できた。
これで、新しい対抗策が見つかるまでの数ヶ月、いや数年は、あの魔王と戦わなくて済む……!
「ぬぅ……確かに。吸魔の宝玉無くしては、不死の魔王を倒せんとなると……何か別の策を腰を据えて考えねばならんな」
(よっっっし!狙い通り!!!)
「――心配には及びません!!」
ガタッ!と椅子を鳴らし、先ほどまで顔を伏せていた王妃セレスが、猛烈な気概を取り戻していつもの凛とした顔をあげた。
(やめてくれ。俺をこれ以上追い詰めないでくれ)
「彼らを此処へ!」
王妃がパチンと扇子を鳴らす。
その合図とともに、謁見の間の重厚な扉が開いた。
入ってきたのは、やはり見慣れた3人の幼馴染。
シサロット、キューノ、フィン。
彼らは目の下にドス黒いクマを作り、今にもその場に卒倒しそうなくらいフラフラと千鳥足だったが……その表情は一様に、これ以上ないほど誇らしげに輝いていた。
嫌な予感しかしない。
さっきまで心に満ち満ちていた「長期休暇計画」の覇気が、光速で消滅していくのが分かった。
見てしまったのだ。
一番右のフィンが、ボロボロになりながらも大事そうに抱えているあの分厚い古文書。
確か、世界に数冊しか存在しない、アーティファクトについて記載された古代書物だ。
「アルス!城中の書物を一晩中読み漁って、宝玉の正しい使い方を調べてきたよ!」
(調べんな!!!)
「ドルパ王にも確認しに行ったから、間違いないぜ!」
(お前ら暇人かよ!!!)
「私は、古代の歴史にちょっと興味があっただけだけどね……(ウトウト)」
(お前、普段ひらがなしか読めねえじゃねえか!!!)
「くっ…!」
(諦めるなアルス!ここで押し切られたらまた魔王城行きだ!全力で反論しろ…!)
「し、しかし……!魔王は狡猾だ。吸魔の宝玉は、すでに敵の手によって木っ端微塵に破壊されている可能性が――」
「大丈夫!【吸魔の宝玉】の防御能力は、それを『破壊しようとする力』そのものすら吸収しちゃうんだって!」
「ドルパ王にも確認しに行ったから、間違いないぜ!」
(何なんだよお前ら!俺をいじめて楽しいか!?)
「しかし……っ!!!敵の手中にある以上、こちらから効果を発動させることなど不可能なはずだ!!」
「魔王から5メートル以内の距離で、この呪文を詠唱すれば強制発動するみたい!」
「ドルパ王にも確認しに行ったから、間違いないぜ!」
(お前ら追い詰めるために準備してるだろ!!)
「ハハハハハ!さすがは勇者の同胞たちよ!眠りもせず、秘宝の真の力を解き明かすとはな!さあ勇者アルスよ、機は熟した!今度こそ魔王を討伐するのだ!!」
パチパチパチパチ!と鳴り響く、場内の割れんばかりの拍手と喝采。
国中の狂信的な期待を全身に浴びる俺に、もはや人類の言語で反論する余地など残されていなかった。
俺は引きつった笑顔を浮かべ、震える手で剣を天に突き上げる。
「……この命に代えても、必ずや成し遂げてみせましょう!」
(4回目となるともう魔王の客人みたいなもんだから、魔王んとこで飯でもごちそうになってくるか)
最後まで読んでいただきありがとうございました。




